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「残酷だな」


気だるげながら、切り裂くように吐き捨てられた言葉に彼の想い全てが詰まっていた。

笑んで見せればさらに眉間の轍の数が増した。本当に、感情を素直に表す子だ。


「アンタ、本当に残酷だよ」
「そうだな」


領く。彼の言葉を否定する気はない。少年の言う通り、私は残酷な男なのだろう。

壊れた心をなけなしの希望や何やらで覆い隠し再構築したあの時から、私は残忍な化け物へと生まれ変わった。


「残酷な私はいつか、絞首台にあがるだろうね」
「そこまでは言ってねえだろ」
「そういうことだろう」
「そんなん、わかんねえじゃん」
「わかるさ」


残忍な化け物の行く末なんて決きまっている。
勇敢な民たちは、化け物を退治し、自由と平和を手に入れる。いつの時代もありきたりだ。

「できれば君に見ていてもらいたいね。私の最後の瞬間まで」
「いやだ」
「どうして」


君がいいのに、と笑えば少年は顔を歪ませた。

胸の中に飛び込んできそうでこない少年をそっと抱き寄せる。抵抗はなかった。

恐る恐る背中に回ってきた冷たい腕と、あたたかい腕。

胸に埋められた汗に珍む金色の頭を撫て、顔を埋める。
密着した素肌を通して、確かな鼓動が聞こえてきて心地よかった。足を絡ませ、強く抱きしめる。私の心音がもっと彼に聞こえるように。
とくとく、とくとく。少しだけ早い音に沈み込みながら、その時を想像する。

静まり返る民衆の中、静かに階段を昇っていく自分の姿を。

手と足には縄、首にも縄。落ちる瞬間も落ちた後も、少し離れた民衆の隙間から、私を見つめる二つの金色の瞳。意識が千切れるその瞬間まで。

群衆の中で、彼だけがきっと輝いて見えるはずだ。罪人にしては上出来な最後じゃないか。


「君に、私をあげることはできない」


今日もこの言葉を繰り返す。彼に、私の命をあげることはできない。

だからこそせめて、国のために生き、国に命を捧げた男の最後の瞬間を、君に差し出せたら。


「だからはやく恋人を作りなきい。君が命を預け、預けられ、共に未来を繋いでくれる唯一の女性を」
 

これからも私は、血泥の川を進んでいく。それに彼をつき合わせるつもりはない。

その時が来たら、私は迷うことなく彼を置いていく。振り向きもしない。

だからせめて、赤い焦土が緑に変わるまで。土に根付いた私の命が、彼の両足を支えていけるように。彼の命が、輝く大陽が、次の世代へと繋がっていけるように。

繋がる命たちの、礎となれるように。

 

赤の焦土が、見えなくなるまで。

 


「君は私の希望なんだ」
「勝手だ」
「そうだな、勝手だ」
「ついてにわがまま」
「そうだな。てはわがままついてに、もう一つの願いを聞いて貰おうかな」
「なんだよ、オレもう眠いんだけど」


そして、できることならば。私の命が潰える前に。一度だけでも。


「いつか君の子どもを、抱きしめてみたい」


びくりと、震えた身体を離すことはせず。


「……やっぱりアンタは、残酷だ」


唄うように笑んで見せれば、背に回った指に力がこもった。本当に、感情を素直に表す子だ。
扶るようにたてられた爪に、彼の想いが全て詰まっている。

汗が香る額に唇を寄せ羽のようにそっと口づける。背中に食い込む爪の力が強くなった。腕に抱きとめた少年の背を撫でる。

何度も優しく。小さな体に、一つも傷がつかないように。


「残酷だよ、大佐……」


もしも血泥の川に、この身体を引きずり込むことができたのなら。

壊れるくらいに、この身体を抱き潰すことができたのなら。

──そんなことは、決してしないけれど。

 


「そうだな」

 


この爪痕の痛みを背負って生きていける私はきっと。
誰よりも、幸せなのだろう。

 

 

​緑と成す​
 

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