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「今日は少し趣向を変えてみようか」
長い長い口づけの合間にそう提案してみると、金色の瞳は明らかに淀んだ。
睨み付けてくるような瞳に、昏い力が宿る。

――ああ、ぞくぞくする。
「いつもとは少し違うことをしてみよう。君も、こんなのは飽きてきただろう」
こんなの、という言葉に、綺麗な眉毛がきゅっと引き締められた。
少年の、唇についた唾液をなぞってやる。散々求めてしまったせいかその唇は妙にはれぼったい。
少年はそんな私の手を振り払うことはしなかった。振り払えなかったのだ。そんなことをしてしまえばどうなるのかわかっているからだ。ただ、その代わりに鋭い視線をこちらに向ける。鮮やかな金色の瞳の奥に満ちているのは嫌悪。飽きてはいないと、言っているわけではないことは明白だ。飽きるも何も、この少年はこんな行為を歓迎していないのだから。
「そろそろ次のステップに移ろうか」
悠然と笑んでみると、反抗心丸出しの煌めく瞳に、僅かな怯えと、困惑が生まれる。
これから何をされるのかがわかっていないのだろう。天才と名だたるかの錬金術の申し子は、まだこんなにも、純粋で幼い。押さえつけてもいない嗜虐心が、むくりと鎌首をもたげ始める。
「何、する気だよ」
「座りなさい」
有無を言わさず、いつものように静かに命令を下す。弟の命と資格剥奪の弱味を握られている少年は、私に逆らえる立場ではない。
せめてもの抵抗とばかりに唇を噛みしめ睨み付けてくるその姿も、ただただ子猫が可愛らしい威嚇をしているようにしか見えない。そんな子猫に欲情する私も、大概駄目な大人だが。
「座るって、どこに」
「ここにだよ、床に座るんだ」
床、という単語にますます不安げに揺れる瞳に、込み上げてくるのは愉悦だ。
こんな命令をしたのは始めてだった。いつもは無理矢理に口を開かせ、濃厚なキスを植え付けるだけで終わっていた定期報告が、今まさに形を変えようとしている。どす暗い屈辱と身を切り裂くような憎悪をその小さな体一身に溜め込みながら、必死に平静を保ちつづけようとする子供に飽いてなどいない。
ただ、その先が見たくなったのだ。金色の奥底に隠されている純粋な恐怖をあぶりだしてやりたい。その瞬間は、きっと何物にも代えがたい程に甘美なものになるだろう。
その最高の瞬間を想像するだけで、どうしようもなく興奮してしまう私は、やはり駄目な大人なのだろう。
「はやくしなさい」
静かな声を落としてやれば、ちっと舌打ちが聞こえてきた。しかしそれも、少年の虚勢だということはわかっている。カタ、と、小刻みな音を軋ませる彼の機械鎧がその証だ。
「……さっさと、終わらせろよ」
凄まれたって怖くなどない。むしろこちらの欲を煽るだけだということに、この少年は気が付いているのだろうか。己の意思に反して体を貪られる屈辱に耐えるその様子が、ひどくいじらしく、愛しい。
「それは、君次第だよ」
大人の欲望なぞ、ついぞ理解していない金色の子猫は、眉をひそめいつもと同じように平静を装いながら座り込む。椅子に座っている私の足の間に膝をついた少年に、口が歪む。
―――ああ、その瞳の色をはやく一色に染めてやりたい。憎しみも反抗心も虚脱感も越えた、私だけの真っ黒な色に。
「いい子だね。立派な狗だ」
猫、とは言わず、狗と笑ってやる。彼が嫌いな言葉だ。
ぎ、と彼が歯軋りをする前に、慣れた手つきでズボンのジッパーをおろす。途端にぎょっと目を剥いた少年に、これ以上ないほどの笑みを浮かべてやる。
よく幼い子供が好きな子をいじめる、という構図はよく聞くが、まさか自分がそれに当てはまるようになるとは思っていなかった。昔の自分が今の自分を見れば、さぞ驚いたことだろう。こんなにも、誰か一人に執着することになるなんて。過去の自分は、そんな今の自分を指差しながら、きっと一言こういっていただろう。―――狂っていると。
「な、に……」
予想の範疇を超えた光景に、エドワードは呆然と私を見上げた。年相応の幼い顔だ。
そんな可愛らしい表情に薄い笑いを浮かべながら、下着の中から首をもたげていたそれを取り出す。
目の前に現れた大きな大人のそれに、エドワードの喉から引き攣ったような声が漏れる。
「鋼の、君は自慰をしたことはあるかい?」
私の言葉に、エドワードの顔色がさっと変わった。美しい金色の瞳が、まるで恐ろしい化け物をみたかのように見開かれる。
これから何をされるか、いや私が何をするのかがわかったのだろう。
私のそれを凝視しながら言葉を失う様が、少年の幼さと、今の心境を表している。
「アン、タ……」
いつもは大人にもひけをとらないほど回転の早い頭脳が、今はうまく機能していないらしい。息が混ざり始めた声色は、心なしか上ずっている。それもそうだろう。まだこの子は12歳なのだ。加えて弟のあの体。生理現象を受け止めきれる環境ではない。
反応から見るにおそらく精通もまだだろう。そんな子供を今から汚す征服感に、もたげていたた自身がぴくりと動いた。
「一切動くな、目をそらすな。これが命令だ」
ことさら低い声を落としてやると、エドワードの顔が面白いほどにひきつった。小さな頭の後ろに手を添え、そっと引き寄せてやる。息を飲んだ彼の頬に先端部をわずかに押し当ててやると、エドワードの産毛が総毛だった。やわらかで温かなその感覚が下肢から背骨に響いて、ふ、と熱い溜息が零れた。
「今から私がすることを、ちゃんと見ていなさい」
固まるエドワードを放置して、何時もしているようにそれを右手で掴む。緩い扱きを数回繰り返し、先端に親指と人差し指を添え力を加えてみると、ぱくりと開く先の口。見せつけるようにエドワードの眼前に持っていってやると、エドワードが顔を歪ませ、目を背けた。
先程、一切動くな、目をそらすなと命令したのにも関わらず、だ。
―――これは、いただけない。
「鋼の、命令を忘れたのか」
エドワードは私のものだ。私が見つけた、私だけの金色の子猫。時にライオンのように牙を剥く様も面白くはあるが、それは時と場合による。
度が過ぎれば躾けてやらねばなるまい。それは主人として当然のことだろう。
「君は、また私を怒らせたいのかね」
以前「怒られた」時の記憶がフラッシュバックしたのか、エドワードはぎゅっと唇を引き結んだ。そして、気持ちを整えるように何度か息を吐き出し、ゆらゆらと伏せられていた瞼を上げる。重い視線が、ひどく緩慢な様子で戻って来たのを確認して、うっそりとほほ笑んだ。
あの時付けてやった腹部と頬の青紫色の痣は、いまではすっかり綺麗な肌色だ。それでも忘れられない心の傷となっている様子が微笑ましく、その哀れな姿が劣情を誘ってくる。彼に暴力を奮ったのはまだ一度だけ。初めての定期報告の時だ。自分の立場が分かっていないのか、口汚い言葉を放ちながら抵抗してくる少年の頬を打ち据え、地面に倒れ伏した彼の腹部を蹴りあげた記憶が、甘美な熱を伴ってよみがえってくる。涎で床を汚し、痛みと驚愕で呆然と私を見上げた表情。あの時のエドワードは可愛かった。もちろん今もだが。
やはり、子供は暴力で服従させるに限る。痛みは恐怖を植え付けるものにもっとも最適な行為だ。身も狂うほどの快楽はその次。まだ当分先だ。そうでなければ、きっと逃げられてしまう。この金の毛並みを逆立てた子猫は、特に。
「いい子だ」
金色の髪をなぜ、少し前屈みになり、エドワードの目の前で本格的に指を使い始める。
直接的な快感に、瞬時に身体は火照った。
輪にした指先で、根本から先端まで擦るように擦りあげると、緩く鎌首をもたげていたそれは徐々に熱を帯び、高度を上げた。
信じられないという顔で見つめてくるエドワードに煽られ、先がわずかに湿り気をおび始める。
濡れた水音と自分の息遣いが、狭い室内に響き渡る。その淫猥な音に煽られ、徐々に硬度も増してゆく。時折詰まったように吐かれるエドワードの熱い吐息が湿ったそれにあたり、さらなる快楽に身体がしびれた。もういいかと、糸をひく先走りを先端部分に塗り込めるように擦り付け、あっという間に完全に反り返ったそれを目を見開くエドワードの目の前で、ずるりと剥いた。
皮一枚に隔てていた内部を見せつけてやると、どくどくと血管が浮き出、赤黒く脈打つそれに、エドワードは耐えられないというように再びぎゅうと目を瞑った。しかし、一瞬の躊躇のあとまた瞼が上げられる。
先程の脅しがよく聞いているらしい。もっとも、このままエドワードが目を瞑っていたら、単なる脅しではすまなかっただろうが。
「よく見なさい、これが大人のものだよ」
よく見えるように、ずり、と腰を少しつきだす。わざと音を出しながら、根元からゆっくり指先で形を確かめてやれば、エドワードがごくりと喉をならした。
「大きいだろう」
君と違って、と優しく問うてやる。小さいという単語はエドワードにとって禁句のはずだが、しかしエドワードは答えない。言葉が見つからないようだ。まあいい。別に答えを期待していたわけではない。特段気にすることなく、更に近くなった距離で行為を再開する。
「……っ、は」
見られているということが、こんなにも興奮するものだとは。
まるで自慰を覚えたての少年のように止まらない自分の手の動きに、苦笑する。
いつかは、目の前の少年にも、私の目の前で自慰をさせてやりたい。大きく足を広げながら狂ったように幼い性器を扱き上げる姿を瞼の裏に想像して、腰が揺れた。ぎしりと、椅子が軋む。
「、……ふ、」
時には緩急をつけながら、先から染み出る透明な粘液をゆっくりと全体にまぶしてゆく。窓から差し込む日の光にて照らされて濡れ光るそれは、自身から見ても淫猥に映った。今までの女性なら鬼気迫る勢いでしゃぶりついて来たものだが、エドワードはまるで汚泥に包まれた化け物を見ているような目で私のそれを凝視している。よくみると、その唇は小刻みに震えてた。
―――ああ、たまらない。
わざと音をたてて、先端のくぼみに指の腹を捏ねるように押し付けてやる。一人のときは元より、始めて女の中に入れた時よりも遥かに気持ちがいい。唇を噛み締めてもやまない荒い息。理性が溶かされてしまいそうだった。獣のように盛れる呼気。
「はがね、の……っ」
湿った唇で二つ銘を呼ぶ。その震える小さな口にねじ込んでしまえばどんなに気持ちがいいことだろう。温かくぬめる舌に包まれる感覚を想像して身震いする。しかし今はその時ではない、少しづつエドワードの退路をたっていくことに意味があるのだ。痛みと屈辱で服従させ、快楽で意識を繋ぎ止め、完璧な私の所有物とするまで。
恍惚とした私の喘ぎ声に、エドワードが僅かに目線を上げた。嫌悪と羞恥とがない混ぜになっている表情。深い眉間の皺。揺れる瞳は、相変わらず怯えの色をまぶしながら私の痴態を追っている。
低く呻き、足をさらに開きエドワードの顔にそそり起つそれを近づける。途端に、醜く歪む顔。ぐっとこらえながら目を逸らさない彼の強靭な精神力でもってしても、ねじ伏せられていた恐怖が透けてみえる。
そうだ、この顔が見たかったんだ。安っぽい憎悪や、虚脱感や、抵抗などはいらない。ただ私だけをみて、私だけを感じて、私だけを思って恐怖に戦く彼がほしい。どうすることもできない恐怖に慄く、素のままの彼の姿だ。
心地よい快楽の渦に飲み込まれ、指の動きの速さが増す。水音が跳ねる。裏筋を根本から搾り取るように数回力を入れて扱くと、先の割れ目から弾かれたように少量の水滴が飛び出した。
「う゛っ……」
目元にわずかにかかったそれに、衝撃のあまりエドワードが身を竦ませた。空いていた左手で髪を掴んで傍に引き寄せてやると、エドワードは歪んだ口を隠そうともせずに小さく首をふった。
「いや、だ」
思わずといって零れた否定の言葉。別に拒否の言葉を口にするなとは命令していないので、手は上げない。私が命じたことは、動くな、目を逸らすな、この二つだけだ。それがこの子にとってどれほど難しいことであるのかは重々承知している。だからこそ命じたのだから。
「い、いやだ」
「ダメだ、まだ、終わっていないよ」
優しく微笑みながら、冷や汗の浮いた額をなぜてやる。ひくりと動いた身体は、小刻みに震えている。
「君だって、もう殴られるのは嫌だろう?」
エドワードの絹のような髪を、そして粘つく自身を掴んでいた指先をそっと外す。
何もしていないのにどくどくと生き物のように蠢き小さく跳ねるそれを、眼前でしっかり堪能させてやる。エドワードは恐怖に顔をひきつらせながらも、目をそらすことも叶わずに、私のものに釘付けだ。暗い悦楽が背中を駆け巡り、大きなそれはさらに質量をます。急激に成長したそれに、エドワードは声にならない息を吐き出した。
むわっと漂う青臭い雄の臭い。エドワードは耐えられないというように鼻をひくつかせている。今にも泣き出しそうに鋭く切迫している表情だが、涙は零れていない。噛みしめすぎた唇が赤く腫れ上がっていて、その悪魔的な赤さに欲情する。
「大きいだろう」
優しく先程と同じ質問をしてやる。形を確かめてやるように、ピン、と天井を向き存在を主張するそれをゆったりとなぞる。くち、と鳴る厭らしい音に、もう耐えられないというようにエドワードが床についた拳を握りしめた。ぎしりと機械鎧が軋む。
「答えなさい」
大人にとっては正常な、子供にとっては異常な光景に、どうやら普段エドワードが自分自身に課している屈強な平常心も、とっくの昔に崩れ去ってしまったようだ。
「きもち、わりい……」
唇を震わせ、ゆるく首を振る。子供のような稚拙な感想。きもちわるいなど、可愛いことを言ってくれる。それは答えてやらなくてはと、座ったままで、円をかくように腰を動かす。まだだ、まだ足りない。更なる悦楽を得るために、下からすくうように、手のひらで自身を包みこみ先端を弄る。
「は、っ……ぅ..….く」
爪で、先の口を抉る。びくびくと脈打つそれ。エドワードが見ている。私の痴態を。動くこともできずに、強制的に私のものを視界に入れている。彼の視覚と聴覚、さらには嗅覚までもを支配しているという悦びに沸き上がる征服感。その能天まで痺れるような感覚に、散々弄くった先端からねばつく粘液がさらに溢れだした。ぱたぱたと床に塗れる。それはエドワードの手袋に染み込んだ。終わりが近い。ぬるりと滑るそれを再び持ち直し、ふと思いついたようにエドワードの唇まで持っていった。
怖気づくエドワードに口角を上げ、固く閉ざされた赤色の唇に、先端部分から溢れるそれをじわりと塗りつけた。
「……っ―――!」
一気に、血の気の引いた顔。ぎしりとなる機械鎧。拳を握りしめ、動くまいと必死になる様子がいじらしい。閉ざされた真ん中の窪みに先端部分を浅く飲み込ませ、扱きながら回すようにそれを塗りつけてやると、時より当たる歯の固さに、熱を帯びたため息が漏れる。
「……、ぅ、う」
ぶるぶると、誘うように赤く淫猥に色づく唇に、エドワードの唸り声までもが緩い 慶びとなる。艶やかに濡れた唇に満足して、ゆっくりと自身を唇から離してやる。透明な糸がエドワードの唇から伸び、ぷつりと切れた。顎についたそれに気味悪そうに身を竦ませる彼の姿を見つめ、快楽に浸る。
「舐めなさい、鋼の」
信じられないとでもいうように見開かれた瞳。
――ああ、最高だ。
「大人の味だ。自分の唇を舐めてみなさい」
かたかたとなる音は、機械鎧の音ではない。エドワードの歯だ。
震えるばかりでなかなか舌を出そうとしないそれに痺れを切らして、ゆっくりと手を上げてみると、途端に少年は、唾液を飲み込み、急いで舌で唇をなぞった。以前は拳を振り被るまで微動だにしなかったのに、大した進歩だ。しかしちろりと出た赤い舌は、直ぐに引っ込む。
「ちゃんと舐めなさい。二度は言わない」
振り上げた手のひらはそのままに命令すると、観念したように眉を顰め瞳を潤ませた少年は、一度だけ強く目を瞑った後、舌で自身の唇を舐めとった。
「ん、んっ…」
顔を真っ赤にしながら、必死に自身の唇を舐めしゃぶる姿。いつもストイックで不敵な笑みを浮かべながら、黒い服に身を包んでいる少年とのギャップに、身体の奥底が熱く蠢く。この子のこんなあられもない姿を知っているのは私だけだろう。私だけでいい。私だけでなければいけない。
「それが私の味だ。覚えなさい」
今度はここでしてもらうことになるんだから、とエドワードのぬたついた小さい唇を指先で撫で上げると、少年は僅かに口を開けたまま固まった。次の定期報告は、一か月とたたないうちに召集しよう。そう心に決めて、エドワードの頭をぐっと抱え直し近づけてから、最後を決めるために素早く手を動かす。
「は、は……く、ぅ、ッ」
狭い室内に響きわたる、次第に大きくなる粘着質な音。腰が揺れる。ギシギシと軋む椅子の音がまるで情事のベッドのようで、口内に唾液が溜まった。
「は、……、っ」
たまらずエドワードの頭を鷲頭掴み、足の間に膝だちの子供を挟みこむ。何をされるのかとびくつくエドワードの顔に、自信を塗りたくる。
「は、、……最高、だな……」
そり起ったそれを、エドワードの頬や鼻筋に、塗り込ませるように擦り付ける。ぞ、っとエドワードが肌を粟立たせたのが感触でわかった。しかし止める気はない。
慣れない感触に背筋を震わせ、大きく顔を背けたエドワードの髪を思い切りひっぱってやる。
「あぅ……」
「二度言わせるな」
私を見ろ、と低く囁くと、天敵の前で身を震わす小鹿のように、動かなくなった。
「……く、」
柔らかな感触に腰が止まらない。頬、額、鼻すじ、口元、全てを余すことなく擦り上げてやる。エドワードの顔にねばつく粘液が糸のように線を引く。散る水滴。白濁とした液がエドワードの肌色にこびりつく。目に液体が入らないように必死に目を細めるエドワードの顔は、まさに至高だった。
「鋼、の、口を開きたまえ」
歓びに掠れる声で、最後の命令を下す。エドワードの目がゆっくりと見開かれる。今までにみたことがないほどに蒼白になったエドワードは、動かなかった。いや。動けなかったというべきか。
そんな彼にじれて、髪を掴み大きくのけぞらせると、エドワードが小さく呻いた。
「、ァぐ......ッ」
真っ赤な舌がちらりと覗く。物欲しそうに蠢いている喉の奥。自然と口内に溜まった生唾が、喉の奥に染みついている。なんて 猥らな光景だろうか。
「は、ひくついているな。そんなに欲しいのか……?」
そんなわけあるかと、言う余裕もないらしい。捕まれた髪が痛いのか、みっともなく口を開けたまま、爆発寸前のそれを凝視する様に、ぞくりと背筋が震えた。
突き入れてしまいたくなる衝動をなんとか堪えて、ぽっかりあいた口の前で自身を擦りあげた。
「中に、出すよ、いいね?」
「ァ……」
了解の意思など関係ない。爪先で尿道を刺激しながら、最後とばかりに激しく輪にした指先をスライドさせる。擬似口陰のような光景。視界が霞む。
「くっ……ぅっ」
尿道が焼けるように熱い。視界が霞むほどの、腹の底にたまる快楽。頭が真っ白になる。ダメだ、もうもちそうにない。エドワードの金色の瞳と、目が合う。嫌だ、嫌だと訴えてくるその瞳に急かされるまま、腰と手のひらを動かす。
「ぅっ、―――く!」
数回緩くしごいたあと、手のひらのそれが熱く爆ぜた。勢いよく放出された熱が、エドワードの口内に吸い込まれてゆく。途端に咽て咳込んだエドワードは直ぐに口を閉じてしまったため、どくどくと波打つ心臓と同じように止まらない熱はエドワードの顔や髪に降りかかった。
それでも収まらない熱情に、二、三度大きく指で扱き、エドワードめがけて最後の一滴まで絞りだし、全て出しきる。
「は、……」
じんじんと痺れるような、余韻。放出の後に残るわずかな怠さに、大きく息を吐き呼吸を整える。
そして、ゆっくりと椅子の背もたれに体重を乗せた。
ふと眩しく感じる窓を見ると、外には青空が広がっていた。行為に夢中になっていて忘れていたが、思えば輝く窓から差し込む光はまだ明るい。時計を見ると、時刻は12時30過ぎを回っていた。
素早くチャックを上げ直しながら、げほげほとむせ、地面に突っ伏すエドワードの頭を靴で小突く。
「鋼の、もうすぐで昼休憩が終わる。はやくそのみっともないナリを片してきなさい」
荒い息を吐きながら、ぎ、と睨み付けてくる子猫に、もう一度欲が湧き上がりそうになったが、さすがにもう時間がない。
理性を総動員させて、ゆるりと、甘い笑みを向けてやる。
「私は口を開けていなさいと言ったんだよ。勝手に閉じたのは君じゃないか。私を責めるのは間違っているよ。おかげで私のほうにもかかってしまった。最悪だよ」
「最悪なの、は、アンタだッ......」
ズボンの先に、わずかに跳ねた染み。それは決して目立つものではない。エドワードのおかげか、床にもそれほどかかっていない。
憎悪を絞り出すように怒鳴ったエドワードは、ふらつきながら立ち上がる。その頬に、顔に、髪に白く光ものがこびりついている。そのまま一枚の写真に収めてしまいたいほど、最高の光景だ。

何度も生唾を飲み込み、嘔吐感をこらえている風の少年は、しばらくの間呼吸を整えた。大きく息を吐だしながら、苦しそうに閉ざされた瞼。その顔は私が吐き出したもので汚れているが、涙は零れていなかった。
落ち着いたのか、少年は敬礼もせずに背を向けた。顔を何度も拭いながら、よろめく脚でなんとか部屋から出ていこうとするその背中に向かって、小さく声をかける。
「鋼の、次は一か月後だ」
定期報告を待っているよ、と言った私の声は、盛大に閉められてしまったドアの音にかき消された。

静寂に包まれた執務室で、うっそりと微笑む。

自分の手についた液体を少し舐めとる。それが自分で出したものであっても、これがエドワードの口内を潤したものだと思うと、躊躇はなかった。青臭く、喉に残る嫌な味。

零れる笑みが、止まらない
あの子供は直ぐに、身を清めに行くだろう。弟に見られる前に、幸い、トイレは執務室のすぐそばにある。もしかしたら、吐きだしてしまうかもしれない。それでもよかった。こびりついた憎しみと恐怖は、決して消えることはないのだから。
私の見えないところで私に怯えるあの子を想像して、胸が躍る。
私は、生涯あの子に憎まれ、恐れられる。その天才的な頭脳の記憶の奥底に刻まれることになるのだ。それはなんて、幸福な日々だろう。
「さて」
まだまだ、これは余興。全ては、始まったばかりだ。



「次は、なにをしてあげようか」

今度は一滴残らず飲み込んでもらおうと、降り注ぐ明るい日差しに目を細めた。

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