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その姿を見たのは偶然だった。
偶然街を視察中、偶然通りかかったカフェの目の前。 頬を染め、恥ずかしそうに微笑む少女を見たのは。



 


無関心の反対は

 



「ありゃ、大将だ」
咥え煙草がトレードマークの部下は、声に少しの驚きを込めてカフェの中を見やった。幸い今は勤務中で口元にはそれがなかったため、道端に煙草を落とすことはなかったが。
「こっちに帰ってきてたんですね、しかも―――男連れ?」
部下が気がつく前にその姿には気がついていた。かの少女は、仲睦まじげに誰かと話している。見れば相手は、男性。しかも、まだ少年と言ってもいい歳の男だ。少女の弟ではないことは明らかだろう。
報告はまだない。彼は未だに大きな鎧の出で立ちのままなはずだ。そうなるとあの少年は。
「大佐、見えますか」
「ああ」
部下の問いに、努めて平然と返す。しかし、内心ではひどく動揺していた。
「まったく、ここに来たら真っ先に連絡しろと言っていたのに」
自然と言葉を発することができることが不思議なくらい、心臓が痛いほど波打っていた。笑いながら見つめ会う二人の男女から目が離せない。
「まあまあ、大将もたまには女の子らしいこともしたくなるんでしょ」
いっつも旅ばっかりしてんだから、とあっけらかんと笑う男の声が遠い。 窓の中の少女の服装は、いつもと同じ出で立ちだった。黒の上下に、椅子に掛けられた真っ赤なコート。しかし普段と異なるところが一点だけあった。
少女の金色の髪が、黒い服に散らばっていたのだ。髪をおろした金色の髪の女など、腐るほどいる。店内でも、その出で立ちが殊更目立っている様子はない。それでも私から見ればそれは、誰よりも眩しく感じられた。
ふいに少年が、金色の子供に手を伸ばした。ごく自然な様子で、解かれた髪に触れる。少女は嫌がるでもなく、照れたように怒りながら目の前の男の頬を軽くつねった。とても近い距離。まるで。
「デートっすかね」
髪なんかおろしちゃってまあ、と微笑ましそうに笑う部下。
「大将も、女の子だったんっすね」
―――もう耐えられなかった。
「いくぞ、ハボック」
胸が、締め付けられるように痛む。重い足をなんとか持ち上げ、カフェとは反対方向に向けた。
「ちょ、戻るんですか」
「もうここには用はない」
早足のまま、その場所から遠ざかる。ああもう、と大げさな程大きなため息をついた部下は、しょうがないとでもいいたげな顔でついてくる。
なんだその顔は、と睨み付けてやれば、「大佐って、本当に大将が嫌いですねー」呆れ半分苦笑半分で返された。
そんな部下の軽口でさえ、今は腹立たしいことこの上ない。
「当たり前だ」
言葉を吐き捨てる、固い石畳を踏みしめその場を後にした。
ちらと後方に視線を移せば、未だに笑顔のまま、楽しそうに談笑する子供の姿。
少女が、マスタングに気づくことはない。ちっ、と弾けた舌打ちは、誰にも拾われることなく地面に落ちた。








ロイ・マスタングはエドワード・エルリックが嫌いだった。
それは、司令部のにいる者なら誰しもが知っている事実だ。もちろん、本人のエドワードでさえも。
なぜかはわからないが、あの金色の瞳に見つめられると落ち着かなくなるのだ。
初めて会った時から妙な感じはしていたが、二回目、彼女が国家資格を受けに来たときに顔を合わせた時、それは確かなものになった。
ただ単に、苦手な人種なのかもしれない。あの生意気な口調、大の大人にも物怖じしない態度。回転の速い頭脳、そして見る者を射抜くような釣り上がった金色の瞳。
そもそものところ、マスタングは子供が苦手だ。子供というのはは直ぐわがままを言うし、いつ何時、傷つき泣きわめくかわからない。だからなのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
エドワードの笑顔を見ると、いらいらする。他人と話しながら大口を開けて笑う姿に、虫唾が走るのだ。その顔を止めろと、怒鳴ってしまいたくなる。マスタングの部下などはエドワードを気に入っているらしく構い倒すが、それも気にくわない。子供なんかにかまけている部下の姿に腹が立つ。
それに、エドワードの声を聞くだけで、心臓の速さが倍になる。子供の甲高い声は苦手だが、エドワードの心にじわりと忍び寄ってくるような変声期前の少年のような掠れた声のほうがもっと耳障りだった。
そもそも禁忌を犯そうとした発想が理解できない。母親が死んだからといって、甦らせようとするものなのか。子供であったからといって許されるものではない。しかし、その件に関してあの子供は前に進もうとしている。それは別にいい。マスタングとて、多くの屍を踏みにじって軍人として立っている人間だ
ただ、後見人としてあの子を秘密裏に匿ってやっているマスタングに、エドワードは見向きもしない。いつもその視線は弟にばかり注がれていることも、気にくわない。
姉と弟。二人だけで完結している世界が、見るに堪えない。大人には頼らないと前を向く姿勢は、見る者からしてみれば崇高に見えるが、ともすれば滑稽だ。
特にあの髪。長くて、見ていてうっとうしい。男のような恰好をしているならば髪も短くすればいいものを、あの子供はそうしない。粋がっているのか、とにかくエドワードが振り向くたびに翻る三つ編みが、見たくもないのに視界に入ってくるそれが、目障りだった。
そんな子供が、今日、マスタングに連絡もよこさず東部に来ていた。およそ3ヶ月ぶりだ。
しかし、義務付けられている報告に来ることもせずに、よりにもよって男と町に繰り出していたなど。
お洒落のつもりなのか、うっとうしい髪を解いて。
みっともない。心の底からそう思った。










「ちわー」
いつもと同じように、敬いの欠片もない態度で入室してきた子供。時間は夕方に近い時間帯。
編んだ三つ編みがさらりと揺れた。
「あらエドワード君、戻ってきてたのね」
「うん、ちょっとね。あと報告書提出しに」
今お茶を入れるわね、と立ち上がろうとする副官。他の部下達も、先ほどまでは静かに仕事をしていたくせに、エドワードが来た瞬間みな笑みを浮かべ、彼女に向かって声をかけた。面白くない。
「なんだ、大将、また小さくなったか?」
「誰がチビだ!」
ブレダの膨らんだお腹を笑いながら軽く殴るエドワードは、歳相応の子供じみた顔だ。そんな無邪気な笑顔に、いらだちが募る。和気藹々とした雰囲気から、マスタングは大きく外されている。
「エドワード君、今回はどこに泊まってるの?」
「いつものとこだよ、セブンズ通りのエイスリーホテル」
他の者達には笑顔で挨拶するくせに、この部屋に入ってからエドワードはまだ一度もマスタングを見ていない。
何よりも先に声をかけなければならないのは、他でもないマスタングであろうに。
「大将、お前昨日からここにいたろ」
「え、なんで知ってんだ?」
「だってお前、昨日―――」
「鋼の」
直も会話を続けようとする部下を制し、声をかける。
エドワードが私を見た。先程までの笑顔が嘘のように、一気に強ばる表情に内心で舌打ちをする。いつもそうだ。エドワードは他の人間とは笑顔で接するくせに、マスタングの前ではにこりともしない。常に眉間に皺を寄せている。
そうをせているのは自分だと言うのはわかってはいるが、気にくわないものは気にくわなかった。
「ここに来たら連絡を入れろとあれほど言っていたことを忘れたのか。こうして何の連絡もなしに来られて私達にどれだけの迷惑がかかると思っているんだ。君は、何度言えばそのことを理解するのかね」
「大佐」
苛立ちも露にいい募る。たしなめるような中尉の言葉を黙殺し、なおも畳み掛ける。
「見ろ、君のせいで仕事も中断された。君の頭の中には一体何が詰まっているんだ」
「急いでたんだよ。ここにくるのだって急に決まったんだ」
冷静に言葉を返すエドワードにこめかみがひくつく。
電話をかけてきたところで、忙しい時にかけてくるなとエドワードを責める自分はもちろん脳裏に浮かんだ。いつもそうだからだ。
きっとエドワードも、毎度そう言われるのが嫌で連絡を寄越さなかったのだとも想像はつく。
それでも、マスタングは、エドワードのやる事なす事全てが気にくわない。小言も溢れるばかりだ。
「は、急いでいた?昨日あれだけ遊んでいたくせに。君は、いつまで子供でいるつもりかね」
エドワードをしかり飛ばすことは後見人である自分にとって当然の権利でもある。
そのことがさらにマスタングに拍車をかけた。
周りからの非難めいた視線を跳ね返すように唇を吊り上げてやると、エドワードの瞳が傷ついたように揺れた。
その表情に、一瞬だが胸の奥にすっとした風が通った。
「大佐」
「いいよ中尉、連絡もなしに来たオレがまずかったんだから」
マスタングに楯突いて、中尉が非難を浴びるのを危惧してのことだろう。エドワードは直ぐに小さく頭を下げた。
絹のような髪が、さらりと彼女の肩にかかる。
「悪かった、今度から気を付ける」
いつもそうだ。マスタングがエドワードに冷たい言葉を投げつけるたび、この子供は周りの人間に気を使う。点数稼ぎだろうと最初は鼻で笑っていたが、何年も顔を会わせていればそれが違うことには気が付く。
それでも、そんな子供の子供らしからぬ態度が毎度癇に障る。どうしてここまで腹が立つのかは、自分でもわからないのだが。
「……来なさい、報告を」
エドワードのつむじから視線を逸らして、別室に移動を促す。
心配そうにエドワードを見やる副官を遮り、エドワードを隣の部屋に追いやる。
「大佐」
扉を閉める直前、耳に届いた非難の声に振り返る。こちらを苦虫を噛み潰したような顔で見つめるのは、今マスタングに声をかけた金髪で長身の男だけではない。
こんなにもこの金色の子供は可愛がられている。その事実がさらにマスタングの苛立ちに拍車をかける。
「あんま、大将いじめないほうがいいっすよ」
いじめ。思いもがけない言葉に、冷笑が浮かぶ。
別にいじめているつもりはない。大人として、子供を叱っているだけだ。それには少々私情も含まれてはいるが、何度もいうがこれはマスタングにとって当然の権利だ。エドワードを見出し、国家資格を推薦した後見人としての。
それに、この子供は何故だか多くの人間に好かれる。この子供に出会った人々は皆笑顔になるのだ。もちろん、ここにいる部下達も例外ではない。だから、マスタング一人くらいエドワードを嫌ったところで何の支障もないだろう。
そう本気で思っていたマスタングは、ハボックの言葉なんて気にも留めずに、部下達の責めるような視線を遮って扉を閉めた。その瞬間には、部下の忠告など綺麗さっぱり忘れて。
後に、このことを思いきり後悔することになるとは、露も知らずに。







「報告書」
少ない単語で紙を突き出してくる子供。その睨み付けるような瞳は、昔から変わらない。
無言でそれを受け取り椅子に腰かける。
同じように子供は無言で向かいのソファに腰を下ろした。いつものパターンだ。
エドワードが口を開くとその赤い唇から目が離せなくなる。理由はわからないがそれが不快で、うるさいから極力しゃべるなと命じてから、エドワードは私の前であまり口を開かなくなった。
「昨日」
紙を捲る音が響く部屋。エドワードが静かに切り出した。
「なんでオレがここにいたって知ってたんだ」
おや、と思った。
先程の理由からか、マスタングの問いかけなしにエドワードのほうから話を振るというのは珍しいことだ。
「視察に向かっていた途中で、君がカフェにいるのを見かけた。男、と一緒に」
なめらかに口にしたつもりが、男、の部分で躓いた。昨日の出来事が脳裏に甦ったせいだ。
「オレは別に遊んでたわけじゃない」
マスタングがいい淀んだ理由を嫌味と取ったらしいエドワードは早口で捲し立てた。どうやら、先程のマスタングの言葉を気にしているらしい。少女は、子供であるにも関わらず「子供」と揶揄られるのを嫌う。
それを知っていて、敢えて言ったのだ。
「あれは、昔なじみだ。同郷の。前に立ち寄った村で再会して」
なけなしのプライドを守るために、必死になる子供を見やる。
「たまたま昨日、イーストシティで会ったんだ。それで」
怒りのためか、僅かに赤らんだ顔に昨日のエドワードの微笑が重なる。私の前では決して見せないその表情。まるで相手の少年を庇っているかのような言動。エドワードの掠れた声。ああ、イライラする。
「鋼の、その話しは長いのか」
ただの知り合い。それにしては、やけに近い関係のように見えた。少なくとも、お互いの体に触れ合うくらいには。
指先をトントンと机の上で弾ませる。エドワードがはっと顔を上げた。マスタングの機嫌が悪い時のクセだと理解しているからだ。
「私は君の友好関係などに興味はない。君と無駄話をしたいとも思わない。わかるか」
沸き上がる黒いものに突き動かされるまま、口を開く。自分でも驚くほどに冷たい声がでた。
一瞬、エドワードは虚を突かれたような顔をした。そして、直ぐ様、さっと頬を赤らめた。
そんなんじゃ、と動いた唇は、それ以上声を紡ぐことなく閉ざされる。
いい気味だと、鼻で笑ってやる。マスタングに会うことを避け、男と会っていた報いだ。
誰が才能を見出し、進むべき道を提示してやったと思っているのか。
もっとだ。私の言葉に振り回されればいい。振り回されて疲れ果て、地べたに座り込めばいい。
疲れをしらぬ機械鎧の脚が地に伏す様は、さぞ愉快なものとなるのだろう。
「鋼の、報告の続きを」
殊更冷たく告げてやると、びくりと、細い肩が震えた。
時計の針が時間を奏でる。数秒、されど数秒だ。
「さっさとしろ、あまり手間をかかせるな。来なさい」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、エドワードを見下ろす。
ここからだと、蒼白になったエドワードの顔がよく見える。まさに壮観だ。
「アンタは……」
何かを耐え、唸るような声が耳を撫ぜあげ、心地よい。
エドワードの声は気にくわないが、痛みに堪えるような暗い声にはとても興奮する。今、エドワードを傷つけているのは、エドワードの頭の中を占めているのは少女の弟ではなく、他でもないマスタングなのだ。
高揚感を隠すこともせずに笑んでやると、エドワードの顔は面白いほどに固くなった。
「オレが、嫌いなんだろ」
「ああ」
特段否定するようなことでもないので、口角をつり上げたまま悠然と微笑んでやる。
「じゃあ、なんで」
「嫌いだからだよ」
そうだ。嫌いだ。心の底から、エドワードを嫌っているから。
「君は、性欲処理にはもってこいの人材だ」
このくらいの地位になると、発散する場所も限られてきてね。そういいながら、見せつけるように手袋を噛み抜きとると、視界の隅でエドワードの顔が醜く歪んだ。
ああ、その顔。マスタングしか視界に入れていない、淀んだ金の色。
大嫌いな人間をいたぶることがこんなにも心躍るものだなんて、エドワードと出会うまでは知らなかった。
「無駄話はもういい。さっさと服を脱いでうつ伏せになれ。ああ、使うのは下だけだからな、上はいい」
もう片方の手袋を抜き取り、机に投げ捨てる。
ぎゅっと唇を噛み締めたエドワードは、何度が口を震わせ、躊躇したあと。
意を決したように立ちあがり、震える指先でゆっくりとズボンに手をかけた。










机に手をかけ、その上に這いつくばった小さな体を見下ろす。下着を降ろして、みっともなく尻を突き出し下半身を露出した哀れな姿に、可哀想だという気持ちは全く起きなかった。
重ねて言うが、マスタングはエドワードが嫌いだった。エドワードの顔も、声も、髪も、その存在すらもだ。
エドワードを苦しめてやりたかった。最も少女が屈辱と苦痛を感じる方法で苛んでやりたかった。マスタングがいない場所でも、青い軍服を目にした時に自分を思い出せばいいと思った。
そうすることが、自分の当然の権利だと思っていた。この方法を思い付いた時、名案だと自分を褒め称えてしまいたくなった程だ。
だから、前戯もそこそこに、一気にそこを貫いてやる。
「――――っ」
仰け反るエドワードに構わず、じわじわと腰を進める。
「く、……ぅ」
苦しげな吐息を吐き出すエドワードの指先が、カリと机をかいた。
少女に情報を与え、秘密を守り軍規をすり抜けるよう尽力する変わりに体を差し出すように命じたのは、エドワードが13の時だ。
ソファーに組み敷いた時、最初は凄い勢いで拒否されたが、弟の名前を出せば恐ろしいほどに従順になった。
抵抗をやめ、だらりと下がった機械鎧に心が痛むどころか、ひどく愉快だった。
それ以来、エドワードとは肉体関係を続けている。といっても、エドワードを抱くのは報告に来たとき、数ヵ月に1回程度で、そこまで頻繁ではない。といっても、もう数えで片手では足りない程だ。
それでも、あの頃の気持ちは変わらない。
今でも、エドワードを犯すことはマスタングにとって最大のストレス発散で、歓びだ。
「は、」
相変わらず狭い。初めての頃よりいくぶんかましにはなったが、マスタングでさえきついと感じる程だ。エドワードの苦痛は計り知れない。それでも、止めてやる気はない。
後ろから震える腰を押さえつけ、じわじわと奥を目指す。エドワードは荒い息を吐き出しながら耐えている。
一番太い部分を捩じ込み、長い時間をかけて全部埋め込むと、エドワードも辛いながらに楽になったのか、少しだけ体の強張りが溶けた。別に苦痛を少なくしてやろうとは思っていなかったが、見ればエドワードの指先は固く握りしめられていた。どうやら、今でも相当つらいらしい。
「あいかわらず、女らしさの欠片もない身体だな、君は」
エドワードは人体錬成の影響のせいか、身体が未発達だった。15歳にしては女性らしい身体の曲線もなく、身体だって少年のように固い。話を聞く限りでは、初潮もまだらしい。
「抱き心地も悪い、使えるのはここだけだな」
見せつけるように腰を軽く揺らしてやると、エドワード先程よりも強く拳を握りしめた。
真っ赤になり、汗ばんだ首筋に舌を這わすと、嫌がるようにエドワードが首をふった。
エドワードはここが弱い。前に軽く首を噛んでやればキツく絞まっていい塩梅だった。
ふと、いい匂いが鼻すじを掠めた。エドワードの髪からは、自然豊かな匂いがする。
そこら辺の作った女の香水の臭いとは違う、心地よい太陽のような香り。
まるで、包み込まれるような。
「酷い臭いだな。シャワーは浴びてきたのか」
それでも、思っていることと正反対のことが出てきてしまうのが、長年培ってきたエドワードに対する暴言だ。
「終わったら司令部のシャワーでも浴びてこい。そんななりでここを歩かれても迷惑だ」
野宿を頻繁に行うエドワードは、年頃の少女とは程遠い。
気味わるがるように言ってやれば、面白いくらいにエドワードの身体が固まった。
顔を見なくてもわかる、今頃、恥辱と屈辱に耐え忍んでいることだろう。
内心でほくそ笑む。いい気味だ。
せいぜい傷つけ。
どうせこの部屋を出るころにはマスタングのことなど忘れて、アルフォンスと旅立ってしまうのだから。
ゆっくりと、律動を始める。ゆるゆると出し入れするたびに上がる声は苦悶に満ちていて、マスタングの聴覚を煽った。中の肉を抉り出すように、じわじわと、しかし確実に責める。
緩急をつけて何度か奥を突いてやると、徐々に濡れた音が増してきた。エドワードの指先が小さく震えている。
「あっ……く、…ふ」
「は、濡れてきたな」
身をよじって衝撃に耐えるエドワードの頭をわし掴み、机に縫い付ける。
少しほどけた金色の髪が、黒い服に散らばる。
「好きでもない男に犯されて、感じるのか君は」
初めの頃は痛がっていたが、エドワードはだんだんと、快楽をひろうようになった。女は無理矢理されても身を守るために液を分泌させる。知識では齧っていたその事実を、マスタングはエドワードで初めて知った。
理由が防衛本能であることをエドワードには教えず、あさましい娼婦だなと罵ってやれば、エドワードは簡単に傷ついた。
今もそうだ。感じている自分を恥じるように、エドワードは体を震わせて声を圧し殺している。
もっと、苛んでやりたい。完膚なきまでに蹂躙しつくして、屈服させたい。
後ろから舐めるように手を這わせ、服の上から少し尖った先を擦ってやる。
「ひっ……ぁうっ」
途端に跳ねた体。
両手を小さな膨らみに這わせ、緩く突きながら後ろから捏ねるように揉んでやると、断続的な甘い声があがる。
「ぃ、や……いや、だっ…ぁ」
エドワードは快楽を恥と捉えている。これは、相当の屈辱だろう。
必死に拒絶の言葉を吐くエドワードに構わず、尖った先をつまみあげ、指先で弄ぶ。
形を確かめるように何度かなぞってやれば、服の上からでもはっきりわかるようにそれは尖り始めた。
「淫乱」
「ん、…んあっ……ひぁ」
耳朶に息を吹き込んでやると、エドワードが逃げるように身をよじった。
それが腹立たしくて、髪を掴んでひっぱる。
「ィ……あ、ぅ」
「昨日の少年に見せてやりたいな」
太陽のような瞳に、昏い影が落とされる。
「どう思うのだろうな、セックスなんて知らなそうなストイックな顔をした君が、その実」
尖りに、鋭い爪をたててやる。
「あ、い、いたィ……ふッ」
「性欲処理に使われている、こんなにも汚れたおもちゃだと知ったら」
がりがりと、音をたてるほどに突き立てる。声にならない悲鳴を堪え、エドワードが頭を振った。
「ああ、それとも、もう寝たか?」
へこんでしまったそこを、再度指先でつねりあげ、ピンと指ではじく。
「ヒ、……ッ」
形をなぞる様に耳に唇をつけ、睦言のように甘く囁いてやる。
「君は嫌いな人間に抱かれても感じる厭らしい子供だから、さぞよがり狂ったのだろうな」
「……は、……ふ」
エドワードが喉をひくつかせ、しなった。
その浮き出た鎖骨に溜まった汗が、静かに零れ落ちる。白い肌を伝うそれから、なぜか目が離せない。
「ぁい、つ……は」
ふいに落とされた言葉に、エドワードを見る。
もう息も絶え絶えだと言うのに、その金色の瞳が、静かに煌めいていた。
突如光を取り戻したそれに皺を寄せる。
「そんなこと……しね、……」
薄く空いた唇から、真っ赤な舌が覗く。
「アンタとは、違、ぅ、あいつを、侮辱すん――――ッ」
「うるさい、耳障りだ。黙れ」
貫かれながらも、少年を必死に庇おうとするエドワードに、先ほどまで戻っていた機嫌が急降下する。
湧き上がる怒りと衝動のまま、後ろから、エドワードの口を右手で塞ぐ。呼吸もできないように鼻も塞いで。
引き締まった、形のよい臀部をぐいと開き、叩きつけるように奥を抉る。
「ん、っんん、ふっ―――!」
苦しいと、腕を掴んでくる力も弱い。剥がされないように、腰を抱え治して思い切り打ち付ける。
昨日見かけた少年のことを、エドワードはあいつ、と呼んだ。エドワードがそう呼ぶ人間は、アルフォンスと、幼馴染の少女ぐらいだと記憶している。同郷と言っていたぐらいだ、相当仲のよい友人なのだろう。
歳も、近いように見えた。同じ学校に通った間柄であることは間違いない。
マスタングの知らない、エドワードの幼少期を知る人物。なぜだか、胸の奥にじわりと黒いものが広がった。
痛みはない、だが、心地よいものでもない。
―――なんだ?
その不愉快な感覚を振り切るように、マスタングは腰を早めた。
激しい水音。激しい肉のぶつかりあい。のけ反りながら、痛みと快楽に耐えるエドワード。次第に断続的になる嬌声。
口を解放してやり、最後に、強く奥に捩じ込む。そして。
「――――ふッ」
エドワードの首に強く噛み付き。果てた。
「あ、ぁああ、ッふぁ」
中に出されたのを直に感じているのか、噛み付かれた痛みのためか、エドワードが今まで以上にぶるりと身体を震わせた。手袋の上なのに、左手の握り拳にはわずかに血が滲んでいる。
出し終わった後も何度か前後に動き、長い時間をかけて溜まったものを全部だしてやり、ずるりと抜き取る。
荒い息をはいて机に突っ伏したまま動かないエドワードを見下ろす。引っ張った事もあってか、激しい情交に少しほどけてしまった金色の髪が、少しだけ黒い服に散らばっていた。
赤いゴムに結わえられた、乱れた髪。この部屋を出るまでに結わせ直さなければと思いつつ、昨日の光景を思い出した。
年頃の女のように、ほどかれた絹のような髪。少女のように照れ、紅茶を飲む姿。
見惚れるような微笑。傾く首。はらりと散る、絹のような金色。
それを一房手に取る、名も知らぬ少年の指先が―――
「あぅっ……!」
気がついた時には、エドワードの髪を掴んでいた。ほとんど無意識だった。
急に引っ張りあげられて、上がる痛みの声。赤い髪ゴムに結わえられた髪を、構わずぎりぎりとつり上げる。ぶちぶちと抜ける感覚。エドワードのうなじの皮膚が盛り上がり、赤く色づく。
「な、なに、はな……いてぇ!」
「目障りだな、これは」
髪を掴んでいない右手で、机の端に置かれているものを、手にとる。
「―――え」
目を剥くエドワードの姿が、スローモーションのように見えた。自分の手の動きすらも。
自分の意思の関係ないところで、手が動く。それでも、こうなることは意識の片隅でどこか予想していた。
昨日の光景を見た、あの時から。

じゃきん。

支える力を失い、重力に従ってエドワードの頭が落ちる。
「え……」
再び突っ伏したエドワードの頭に、黒い服に、マスタングの所業を逃れた少量のそれがはらりと散らばる。
エドワードが、ゆっくりと振り向いた。
さらりと、肩に届かないほどに短くざっくばらんに切り揃えられてしまった自分の髪を視界に入れ、大きく見開かれる、瞳。
まさに、呆然という言葉が正しいだろう。
「旅をするのには、必要ないだろう」
不思議と、静かな声が出た。しかし、マスタングは僅かながらに動揺していた。
気が付いた時にはハサミを手に取り、エドワードの髪を切っていた。
まさか自分がそんなことをするとは思ってもいなかった。ここまでするつもりはなかったのだ。
それでも、起こしてしまったものは仕方がない。いつものように、冷えるような言葉をかけてやる。
「男のような君には、気味の悪い長い髪より、その髪型がお似合いだ」
すらすらと言葉が口から零れ落ちるのは、いつもの自分だ。
そうだ、たかが、エドワードの髪を切ってしまったくらいで動揺するだなんて、自分らしくない。
それに、前々からその長い髪が、うっとおしいと思っていたところだ。
マスタングは内心に渦巻く揺れを隠しながら、手に残った、ゴムのせいか、まだかろうじて三つ網の体をなしている髪を側にあったゴミ箱に投げ捨てた。さらりとしたそれは音もたてずに、黒い箱の中に吸い込まれる。
「そういえば、君は生理は来ているのか」
今起こしてしまった出来事の話題を避けるように、身なりを整え横を向く。
「以前はまだだと言っていたが、来ていなくても妊娠したら困る。後で避妊薬でも買って飲んでおきなさい」
言いながら、エドワードとの子供ができたらどうなるのだろうかと、一瞬考えた。
金色の髪で黒い瞳をした、花のように可愛らしい子供が目に浮かぶ。
―――可愛らしい?
頭の中をよぎった妙な言葉に、マスタングはすぐさま頭を振ってそれを追い出した。
視界の片隅に、此方を見るエドワードの姿が映る。短くなってしまった、黄金色も。
「君、と私の子供なんて想像したくもないからな、堕ろされたくなかったら―――」
そこまで言いかけて、マスタングは言葉を失った。

ぽたり、と。

エドワードの頬を濡らしている、それが視界に入ったからだ。
「は?」
なんとも間抜けな声は、マスタングの口から出た。
ぽたぽたと、断続的なそれは、エドワードの頬を伝い、冷たい執務室の机の上に零れ落ちる。
呆けたように目を大きく見開きながら、静かに涙を流すエドワードが、そこにいた。
マスタングを見ているようで見ていないその瞳からは、確かに水滴が溢れていた。
小さく開いてしまった口を戻すこともできず、マスタングはエドワードを、正確にはエドワードが流す涙を見つめた。
エドワードの涙など、今まで見たことがなかったからだ。
肉体関係を強要した時も、エドワードは悔しそうに顔を歪めはしたが、泣かなかった。エドワードは泣かない。そう心の決めているのか、機械鎧の手術を受けた時ですら、悲鳴を押し殺し涙を零さなかったと聞く。今まであった数々の試練の前でさえ、この子は涙をその瞳の奥に仕舞い込んでいた。
そんな子供らしからぬ態度も、気にくわないと思っていた要因の一つでもあったのだが。
それなのに。
そんなエドワードが。
「は、鋼、の」
みっともないほどに声が掠れて、裏返る。
どうして私はこんなにも動揺しているのだろうか。大嫌いなエドワードが泣いているというのに、先程までも感じていた、いつも湧いてくるような歪んだ高揚感は全くない。
それどころか、どうしたらいいかわからずただエドワードを見つめるばかりだ。
髪を切ってしまったこと、酷い言葉を投げつけたこと、この二つがエドワードの涙の要因であることに間違いはないだろうが、何を言えばいいのか、わからない。
エドワードは泣いていることに今気が付いたのか、静かに指先で眦に触れ、流れ出る雫を確認すると顔を歪めた。
そして、自嘲気味に笑おうとして失敗して、さらに溢れ出す涙にくしゃりと表情を崩した。
「……、……ふッ」
堪えきれない嗚咽が耳朶に響いて、心臓がきゅっと、何かに掴まれたように痛んだ。
エドワードのこれ以上ない程に苦しそうな声なのに、愉悦感など一欠片も感じない。
それどころか、初めて感じる身体の奥底が急激に凍りつくような冷たい痛みに、眩暈がしそうになる。
声をかけることもできずに立ちすくむマスタングを横目に、エドワードは零れる涙をぬぐうこともせずのろのろとずり下がった下着とズボンを履く。そして、よろりとふらつきながらソファまで歩き、かけられていたコートを掴むと、フードを目深にかぶりそのまま出て行ってしまった。
マスタングを責める言葉も、何もなしに。
パタンと閉じられた扉を、マスタングは硬直したまま見つめていた。

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