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その部屋の窓は堅く閉ざされ、分厚い遮光カーテンが確りと明かりを遮り、僅かな其れすら許さぬとばかりに室内を闇が覆い尽くしていた。閉塞に使われているものが家具の機能だけではない証を、床を敷き詰める感触良い高品質な絨毯に惜し気もなく描かれた錬成陣が物語っている。 中央に設置された寝台を中心に描かれた其れは、この室内への如何なる者の侵入を許さず、ねじ曲げられた空間ごと内側に閉じていた。出入り不可能な其の場所への自由が認められるのは、唯一の例外である其れを敷いた人間だけ。そしてその該当者である男は、全てが終わるまで其の空間から出るつもり等毛頭考えてはいないのだった。

「……な、やめろよ、なあ!」

鈍色の腕と脚を外された姿で寝台に投げ出された子供は、孕んだ怯えを隠す事も出来ずに、それでも震えた語尾で抗議を表した。燭台だけの心許ない灯りが、ゆらゆらとその不安に揺れた表情を彩っている。

「やめるもなにも、やめて困るのは君の方だろう?」

普段通りの態度の男はあからさまな怯ええに気付かない様に───寧ろ気付いていてそれすら愉しむ為にか───何も思惑など持ち合わせていないとばかりに振る舞った。その手には大きな洗面器。タオル等他に必要な物を数点用意すると、男は艶やかな低音で足掻く子供の動きを封じるべく、ぎしりと寝台に腰を下ろして銘を呼んだ。

「鋼の」

機械鎧の手足を奪われ、碌に身を支える事も出来ずシーツ上を這いずる姿は憐れみを誘うが、それ以上に男の欲を根本から強く揺さぶった。華奢な肢体に纏うのが己のシャツ一枚だと言う事もそれを更に増幅させている。サイズが大きすぎて襟ぐりからずり落ちて覗き見える肩には、機械鎧を接続する為のビスとプレートが埋め込まれているのが窺えた。厳つい鈍色に反して男を誘う、馨る様な肢体。 暴れて騒ぐ子供の、難なく捕らえた右足を軽く引き寄せると、小さな躯はまともに抗う事も叶わず、男の下に望んで組み敷かれているかの様にしっくりと納まった。

「や、たい……さっ、触るなっ……っ……」

力無く藻掻く抗いが、男にはじゃれつているとしか映らず、遊んで欲しいのかとシャツの下へと手を忍び入れて、胸の突起を探りながらゆっくりと唇を合わせた。

「ん!、っん……、っふ、ぅ……んんっ、、……」

爪先で弾く様に胸飾りを擽ると子供は悶えて躯を捻りどうにか逃げようとする。唇を啄み幾度も触れるだけの口吻けを与えれば、慣れた優しい接触に体奥の火種を掻き立てられたのか、エドワードの抗いが緩くなる。舌を深く絡めて性感を呼び起こす様に唾液を交換する頃には、エドワードの白く小さな手は、男の着ているシャツを縋る様に握り締めていた。随分と以前から肉体関係を結び、快楽へと貶めた躯は与える愛撫に素直な反応を示し、男へと開くように躾けてある。彼の意思を無視して夜毎嬲った甲斐あって、蕩け出すのは至極早かった。 うっとりと伏せられた長い睫を震わせ、男の舌を精一杯含んでいるエドワードの姿は淫猥で、顎脇の粘膜を舌先で擦れば気持ちがいいと鼻を鳴らす。小さく毀れる咽奧からの肯定を匂わす甘い呻きに、男は両手で子供の躯を弄り這い廻した。胸の突起を爪で転がせば堅く尖り自己を主張する。摘まんでやればもっとと躯ごと押し付けて快楽を強請るのは無意識にか。ひくひくと感じ入るエドワードの弱い処等、男はとっくに把握し切っている。それでも愉悦に溺れた顕著な反応が返るまで男は容赦しなかった。触れられた性感に耐え切れずに怯え震えて泣き出すまで、繰り返し小柄な躯に愉悦を与え続けた。

「……っあ、……あ、は……っ……や、……も、さわって……っ?、たいさっ、……なあっ……」

本来なら直截な快楽を得られる筈の器官は一切触れられおらず、肌の悉くで熱を上げられた子供の躯は、その可愛らしい性器に籠る熱をはち切れんばかりに育てていた。触れられて居ない筈の其所は確かに誰かを貫ける程の硬度を保ちつつも、その沈むべき肉襞は此処には存在しない。寧ろ彼自身が貫かれる対象である事に、それを普段から成している男を以てしても気の毒にと思わざるを得ない程憐れであった。滴を毀して揺れる局部への刺激を望む子供の哀願を綺麗に無視して、男は期待する位置よりも遥か上部で辿らせた手のひらを留めた。即ち腹部へ。

「……あ、っ……!……」

男の手が僅かずつ肌を押して内臓を圧迫する。エドワードは我に返ったのか蕩けていた表情を一変させて短い悲鳴を上げ始めた。ぎゅるるる、と腹奥が鳴るのを触れた肌を通して男も感じ取る。

「あ、……あっ、押すな、あっ、!くぁ……っ…あ…」

「……そろそろかな」

腹部を圧迫していた手を、胸から下腹へと撫で上下させる動きに変えて幾度も繰り返す。エドワードの堪えている『其れ』を促す様に。

「や、や!たいさっ、……っやだ!……」

寝台に転がす前に下からたっぷりと注入させた薬剤が、エドワードの生理現象を強制的に催させている筈であった。充分に馴染ませるまでが一苦労かと思っていたが、男との前戯に気を取られて十二分に浸透した其れが、効果を齎し始めている事はエドワードの焦りと再開した抗いに裏打ちされている。

「ああ、早く出したいね。遠慮無く出せばいい、じっくりと見ていてあげるから」

そう安心させる為に語りかけ、エドワードを幼子の様に膝に乗せ、同じ方向を向く形で男は寝台の端に腰を降ろした。床には洗面器を。片腕片脚がないため不安定な子供の痩躯を、腹に回した左腕で支えてやる。右手は堪え切れずに足掻く右足を固定する様に搦め取り、身動きを封じてから尻肉の奥にある窄まりを指先で突く様にやわやわと押してやる。

「あ、!ああっ……やあ、ダメっ……で、ちゃう……」

腹を押されて、窄まりを開く様に弄くられたエドワードは首を左右に振りながら藻掻いた。 「いいから、もう我慢出来ないのだろう?ほら簡単だから。力を緩めて」 自身を含める際の窄まりを解す時と同様に、指を深く浅く沈めては左右に揺らす。 その刺激が覿面だったのか、子供の躯が一気に硬直した。もう一押しかと判断した男は忍ばす指を二本に増やし、奥を突く動きに変えて責めたてた。

「あ!、ああ!、やあああ……」

エドワードの腰が逃れる為にか揺らいでいく。この姿勢では逃げる所か自ら望んで刺激を重ねるだけにしかならないその動きに、腕に囲った躯がびくびくと震えた。救いのない状況に青褪め震える子供の唇を欲した男が顔を寄せると、無理に背後を振り仰ぐ様な姿勢で舌を伸ばされた。どうせ逃れられぬのなら快楽を極めたいのか。望み通り強く吸い上げて、咥内で互いの舌を淫らに絡める。同時に挿入したままの指先で淫靡な音が鳴る程遠慮無く内側を掻き混ぜ、内襞を擦り付ける様に追い詰めてやった。くぐもった悲鳴を咥内に響かせながら、エドワードはとうとう堪えきれずに男の指を含んだままの窄まりから、排泄を垂れ流し始めた。指先を伝う汚濁にも構わずに、男は窄まりが閉じない様に指で押し広げたまま。

「─────────~~っっっ!!」

不規則な水音とぷきゅる、と言う生々しい音を響かせながら、白い洗面器を飛沫で汚し、そして徐々に満たしていった。

乱れた息の許、胸を上下させながらエドワードは羞恥と恥辱に精神的疲労をも抱える事で身動きをする余力もなく、今は唯一の腕である左腕で視界を覆った。

 

何も見たくない。いくらなんでもこんな扱いは酷い。一人で行うと抗ったエドワードの機械鎧を強引に外した人は、痛みに朦朧とするエドワードの服を剥ぎ取ると、普段の情事後の様にエドワードを自身のシャツに着せ替えた。そのまま錬成陣を敷いた寝室へ閉じ込められて、排便を促す薬剤を男は愉しげにエドワードの後孔へと注ぎ込む。施術の最中に気付いたエドワードが拒否を訴え足掻こうとも、痛みに痺れた躯の抵抗等、現役軍人にとってどれ程のものでもなく、いとも容易く身動きを封じられた。冷たい薬剤が下腹内を流れていく感触にぞわりと悪寒が走り、気持ちの悪さに嘔吐感にも襲われる。まぐわう為の器官ではなくとも、男の欲で深くまで貫かれ奥に白濁を注がれる瞬間は、薬剤での其れとは一線を画しており、其の違いが何に拠るものなのかエドワードには全く判らなかった。取らされた事のない体位の所為だろうか。薬剤が奥深くまで行き届く様にと、腰を高く上げられほぼ垂直の角度から窄まりに容器の先端を差し込まれ注入を施された。スポイト状のそれを指腹で圧迫し、薬剤をエドワードの体内に注ぎ入れ、暫く押さえた後には奥まで押し入れる為にと窄まりを指で深く抜き差しを行われた。液を纏い入り込む指の腹が肉襞を捲り、こぷっこぷっと泡立ち粘つく音が聴覚からもエドワードを苛んで。指が与える刺激に脚が意図せずびくびくと跳ね上がり、幾度も繰り返される恥辱の極みの中で、奥のしこりも擦られて愉悦の片鱗に促される様に淫らな喘ぎが毀れていった。

無論無抵抗の筈もないが、腰を男の膝に挟まれて堅く束縛された状態では男の好きにされるがまま、あらぬ処に幾度も、まるで性交の様に指を含まされ続けた。挙げ句が男の視線の中での排泄を強要される等と、どんな辱しめだと唇を強く噛む。どれだけ嫌だと足掻いても聞く耳を持たない男は自身の望んだままに事を運んでいった。

結局全てを男の眼前に晒し、普段自分でも見ない器官から汚物が排出される様までも、きっとまざまざと男の記憶力の良い頭脳に留められているのだろう。今も其れは現実として続いており、汚物で汚れた下肢を、男の手に拠って丁寧にタオルで拭われている最中であった。 男への罵りを吐き出したいが、口を開いたが最後、嗚咽か嬌声が毀れ出そうで、エドワードは未だ下肢に齎されている清めと言い替えた悪戯を、歯を噛み締めて口を手で塞ぎ堪えるしかなかった。意図的な接触を繰り返す腕を蹴り上げたくとも、伸し掛かる男の体躯に拠って、脚を大きく開いて股間を晒すようなあられもない姿のまま固定されている。其の直ぐ近くから男の相貌がエドワードのはしたない箇所を見詰めて居る事を、肌に触れる呼気で察して、エドワードは羞恥に堪え切れず赤面する。

エドワードがこの姿勢を耐え兼ねて居る事等、男は手に取る様に理解しているに違いないのに。濡れタオルで綺麗に清められた臀部が、空気に触れて寒さを覚えた。震えそうな躯を力を込めて堪える。違うと判っていても怯えている様な反応等返したくもない。相手を喜ばすだけにしかならない。これだけ貶められて、それでもまだエドワードには矜持があった。薬剤で齎された行為で辱しめられても、それは自身の意思ではないのだと。

「……離せよ」

息を整えて発した第一声は男へ向けられた拒絶の言葉。男が何故?と返して来るのが腹立だしくて仕方がない。

「もう済んだんだろ?!俺に触るな!」

嫌悪も露に睨み付けても、街のごろつき辺りには効果があれど眼前の男にはなんら作用はなかった。逆に婉然と弧を描く唇を見て、先程の自身が望んだ、舌を絡め合う濃厚な口吻けを思い出して居たたまれなくなった。あれは正面を見ていたら自身の排泄の一部始終を目の当たりにしなければならなくて、それがどうしても嫌で他に意識を向けようとした一種の逃避であったのに。男から与えられた舌での戯れが確かな愉悦を齎して意識が霞んだ事を思い出す。ふい、と視線を逸らす様に俯き顔を背けると、未だ愉しそうな響きを湛えた男の低音が、エドワードの鼓膜をまるで犯すように震わせた。

「君は済んだと言うが、私に言わせればまだ何も終わっていないぞ」

ずい、と急に身を寄せて来た男にぎょっとして退く様に躯を引けば、腰を強く掴まれ引き寄せられた。

「や!、やだ!」

掴まれて、引き摺られ組み敷かれる。 先程の行いとの擬似感は、堪えに堪えていた躯に震えを走らせるには充分過ぎる仕打ちだった。 口吻けて、快楽に酔わせた末の異常極まる行為は、人との交流も未だ浅く、性に未熟なエドワードにとって耐えられる代物ではなかった。人前であんな事は二度と御免だと頭で喚きながら、芯では恐ろしい迄の解放感に魅了されてしまう。快楽に抗う術なく簡単に溺れてしまう自らを醜悪だと嫌悪し、弟への裏切りを働いているのだと疑わないエドワードにとって、他人と触れ合う事を含めた性的な関わりは全て罪悪でしかない。身体を失い鎧に定着させた魂だけの弟には五感の殆どがなく、こんな行為のみならず自慰すら行えない。それなのに自分だけが性行為に溺れ、法悦に涙する事等あってはならないのだと。だから其れを強引に齎す男との耐え難い密事を、幾夜も躯がぐすぐすになるまで犯され、抱え込んだ柵も何もかもを忘却の彼方に放る解放感を刻み込まれてしまったと言う眼を背けたくなる悪徳を、恐ろしくて誰にも相談する事すら出来ずに唯唯過ごして来た。そもそも同性同士である事も、自らが未だ未成年と言う保護対象の年齢である事も、誰にも言えない原因ではあった。もしこの関係が発覚でもしたら、眼前の男は其の地位を剥奪され首に縄が回る。そんな顛末を望む程に男が疎ましい訳では決してない。彼はエドワードの後見で、それ以上に大切な恩人だ。嫌悪している訳ではなく、ただ性急な求め方をする思惑の読めない男と、それを拒む処か容易く受け入れてしまう自身の躯の在り方に、エドワードの思考だけが付いて行けず、惑乱に惑うだけであった。

何故こんな子供の躯を暴くのか。美しく許容に富んだ女性は他に幾らでも居るだろうに。それとも男にされている行いは一般的には男女間では行う事のない、所謂酷い事、なのだろうか。他の女性に行えない発散に似た非道な扱いなのだろうかと、ふと思う。 こんな風に時に束縛し閉じ込めて───。

頬に寄せられた男の唇に、言葉にせずとも深い交接を求められているのだと察するが、先程の思考に貼り付いた行為が、エドワードを酷く怯えさせた。

「焦らしているのかな」

いつもなら直ぐに応えてくれているのに、と耳許に睦言の甘さで囁きながらエドワードの躯を弄る様に男の手が這い廻る。燻火を容易く煽られて上がる息にエドワードは自身への苛立ちと震える程の恐ろしさを隠せないまま「やだ」とだけ毀し首を横に振り続けた。好きな時に好きなだけ。此方の意思を無視して行われる淫らな交接に、その行為自体を悩み嫌悪する心身の疲労を、その都度味わい苦悶に喘ぐのはもう嫌だった。行為を疎む自身の心裡だけは確り認識しているエドワードは、ならばそれをしなければ自らの心の安寧は守られるのだと思い至る。快楽など誰かと身を触れ合わせなければ感じる事もない。アルフォンスに覚える罪悪感に苛まれる事も全て綺麗になくなるのだと。 だからこそ、深く淫らな狂瀾に落とし込もうとするこの手を受け入れてはならない。したくない、いやだと言ってどれだけ聞いて貰えるのか。 手首を囚われて思い知る。 そんな事叶う訳等ないのだと。

「嫌とは?何が嫌?」

掴まれた手首を高い位置に掲げられて、横たわっていた躯が容易くシーツから浮いた。そのまま引き寄せられて、腰を囲う様に懐深く抱かれてしまう。

「君も好きだろう?ほら」

密接する状態の中で、反応しているエドワードの下腹が抱き寄せた男の腹に当たるように、囲った固い腕が拘束を強くする。腰を上下に揺さぶられ男の腹にエドワードの局部が押し付けられる度に、触れた先端から齎される刺激が、脳髄迄を幾度も衝き上げていった。

「…ん…あ、!…ぁ…あ、あぁ…、…」

先程迄は触れられもせずに放置し続けられた性器への直截な接触に、知らず内に腰が甘く揺れた。それは男の望む行為の合意へと成り代わる。漸く訪れた愛撫にも満たない刺激で、拒絶を貫こうとしていたエドワードはいとも簡単に籠絡された。ああ、また流されてしまう。恐ろしさと快楽への期待に震えが止まらなくなる。唯一の腕で男に縋り、我慢が出来ずに口吻けを強請ってしまった。

「素直な君は可愛いね」

吐息に混ぜられた揶揄は直ぐに水音を立てる舌の絡み合いが齎す愉悦の波に押し流され、塵芥の如くに消えていく。エドワードの意識は既に男から与えられる法悦のみを待ち侘びる程、快楽に餓えていた。

気持ちの良い事には逆らえない。そんな躯にいつの間にか作り変えられてしまった。どれだけ心が嫌悪し歪んでも、喜悦の歓びを知ってしまった躯に引き摺られてしまう。もっと、と腰を揺すればきつく密着した二人の狭間に捩じ込まれた男の手がエドワードの堅く勃ち上がった性器を存分に扱き上げた。間を開けずとぷりと放たれた白濁を尻奥に撫で付けられて、先程汚濁を吐き出した窄まりに指が沈められる。びくりとエドワードの震える躯を宥めるように背中を撫でた男は、エドワードの今だ勃ち上がって刺激を強請って揺れる性器に額ずく様に顔を寄せた。

「……ん、…ぁ…った、いさ?……」

後孔を探り弄る指はそのままで、まるで敬虔な信者が神に祈りを捧げるかの様な丁寧さを以て、男が先端に口付けた。

「っ!あ、……あ!んっ、あぁっ、んん、…ぅ…っあぁっ……」

ちゅ、と触れただけでは飽きたらず、唐突に咥内に含まれたエドワードは、粘膜の熱さに悲鳴を上げる。すっぽりと包まれ、次いで悦楽に翻弄する凄絶な舌技が容赦なくエドワードの局部全体に施されて、あっという間に高められた躯は誘う様に胸の突起までを固く凝らせて見せた。男の口腔に含まれている性器は、括れだけではなく皮に覆われた先端も尖らせた舌先で皮内を蹂躙され、被った皮を捲りあげられた。ぴりりと僅かな痛みと共に剥け出たばかりの敏感な其処にも男の舌は遠慮なく絡み付き、放出を促す様に鈴口を執拗に拡げては吸い上げ始めた。

「…や…あぁ、や、あ……、あっ……そん、な、……したら……ぁ、あっ…、また…っ……」

気が違う位に首を振りながら達した証は男の喉奥に嚥下され、飛沫すらエドワードには確認出来なかった。ただ躯に残る脱力感と意識が蕩ける程の濃厚な余韻が、放出の事実をありありと伝えていた。汗に塗れたまま、乱れた呼吸に喘いでいると、今迄とは別の生理的欲求が存在する事に漸く気付く。 下肢を未だ舌で嬲り続ける男の黒髪を余韻に震える腕で掻き交ぜて、此方に意識を呼ぶ。

「……たい、さ……トイレ行きたい……」

そう言えばこの部屋に入る前に暑かったからと大量の飲料を口にしていた事も思い出していた。汗も沢山掻いたがそれ以上にこの状況は当然の帰結と言える。腕は兎も角脚がないままだと歩けない。恥を偲んで連れていってくれと頼むと、男はにっこりと笑みを浮かべ、エドワードには理解不能の言葉を吐き出した。

「なら出せばいい。今此処で、ね?」

「……な、に言って、んだ、あんた……」

一瞬、エドワードは相手の紡ぐ言葉が、言語の違う他所の国のものなのかと疑うくらいに意味が判らなかった。

一拍置いて、エドワードが持つ常識とは違う枠の中で男が息をしているのだと理解する事にした。いい加減この男の思考の異質さにエドワードこそが慣れるべきだったのか。 もしかしたら同じ常識を持ち合わせていながらも、価値観の相違や他の諸々で、エドワードの意向に沿えないと告げているだけなのかも知れないが、どの道男の助力を期待すらできないと多分に動揺し混乱に揺れた脳であっても、それだけは何とか結論付ける事が叶った。 齎された行為の所為で震えの止まらない躯を引き摺りながら芋虫が這う様に扉まで辿り着く。ノブを回せば開く筈の扉は無情にもその願いを聞き届けてはくれなかった。あ、と今更に錬成陣に思考が行き着くが既に遅い。此処への出入りにはこの陣こそが障害となっているのだと何故気付かなかったのか。

「……っ……!」

急に催した訳ではなく、実際それ所ではなかったために気付くのが遅れた生理的欲求は、実はかなり切羽詰まっていた。早く陣を無効化してしまわないと、先程の比ではない粗相を男に晒す事になる。正に羞恥以上のそれは酷い屈辱だろう。陣を把握しようと部屋の中央に戻ろうとした時、存在を意識の外に出していた男に、ひょいと躯を掬われた。

「私を放置して、何処へ行こうと言うのかね?鋼の」

横抱きにされて寝台に戻されたエドワードは、笑んだままの男に改めて組み敷かれ、危機感を覚え必死に抗う。

「何処って、!だからトイレだってさっきから……」

「うん?だから此処で出せば良いと私は言っているじゃないか」

ひゅっ、と吸い上げた空気が笛の様な甲高い音を立てた。この男がこの部屋にエドワードを閉じ込めたのは此れこそを目的としていたのではないかと。そう思考の片隅に過っただけで恐ろしくなった。まさか、そんな、何の為に?

「性行為の最中は、男は精液だけを吐き出す様に出来ているのは知っているかね?勃起した状態では尿道は塞がれているから漏らす事はないそうだよ」

便利だがやはり不便だね。 何が不便なのか意味が全く判らない。どくどくと躯を巡る鼓動がやけに速くなった。もぞ、と下肢を捻り現象を堪えるが、自身の限界はもう目前まで迫っているのだと俄に実感する。それだけで胸中を焦燥が駆け回った。 男の呟きに返事もなくその表情をじっと凝視する。独り言の様な男のそれに、エドワードの意見など不要だろう。そしてエドワードこそが男の語るそれを望んでいなかった。

「なあ、頼むから!トイレでさせてくれよ、なあ大佐!」

自身の訴えを簡単に聞いて貰えるとは思っていないが、何かしらと引き換えに状況を打開する事は可能だろうとは思っていた。何を持ちかけようかと算段を深めようとした時に、男は先程のその不満の理由を明快に告げて来た。

「抱き合いながら互いに飲まし合えないだなんて、つまらないだろう?」

残念だと呟きながらもエドワードを手際よく自分に都合の良い姿勢に整える男に、何を言っても伝わらないのだとその行いこそに証明されている様で、エドワードはくらりと意識が霞んだ。何を、とはもう聞き返せなかった。今正に窮地に陥っている現象こそを、男が指し示しているのだと、本当は判っていたから。

「まずは君のを飲んであげよう。その次は君が」

既に決まった事の様に話す男は再び頭を下げてエドワードの性器に吸い付いた。

「……っやっ……あ、!……」

性感を高める目的ではなく、只管促す為だけに音を立てて先端を吸い上げられる。ちゅ、ちゅぱ、と音だけを聞いていれば口吻けの最中に奏でるリップ音にしか聞こえないが、自身の急所を排泄の誘惑も露に吸い上げ、舐られ続けているエドワードにはたまったものではなかった。吸われ舐めれて限界寸前だったエドワードの先端は、本人の意思から外れて徐々に力の伝達を途切れさせ、耐え切れずに弛緩する瞬間を狙い定めた様に強く吸い上げられた。 我慢の限界の末に齎された開放感の中で、脱力したエドワードは全てが許容の範疇を越えてしまい、声もなく泣き出した。涙腺が壊れたのかほろほろと滴が金の双眸から毀れていく。

もう許して欲しくて、離して欲しくて揺すった腰は、鋼の足を外されもう片足は高 く掲げられている為に、もどかしく揺らめいただけだった。

「もぉ、や、あ、いや、んぁぁ、、っ、……」

男が咥内に注がれたエドワードの雫をごくりと嚥下する喉の動きに、男に捕らわれたままのエドワードの性器も喉奥まで招かれいるが故に圧を加えられて、膀胱の中に残るひと滴までも男の唇へ放出する事を強要される。泣き濡れながら嫌だと喘いでも、結局は全てを注ぐ事となり、撫でる様に指で幹を扱かれ続けて、 もう何も出ないと首を振っても鈴口を執拗に吸い上げられ 今度は違う快楽の熱を灯される。下肢が欲に満ちていく感覚に、エドワードは涙に塗れた顔で身も世もなく哀願した。お願いだからもうやめて、何でもするからと。エドワードの局部に鼻先を寄せていた男は顔を上げるとそのまま身を乗り上げて、エドワードを組み伏し直しては当然の様に首すらも動かせぬ拘束の上で唇を合わせて来る。普段なら睦言を語る唇は静かにエドワードの其れに押しつけられて。下肢への追撃を辛うじて許して貰えたのだと安堵に緩んだ唇に、興奮で体温を上げた舌先と共に温かな液体が口移しで注がれた。眼を見開き左腕で男の胸板を叩くがびくともしない。舌を絡められて咽奧を宥める様に柔らかく押され、堪えきれずに嚥下する。

「…っ…げほっ……っ」

温かいそれは、先程自身が男へと放った其れ。

「美味しいだろう?君のだよ」

咳き込んだエドワードに向けて、男は恐ろしい事を平然と告げる。こんなもの、飲むものじゃない。反論は許されず再び唇を塞がれ、今度は解された窄まりに怒張した熱塊を添えられ、腰を押し付けてくる男の好む、じっくりとした挿入で割り開かれた。

「……ん、んん、……んうぅ、……ふ、んぅ……」

もはや抵抗する力など僅かも残っておらず、力の抜けた躯は既に充分に慣らされている事もあって柔らかく広がって、大きく張り出す男の先端をすんなり受け入れていく。吸い付く様に男性器に絡み奥へと納めていく自身の浅ましい躯かエドワードは疎ましかった。幾ら厭んでみても蠕動し男を締め付ける体内は、欲塊の齎す圧迫と快楽を歓んで、引き摺られる様に愉悦の深みに堕ちていく。 男の先走りが前後に突き上げる抽挿の動きを滑らかにして、直腸まで潜り込んだ先端で体内を強く叩かれる。容赦ない圧迫にびくん、と一際激しく痙攣すると、狙う様に繰り返し同じ処を責め立てられた。内臓を押し上げる突き上げも、受け入れる事に慣らさ続けた躯はそんな暴力的な交接にも酷く感じ入って、嬌声を奏で法悦を望み男を強く締め付けてしまう。

「あん、ああっ、うんんっ……ああ、はぁ……あん、」

開放された唇からは、平時であれば耳を塞ぎたくなる程の欲に濡れた喘ぎが途切れる事なく溢れている。口を閉じる力も失い、好きなだけ男に揺さぶられ、いつ達したのか判らぬ白濁に自身の腹を濡らす。 欠けた躯を男の体躯に絡め取られる様に抱き締められて、逃げ場のない状態で腰を打ちつけられ、抉る様な動きに喜色の悲鳴を上げる。 吸われて咬交された胸の尖りはぷっくりと腫れて甘く勃ち上がっていた。むず痒くてもっと咬んで欲しくて、エドワードは背中を反らし男へ押し付けた。男の愛撫を待ち焦がれる様な反応は胸だけではなく、もっと奥を強く突いて欲しいと男の腰へ脚が絡みついた。

「素直な君はとても可愛いよ、もっと強請ってみせてくれ」

男は珍しく自身の快楽を一端留め、わざと浅い抜き差しを始めた。エドワードを更に貶めようと返答を待つその首へ、無抵抗になってからは束縛を開放され揺さぶりの嵐の中、枯れ葉の様に舞っていた腕を必死に伸ばして抱き付き、エドワードは思考が停止し快楽を追う本能の欲求のまま「もっと、大佐ので、奥突いて……酷くしていいから、たくさん、痛く気持ちよくして……?」と淫らに強請って見せた。 幾度も白濁を奥深くへ注がれ男が満足すると、意識が途切れそうなエドワードの唇へ、柔らかくなった男の性器が押し付けられた。抵抗もなく咥内へ挿入されたままに舌を絡め、習慣の様に吸い上げる。始めは僅か。だが直ぐに多量に注がれだした男の排泄を、喉奥に叩き付けられる様に注がれて、男の腰に抱き付きながら必死で飲み込んでいく。

「んぐ、んん、」

涙が乾いて貼り付いた瞼に新たな涙が溢れて毀れた。腰を揺らして最後まで注ぎ込んだ男の熱の籠った溜め息を頭上に感じて、嬉しくなったエドワードは全て飲み干した。自身のものを飲まされた時は吐きそうになったのに、今はもっと欲しかった。ぺろぺろと舐め回して、もっと、と吸い付くと髪をくしゃりと交ぜて撫でられた。

「もっと飲みたい?」

悪魔の様な欲の滴る男の声は醜悪であり蠱惑的であった。咥内で勃ち上がる肉塊を唇を窄めて吸い上げると、更に硬く大きくなりエドワードの咥内を圧迫する。

「飲む」

今度は先程下肢を満たし尽くした白濁を。そう答えると男は満足気に微笑んだ。 汚い君も綺麗な君も、可愛い君も淫らな君も、どんな醜い君でも愛しているよと、常軌を逸した男の愛を一身に受けた子供は、自身の汚さを暴かれながら犯されて、ついにはそれを自ら望むまでに貶められた。どれだけ汚く醜い感情にも動じず歪んだ愛を示してくれる男に籠絡した子供は、無体な扱いにも苦を覚えない程に変容し、それが幸せなのだと歪に染まった。

 

 

触れ合う度に注ぎ合う、汚濁と交接の滴は彼らにとっての愛の結晶。

汚さをも愛するのが、真実の彼らの愛のかたち。

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