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ぽとりと、頬に落ちてきたそれに苦笑する。驚きよりも笑みが勝った。
「なに、泣いてんだよ」
快感なんて微塵も感じない。痛みも苦しさもまだ引かない。
それなのにどうしてか体中が弛緩した。打ち震えるような歓喜ともまた違う、ただ泉のように湧きあがる、愛おしさによって。
「たいさ」
見上げたそこには、月明かりにも負けぬ黒。好きな色。
断続的に落ちてくる泉の欠片を、掬うように手を伸ばす。
正直言うと指先を動かすのも億劫だ。だからこそ、いつもとは違う濡れたその頬に、触れてみたかった。
「こども、みたい」
大人の身体、熱い素肌に冷えた雫。そのアンバランスさがじんと切なくて、ついに痛みなど、どうでもよくなってしまった。
「鋼の」
未だ慣れぬ圧迫感に一息つく。
なに、と返す変わりに火照った頬を両手で包みこめば、また雫が増えた。
銀に輝く腕に透明な筋が流れ込む。その感触を、いつか感じられたら。
「ありがとう」
乱れる呼吸に胡坐をかいて、だらけた笑みを零す。
なんだか泣きそうだった。
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