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「どうして……」
 
「だってあんたが言ったんじゃん」
 


 
 
Clover
 


 
 呪いを与えられた。
 一生解けない呪いだ。
 なら、この復讐は正当なもので、公平だ。
 
 少女は血まみれになったまま、美しく微笑んだ。
 幸せそうに、微笑んだ。
 
 
 *
 
 
 かの姉弟はあの契約から数年で自分たちの身体を取り戻した。
 怒涛の毎日だった。何もかもが自分たちの目的に近づくためのフラグで、それらをすべて回収して回った。当たりと言えるのはそのうちの数件のみ。何十何百という情報を辿って、成果はそれほどの割合しかなかったのだ。
 けれど姉弟はあきらめなかった。
 死に物狂いで日々を過ごし、弟の魂が限界に近づいたころ、姉はようやく真理への道を見出した。
 
「返してもらうぜ」
 
『何度も来るなんてばかなやつだなぁ』
 
「そういう馬鹿だから何度も来るんだよ」
 
『……まあ、度胸はすげえよな』
 
 弟の身体を支えて姉は笑う。
 たった一人の家族。
 この子さえいれば、もう何も望まない。
 
『考えたもんだ。まさか自分の真理を手放すなんて』
 
「……これがあったから、俺たちは罪を犯して、……いろんな人たちと出会えた」
 
 浮かぶのは今まで自分を支えてくれた人たち。
 でも何より強く想うのは――
 
『憎んでるくせに』
 
「はは、は。」
 
『憎しみで心を満たして、壊れそうなくせに。今弟への義務感をなくしたら、お前壊れるぜ』
 
「壊れる?」
 
 錬金術があったから犯した罪がある。錬金術があったから出会えた人がいる。助けられた命がある。
 錬金術があったから、あの男と出会ってしまった。
 
「 とっくに壊れてるよ 」
 
 目の前にいるのは自分であって自分でない。でも自分だ。
 だからわかってるはずだ。自分はもうとっくに壊れていて、後戻りできないことなんて。
 
『ならなおさら、ソレをなくしちゃいけないんじゃないのか?』
 
 ただの人間になってしまったらもう抵抗する術すらなくなってしまうだろう。それは確かにそうだった。
 
『ここまで足掻いたんだ。ちょっとおまけしてやるよ』
 
「何を? 大体、後々ガタが来るおまけはおまけとは言わねえぜ」
 
『サービスしてやるって言ってるのさ』
 
「それにも対価がいるくせに」
 
『それはご愛嬌ってもんだろ』
 
 くすくす笑う笑う。
 狂った宴は、どこまで行ったら終われるのだろうか。
 
 
 *
 
 
「少将! 少将!!」
 
「なんだ君がそんなに騒がしいなんて。何かあったのか」
 
 この数年でさらに位をあげ、将軍に上った男は類を見ない慌て方をして走ってくる副官に眉を寄せた。常に冷静沈着に行動する彼女がここまで取り乱すのは珍しい。
 さて、いったい何の事件が起こったのだろうか。残業になるのだろうか。
 将軍、ロイ・マスタング少将の心中はそれだけに占められた。
 しかし、そんな心中も副官の一言で簡単に覆る。
 
「エドワード君が!!」
 
「――鋼の?」
 
 エドワード・エルリック。その名はロイの人生の大部分を占めることになった人間のものだった。
 格好こそ男の体を装っているが、真実その子供は女で、今年十八になる少女である。しかし最近はろくにロイのもとへ帰ってこず、今回に至ってはなんと一年も連絡を途絶えさせていた。
 最後にあったのはセントラルで、査定の時。
 きっかり一年、つまり査定に引っかからない日程で彼女は中央に帰ってきたというではないか。
 
「今どこに」
 
「応接間で待たせております。しかし、あの」
 
「今回ばかりは見逃せん。一体どれだけ報告書を怠ったと思っているんだ。他の奴らも会いに来ているんだろうが、下がらせろ」
 
「少将!!」
 
 副官、リザ・ホークアイがロイの軍服を掴んだ。
 
「そんなことどうでもいいです!」
 
「なっ」
 
 まさかの発言にロイは反射的に周囲を伺った。報告を怠った人間への叱咤をどうでもいいとは、さすがに聞かれてはまずかろうと思ってだ。
 しかしここまで副官が取り乱すなんて……
 ロイの頭に、嫌な予感が過ぎった。
 
「まさか――大けがでも」
 
「いいえ、健康そのものです」
 
 ならなんだというのだ……。痛くなる頭を抱え、はっとした。
 
「まさか」
 
 リザもロイが気付いたことに気付いたのだろう軍部内でそれを言葉にすることはできなかったが、その可能性に気付いてロイはリザの横を通り過ぎた。
 今までの中で一番、走った。
 
 
 
 
 
 扉は目の前にある。それを開くか、開かないか。自分の右手は動かなかった。
 ロイは恐怖を感じていた。
 もし、予想通り少女が夢を叶えたのならそれは喜ばしいことだ。しかしロイにとってはどうだろうか。
 悲願をかなえたのならもう彼女は軍に用がなくなる。そうしたら、彼女がロイに会いに来る理由も、必要もなくなる。
 
 ――ここまでのめりこんでいたなんて。
 
 最初は暇つぶしで抱いた。そしてあまりにも普段とかけ離れたあの子から目が離せなくなった。遊び道具なら乱暴に捨ててしまえばいいのに、あれ以来ロイは少女に何かを強制できたことはない。
 じゃああれ以来少女を抱かなかったのかと言えば、そうでもない。
 たとえば、少女がロイよりも早くハボックと会って、楽しそうに話していたとき。
 たとえば、少女が町で見知らぬ少年と親しそうに歩いていたとき。
 たとえば、少女が他の男に言い寄られて何の抵抗もしていなかったとき。
 ロイは突然湧き上がる怒りと独占欲に理性を焼かれ、少女を自宅、執務室に押し込んでその体を暴いた。
 まるで縋るようなセックスだったと思う。
 もちろん最初の時のように手をあげることはしなかった。力で屈服させても意味はないからだ。苛みたいときは理性を崩壊させるほどの快感を与え、愛の言葉を乞うた。
 少女は喘ぎながら言葉を返してくれた。
 行為が終わればロイはエドワードを抱いて眠り、身体の後始末も済ませ、動けない間の世話をした。エドワードが何かほしい情報があればそれを最優先で探し出し与えた。
 これを等価交換と言えば、そうなのかもしれない。
 ロイにとってはエドワードの身体を得る代わりに情報を与えているわけではないが、十中八九エドワードはそう考えているだろう。――そうでなければ、ロイに身を任せることなどしないだろう。
 だから、もしエドワードに賢者の石の情報が必要なくなったら。
 そうしたら、エドワードはどうするだろうか。
 
「…………大佐?」
 
 扉の向こうから、自分を呼ぶ声がした。
 あの子は今も自分を大佐と呼ぶ。その理由を、問い詰めたことはない。
 
「久しぶりだな、鋼の……」
 
 もう逃げることはできない。
 ロイは応接室の扉を開いた。
 
 
 
 
 
 少女はこの一年ですさまじい成長を遂げていた。一年前は男か女か判別の難しかった身体は間違えようもない女性のものへと変貌し、少しシャープになった顔立ちは美人としか言いようがない。
 腰まで伸びた三つ編みは、離れていた時間を強調するような姿であった。
 
「久しぶり」
 
「ああ……」
 
 にこりと笑う少女に違和感を覚えた。この子は自分の前でこんな笑い方は、しない。
 
「一年ぶりだ……」
 
 だがそんなこともどうでもよくなって、ロイはエドワードの手を取って頬にあてた。ロイの予想通り、そこにあったのは生身の身体だ。柔らかく、熱がある。初めて触れるエドワードの右腕だった。
 
「成功したのか……」
 
「ああ。アルは今ダブリスでリハビリ中。師匠にしごかれてるよ」
 
「エドワード……っ」
 
 弟は近くにいない。それを聞いてロイは少女を抱き上げた。
 エドワードは弟が近くにいると決して警戒を解かず、ロイに触れさせることを嫌った。ロイも彼女のいちばんが弟であることを知っていたので、アルフォンスがいるときは決して手を出さなかったし、アルフォンスがロイよりも優先されても何も言わなかった。
 
「!」
 
 抱き上げて、ロイは気づく。
 この子供はこんなに軽かったのだ。
 身体の半分を鋼にしていた子供はロイからすれば軽いとも重いとも思わなかったのだが、機械鎧を外したエドワードはまるで羽のように軽く、いつもの調子で持ち上げたロイに衝撃を与えた。
 
「……なんだよ」
 
 それを不思議に思ったのだろう、エドワードが睨み付けるように言った。
 
「……あまりに、軽くて」
 
 そうか、もう君は、鋼のではないんだな。
 自分に言い聞かせるような言葉。
 そして、そこに付随する恐怖。
 
「エドワード、言いたいことが、」
 
「……なぁ」
 
 腕に乗せるように抱き上げていた少女が、ロイの言葉を遮るようにロイの唇を唇でたどった。キスとはいいがたく、唇で本当になぞる程度の接触。
 けれどそんなことを少女がしたのは初めてのことで、ロイは目を見開いた。
 
「外、行かね? ここ落ち着かないし」
 
 首筋に腕を回すエドワード。ロイに否やはなかった。
 
「少し待ってくれ、中尉に伝える」
 
「じゃ、ここで待って……」
 
「いや、いい」
 
 身じろぎしてロイの腕の中から降りようとしたエドワードだったけれど、それを今度はロイが拒んだ。エドワードは首をかしげる。
 
「そのままで……」
 
 エドワードの肩に額を擦り付けてロイは懇願する。
 今は一瞬たりともこの存在を手放したくなかった。いつ消えるかわからない少女だ。ロイはいつも気が気ではない。
 そういえば、とロイは顔をあげた。
 
「ハボックたちは会いに来なかったのか?」
 
 応接室の扉を開いたとき、中にいたのはエドワードだけだった。
 ここにエドワードが訪ねてくればすぐに他の部下たちにも話が広まり、大騒ぎになっているのに。
 
「……どっかの誰かさんが、自分より早く他の部下に会うと機嫌が悪くなるやつでね」
 
「……そうか」
 
「そうだよ」
 
 それは、私を想ってか。それとも八つ当たりされる部下たちを想ってか。
 応えはわかりきっていたから、それ以上何も言うことはなかった。言わずとも、今この少女は自分の腕の中にいるのだから。
 
「少将? エドワード君?」
 
 数回応接室のドアがノックされた。タイミングよく表れた副官にロイは扉を開けず、外出の旨を伝える。
 当然今日の仕事はまだ残っていたのでいい顔はしていない声音だったが、間にドアがあるだけで幾分気が楽だ。ただいつ発砲されるかわからないので一応ドアの前には立たない。
 
「はぁ……まあ、エドワード君もいることですし、本日くらいは見逃しましょう」
 
「ありがとう大尉。では行こうかエドワード」
 
 優秀な副官はロイの心情まで読み取ったかのように、ロイがドアを開ける前に姿を消してしまった。だから廊下には誰もいない。
 もちろんこのまま外へ向かうのであれば誰かしらには会うだろうが、ロイはすでに気に留めていなかった。何より、エドワードが何も騒がないので気にする必要もなかった。
 ただこれが鋼の錬金術師とばれてはまずいので、顔だけはしっかりロイの胸に押し当てて、身体はロイのコートで覆うことにした。
 
「どこに行こうか」
 
 リザが手を回したのか誰にも見咎められることもなくロイとエドワードは中央司令部を出発した。中央でロイの顔は有名だが、黒いコートで軍服を隠し、前髪を下して眼鏡もかけてしまえば案外ばれないものなのである。何せ中央ではいつも前髪をあげていたから、おろすと童顔が際立ってしまうらしい。
 とにかく、このまま落ち着けるところ――どこかのホテルか個室完備のレストランに行こうとしたロイだったが、どうやらもう行先は決まっているらしい。
 
「セントラル郊外の、河原に行きたい」
 
「……そんなところでいいのかい?」
 
「そんなところにあんたが俺を連れてったのに?」
 
 エドワードが所望した場所はロイが前回の密会のときに連れて行った場所だった。
 そこにはたくさんの花と、草が生えていて、目の前にあるのは小川だけ。
 しかもセントラルの郊外ということであまり人の影もなく、ときどき農家の子供が魚を捕りに来るくらいだ。
 
「結構距離があるが、平気かい?」
 
「疲れたらまたあんたが抱いて歩いてくれるんだろう?」
 
 街に出て自分で歩き出したエドワードは、数歩ロイの先を歩いてそう笑う。
 たしかにそうだと思って、ロイは苦笑した。
 
 
 
 
 
 
 河原は、以前来た時とあまり変わらなかった。土手には白い花弁を付けた花と、三つ葉の葉が群生していて自然が身体全体で感じ取れる。
 
「ここであんた、目の前でこの花を手折って俺にくれたっけ」
 
「……まあ、君に渡したかったのはこの花だったからね」
 
 辺り一面に広がっていたのはクローバーだった。東の国のほうではシロツメクサとも言い、四葉のクローバーは幸運の象徴でもある。
 エドワードは草むらに腰を下ろし、近くにあるその白い花弁の花を茎ごと摘んだ。それを器用に編んでいく。
 
「花屋の女にでも聞いたの? 花言葉」
 
「……別に花屋の女性を狙ったわけではないんだが、まあ、その通りだよ」
 
「ふーん。俺、遊びで抱かれたんだと思ってたのに。あの時まで」
 
「白状するなら、……最初は。でも、途中からは違ったよ。愛おしくて――止められなかった。いつも私には睨むような顔しかしてくれない君が、本来の幼い姿で震える姿が、愛おしくなったんだ」
 
 身体は簡単に陥落させることができた。これは今までの経験がものをいうのだから、エドワードに勝ち目がなかったのは確かだ。
 しかし心はどうやって手に入れたらいいだろう。ロイは悩んだ。
 身体を落とせばいつかエドワードの気持ちもロイに傾くと思っていたのだ。暴力ではなく快楽で懐柔する。それで予定通りいくはずだった。
 けれど、エドワードはロイに笑いかけなかった。
 決して、ロイを好きになってはくれなかった。
 そうするとだんだんロイのほうがエドワードの心に焦がれるようになった。エドワードが笑えばほっとして、情報がエドワードの目的になんらかの進展を与えてエドワードが嬉しそうにすれば自分も嬉しくなった。
 たとえその笑顔がロイに向けられていなくとも、たとえその感情が弟を想ってのものだとしても。
 
「触れれば触れるほど、ほしくて、焦がれて、おかしくなりそうだ……っ」
 
「……そう」
 
 ほとんど叫ぶような告白に、花を編み続けるエドワードは何も言わなかった。
 その現実に、胸を突き刺される。
 
「エド……」
 
「俺ね、……あんたのこと、好きだったんだよ」
 
 そして、衝撃的な言葉を聞いた。
 
「俺、あの時の事許せないよ」
 
「それでもいい……それでもいいんだ……っ」
 
 少女の心が自分に向いていた事実を知ったロイは少女の細い肩を掴み、縋りつくように願った。
 
「それでもいいから、傍にいてほしいんだ……っ」
 
「許せないよ……でも、」
 
 エドワードの頬を、小さな涙が伝った。
 
「俺は……幸せになりたいよ……っ」
 
 すでに完成されていたシロツメクサの冠を少女はロイの頭にかぶせた。
 急ごしらえだったためかところどころ緩んでいて、でも壊れることなくロイの耳にひっかかる形で収まる。
 ロイは、少女の涙につられて目頭が熱くなるのを感じていた。
 
「幸せになりたい……“幸せ”になりたいんだ……っ」
 
「“約束”するっ、絶対、絶対君を幸せにするから……っだから“私を想って”くれ……っ!」
 
 花の匂いに咽て、ロイは絞り出すような声で叫ぶとエドワードの細い体を花の上に押し倒した。
 
「ん……はぁっ」
 
「ちょ、んんうっああっ たい、さ!」
 
 ここ外だぞ!?
 叫ぶエドワードの声など聞こえていないのか、ロイはエドワードの首筋に文字通りしゃぶりついた。真っ白な肌にいくつもの赤い印を落としていく。
 
「ああっあんっ! ヒャア! 首……っくびやめっ みえる……っ」
 
「見せてやればいい……っなあ、エドワード……私では、ダメか……? 最初は確かに間違った。でも……今は君しか見えないんだ……っ」
 
「アアアアッ あんッあ! ヤ」
 
「ここに他の男を迎えたことは? この一年、ずっと……?」
 
「ヤダッだめぇ……っなめないでっ」
 
「答えてくれ……他の男に、触れさせた……?」
 
 花に埋もれて、少女のソコをズボンの上から刺激してやる。跳ねるそぶりに感じ入っているのを確認して、バックルをほどき、直に舐めて濡らしてやる。
 舌をねじ込むと膣壁がほとんど開いていなかったため、彼女がずいぶんご無沙汰なことはわかっていた。しかしエドワードの口から、頷いてほしかったのだ。
 
「エドワード……」
 
「……れて ない……っだれも、だれも触ってない……っ」
 
「自分でも?」
 
「そんなの……っできるかァアアンッ! ンッ! ちょ、急にぃっ」
 
 ぽつんと起立した小さな突起を勢いよくすすり上げる。
 
「アアッアヒッ ヒィヤァアッ……――――――っ」
 
 ビクビクと痙攣する細い腰を押さえつけて、耐えることなく刺激を与える。きれいに反り返った身体は小ぶりだが形の良い胸を強調するようで美しいフォルムを描いていた。
 はぁ……と感嘆のため息が漏れる。
 すでにロイのモノは大きく育ち、少女の中に突き入れるのを今か今かと待っている状態だ。
 
「エドワード……エドワード……エド……」
 
「あっ、だめ、だめぇ……っここどこだと思ってぇ……」
 
「だめだ、もう我慢できない……っ」
 
 大丈夫、私のコートで君の姿は隠れるし、何をしているかなんて誰にも分かりっこない。
 そう泣きじゃくるエドワードの耳でささやいてロイは自分のズボンを開き、立ち上がったそれを少女のナカに押し当てる。
 
「すきだ、好きだ好きだ……っ愛してる……っ」
 
「アゥッ あっ ああっ あひっヒィヤっだめぇっそこ……ぉだめぇえっ」
 
 エドワードの腕は自分の首に回し、自分がエドワードの背中に手を差し込んで抱き上げる形で少女の身体を土から守る。力いっぱいに抱き着くエドワードはロイによって胸元を解放され、さらけ出した乳首が軍服の硬い生地に擦れて気持ちよさそうに鳴いた。
 
「いっちゃう、いっちゃうの……っだめぇ……っ」
 
「いいよ、イきなさい……っ」
 
 声も絶え絶え。それでも二人、キスをして舌を絡め、呼吸さえ貪るように交わった。
 絶頂の悲鳴はロイの口の中に響き、酸欠と快感に急激に締まった膣内に引きずられるようにロイも射精する。ペニスはエドワードの子宮をあっさりと貫いて、最奥に精液を叩き付けた。
 
「んうーっんんっはぁぁ……っ」
 
 舌をしまうことも忘れて感じ入っているエドワードにロイは再びキスをする。
 エドワードはロイの目論見通り、過激なセックスに慣れてしまって子宮の中で快感を得るようになってしまった。子宮の入り口を突かれれば今は痛がるどころか身体の緊張が完全に抜けてしまうほどだ。
 
「あー……っあっでへるぅ……っナカっ、ナカでて……っ」
 
「気持ちいいかい?」
 
「んっきもひいいっ、これ、すきぃ……っあっつぃ……っ」
 
「熱いのは、好き?」
 
「んっんんっ、す きぃ……」
 
「あかちゃんができてしまうね」
 
 くすりとロイが笑うと、エドワードは急にハッとしたようにロイを見た。
 最初以降、ロイは必ず避妊をしてくれていたのだ。
 
「あっあああっだめっ! これ とめて!!」
 
 まだ出ているロイのペニスを抜こうと腰を揺らすけれど、もはやそれは抵抗になっていなかった。むしろロイのペニスに心地よい振動を与え、残っていた精液も搾り取るような動きにロイが息をのむ。
 
「やぁ……っまだ……でてるぅ……っ!?」
 
「……は、子供ができたら……三人でどこかに出かけよう……? 大切に育てて……愛して……幸せな家庭を築いて……」
 
 仕事はサボらず定時で終わらせてエドワードの待つ家に帰るのだ。
 
「あかちゃ……」
 
「愛してる、エドワード……」
 
 呆然と意識を失いかける少女に、ロイはキスを落とした。
 
 
 
 
 
 
 
 シロツメクサに詰めた想い。
『私を想って』ほしい。
 それに返ってきた応え。
『幸福』になりたい。
 男が誓った『約束』……
 
 
 
 
『でも残念』
 
 ソレは二人を眺めながら、心底楽しそうに笑った。
 
『最後の花言葉を忘れてる』
 
 
 *
 
 
 ロイ・マスタング、結婚――
 そんな単語が新聞上を飛び交う中、神聖な式は親族・関係者を招いて盛大におこなれた。
 ロイの部下は一名を除き二人の結婚を祝福したし、婚約中である弟と親友は涙を流しながら送り出した。他の将軍たちは微妙な顔だったが、年若い妻を娶った若造に嫌がらせの種ができたと考えて納得させた。または独身だからと軽んじていたものはこの機にロイを昇格させてもいいのではと声をあげた。
 結婚から間もなく、再びマスタング夫婦の名が新聞に載る。
 
 妻、エドワード・エルリックが懐妊したのだ。
 
 人体錬成の件はロイによってもみ消されたものの、やはり知っているものは鋼の錬金術師と軍の強い結びつきを望んでいた。だからロイとの結婚自体に否定の声は上がらなかったし、今回の懐妊も好印象として受け止められた。
 
「エディ」
 
 エドワードの懐妊以降数か月、約束通り残業せずに自宅に帰る。
 どんなに嫌がらせの仕事が舞い込んでも、ロイは一切の残業をしなかった。もちろん重大事件の時は遅くなるが、それでも少将になり、もうじき中将となれば現場に出る機会は減るのである。
 エドワードが出産してからは、まるで馬鹿の一つ覚えのように上機嫌で帰宅の足を速めた。
 
「エディ?」
 
 その日はエドワードの出産祝いにとケーキを買って帰った。仕事と重なり、なかなか祝えなかったのだ。
 
「エディー? どこだい?」
 
「ここだよ、ロイ」
 
 外は雨。台風が近づいてきているらしく、天気は暗いを通り越してどす黒い。
 外で大きな雷が鳴った。
 
「ああエディ。大丈夫かい? 最近ずっと寝ていたから……」
 
「大丈夫。妊婦なんてそんなもんだよ。今は身軽だし」
 
 身近に妊婦がいたことなんてないロイは妻の言葉を疑わない。悪阻が軽い代わりに体が重くなるタイプなのだろうと結論づけた。
 
「ケーキを買ってきたんだ。悪阻はあまりないようだったから、食べられるかと思って」
 
「うん。食べる。冷蔵庫入れておいて」
 
「? 今食べないのかい? お腹はすいてない?」
 
「今はいいや。やること終わったら、食べるよ」
 
「そうか。じゃあ入れてくるよ」
 
 妻にそう言い返しながらもやることとは何だろう、と首を傾げた。
 だが家にいてばかりで退屈だろうから、何か趣味でも発見したのだろうと聞き流す。たまには外に出てもいいのだが、ロイが心配であるし、エドワードも外に出たがらなかった。
 
 今、この瞬間が幸せでたまらなかった。
 
 愛する女性の腹に、二人の結晶が宿って、動いている。
 その女性の神秘さには驚くことしかできず、ロイは感動の日々を送っていた。
 子供が体外に生れ出たあともその幸せはかみしめるようにロイの心の中に残っていた。

「なあ、ロイ。キスしてよ」
 
 珍しいリクエストにロイは快く諾と答えた。
 軽いバードキス。そしてそのままフレンチキスに。
 
「ね、目ぇつぶって」
 
「なんだ? ……これでいい?」
 
 幸せだ。
 大きくなっていく妻の腹に触れながら、ロイは優しい顔で目を閉じた。
 
 
 次に目を開けるとき、180度世界が変わっているなんて思いもせずに。
 
 
 
 
 
 
 
「――え?」
 
 
 
 
 
 
 痛みは、なかった。
 ただ、自分の肉が裂かれ、血が溢れ出す感触がして、数秒後。
 
 激痛が彼を襲った。
 
 
「か はっ」
 
「痛い?」
 
 ソファーの足元に這いつくばって腹を抑える夫を妻は何の感情もない瞳で見下ろした。口元だけは優雅に笑っている。
 
「ねえ、痛いの」
 
「エ ディ ィ」
 
「痛い? 苦しい? ――ふふふ、」
 
 ロイは目を見開いた。目の前にいるのは、いったい誰だ。
 
「あああんまり動かねえほうがいいんじゃねえの? あんた死んじゃうよ?」
 
「どうして……」
 
「だってあんたが言ったんじゃん」
 
 等価交換をしようかって。
 
「目には目を、歯には歯をって、知ってる?」
 
 昔の法律なんだって。やられたらやり返せ。そういうものなんだって。
 
「つらくて痛くて死にたかった。でも俺はアルを元に戻すまで死ねなくて。死にたくて死にたくて仕方なかったのに、死ねなくて。何日たっても腹の中に何か残ってる感じがして気持ち悪くて宿屋でホースを股に突っ込んで奥まで何回も洗った。擦り切れてうっ血して腫れ上がった入り口が、用を足すたびに痛んで、泣けちまって。
 
 ねえ、許してくれだなんて言葉で許されると思ってたの」
 
 エドワードの瞳には何の色もなかった。今まで自分を愛おしそうに見ていた目が、凍り付いたように見下している。
 
「君は、私の想いを、受け取ったわけではな かった のかい」
 
「シロツメクサの花冠? あれ、あんたドライフラワーにしてるんだな」
 
「えでぃ、」
 
「ねえ、シロツメクサの花言葉、知ってる?」
 
 エドワードの言葉がもうあまりよくわからない。
 花屋の女性が言っていたのは
『私を想って』
『約束』
『幸福』
 の三つだ。あと他に何があるのだろう。
 
「その花屋、もう行かない方いいよ。都合の悪い花言葉は言わねえんだもん」
 
「っ、は、エディ……」
 
「シロツメクサの花言葉はね、『復讐』」
 
 その言葉に、ロイの呼吸が止まった。まるで世界が崩壊したような心地だった。
 
「ほんと笑っちゃった。あんたからあの花を渡されたとき、俺思ったんだ。――ああ、こいつは俺に復讐のチャンスをくれてるんだって。俺は復讐すべきなんだって。だからちゃんと、宣戦布告しただろう?」
 
 あの幸せな交わりの中少女がロイの頭に乗せた冠。
 それはロイの思いにこたえるためのモノではなく、復讐劇の合図。
 
「幸せだった? 幸せだったよな。だって大好きな俺と一緒にいられたんだから。よかったな。でもな、俺、まだ幸せになれてないの」
 
 その言葉に、ロイは目を見開く。
 幸せな家庭だと信じてきた彼にとって、この蜜月を否定されることは何よりつらいことだったのだ。
 
「ねえ、『幸せ』になりたいんだよ、俺」
 
 泣き笑いのような顔で、少女は言った。
 
「それは、私が死ねば、なれるのかい?」
 
 それならば喜んで死のうと思った。エドワードが手を下さずとも、自分で自分を焼いてしまえばこの刺し傷もわからなくなるだろう。
 けれどエドワードは首をゆっくり横に振った。
 
「そう、考えてたんだけどさ」
 
 おれのことがいちばんだいすきなあんたへの
 
 いちばんのふくしゅうってなんだろうってかんがたらさ。
 
「殺せなくなっちゃうんだもん。ほんとあんたずるいよな」
 
 だって好きだったのだ。
 どんなに憎んでも好きだったのだ。
 好きで好きで好きで好きだったのだ。
 
 あんたが俺にやさしくするから悪い。
 遊びならもっとちゃんと酷くしてくれればよかったのに。
 そうしたら俺は迷わずに済んだのに。
 
 でも復讐は遂行しなきゃ。
 それは『アイツ』との契約だから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ばいばい」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 エドワードは、血だらけになりながら笑って、
 ロイの腹の上で、
 
 
 
 首をかっ切った。
 
 
 
 
 
 ぼたぼた。飛沫が鳴る。
 まるで化け物を見るかのような顔で、ロイは声すら出せなかった。

 いったいどこからやり直せば私たちは幸せになれるのだろうか。
 
 ロイは自分を置いて逝ってしまった妻と、まだ性別もわからなかった我が子の亡骸に、咽び泣いた。
 
 
 
 幸せになりたいと君は言っていたね。
 幸せにすると私は約束したのに。
 
 狂ったのは私のせい。
 いっそ本当に殺してくれればよかったのに。
 
 *
 
 
 復讐ゲームはこれで終了。
 狂った宴はもう終わり。
 
 
 To be continued……?

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