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「なんで、だよ……」
 言葉の通りだ。なぜエドワードなのだろうか。マスタングともあろう人間が、なぜ自分の部下を手籠めにする必要があるのか。しかも脅迫までして。言い方は悪いが本当にエドワードのような子どもで遊びたいのならもっと他に方法があるはずだ。そういう店も少なからずあるということを、少ない旅の経験でエドワードはおぼろげながらにも知っていた。
「あんた、オレが好き、なのか……」
「好き?」
子ども心に、打算が働いたのだと思う。恋すらしたことがない子どもの自分が、少しでもこれから始まる非道な行為に対する恐ろしさを払拭するために必要な打算だった。もしそうであれば、彼にされることを少しは耐えられるのかもしれないと、望み薄な理由付けに縋りたくなるほど必死だった。けれどもマスタングの返答は、案の定予想通りのものだった。
「別に私は君の心まで支配しようとは思っていないよ、そうまでして君を手に入れたいとは思わんからな」
それどころかエドワードの予想を越えていた。
「君がこれから誰を好きになろうと興味はない、もちろんこれから誰を好きになっても構わない。何をしてもいい。ただ私に従順でいてくれれば」
「じゃあ、なんで……」
「最初にも言っただろう、自分が欲しいと思ったものはどんな手段を使ってでも手にいれたい人間なんだ、私は」
 ずるりと、いつのまにか完全に外されていたベルトが引き抜かれ、ベッドの下に乱雑に放り投げられた。あ、と言葉少なく虚しく落ちていく軌道を視線で追いかけている間に、ズボンと下着すらも強引に引きずり降ろされ下半身がひやりと空気にさらされた。
「君に会ったあの時から、君の体を手に入れたくてたまらなくてね。だから今こうして実行に移したんだ。それだけのことだよ」
それだけのこと。こんな風に人前で、下着を脱がされることが。屈辱と、それを上回る羞恥にどうにかなってしまいそうだった。僅かに視線を下げると、ずり降ろされた下着の隙間から小ぶりなそれが顔を出していた。自分ですら、シャワーを浴びている時やトイレをしている時でしか見ることのない無防備な男の象徴が剥き出しになっている。しかも、家族以外の他人の目の前で。
「……っ、ぅ」
「ほう、まだ剝けてもいないんだな。陰毛も少ない。ここまで完璧な皮を被っているものなんて久々に見たよ」
信じられない屈辱的な台詞に、目じりが熱くなる。こんな男の前では絶対に泣くものか。そう心に誓っても、いざ現実を目の当たりにするとやはり恐ろしさが先にたって身体が言うことを聞いてくれなかった。
「……大、佐、たいさ」
まじまじと見下ろされているのが視線でわかる。たまらず足を閉じようとするが、片足のズボンを抜き取られ両脚の間に身体を入れられ閉じられなくされてしまった。赤子のような恰好のまま隅から隅まで舐め回すようにゆっくりと観察される。あまりの光景に目を強く閉じ、片腕で顔を覆う。
「鋼の、逃げることは許可していない」
冷たく囁かれた声は本当に無情だ。しかし腕をどけることができない。何をされても受け入れなければならないという覚悟も決まっている。弟の命と自分の身体のどちらを優先するかなんて比べるまでもないはずなのに、身体が硬直したかのように動いてくれない。
だって、エドワードはセックスなんて知識でしか知らないのだ。自慰なんてものも、する暇なんてなかった。唇へのキスだって異性としたことも同性としたこともない。マスタングに奪われたのが初めてだ。そんな自分が好きでもない誰かと体を重ねるなんて想像もつかなかった。本に書いてあった男女の交わりを、今からマスタングとするなんて信じられない。これからどうなるのか、何をされるのか、不安と緊張に身体がガチガチに強張っていくのが自分でもわかる。マスタングもきっと気づいている。気づいていながら笑っているのだ。残酷としか言いようがなかった。
「目をあけて」
 柔らかな叱責にますます瞼に力がこもる。
「目をあけなさい、いい子だから」
 優しいはずの声に最大級の恐ろしさを感じるなんて、そうそう体験することではない。マスタングは今はまだ激情に任せて暴力を振るうようなことはしないが、このまま無言の抵抗を続けていればどうなるか。瞼の裏に鎧姿の弟が浮かんだ。弟の体が赤い焔に巻き込まれ、無様な鉄の塊へとドロドロに溶けていく姿だ。恐る恐る目をあけ、腕をどかす。柔らかな言葉とは裏腹に、エドワードを冷たく見下し細められた目は薄暗い部屋でもわかるくらい爛々と光っていた。暗闇で煌々と燃え盛る暖炉の火のようだ。髪の黒さと目の黒さが、昔読んだ本に出てくる冷酷な悪魔を彷彿とさせた。慈悲もなく、人間の魂を壊す闇の覇者。
「何を望んでいるのかと、先ほど聞いたな」
「ぁっ……」
エドワードの幼い男性器に、静かに手が伸びてくる。長い指がそこに巻き付いた。ひたりと冷たい接触。腰が引けそうになって、逃げるな、と自分の体に死に物狂いで信号を送り続ける。
「っ、ぅ……」
「君は私が望む時にズボンを脱ぎ、足を開いて私の命令に従えばいいだけだよ。こんな風に」
力なくふにゃりと横たわっている肉の棒の先端を、押し上げるように摘ままれる。皮の隙間から少しだけ桃色の肉がはみ出したのが見えた。物心ついた頃から父親はいない。気恥ずかしさから、年頃の友人たちに相談することもしなかった。そんなことよりも錬金術の勉強をしているほうが楽しかったし、集中できた。そうこうしている内に弟の体は失われ、自身も手足を失って今に至るのだ。こんなところ自分で弄ったこともない。本当に、本で読んだ知識しかなかった。
「身体だけ私に差し出せばいい。私が望むのはそれだけだ。簡単だろう?」
太い親指に、丸みを帯びた乾いた先の割れ目を押し潰される。ぐりぐりと円をかくように指をねじ込まれ、焼け付くような痛みに唇を噛みしめた。
「いっ、い──」
しかし呻き声は止まってくれなかった。それどころか呼吸と共に、口の端からどんどんと洩れていく。エドワードは一年前、機械鎧の手術の痛みにも耐えることができた。悲鳴一つ漏らさなかった。それなのに、未発達な男性器を少し弄ばれただけでこの様だ。脂汗もどんどん噴き出てくる。
「ん、い、ぃや……だぁ」
「情けない声だ」
シーツの上をくねる。みっともない声が出てしまうが仕方がなかった。しかしエドワードのか細い悲鳴を聞いてもマスタングは動きを止めることはなかった。それどころか伺うようににちにちと先端部分を弄っていた親指の動きをどんどんと激しく小刻みにし、エドワードの柔らかな肉全体を刺激してゆく。細い根本を輪にした指で強く掴まれて、引っ張り上げるように上まで扱かれ、ゆっくりと下へ。先を包みこんでいる皮を引きずり下ろすように、何度もそれを繰り返される。
「く……ぁ……ぁ……ん」
皮を引きずり降ろされる時は顔が歪んでしまうほどの痛苦に苛まれ、上に押し上げられる時はなんともいえない熱さに尻穴がひくつき、力を入れてしまう。波のように襲い来る未知の感覚と衝撃に、必死になって足指を丸めシーツを掴むことしかできなかった。エドワードは茫然とここが男の急所と呼ばれる所以を知った。自分の意思とは関係なく、敏感な神経を剥き出しにされていく感覚に腰が飛び跳ねるのが抑えられないのだ。痛くて、熱くて、痺れる。びりびりと電流でも流されているようだった。
「頭の部分が少し見えてきた。せっかくだ、全て剥いてあげよう」
「……、ひっ……!?」
とんでもない台詞が聞こえた気がした。マスタングの顔を仰ぎ見る。その表情に察した、冗談なのではないと。一拍置いて、断続的な衝撃の波が一瞬で激痛へと変わった。マスタングの尖った爪先が、まだ剥け切っていない皮の隙間にねじ込まれたのだ。
「いッ……ぁ」
 仰け反る。白い天井が激しく揺らいで見えた。
「痛いかね、ここを弄られると」
 首を振る、答えれば負けのような気がした。しかし痙攣する腿をやんわりと抑えられ、さらに強く爪をねじ込まれて唇は呆気なく陥落してしまった。
「、ぃて、ぇ……!」
「機械鎧の手術に耐えた君でも、ここは論外か。ふむ」
含み笑いに言い返す気力も無い。激しく息を乱す自分の呼吸が、脳にガンガンと響いて煩かった。
「ぁ……あ!」
隙間に侵入してきた爪が、淵をたどるように円をなぞり、ずるずると粘着した皮を剥いでいくのが見えた。たまらずシーツから手を離しマスタングの腕を抑える。が、無言で男に元の位置に戻された。邪魔をすることは許さない、細く笑んだ瞳が言っていた。
されるがままでいるしかないのだ。襲い来る苦痛に耐えながらシーツを再び握りしめる。ずきん、と針で刺すような激痛に襲われた。ずりずりと皮を下げられていくたびに痛みが強くなっていく。ずきんずきん、──ずきん。
「ぁッ……ぁあ!」

ぷくりと赤い液体が淵に伝い、短い竿を伝って落ちていった。傷つけられた所から血が出ている。男としての性を持つ自分の、一番大事な部位から。惨めさに顔が歪んだ。振り乱した髪に顔を覆われる。少しだけ安堵した、これで青ざめた顔をマスタングに見られずに済む。
「落ち着け、剝いた時に血がでるのは普通だ」
「ぅう、う……!」
そんな普通知りたくもない。乱暴に、一番剥がしづらい箇所をずるんと剝かれエドワードは唇を噛みしめた。とにかく痛い。これまで感じることのなかった冷たい空気がダイレクトに神経を犯してくるようで、突き刺すような痛苦に苛まれる。噛みしめても噛みしめても、唇の端から、声にならない呼気が漏れるくらいに。
「ほら見なさい、綺麗に剥けた」
 びくびくと震えながら打ち震えるエドワードの頬に、マスタングが慈しむように口づけを落とした。しかしそれが優しさからではないことはわかっている。彼は自分の欲求のままに動いているに過ぎない。哀れなエドワードの姿を嘲笑いつつ、なんとなく口づけてやりたくなった、その程度なのだ。実際マスタングはエドワードを憐れむ素振りを見せはすれ、笑みを絶やすことはないのだから。
「なんだ、よく見るとだいぶ愛らしい形をしているじゃないか」
顎をひっつかまれ、無理矢理皮が剥けた自身の男性器に視線を移動させられる。マスタングの言うように、槍の切っ先のような形の赤みの深い肉が顔を出していた。いたぶられた入口は少しだけ赤い筋が引かれひくひくと痙攣し、根の部分は零れた数滴の血液で濡れていた。見るも無残な状態だった。目を閉じたかったが堪えた。マスタングはエドワードに己の痴態をまざまざと見せつけることで、エドワードの抵抗を打ち砕き支配したいのだろうから。
「……君、精通は」
それこそ聞く必要のない質問だと思った。エドワードが性に疎いことはこれまでエドワードの反応を見ればわかるはずなのに。そこまでしてエドワードを堕としたいのだろうか、この男は。
「そんな、の。聞かなくとも、わかる……」
「答えたまえ」
案の定マスタングはエドワードが答えるまで質問を止める気はないようだった。ぐい、と顎を上げさせられ目線を合わせられる。逆らうな、と漆黒の焔が燃えていた。エドワードは諦めにも似た気持ちで小さく首を振った。
「……来て、ない」
「だろうね」
 そして目を疑った。マスタングがエドワードの足を抱えなおして、下半身に向かって顔を寄せたのだ。あろうことか、その唇の行き着く先には。
「──ッ……!?」
ねっとりとエドワードの萎えた肉欲の根本に舌を這わせ始めたマスタングに、エドワードは足をばたつかせた。
「暴れるな、歯が当たればまた血が出てしまうよ」
このまま噛みつかれて引きちぎられる。恐ろしい想像に身体が硬直した。他人の性器を触ることはまだわかるとして、舐めるなんて恐ろしいことをされるだなんて思ってもいなかった。愕然とした。下から上へ移動した舌に剥き出しの先端部分を集中的に刺激され始め、エドワードはやっと声を失うほどの硬直から解放された。
「ひ、あ、ぁ」
マスタングの舌は、生き物のように蠢いていた。赤い湿った舌から、焼け付くような熱が伝わってくる。無理矢理剝かれた先端は傷がついているはずなのに、痛いよりも熱かった。びりびりとした刺激に足の指が丸まる。敏感な箇所を舐めしゃぶられることのなんと淫らなことか。エドワードは信じられない面持ちでマスタングを、マスタングにいたぶられる自身の性器を凝視した。
「きっ、きた、な、あっ」
エドワードのか細い悲鳴にマスタングはほくそ笑み、エドワードの肉欲を指で起立させ、さらに深く咥えて舌で全体を扱きだした。エドワードの性器が全てマスタングの口内に収まってしまった。
「……ッあぁ、う」
 マスタングの舌にめちゃくちゃに舐めしゃぶられ、ガクガクと痙攣する腰をずり上げる、が引きずり戻された。無意識のうちに手が伸び、エドワードは自分の股間にうずくまっているマスタングの髪を緩く掴んでしまった。しかしマスタングは何の反応もせずに愛撫をし続ける。エドワードが手に掴んだこの髪を乱暴に引っ張ることなどできないということをわかっているのだろう。悔しかった。しかしどうすることもできずエドワードは黒髪から手を離し両手で口を抑えた。指の皮膚に噛みつく。このままだと泣き叫んでしまいそうだった。
「まだ血の味が濃いな」
「ひ、いや……ぁ、ふ、うぅうう」
「わかるかな? 溢れてきたのが」
マスタングの言葉通り、エドワードの先端からは透明な液体が溢れだし始めていた。そこに指先を埋め、面白がるようにぬちぬちと掻き回されさらに量が増える。
「な……に、これ、ぅ」
「君がよがってるという証拠だよ」
「あッ……ぁあ、やら、や」
馬鹿にされた屈辱よりも、咥えたまましゃべられることがつらかった。熱い吐息がダイレクトに湿った性器に響き腰が跳ねるのを止められない。腿から脂汗が噴き出し、腹と腿の付け根に溜まりエドワードが腰を振るたびにぱちゅぱちゅと跳ねる。
「小さいな、咥えているのを忘れて噛み千切ってしまいそうだ」
 怖ろしい言葉に腰が震える。恐怖を煽るようにわざとゆるく歯を立てられ、宣言通り噛み千切られてしまうのではないかと怯える。エドワードは既にこんなにも汗だくなのに、マスタングは涼しい顔で汗一つかいていないという事実が苦しい。踊らされているのが自分だけだという事実に、鼻の奥が痛んだ。
「ぁっ……あ、あ……や、め、もえちゃぅ、もえちま、ぅあ」
 このまま舐められ続ければ本当に燃えてしまうと思った。それほどまでに熱かった。火傷をしたところをぬるま湯に浸され、湿った何かで擦られているような。くすぶる熱で、真っ黒に焦げてしまう想像までした。
「燃える? はは、それはないさ」
 エドワードの必死の懇願が、マスタングは面白かったようだ。小さく吹き出し、容赦なく厚い舌で先端部分をぐりゅぐりゅとかき回してくる。エドワードは今度こそしなった。腰に溜まった血がマグマのように吹き出しはじめ、目を瞑っていないはずなのに目の前が白く濁り赤く爆発した。自分の性器が壊れたと、薄らぐ視界の中でエドワードは思った。
「ぁ ああ あ!」
ガクガクと痙攣しながら腰を天井まで突き出す。暴れる体を押さえつけられて一か所に溜まった熱を他で発散することができなくて暴れまわった。マスタングにじゅうっと最後の一滴まで吸いつくされ。じんじんとした痺れに体力を根こそぎ奪われ、ぺたりと腰を落とす。全速力で駆け抜けた気分だった。
「はァっ……はぁ、あ」
「薄いな」
 口に含んだもの味わいながら何度か嚥下し、ペロリと唇を舐め指を離したマスタングを、エドワードは信じられない面持ちで見上げた。
「剝いて直ぐにいけるだなんて君には才能があるね、愉しみだ」
「い、いま……」
「ん?」
「はぁ、飲ん……、」
「ああ飲んだとも。新鮮だったよ」
 なんてことないように、とんでもないことをさらりと発言されて開いた口が塞がらない。本から得たものでしかないが、エドワードは性の知識がある。今自分が吐き出したものが、『精液』というものであることくらい知っている。これが女性の卵子と結合し、新たな命を作るのだ。つまり、そういう用途で使用される体の成分であって、決して新鮮なジュースのように飲むものではない。エドワードはその臭いを嗅いだことはないが、本では腐った魚の臭いと似ていると書いてあった。味だって、きっといいものではないだろう。そんなものを飲むだなんて。
「そんな悲壮な顔をするな、君もその内、私のを飲むようになるのだから」
「……な」
何度か瞬きをし、マスタングの言葉の意味を理解して青ざめた。
「さてと、これで君も立派な男になった」
「──ひっ」
「次は、私の女にしてあげよう」
「ひゃっぁ、な、なに」
「ただの潤滑油だ、安心しなさい」
安心なんてできるわけがない。全てがエドワードにとって未知の世界なのだ。今だってこうして、慣れた手つきで臀部の割れ目にどろどろとした液体を塗り込めらるだけで体がガチガチに凍ってしまう。
「震えているね、冷たいのかな」
違う、と言い返すだけの気力もない。たっぷりと滑る液体で割れ目を濡らされた直後、エドワードの窄まった下の口に形のいい指先が添えられた。とんとん、と敏感なそこを爪先で突かれて、まさかと身じろぎをする。予想は当たっていた、恐ろしい危機感がマスタングの指と共にエドワードの中に入ってこようとする。急いで腰をくねらせて侵入を防ごうとしたが、なんなく臀部を押さえ込まれずぬぬっと指を突き入れられた。
「ぁあっ……!」
躊躇のない動きだった。痛みに引き攣れるエドワードの入り口に、ぐいぐいと指が押し込まれていく。そこは排泄器官であって指を入れる箇所ではないはずなのに。
「な、ん、なん……ッや、きたな、ぅ」
マスタングが、さらに指を押し込んできた。ぐう、と呻いてシーツに顔を押し込める。鈍い痛みと圧迫感にエドワードはビクビクと体を痙攣させた。
「うッぁっ」
「うん、だいぶ狭いがよさそうだ。子どもの中はあたたかいな」
マスタングはエドワードの内壁を具合を確かめるかのように、指を浅く出し入れしてきた。ぬち、ぬぢゅ、ぬぢ、、とその都度哀れに虐められる窄まりの悲鳴を、マスタングは聞いてもくれない。それどころか膝の裏をマスタングの片手に赤子のように持ち上げられて、エドワードも自分では見たことがない部分を彼の眼前に晒される。エドワードの赤らんだ穴に、太い中指が第二関節まで埋められているのが見えた。信じられなくて首を振る。
「や、や……なん、ひ」
 パニックに陥るエドワードに、マスタングはふっと口角を上げた。笑ったのだ。そして汗だくになっているエドワードに恐ろしいことを言ってきた。
「男には膣がないからね。男同士のセックスではここを使うんだ」
「……え」
「今から私の性器を君のここに入れる。だからある程度解さなければ君は今以上に辛くて痛くて吐くかもしれない。君のためを思ってやっていることだ、理解できたかな?」
さも当然のことのように言われて開いた口が塞がらない。今マスタングの指が挿入されている場所にマスタングの性器を入れるなんて絶対に無理だ。
「ッ……いや、だ!」
「こら、動くな。傷がついてしまうと入れる時もっと痛くなるぞ。血みどろになるのは嫌だろう?」
恐ろしい台詞に、抵抗する術はなかった。捕らえられた小動物のように、エドワードは出し入れを続けるそこを見つめる。それしか出来なかった。
「そう、そのまま大人しくしていなさい、いい子だから、ね」
 ちゅ、と額に落ちて来た口付けからは労りを感じる。しかしマスタングの指は絡みつく肉を押し上げるようにどんどん奥を目指してくる。入れにくい所は少し引き抜き、角度を変えまたその奥へ。ずっずっと中を抉られるたびに額に浮き出た冷や汗がシーツに流れ落ち、口にまで入ってきてしょっぱかった。やっと第四関節まで埋められた時には、エドワードの額は汗だくになっていた。
「やっとここまで入ったか。まだいけるかな?」
「あ、ひッ、……はっ、はあ、はあっひあッ」
「鋼の、もっと力を抜きなさい」
無理だ、と無言で首を振る。もう既に声を出すことも出来なかった。マスタングは答えないエドワードに困ったように肩を竦め、再び奥まで突っ込んできた。
「っ……ぅ」
緩急をつけられ、入れては抜かれる指の隙間からとろとろと潤滑油が零れていく。溢れたそれを掬われ、中に戻され穴をぷちゅぷちゅとかき回される。どれほど時間がたったのだろうか、一本だった指に二本目が追加された。今にもはち切れてしまいそうな入口に、痛みを飛ばすため腰をくねらせることに必死になる。奥を探るようにゆっくりと埋められていった二本の指は、長い時間をかけてエドワードの中に全部埋まった。
「う、うくっ……あ、いっ、ひ」
「よくなってきたかね」
「い、……い、いて、ぇっあ」
いいわけあるか、という怒りも込めて睨みつける。内壁を擦られるたびに酷い鈍痛が増す。マスタングはエドワードの苦痛には素知らぬ顔だ。水っぽい音を奏でながら抜き差しを繰り返される。
エドワードはついに三本まで咥えてしまった。深く挿入しやすいように足を抱えあげられ、折り曲げられた指でぬちぬちと中を穿られる。エドワードはか細い悲鳴をあげながら仰け反りシーツに頭を擦りつけた。弄られているのは下半身だというのに、肺が苦しくて仕方がない。酷い圧迫感に眩暈がしそうだった。
「む、むりっ、くる、くるし……、」
「頑張りなさい」
折り曲げた足指が、空しく宙を蹴り飛ばす。
「っも、いれ、ないで……切れる、切れ──あああ」
「柔らかいから切れないさ」
残酷にそう切り捨てられて四本目が追加された。指をバラバラに動かされ、ぬぢゅぬぢゅと引っ切り無しに掻き回されエドワードはただ打ち震えた。
「もういいな」
いつまでこの地獄は続くのか。そう思っていた矢先だ、唐突に終わりが訪れたのは。
「アっ」
ずるるる、と勢いよく指を引き抜かれて、腹の中の空洞感に呻いた。指はもう腹の中に無いはずなのに、圧迫感やズキズキとした鈍痛消えてくれない。まだ指で内部をかき回されているような感触がじんじんと残る。
「……さて、気持ちよくなれる愛撫はあとでたっぷりしてやろう。今は焦らされた分、ここがもうキツくてね」
下半身に何か固いものが押し付けられた。マスタングの股だ。彼の言葉通りそこはキツく張り詰めていた。ゆっくりとズボンのジッパーが下げられ、ズボンと共に下着をずるりと脱ぐとそこから大きなものが零れ出てきた。グロテスクで歪な形をしたそれは、しっかりと上を向き高くそそり立っていた。ひくひくと浮き出た血管が脈打つ肉塊はまるで化け物のように見えた。
「さっさと君のここを使わせてもらうよ。まだそこまで解れてはいないが、どちらにせよ切れるものは切れる。それに、はやく咥えてしまったほうが君も楽だろう」
マスタングが何か言っているが、それよりも目の前に飛び出した生き物から目が逸らせない。
「よく見ておきなさい。今からこれが君の中に入るんだ。いい子でいるんだよ」
恍惚とした表情を浮かべたマスタングが、肉の茎の根本を支えながら、ぐわりと覆い被さってきた。エドワードよりも一回り以上大きな体は、エドワードを押しつぶす大きな岩のようだ。君とセックスがしたいと、マスタングはほほ笑んでいた。ならば今からエドワードがマスタングに強制されることは。
「セッ、クス……」
「そうだ、セックスだ」
顔を埋めてきたマスタングが、ちゅ、ちゅと首筋に口づけの雨を降らせてくる。ねっとりと首を舐められる気持ちの悪さに、エドワードは吐きそうになった足を抱えあげられて本格的な挿入の体制を取られたことで、こみ上げる嘔吐感は余計に増していく。
「違う……こんなの」
「何が違うんだい」
「せっくす、じゃない」
 ぴた、と、マスタングが静止した。これまでエドワードが何を言っても動きを止めなかったのに。
「こんなの、セックスじゃない。それは愛し合う人と人が、するものだ」
セックスは、愛し合う男女が、そして結婚した男女が子どもを残すために行うものだ。けれどもエドワードはマスタングと愛し合うどころかお付き合いはおろか結婚もしていない。それならば今から行われようとしている性行為は、セックスというものでは無い。エドワードはマスタングとセックスはしない。
「だから、アンタとのは、違う。オレはアンタを愛してない。アンタもオレを、愛してない。だからこれは、セックスじゃな」
「その通りだな」
エドワードの言葉を遮ったマスタングは、覆いかぶさっていたエドワードがからす、と退いた。
「だが、ここでそれを言うのは得策ではないね。此方にも雰囲気というものがある。少しは優しくしてあげようと思っていたのに……残念だな」
残念だと言っているわりにマスタングの声色に変化はない。むしろ、エドワードを見下すように細められた瞳は氷のように冷え切っていたと思う。弧を描いた口元は笑みには見えなかった。
「セックスじゃないと君がいうのなら、その通りにしなければないけないな」
臀部を長い指でするりとなぞられ、わしりと掴まれる。
「っ、ぁ、や」
「どうした、セックスでは無いんだろう? それならばとても残酷に、君を犯してあげよう」
直ぐに窄まってしまった穴を無造作に押し広げられ、今にも爆発せんと張り詰めていた太い切っ先を添えられる。これまでの動作とはけた違いなほど性急で荒い手つきだった。
「ぁ……や、大佐」
「今更怖気付いても駄目だ」
ぐいぐいと足を大きな体に割り裂かれる。その時エドワードは、自身の窄まりとマスタングの肉欲の大きさに、かなりの差があることを理解した。こんなものを入れられたら腹の中が壊れてしまう。
「そ、そんなの入らない! 入らなっ」
ぱしり、と口を抑えられた。大きな手のひらに悲鳴が飲み込まれる。マスタングの真っ黒い瞳がエドワードをぎょろりと覗き込んだ。
「従順でいなさいと言っただろう? 安心したまえ、回数を繰り返せばそのうち痛みも快楽に変わる──それを与えてあげられるのは次回からだが」
手のひらが離れていく。覆い被され、顔の両隣はマスタングの太い腕で囲われた。もうどこにも逃げ場がなかった。
めりめり、と悲痛な音を立てながら、エドワードの体が割り裂かれていく。マスタングの凶器は、ためらいもなくエドワードの身体を貫いた。太い先が強引に肉をかき分けてきて、エドワードの肺は一気にして押し潰された。
「……かふっ」
呼吸が喉に張り付いた。まるで、灼熱の杭だった。されたことは至極簡単だ。破裂しそうなほどに固くなったマスタングの男性器が、エドワードの体の中に入れられる。たったそれだけのことなのに、想像すらしていなかったほどの痛みに頭の中が真っ赤に染まってゆく。
背筋から脳天にかけて痺れが走る。マスタングは一切言葉を発しない。無言で腰を進められる。はくはくと、陸に上げられた魚のように口を震わせる。マスタングは体をずらし、痛みと衝撃に体を硬直させたまま動けないでいるエドワードの頭を抱え込むみどんどんと腰を進めてきた。
「ひ、ぁあ──あッ、ぁあッ」
慣らす様に何度も浅く引き抜かれながら、最後の最後、一思いに体重をかけられる。裂ける、とエドワードが小さく叫んだのと、勢いよく太いそれをねじ込まれたのは同時だった。ばちゅん、という衝撃音と共にエドワードの小さな体がシーツに沈んだ。
「────……く、ぁ」
「ああ、狭くてかなり熱い。癖になりそうだな」
マスタングは収まり切ったそれに満足したのか一旦腰を止め、前髪をかき上げながらエドワードを見下してきた。この澄ました顔の男性と今自分が繋がっているだなんて信じられなかった。そしてそれよりも、あの大きな肉欲がエドワードの中に入ってしまったのが信じられなかった。瞼を強く閉じてから開いても目の前の光景は何も変わらなかった。これは夢ではない、現実だ。
「わかるか鋼の、今、私が君の中にいるよ」
頷けない。ただ首を振る。恥も外聞もなかった、ただ苦しい。それでもマスタングはどうでもいいようだった。
「堪え性がなくてすまないね、さっさと出してしまいたから動くぞ」
「、ッ……ぁあ、ぁ!」
言いながら内壁の具合を確かめるように、ぐるりと腰を回されて腹ごと体が浮かび上がった。目を見開く。これだけの動きでこんなにも辛いなんて。指なんて比べ物にならなかった。
「シー、声が大きい。少し抑えてくれ」
「やァああ、やぁあ、っい、いッ……、」
酷い圧迫感に息がうまくできなくなってきて、一気に瞳の奥が曇ってくる。ふうっと力が抜けていき、意識もなんだかぼんやりしてきた。
「こら、起きなさい。つまらないじゃないか」
腰を強く捕まれ、乱暴に抜き差しを開始される。痛みのせいで視界から霞が吹っ飛んだ。
「あッ……ぁあ、あ、あぁ!」
「ここの浅い部分もとても濡れていてあたたかいな、膣みたいだ」
「だいッ、大佐、痛い、いたっ、ぁッ、あッひぃ」
「奥もいいね。随分弾力がある……鍛えているからか」
「ぁッあっ、ひッぐ、ゥぐ、ひィい、きぁ──」
 機械腕が壊れたようにガタガタと震えている。厚い肩にがむしゃらにしがみつく。縋りたいわけではないのに、縋ることしかできなかった。今のエドワードを苛むのもエドワードを救えるのも、目の前の男しかいないのだ。しかし押しのけようとしても重い体はびくともしない。穿たれるたびに背中に必死に爪を立てても挿入は止まない。それどころかさらに律動が増してくる。男根に狭い窄まりが軋みながら押し広げられ、柔い肉壁の至る所を突かれ、肉癖を吸い出すようにずるっと引き抜かれ、また入れられて、かき回されて、引き抜かれる。延々とその繰り返しだ。逆流するように中を荒らされる。快楽も何もない、ただ痛いだけの時間が過ぎていく。うっすらと膜のはった視界に入り込んできたのは、鮮やかな赤だ。マスタングと繋がっている部分が出血している。
「処女膜が、破られたみたいに見えるな」
「はあ、や、痛い、ひぃ、いたっ、くっ……ぁあああ」
「痛いだろう、強姦だからね……可哀想に」
 エドワードは、マスタングの言う可哀想の意味がようやくわかった。馬鹿だと、彼は言っているのだ。大人しく足を開けばよかったものを、マスタングに逆らうような真似をしたエドワードを、心底蔑んでいるのだ。
「鋼の、苦しいかい」
 こくこくと頷く。頷いただけで吐き気に負けそうになった。少しでも優しくしてほしい、そんな浅ましい気持ちが見え透いていたのだろう。マスタングがエドワードの足首を掴み上げ少しだけ体制を変えてまた腰を振ってきた。今度はもっと奥にまで入るように。
「ぁ──ッ、ァあ──」
「エド、答えなさい、今君を犯しているのは誰だ」
「だいっ、た、ぃっ」
 四方八方に揺れる視界のせいで、目を開けることもままならない。
「私を見ろ」
しかしマスタングはエドワードが目を開けないことに納得してくれない。必死に瞼を押し上げて自分を好き勝手に蹂躙する男を見やる。視界が濡れていることに初めて気が付いた。今自分は、泣いているのか。何があっても絶対に泣かないと心に誓ったはずなのに。機械鎧の手術を受けた時でさえ涙なんて流さなかったのに。どうしてこんなことぐらいで。
「た……い、さ」
「そうだ、私だ。私のことだけを考えろ」
長いストロークが短くなっていく。信じられないほどの奥を探られ続ける苦しさに唇を噛む。もう口の中の鉄の味も濃い。接合部分は飛び散るような赤色にまみれ、何のものかわからないほどの液体で濡れていた。潤滑液とは違う透明なそれは、エドワードのものではない、エドワードの性器は情けなく萎れ縮こまったままだ。ということはマスタングか、彼は今エドワードの中を抉りながら、快感を感じているのか。エドワードはもう、意識を繋ぎとめるだけで精一杯だというのに。
「君は、誰の狗だ?」
「……たい、さ」
「そうだ。いい子にはご褒美をあげよう。ほら口を開いて。舐めてやる」
反射的にぎゅっと引き結んでしまった唇を、視線一つで射なされて恐る恐る開く。マスタングの顔が近づき、強張る唇を舌でつつかれ、歯を使って口を開かされた。緩く穿たれながら、長い舌が口内へねっとりと侵入してきて、両方の頬の内側、舌の裏側、歯の裏側、喉の奥を舐めてくる。執拗な動きだった。エドワードの口の中の血の味がなくなるまで、濃い口づけは続いた。はあ、と熱く呼気を零して離れた彼の唇は、二人分の唾液で濡れていた。
キスが終わり、マスタングがエドワードを見つめながら本格的に腰を穿ち始めた。ずっずっずっと断続的に内壁を捲られ、ぬちゃぬちゃと激しく濡れる音がマスタングの部屋に響き渡る。どんどんと動きが早くなっていく。摩擦で炎がついてしまいそうだった、痛くて熱い。律動に合わせて体の中でマスタングものが徐々に膨らみ始める。勢いに首を振って仰け反る。がっちり押さえつけられた腰は微塵たりとも動かない。マスタングは本気だ、本気でエドワードの体を自分の物にする気なんだ。最後にがんっと体は跳ね上がるほど腰を押し付けられ、強くかき抱かれる。大きな体がぶるり、と震え、マスタングが小さく呻いた。腹の中で彼の肉が弾けたのがわかった。じわじわと腹の奥が冷たくなって、擦り切れた内部がいっそ熱くなった。小刻みに揺すられて、どくどくと注がれる液体の量が増していく。放出されてしまった精液にエドワードは断末魔のような悲鳴を漏らした。それはとてもか細いもので、全てマスタングの厚い胸板に吸い込まれてしまった。
永遠に続くかと思われていた射精は、長い時間をかけてやっと終わった。脱力したマスタングがしだれかかってきて、耳朶に熱い吐息をかけられる。すみずみまで中を潤された。もう繋がっている部分の感覚さえ危ういが、じくじくと膿んでいることだけはわかった。酷使された箇所は凄いことになっているのだろう。
「はあ……思ったよりもよかったよ、鋼の。君は可愛いな」
 手足を動かす気力がなく、だらりとしたままのエドワードに、マスタングはほほ笑んだ。最初と全く変わらぬ、張りつけたような微笑だった。
「……今日から君は私の狗だ、いいね」

*第一章中略→第二章へ

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