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***


二人きりになった途端、空気ががらりと変わった。いつものことだが、未だに慣れない。
「さてと」
ぎしりと椅子を動かされただけでぴくりと反応してしまう。素直なエドワードの反応に、マスタングは愉快そうに手を組んだ。
「やっと二人っきりだ」
「アンタがアルフォンスも同行させろなんて言わなきゃ、最初から二人だった」
 素早く言い返す。いつもなら宿に置いてくる弟をあえて連れて来させたのは他でもなくこの男だ。アルフォンスの目の前で一体何をされるのかと戦々恐々としていたが予想に反してマスタングはアルフォンスに対して何かをする様子はなかった。そう、表立っては。
「君はいつも弟のことばかりだから、気を聞かせてやったんだが」
「何が気を聞かせてやった、だ。はなっからオレに言わせるつもりだったんだろ」
弟にも全容を少しだけちらつかせた上で、アルフォンスを蚊帳の外に追い出そうとするエドワードを作り出し、兄弟の絆をつつく。自から手を下さずにエドワードとアルフォンスを傷つける。なんとも下劣なやり方だ。どうせ、最初からこれが目的だったに違いない。このあとアルフォンスに大佐と何を話したの? なんて聞かれても、答えられるわけがない。
「そんなつもりはない、軍人同士の話を一般人に聞かせるわけにはいかないからね。当然のことだよ」
何が軍人同士の話、だ。一般人だ。そんなこと微塵も思ってなんかいないくせに。こんなものは職権乱用だ。とんとん、と静かに机を叩き始めるのはこの大人のいつもの合図だった。エドワードはこの音を聞くだけでいつも足が竦んでしまう。次に待ち構えている身体に叩きつけられる屈辱と言う名の地獄を知っているからだ。そんな怖ろしい行為を、よりにもよってアルフォンスの前でするなんて。ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてもきっと気は晴れないだろう。
「君は隠し事が下手だな。あれではアルフォンスにバレてしまうじゃないか」
「オレがどれだけ我慢してたと思ってんだ、アンタがアルフォンスの前であんなことしなきゃ」
すいっと、マスタングが手をあげた。黙れ、という見えない威圧に制される。上唇と下唇が、魔法のようにぐっと引っ付いてしまう。
「おしゃべりはここまでだ。時間がないのでね」
きい、とマスタングが鳴らした椅子の音が、やけに大きく響いた。
「服を脱ぎたまえ」
会話の最中に落とされた爆弾は涼やかだった。耳を塞ぎたくなるほどの最低な言葉に、彼が表情を崩すことはない。ただ、人好きのよさそうな微笑みの奥に背筋が凍るようなうすら寒いものが光っている。いつだってそうだ。この男は平然とした顔で、声で、指先で、エドワードを果てない地の底まで突き落とすのだ。
「……アンタ、相変わらず頭、トチ狂ってんな」
唇を必死に割り裂いただけで、体力がどんどんと消耗していく気がする。
「きゃんきゃん吠える狗は好きだよ、躾がいがあって」
「誰が狗だ、ふざけんな」
「いつも狗らしく腰を振っているじゃないか。気持ちよさそうにはしたなく喘いで」
「……てめえッ」
「弟の前では腰を振りたくなかったんだろう? 退出を促す時間を与えた私に感謝してほしいくらいだ。君は短気すぎるな」
かっと頭に血が昇った。自分でも思った以上に弟を利用されたことに腹を立てていたらしい。それこそが相手の思う壺だとわかっていながらも感情を抑えることなんてできなかった。だん、と拳を机の上に叩きつける。上官に対する部下の態度ではないことなど自覚していたが、先にエドワードを「普通の部下」として扱わなくなったのはマスタングの方だ。エドワードにとってこの怒りは、正当な権利だった。
「お前のせいだろうが!」
「君は弟のこととなると、狭量だな」
「アンタがそう仕向けてんだ!」
この屈辱に満ちた怒りが、相手に対する恐れへの裏返しだとは絶対に思いたくなかった。それ故に、力の限りの罵声が飛び散る。叫んでいないと今にも足が崩れてしまいそうな事実からは目を逸らした。そう自分に言い聞かせなければ──空しいだけだ。
ゆったりと足を組み替えた男になおも言い募ろうと前に詰め寄ると、す、と挙がったマスタングの手に制された。喰ってかかろうとしていた勢いを削がれる。
「さて、君は私に何を命令されたのか覚えているか」
たったこれだけの動きに、行動を制限されてしまうなんて。目に見えて怯えることなんてしたくないのに、身体はエドワードの心をどんどん裏切っていく。昔も今も、これからも。
「同じ命令を何度も繰り返すのは得意じゃない、わかるかな」
綺麗に整頓されたデスクに、自分の顔が映っていた。皺のよった眉間、みっともなく歪んでいる唇。どれもこれも弟には見せられない顔だ。エドワードは自分自身を叱咤した。こんなことぐらいで傷つくな。耐えるために強く握りしめた拳すら、傷がつくよと心配するフリをするだけで何もしないこんな男に。
「それとももう一度言われたいのか、服を脱げと」
弧を描く口から発せられた言葉は、冷水のようだった。実際氷のような男だった。焔を自在に操るくせに、マスタングから感じられる体温は冷たく重く痛い。マスタングにとってエドワードをいたぶることは特別なことでもなんでもない。彼にとってのエドワードは、気が向いたら手のひらで転がし遊びつくす玩具に過ぎない。エドワードの苦しさの十分の一でもいいからマスタングに叩きつけてやれれば、この途方もない苦しみは和らいでくれるのだろうか。
「返事は? 鋼の」
足に力を込める。機械鎧の脚がぎしりと嫌な音をたてて軋んだ。すかした表情の裏で考えていることなんてたかがしれている。エドワードに抗う術はない。エドワードの従順、それが彼にとっての交換条件だからだ。ならば、今しなければいけないことは一つしかない。
「……アルが、待ってんだよ」
「ならば早く終わらせよう、君の弟のためにも」
マスタングは手にしていたペンをくるりと指先で転がし、インクボトルにそれを収めた。自分が彼にとって、仕事の片手間の存在であることはわかっている。何度かにわけて苦渋の唾液を飲み込み、コートを脱ぎソファの上に投げ捨てた。エドワードが前に進むために、それなりの覚悟を持って羽織っている赤い象徴を。
「随分と乱暴だな、コートが汚れてしまうだろうに。物はもっと大事に扱いたまえ」
 どの口が。
「御託はいい、すんならさっさと終わらせろ」
勢いをつけて、上着のボタンにも手をかける。震える指先には見て見ぬふりをした。
「オレに『頼み事』があるんだろ? こんなところで足止め喰らってたまるか」
引き剥がすように脱ぎ、コートの上に放る。ズボンも同様だ。じっと注がれる視線に肌がぷつぷつと泡立ってくる。それでも、押さえつけられて無理矢理脱がされるより自分で脱いだほうが百倍もマシだった。あの時のような絶望はもう二度と味わいたくはない。エドワードは膨れ上がるおぞましい過去の記憶を思考の隅から追い出した。忘れろ、今は目の前のことに集中するんだ。歯茎の奥を噛みしめてしまうような寒さも、空調が効いているせいだと言い聞かせる。
「下は?」
「いま、脱ぐ」
獲物に狙いを定めた黒い獣は、とことん容赦がない。慣れた手つきで嵌め直された手袋。あの白いシルエットに包まれた美麗な手が、焔を生み出す無骨な手が、エドワードに安寧をもたらしたことなど一度もない。逃げ出したくなる両足を地面に縫い付け、痛いほどに感じる切れ長の視線の前で、下着に手をかけ、ゆっくりと降ろした。
太ももがひやりと冷える。片足を上げ下着を通し、もう片方の足からも外しソファに放り投げる。投げ損じ床に落ちたが、ソファに置き直す気力はもうなかった。
「……いいね」
じっとりとねめつけるように全裸のエドワードを舐め回してくる視線が気持ち悪い。唯一履いている靴の中が汗で蒸れてきた。一糸まとわぬ姿を他人にじっくりと見つめられるなんてできることなら一生経験したくなかった。何往復かしてから、マスタングの目線がエドワードの下半身のある一点で止まる。
一気に呼吸が苦しくなった。けれども逃げるわけにはいかない。マスタングが少しだけ口を開き、指で唇の周りをゆったりとなぞった。エドワードのそこを、今日はどういたぶるのかを考えているようだった。立っているのがつらくなり、頭から血が下がっていって眩暈がしそうだ。
「おいで、私の傍に」
すっと、伸ばされた手。手袋に描かれている赤い紋様は隷属の印だ。罪を犯したことを忘れるな、狗であることを忘れるなと、常にエドワードを支配するマスタングの冷たい檻。
「可愛がってあげよう」
柔らかな口調のまま、黒い瞳が鈍い光を放ち暗く煌めく。エドワードは眼前に君臨する絶対者──ロイ・マスタングに向かって、重い一歩を踏み出した。

隷属と支配を求められる、忌まわしい等価交換が始まった。




***




エドワードにとっての上官であり後見人、ロイ・マスタングとこのような関係を続けてもう三年目になる。三年という歳月は、長いようで短い。その証拠に、エドワードの右腕は未だ固い金属のままだ。あの日、等価交換という名目で奪われた身体。あの出来事は鮮明にエドワードの脳裏に焼き付いている。押し付けられたシーツの固さも、思い出したくもない身体の痛みも、全て。忘れられたことなど一度もない。
こんな子どもの、しかも男の身体のどこがいいのかエドワードにはさっぱりわからない。つぎはぎだらけの歪な身体に欲情する男の思考回路が理解できない。しかも相手はあのロイ・マスタングである。自他共に認める女好きと噂の、国家錬金術師の資格をもつ国軍大佐。そんな男がなぜ。この三年間ずっと考えていても答えはでなかった。だって聞いても、彼は答えてくれないから。




機械鎧の腕を捕まれ、部屋に引きずりこまれた。一瞬の出来事だった。前触れもなかった。だから反応が遅れた。
「う、わっ」
体が浮き、側にあったベッドに投げ飛ばされた。投げ飛ばされたというのは語弊があるかもしれない、ベッドに叩きつけられたのだ。柔らかなベッドの上とはいえ、予想の範疇を超えた出来事にエドワードはたっぷり三秒呆けてしまった。
「な、……にすんだてめえっ」
驚きの後に、後れて込み上げてきたのは憤怒だ。怒りのまま振り返る。
「アンタっ、いきなり人のことぶん投げるなんてどういう了見──」
全て言い終える前に、口を噤んでしまった。振り向こうとしていた体が中途半端な所で止まる。言葉が喉の奥につまってしまったのは、予想以上に近い場所にマスタングの顔があったからだ。
「鋼の」
覆い被されたままと落とされた声は、とても低かった。ぞっと首の後ろが冷えた。
「私はずるい大人でね」
「……なに」
至近距離にあるのは端整な顔立ちだ。エドワードは彼を押しのけるでもなく、薄く微笑むマスタングを凝視してしまった。
「自分が欲しいと思ったものは、どんな手段を使ってでも手にいれたい人間なんだ」
マスタングは人の上に立つ男だが、含み笑いを崩さぬ人間だった。大人の余裕というやつなのか、その胡散臭い笑みに反抗心を煽られたことは何度もある。
だが、今の笑みはこれまでとは少し違った。その黒い瞳はどこか不思議な色を孕んで鎮座しているような気がした。まるで辺りの光を全て飲み込んでしまったかのような感じだ。それが何であるのかこの時のエドワードにはまるでわからなかった。経験が、なかったからだ。
「……あんた、何、言ってんだ」
呼び出されたマスタングの邸宅は、思いのほか質素だった。東方司令部から少し離れた場所にある小さな一軒家は、おおよそ軍人が住む家とは思えないほど閑静な住宅街にあった。マスタングが税を尽くした豪邸に住んでいるとは到底思えなかったが、まさかこんな庶民じみた普通の家に居を構えていたとは。彼らしいその体に少しの安堵を覚えたのも事実だ。
自分は、まだ国家資格を取得したばかりの幼い子どもだった。都会に出たばかりの右も左もわからぬ子どもを騙すのは大人にとって朝飯前のことであったに違いない。エドワードにとってマスタングは、エドワードが弟と共に進むべき道を提示した大人だった。ことあるごとにからかってくる食えない大人ではあったが、自分にそういった意味での害を与える人物だとは思ってもいなかった。
「わからないかね、私の言っていることが」
「わ、かるわけねえだろ」
無意識のうちに気押されていたことに気が付いて、エドワードは悔しさに歯の奥を噛みしめて唸った。マスタングはさらに頬を緩めた。まただ。また不可思議な色が彼の瞳の奥で光った。日の暮れが近い。窓から差し込むオレンジがかった日の光が男の漆黒の髪を照らす。嫌な予感がした。
「ってかそろそろどけろ、近い、重い」
やっと、押しのけるために左腕を突き出す。が、静かな動作で腕を掴まれ、ぐっと引きよせられた。
「、おい」
何度か押し問答をする。最後に強く引かれて、近かった顔がさらに近くなった。
「本当に? エド」
 軽々しくあだ名で呼ばれたことに動揺した。おかしい、普段であれば二つ銘で呼ばれるのに。慣れていない呼び方もそうだったが、マスタングの体を這いまわしてくるような声に不快感があった。まるで探られているようだ。視線は微塵たりとも動いていないのに。
「……いい加減に」
「うそつきだな」
ねっとりと、耳元に直に吹き込まれるように囁かれた声に、反射的に大きな手を振りほどいた。強い力で掴まれていたというのにそれはいとも簡単に外れた。だが触れられていた箇所は熱をもったように熱かった。
「何が、言いたい」
じんじんと、痛みのような熱が皮膚に浸透し細胞に染みわたってゆく。その感覚が恐ろしかった。小さな警鐘が頭の中に鳴り響く。他人の声に、背筋を駆け上がるような悪寒を感じたのは初めてだった。静かに顔を上げる。黒い瞳と目があった。鈍く光る深い黒。うすら寒いものが、再び背中に走った。
「それを君に聞いているんだ」
なにかがおかしいと、エドワードはようやく悟った。ここにいるのはロイ・マスタングその人であるはずなのに。いつもの彼とはまるで雰囲気が違かった。顔も声も体もいつもと寸分たがわぬ彼であるはずなのに、目線一つで行動が支配されてゆく圧迫感に呼吸が狭まる。見知った男のはずなのに、知らない人間を相手にしているようだ。
「それを聞くために、君をここに呼んだんだよ」
「わけわかんねぇな。そんな話をするために?」
細められた瞳は肯定の証だろう。背筋の悪寒よりも苛立ちが勝った。
「帰る。付き合ってられるか」
本来であれば今日のうちにここを発つ予定だったのだ。それが、大事な話があるからと持ちかけられて不本意にももう一泊することになった。まだまだ旅は始まったばかりでやるべきことは沢山ある。そんな忙しさの中、定期連絡をと命じられて真面目に東方司令部に訪れたのに、男のわけのわからぬ遊びに付き合わされるなんてまっぴらごめんだ。
「悪いけど、大佐の私用に付き合わされる義理はない。欲しいもんがあるなら自分で探してくれ。自分たちのことで手一杯なんだ」
早口でマスタングを押しのけ、ベッドから降りようとする。なんとなくこれ以上彼の傍にいたくはなかった。エドワードの第六感が、今ここにいるのは危険だと言っていた。そしてそれは当たっていた。
「……っ、おい」
両肩を、機械鎧の右肩すらも軋むほどの力で掴まれ再びベッドの上に戻された。体を捩じれば捩じるほど尻が柔らかなベッドに沈んでいき、体重をかけられている事実に焦りが生まれる。
「いい加減に!」
「誰が帰っていいと言った?」
びくり、身体が跳ねた。声を荒げられたわけでもない、むしろ静かな口調なはずだ。それなのに身体が動かなくなった。たった一言だというのに体が重くなっていく。
「まだ、話は終わっていない」
「あ……」
じっとりと背中が汗ばみ始めた。声も出そうにない。ごくりと唾を飲み込む。まるで蛇に睨まれた蛙のような緊張感に、マスタングから視線を逸らすことができなかった。それほどまでに彼の視線は鋭かった。この男はこんなにも、相手を射殺すような目をする男だっただろうか。少しでも動けば牙をむかれ首筋に噛みつかれてしまいそうなほどだった。暗く蠢く瞳に、エドワードの冴えわたった本能が蠢く。ここにいてはいけないと。けれど動くことができない。
暫く固まっていると、視界がぶれた。真っ白な視界、見慣れない乳白色。天上の色だ。ベッドの上に乱暴に押し倒されたと気が付いたのは、男の両手が胸元に這わされ上着の留め具が音をたててはじけ飛んだ時だった。
「ッ──」
持ち前の反射神経を生かし、のし掛かってくる大きな体を蹴り上げようとした。しかし、そんなことは彼にとって想定内のことだったのか、少しも逃れることができない。
「くそ! この……ッ」
何度動かしても同じ有様だった。むしろ抵抗すれば抵抗するほどマスタングの脚にエドワードの両脚は絡みつくように抑え込まれていった。
「い、……ぅッ」
ぎりぎりと機械脚と肉の境目の部分に大人の膝が食い込んでくる。自由な右腕でマスタングの体を叩くがびくともしない。密着したマスタングの身体はとても固かった。軍人にしては細いと思っていたマスタングの身体は思いのほか逞しく筋肉質だった。鍛え上げているとはいえ幼いエドワードとは比べ物にならないほどの体の厚みだ。小さな機械の手では、虚しく男の軍服を叩くだけで精一杯だった。
「降りろ、降りろよ! いって……!」
声を張り上げる。マスタングは無言だ。固い指先が、薄い黒のタンクトップの胸元の隙間に入り込んでくる。何をする気だ、と身構える間もなく、みちち、と下に引っ張られた服は一瞬で決壊した。
「……は」
嘘かと思った。悲鳴すらもでなかった。びー……と引き裂かれ黒い布と化した薄い服と、ぺたりとした薄い自分の腹を交互に見つめる。
「……しー」
服を綺麗に破いた指先が、ゆっくりとマスタングの唇に添えられる。異様な光景にくらりと眩暈がした。マスタングの行動はワガママな幼い子どもを宥めるような仕草だ。服はこんなに簡単に破れるものなのか。そんなわけない。普通はできない。力のある大人が本気でどうにかしようと思わなければ服はこんなに簡単に破けない。エドワードは罵声を浴びせることもできず、自分を押さえつける真っ黒な男を茫然と見上げることしかできなかった。
「静かにしなさい」
「たい、さ」
「コツがね、あるんだよ。繊維の流れにそって」
震えたまま宙をさ迷っていた右腕も、ついにシーツに縫い付けられ完全に動きを封じられた。
「特に子どもの服は簡単だ、こんな風にね」
まるで催眠術にでもかかってしまったみたいに、動けなかった。
「まだ、わからないかい」
さんざん抵抗した身体は熱を帯びているはずなのに、寒くて仕方がなかった。こんな状況であるのにいつもと変わらぬ顔で見下ろしてくる男が信じられなかった。
「私が今から、君に何をしようとしているか」
そして今気がついた。こんなに必死に抵抗しているというのにマスタングは息一つ乱していない。彼の口元は先程と同様に穏やかなままで、息を乱しているのはエドワードだけだ。確かな力の差が、二人の間にはあった。無骨な手が、するすると左手首を這ってくる。なんてことない仕草なのにぞわりとする。浮き出た血管に、今直ぐ爪を立てられてもおかしくない状況だった。
「オレ、を」
 剥き出しの胸元はひんやりと冷たく、無情な事実を教えてくる。続くはずだった言葉が途切れる。口の中が渇く。生唾をゆっくりと飲み込んでも潤った気がしない。心臓が耳元で早鐘を打つ。マスタングが何をしようとしているか、エドワードが彼に何をされるかだなんて、そんなの一つしかない。
「オレを……オレをいたぶったところで、大佐になんのメリットがある」
マスタングのことはエドワードなりに信用していた。まだまともに顔を合わせたことなど数えるくらいしかないが、付かず離れず、それなりの関係を築いていると思っていた。だが彼は軍人だ。こんな足枷にしかならないような子どもを保護下に置くということ自体が本来ならばありえないことなのだ。もしかしたら最初から、道を提示するフリをしてその実エドワードを力で支配し、駒として利用しようとしていたのかもしれない。
「軍の、命令かよ」
それならば、エドワードに抵抗する余地はない。エドワードは正規の軍人ではないとはいえ、軍属の人間であり国家錬金術師だ。軍の命令は絶対だ。上のために錬金術師としての力を使えと言われても逆らえない。しかし、ここで上層部の完璧な配下に下ることを強制され旅が自由に出来なくなれば、何よりも大切なアルフォンスが路頭に迷うことになる。
二人で歩いて行くと決めたのだ。元の体に戻るためには、ある程度の自由は必須だ。
「答えろよ、上の命令か」
 マスタングが片眉をあげ上げた。小馬鹿にするような表情だ。上の命令で仕方なくしているのかという言外に込めた希望的観測は一蹴された。となれば。
「……オレに何をさせようってんだ」
 認めたくはないが、マスタングの黒い瞳を通して見える自身の金色の瞳には、怯えの気配が色濃く映っていた。こんな風に、大人の力にねじ伏せられたことなんてない。それでも引くわけにはいかなかった。竦みそうになる弱い精神を叱咤し、力を込めてマスタングを睨みつける。
「オレは、アンタの駒になるつもりはない。アンタに何をされようとも、これからも旅を続ける」
「……君」
「拷問でも、するならしろよ。オレは絶対に屈しない」
 マスタングは、ゆっくりと瞳を瞬かせた。てっきり殴られ従わさせられるのかと思っていたのだが、まじまじとエドワードを見降ろしてくる瞳にそんな気配は微塵も感じられなかった。それどころか、弧を描いていた唇がだんだんと震え出し始める。
彼の唇の隙間から、間抜けな空気が漏れた。空気を震わす低い声はとても楽しそうだった。これにはエドワードもぽかんとしてしまった。決して大きな声で笑っているわけではないが、まさか笑われるとは思っていなかったのだ。
「何が……おかしいんだ」
「拷問と来たか、そうか。それは予想外だ」
とうとう肩まで震わせ始めた男に、エドワードの身構えていた力が徐々に抜けていく。なぜ、笑うのか。今のエドワードの発言に面白みを感じるような所はなかったはずだ。
「私の家で拷問だって? 君を、この寝室で? それなら用意されている軍施施設に君を連れていくさ。あそこは器具もそろっている」
 用意されている軍事施設。さらりとした発言に含まれた軍の暗部に息が詰まった。何も言えなくなったエドワードの頬に、マスタングの指先が伸びてきた。
「殴ったり蹴ったりなんてことはしない、もちろん焼いたりも。まあ、君にとっては拷問と変わりないだろうな、今から私にされることは」
 拷問ではないのに、拷問でもある。それは一体なんだ。一体何をされるのか。のらりくらりと揺れ動く発言の意図が、掴めない。
「そういえば、君はまだ十二歳だったかな。無垢で、真っすぐで、純粋で」
 マスタングの顔が近づいてくる。
「これから何をされるかもわからない、無知な子ども」
頬に熱い吐息がかかる。マスタングの黒い瞳が、じっとりとエドワードをねめつける。頬をなぞっていた指先が唇へと移り、するり、と形をなぞられそのまま顎にかかった。ぐいっと上を向かされる。
「いいね……今初めて君を可愛いと思ったよ」
興奮する、と耳を掠めた掠れた声に、エドワードは慄いた。耳の中に侵入してきた厚い肉は、湿り気を帯びてぬめっていた。馴染みのあるその感覚は見なくてもわかる。舌だ。
「──ひっ、……!」
がっちりと顎を押さえつけられる。ぬらぬらとした舌の感触がダイレクトに脳内に響いて身体全体に痺れが走る。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
「やめ、ろ……! このッ」
耳の中を舐める細かな動きのおぞましさに大きな体の下で体をくねらせ暴れる。ふいにのしかかっていた男が離れたが、一瞬の安堵は長く続かなかった。視界からはみ出るぐらい近くにマスタングの顔があると思ったら、唇に噛みつかれた。
「ん、んぅ……!? くぅっ」
味見をするかのようにべろりと下唇を舐められ、少し離れては角度を変えてまた重ねられる。同性の男にキスをされている。エドワードにとっては衝撃的だった。歯茎を舐めてくる厚い舌も、無理矢理歯列をこじ開けてこようとする舌も。顎の下を押さえつけられ苦しさに呻くが絶対に口は開きたくなかった。マスタングはなかなか口を開けないエドワードに焦れたのか、一度唇を離し鎖骨付近に舌を這わせてきた。
「ぁ、あや、やめ……ッ」
 視線の下で黒髪が蠢いた。それだけでも思考がショートしそうな光景だというのに、マスタングはよりにもよって音が出るくらいに首に吸い付いてきた。耐え切れず腰でシーツの上を這いずり上がろうとする、が、首筋に鋭い痛みが走りエドワードはあっという間に元いた位置に引きずり戻されていた。
「っ……!」
 噛みつかれた首筋が悲鳴を上げ続ける。力は微塵たりとも緩まない。
「ぃって、い、うぅ……!」
 食いちぎられてしまう、本気でそう思った。足をバタつかせるもビクともしない。ぎりぎりと喉が今にも潰されそうな音をたてて軋み純粋な恐怖が沸き上がってくる。このままでは首が血だらけになる。拷問ではないが、拷問だとマスタングは言った。確かにその通りだった。
「っざ、けん、な、やめろ、やめっ」
 掠れた声で叫び続けていると、ふいに首筋を苛む激痛が和らいだ。一瞬の解放感に安堵する。が、捻り握りつぶす勢いで首に手が巻き付いてきた。圧迫感が増す。静かな温度で首が絞めつけられていく。視界が霞む。覗き込んでくる黒い瞳すらも、白く濁っていく。
「……か、ぐ、ぅッ」
「静かにしなさいと言ったのが聞こえなかったのかな」
「……ッ、ァ、」
 首を絞めてくる力がさらに強くなる。ふるふると首を振る。たった片手のどこにこれほどまでの力があるのだろうか。簡単に堰き止められていく気道が信じられなかった。足の指が丸まっていく。開きっぱなしになっている口からだらだらと唾液が零れていく。苦しい、酸素が足りない、息ができない、苦しい。
「ここまできても、まだわからないか?」

 優しい声に錯覚する。助けてくれるのではないかと。しかし浅い呼吸を何度繰り返してもマスタングは力を緩めてはくれなかった。強制的に合わせられた視線の先で、歳の割に若く整った顔立ちが歪にぶれる。薄い唇に、楽しそうに細められた切れ長の目。そして、鋭い光を放つ黒水晶。酸素が薄いせいかせわしなく騒ぐ心臓と相反するように思考だけは冷えていった。断続的に途切れていく意識の途中で、唐突に理解した。マスタングの柔らかな瞳に込められた、強い光の正体に。
「私は、君の体が欲しいんだ」
 そうだ、わかった。わかってしまった。マスタングの瞳に宿った歪な色彩は、獲物を追い回しいたぶりながら、じわじわと傷を負わせ捕食することを愉しむ猛獣の光だった。楽しみつつ、愉しむ。残忍な光そのものだ。
「くっぅ……、ァ……!」
 限界が近かった。唯一動かせる指先でなんとかマスタングの手首を掴み、手の甲をがりりと掻けたことはもはや奇跡に近かった。
「……ああ」
 小さなエドワードの反抗に、マスタングはエドワードの首を絞めていたことを今思い出したようだった。小さく苦笑した男に手を離され、一気に広がった気道に逆流してきた体液と空気が擦り切れるように痛んで、咽た。マスタングはそんなエドワードを見降ろしながらも、やはりほほ笑んでいた。作り物のような笑みだった。
「すまなかった、力を込め過ぎたみたいだな。息はできるか?」
 苦痛を強いたのは彼の方であるというのに、エドワードを心配するそぶりはあまりにも真摯的だった。愕然とする。目の前の男の行動の全てが理解の範疇を超えている。なぜ、と問いたかった。けれどもまともに声が出なかった。呼吸を整えることだけで精一杯だった。
「大丈夫だ、吸って、吐いて、そうその調子。いい子だ」
丁寧に首を撫でてくる動きに合わせて何度も呼吸を繰り返していけば、徐々に喉の痛みが消えていき、息をするのが楽になってきた。合わせたくなんがなかったのに、優しい声は痺れた脳髄に酷く染みた。悔しさに目尻が滲んだ。
「……ああ、痣になってるな、可哀想に」
「か、から、だ……」
「ん?」
「オレの、からだ……ほしいって」
「ああ、そう、身体」
 声が掠れてしまったのは、首を絞められたことだけが理由ではない。
「もっとはっきりと言わなければわからないか」
 マスタングの真意を知るのが、恐ろしかったからだ。
「君と、セックスがしたい」
「セ、……」
 青ざめる、よりも驚愕した。
「セックスの意味は知ってるな」
 明らかな揶揄に、反論できるほどの余裕もない。正常な思考回路は既に霧散していた。今のエドワードにできることは、乾いた唇を舐め湿らせることぐらいだった。ぴりっとした痛みと、僅かな鉄の味が口内に広がっていく。噛みつかれた時に切れたのだろうか、気が付かなかった。
「あ、あん、あんた」
 舌が空回りを繰り返す。彼の言葉の意味がわからぬほど、エドワードは子どもではない。生体錬成を研究してきたおかげで男女の体の構造の違いも、人間の生殖行動についてもある程度は理解もしている。けれども子どもだ。まだ十二年しか生きていない正真正銘の子どもだ。体も未熟で、なによりも男だ。豊満な胸さえない。
マスタングは、女遊びが激しい男という噂をよく耳にしていた。それを裏付けるようにイーストシティに訪れるたびに艶やかな女性と腕を組み歩いている姿も見かけていた。そんな男が、よりにもよってエドワードとセックスがしたいと言ってくるなんて。
 理解ができなかった。性行為とは一般的に男女がするものだ、新たな命を作り出すために。子どもで、男のエドワードとセックスなんてできるわけがない、子どもだって生まれない。おかしい。おかしいとしか言いようがなかった。
「正気か?」
「もちろん」
 笑みの下に隠れている獰猛な本性に身震いする。くすりと笑んだマスタングは、おおよそ正気には見えなかった。少なくともエドワードにとっては。
「思ったより頭が弱いな、鋼のは」
 抑え込まれていた右腕から重さが消える。久方ぶりの解放だった。腕が上がらないのは恐怖のためだろうか、いや、理解できない現状に茫然としているのだ。
「その天才的な頭脳は飾りかね。もっと有効に使いたまえ。私の言葉一つで君の立場がどうなるのか考えずともわかることだろうに」
 くいっと顎を捕らえられ、上げられる。
「君が抵抗すれば抵抗するほど、君の大事な弟の寿命が縮んでいるということにまだ気が付かないのかい」
 困惑の極みに停止していた脳の思考が、今の一言で一気に稼働した。ばっと顔を上げる。
「……は?」
「もちろん拒んでもいい。嫌ならいくらでも抵抗しろ。しかしその場合は君の弟の命は保障できんな」
 今、彼はなんと言ったのか。アルフォンスの命と、言ったのか。抵抗すればアルフォンスの命を危険にさらすと、そう言ったのか。
「君の弟は人体錬成に失敗した時の産物とはいえ、未来のある身体だ。錬金術という学問の発展に大いに貢献することとなる。少なくとも軍にとってはね。研究所に送られ、あらゆる実験の道具となる。簡単なことだ、何も知らなかった私が、少しだけ上に君の弟の体の妙な部分を報告するだけで、な」
 いたずらっ子のように目を三日月型に細めた男は、妖艶で、様になっていた。ただ台詞の内容は全くもって笑えない。アルフォンスはエドワードの命だ。つまり、アルフォンスの命が奪われるということは、エドワードの命も奪われるということだ。落ちてきたバリトンは、相変わらず冷たく平坦なままで、反して聴覚だけでなく臓腑までもが燃え上がっていくような気がする。もちろん怒りのせいだ。ぼやけていた思考を全て上塗りするほどの圧倒的な熱量が体の奥底から湧きあがり、目の裏にまで広がり熱くなっていく。
「あんた」
「君が大人しく私の言うことを聞くのであれば、アルフォンスも守ってやろう。君の愛しい弟を。私は案外、君も、君の弟も気に入っているんだ」
 どの口が、と叫び出しそうになった。が、声に出す前に身体の力が抜けていった。罵倒する気力すらなくなっていく。マスタングの台詞を聞くたびに、目の前が真っ赤に染まるほどの怒りを感じていたはずなのに。
「さて、どうする? 好きなほうを選びなさい。弟の身体か、それとも自分の体か」
 脳内に埋め尽くされているマスタングに対するありったけの罵詈雑言が流れていく、声にはなってくれない。自分のものとは思えないほどの覇気の無い吐息ばかりが続く。
 シーツを握る手に力を込める。自分の思う通りに口を動かすために。
「本気、か。マスタング大佐」
「もちろん」
 にっこりと、マスタングがほほ笑んだ。じんじんと痺れる首も、噛みつかれて痛む唇も、剥き出しの胸元も、全てはここにいきつくまでの死石だったなんて。身体が震え始める。信じたくはなかった。信頼はしていなかった。信頼するまでにはまだ日も浅い。けれど信用はしていた。自分を裏切るような、支配しようとする大人とマスタングは違うのだと思っていた。けれどもそれはとんだ検討違いだった。
『君が抵抗すれば抵抗するほど、君の大事な弟の寿命が──』
 どうするか、だなんてよく言えたものだ。こんなのは提案などではない、明らかな脅迫だ。
「なんだ、もう抵抗しないのか」
 多少残念そうな声色のまま、するりと手の甲で頬を撫ぜられる。泥のように深い闇に、恐怖も怒りも憎悪も屈辱もなにもかもが飲み込まれていく。ドロドロとしたどす黒い、マスタングに対する負の感情が、精神の根底に根を張り広がっていく。殴る気力さえなかった。
「君のプライドはそんなものか。もう少し気概があると思ったんだが、つまらないなぁ」
 つまらない、と称された。残酷な台詞だ。しかしその表情は慈しむように穏やかだ。これまでの彼の暴挙は嘘だったのではないかと錯覚してしまいそうになる。嘘であれば、どんなによかったか。
「まあいい、私が遊び終えるまでそのまま人形にでもなっていなさい」
 噛みついた獲物は逃がさないと、服従を強いる強者の眼に捕らえられる。本気だ。この男は本気なんだ。本気で、エドワードの身体で遊ぶ気だ。ぼんやりと視線を彷徨わせた。白い天井が目に入る。見慣れない天井、マスタングの家だ。ここは彼のテリトリーだ、逃げ出す術なんてきっと、最初からなかった。
「ゔ……」
 反応のないエドワードに飽きたらしいマスタングは、強張る足をぐっと開かせてきた。カチャカチャとベルトが外されていく音に目を瞑る。見たくない。
「……ッ、……!」
 嫌だ嫌だと叫ぶ思考を維持で叩き潰し、シーツを強く掴むことでズボンの隙間に侵入してきた手をやり過ごす。抵抗すれば、マスタングは今直ぐにでもアルフォンスを上層部に売りつける。
 むき出しの胸先に息を吹きかけられ、躊躇なく吸い付かれた。びりびりと薄い神経を刺激されるような未知の感覚に、腰が浮く。やんわりと腰を撫でられ、再び元の位置に戻される。口内に溜まった味のない唾を飲み込み続け耐える。小さな胸の頂きを噛まれ、ねっとりと舐められ、音を立ててしゃぶられるおぞましい感覚に頭を振る。耐えたい、のに。
「……、ァっあ」
「いい声だ」
「、なにが、望み、だ……」
「望み?」
 エドワードの平たい胸先を摘まみあげ、左右に擦りながら遊んでいたマスタングが顔をあげた。予想外の質問だと、彼が考える素振りを見せた。本当に、不思議がっている顔だ。
「望みか、考えたことがなかったな」
「、ん、ひ」
 摘ままれたことでぴんっ、と尖った胸先を、爪ではじかれる。ぷるんと震えた感触が面白かったのか、手持無沙汰に何度も同じことをされる。
「ぁッ、……う」
「そうだな、暇だと思っていた時に君が現れて」
 こんなことも、彼にとっては戯れの遊びに過ぎないなのだろう。まるで本物の玩具になった気分だった。きっと、彼にとってエドワードはただの玩具にしか過ぎないのだろう。それどころか突つけば反応を返す蟲のようなものなのかもしれない。
「よさそうだなと思ったんだ。子供を抱いたこともなかったのでね」
 物心がついた頃の本当に幼い頃、弟と一緒に蟻の巣に砂をかけて遊んでいた記憶が蘇る。何とも思っていなかった、ただ穴が空いていたから砂を入れてみたくなっただけで。そんな子ども心故の残酷さを、今からエドワードは身をもって体験させられていた。
「それに、機械鎧の着いた身体にはとても興味がある。むき出しの神経を直接愛撫されれば人間の体はどうなるのか、この醜い接合部もちゃんと快楽を感じるようになるのか、とかね。あとはそうだな……まあ、色々試してみたいことだらけだよ」
 淡々と囁かれるマスタングの残忍な欲求に身震いする。絶望が、音を立てて忍び寄ってくる。

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