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「どうなってんだ、ロイ」

それはこっちのセリフだと、ロイは眉間に皺を寄せたまま目の前の青年を見上げた。


 


 



​​​​​​​​「どうもこうも、一番この状況を理解しているのは君じゃないのか」

混乱する頭を先に静めたのはロイのほうだ。すがすがしい朝を迎え、寝ぼけまなこで腕の中にいるだろう愛しい人に口付けようとしてみれば、昨夜まで激しく愛し合った少年は忽然と姿を消しており、かわりに腕の中に、というよりも逆にロイを抱きしめて眠っていたのは身知らぬ金髪の青年だった。



 

いつのまに、不審者に侵入されていたのか。目を見開いたロイは慌てて青年の逞しい腕を振り払い、枕元に忍ばせていた発火布を手にとった。すると、ロイの困惑と緊張の源である青年は、んん~、と間抜けな声をあげゆっくりと背伸びをし、ぼんやりと金色の瞳をその瞼の下から覗かせた。そのとろりと溶けた瞳と、整った端整な顔を至近距離で見つめた瞬間、ロイは衝撃のあまり発火布を落としてしまった。ぽとりと間抜けな音がしても、しばらくは思考が正常に働かなかった始末だ。なぜならば。

「おはよ、ロイ」

ロイとエドワードの愛の巣であるベッドの上で、寝ぼけ眼でロイを見上げる不審者は。

ほかでもない、エドワード・エルリックその人だったのだ。


 

あれ、ロイ。なんか若返った?と瞼を擦る若者に、未だ理解を超えた光景に混乱する脳内を無理やり活性化させたロイは、まさか鋼のか?、と静かに問うた。

鋼の?と困惑げにをひねった青年は、此方をじっとみつめ、徐々にその目を大きく見開いていった。

「ロイ、だよな」

暫くしてから、呆然と呟かれた声はやはりエドワードで。

「君は鋼の、だな?」

ロイはため息をつきそうになった。ロイがエドワードを見間違うわけがない。そんな自信を持ってはいるが、さすがに今の状況では確認せざるを得なかった。

どこからどうみても、エドワード・エルリックの姿をした男は、青年だった。ロイの知っているエドワードは15歳の少年であったのにも関わらず、今目の前にいるエドワードは20代くらいの成人男性なのだ。

 

若干低く太くなった声は、間違いなくエドワードの声だ。違うところと言えば、シーツの隙間から覗く右手、左脚が生身であることと、その体躯だ。現役軍人であるロイと同じくらいの肩幅に、厚い胸板。しなやかに伸びた腕、立派な腹筋、精悍な顔つき。きゅっと引き締まった腰は細いが、けして華奢というわけではない、しっかりとした腹筋に覆われている。

まるで、エドワードがたった一晩で急激に成長してしまったような。

ロイの問いにああ、と頷いた青年は、じっと己の体をみつめ、ペタペタと自分の筋肉を触り始めた。

つねったり、つついたり、擦ったり。暫くの間それを繰り返した後、しっかりと顔をあげていい放った。

「オレは、エドワード・エルリックだ」と。






 

そして、話しは冒頭に遡る。







 

「どうもこうも、一番この状況を理解しているのは君じゃないのか」

一度落ち着き、ベッドの上で向かいあった二人は暫く顔を見合わせた。お互い裸のままいい大人二人が向きあうというのはなかなか愉快な光景であるが、混乱していたように見えたエドワードは意外に落ち着いており、『未来からきた』などと驚く事を言い放った。そんな非科学じみた話誰が信じるものかと睨み付けてやったが、すらすらと語られる誰にも話した事のないロイの話や、エドワード本人しか知り得ない情報、そしてこのタイムスリップという現象を科学的な論理で細かく立証されさすがに信じざるを得なくなってきた。信じがたいことだが。

何度、目の前の青年をじっくりみても彼はエドワードだった。愛しい恋人の顔を見間違えるわけがない。確かに顔はだいぶ大人び昔のように小さな体つきではないが、生身の右腕の肩口にはエドワードが機械鎧装着時につけていたボルトが皮膚に食い込んでいる。それに、左脚も同様だ。

聞けば、彼の歳は29歳らしい。今のロイと、同い年だ。

「私は検討もつかんぞ」

「うーん」

あっと言う間に知性を感じさせる瞳に切り替えた青年の姿をしたエドワードは、あんにゃろう、と憎々しげに吐き捨てた。

「なんだ?」

「なんでもない!まあいいや、こうなっちまったのも何かの縁だろうし」

「ん?」

「っつーわけで、―――頂きます」

ぐるんと、天井が見えた。そしてその横に、精悍な顔つきの男性の顔。

押し倒されたと気がついた時には。唇を塞がれていた。

目を見開き条件反射で首を振れば、青年はすぐに唇を離した。

「何をするんだっ」

「何って、キス」

「キスって、君ね」

「いいじゃん別に、オレら恋人同士だろ?」

じとりと視線を投げつければ、青年は朗らかに笑った。

「私はまだ、タイムスリップなどというものを完全に信じたわけじゃないんだが」

「いいよ別に信じなくても、タイムスリップとかいうのは受け入れられなくとも、オレがオレであることはアンタも信じてんだろ?」

目の前にいる青年は、確かにエドワードだ。体臭も、口調も、何もかも。それは、ロイとて疑いようもない。

「それは、そうだが」

「じゃあさ、夢だと思ってくれていいよ」

「夢?」

「そ、夢。アンタは今夢の中で未来のオレに出会ってる、現在進行形で」

「夢にしてはやけにリアルだな」

「そう考えた方が早いだろ、これは、夢だ」

念を押すように言われ、がっちりとした腕に捕まれそのままシーツに押し付けられる。強い力だ。普段はロイのてのひらにすっぽりと収まるエドワードの腕が、逆にロイを押さえつけている。しかも、びくともしない。

再び始まった口づけ。なんとなく拒む気力が失せて、力を抜く。

夢か。夢ならば仕方ないのかもしれないななんて思ってしまうぐらいには、目の前の青年―――エドワードに絆されていた。まだ出会って数分だというのに。鼻孔に香るエドワードの匂いに、安心してしまっている。

「……んぅ」

抵抗しないロイに気をよくしたのか、唇をこじ開けぬるりと舌が入り込んできた。

鼻から、抜けるような声が漏れてしまったのは自然なことだった。それほどまでにエドワードが巧みだったのだ。ロイの息づかいに合わせて、離れては重なるそれ。快楽を引き出すように、わざと湿った音をたてながら舌に絡み付く舌。柔らかく歯の裏をすられ、ほほの内側の肉を舐められ、舌先をすわれ、深く舌を絡め奥にあふれでる唾液を注がれ、えぐりとるように啜られる。とろけ合うようなキスだった。鼻で息をするのもやっとな子供だったはずなのに。

リードされている事実が悔しくて、まけじと舌を絡め引きずりこめば、ふっと笑む気配がした。

予想通りとばかりに宥めるように遊ばれる。息が続かなくなり降参だと舌を噛めば、舌をゆっくりと引き抜かれ口内を堪能された。そのぬるい感触に、背筋が甘く痺れる。

「、は」

「やっぱり、ロイだな」

唇のはしに溢れた粘液を硬い親指でぬぐいとられる。

間近にある睫は、少年のエドワードと同じくずぱさりと長い。

「舌の使い方がおんなじ」

ぺろりと、自分の唇を舐めてみせる青年の妖艶さは、とてつもなかった。

「夢、か」

本当に、夢なのかもしれない。15歳のエドワードであったらこんなことは言わないし、なによりここに未来のエドワードがいるという理由は夢でしかありえない。

「また一から、アンタとの秘密を話してやってもいいけど、めんどくせえから夢だってことにしとけって」

ひょい、と肩を上げる仕草に、15歳のエドワードが被る。

ふ、と、ロイは一息ついた。まあいい。仮にタイムスリップという不可解な現象であるにしろ(確実にありえないが)今、目の前に『未来のエドワードという人物』がいるということはロイの真実だ。これがロイの妄想だとしても。

それならば、楽しめるだけ楽しんでしまおう。きっと起きた時には全て忘れている。

と、どこか浮いた頭でそんな事を考えながら、それ以上の思考をロイは放棄した。

「君は、随分と大人になったんだな」

すっぱりと思考を切り替えたロイに、エドワードは一瞬きょとんとしたあと、ははっと声をあげて笑った。

「当たり前だろ、もう29だぜ、今のアンタとおんなじ」

つん、と頬をつつかれる。指は確かに節くれだっていた。

「全部、アンタに教わったことだよ」

ちゅ、と額に口づけられる。それは、行為の最中にべそをかいてしまったエドワードを宥めるためにしていたロイの上等手段だ。確かに、未来のエドワードには自分が行ってきたことが継承されているらしい。

「それは複雑だな」

「なんでだよ、しっかりアンタに愛して貰った証拠だぜ?」

愛して貰った、など、エドワードの口から聞くことになるとは。夢であっても、未来の自分に嫉妬する。

「ははっ、すねんなよ、可愛いから」

「かわっ……」

破壊力のある言葉に硬直している間に、再び固い体が覆い被さってきた。

おとなしく青年の体重を受け入れると、さも当然の事のように剥き出しの素肌に手を這わされる。

「っ、こら、鋼の」

「もう鋼のじゃないんだけど」

「エドワード」

「なあ、やろうぜ」

傾けられた長い金色の髪が、さらりと頬にかかる。くすぐったさを覚えるが、それよりも鋭く煌めいた金の瞳に興味を惹かれた。

「アンタも興味あるだろ、29歳のオレの体」

ずいっと、食らいつくぐらいに寄せられた顔。オレの体に興味ない?なんて、すごい誘い方を覚えたものだ。

普段は堂々としているのに、性的なこととなるとてんでいじらしくなる奥ゆかしさを発揮していたエドワードだったとは思えない。と、そこまで考えてからこれが夢の中の事であることを思いだす。だめだ、完全にペースに飲まれている。しかもそれが不快じゃないときた。全くどうしたものか。

「向こうのオレたちだってよろしくやってると思うぜ、なあ、だから―――やろうぜ」

ぎらり、と光った瞳はあっという間に情欲にまみれた。呆れたように小さく吐き出したため息にさえ、口角をあげて答えるのだ。ろくな大人になっていない。自分のようなろくでもない大人と長年過ごせばこうなるのだろうか。本物のエドワードでさえこうなってしまうのは御免こうむりたいところだ。

「いいだろう」

でもまあ、悪い話ではないような気がした。疑似体験であっても、未来のエドワードを抱ける。それは甘美な熱だ。幸い、どうやら肉食系らしい愛しい相手の誘いを断るほど、まだ枯れてもいない。

「え?」

だがエドワードは居を突かれたように口を開けた。

「え、とはなんだ、自分から誘ったくせに」

「いや、まさか即効で頷かれるとは」

「私だって、君には興味ある」

すっと手を伸ばし、彼の頬に触れれば甘えるようにすりよってきた。恥ずかしさを全面に出してくる子供のエドワードも可愛いが、こうして素直によってくる大人なエドワードも愛らしい。

体は立派な青年になったが、好き、という気持ちに変わりはない。

「未来の君が、どんな風に鳴くのかとか、な」

するりと、頬をなぜていた手を胸元にすべらせる。硬い腹筋がついたそこにある小さなとがりを指先で掠めると、ぴくんと体が揺れた。見れば、少しだけ赤くなった顔。未来のエドワードもここが弱いらしい。

「親父くせえとこは昔から変わってねえのな、アンタ、……んっ」

ゆるく弄ってやれば、半開きになった唇から悩ましげな吐息が漏れる。

昔と変わらぬであろう性感帯に笑みが漏れる。むしろ、だいぶ開発されているようだった。

「ぁ、んンッ、ふぁ」

塗り込むように親指でこすってみればいい声で鳴いた。その声に煽られ自然と下半身に熱が集まる。

夢の中でも感じるものなのか、最近の夢は凄いな。

「その親父と、今の君は同い年だろう?」

調子にのって、小さな接触で起ちあがった尖りに唇を寄せる。ふっと吐息を吹きかければ、びくびくと形のよい胸元の筋肉が収縮した。美味しそうに熟れた赤に、唇をよせる。

「楽しませてくれるんだろうな、29歳のエドワード?」

「調子にのんなよっ」

もう少しで赤いそれを舌に包み込める、というところで、大きな手のひらにぐいと顔を押し返された。

「当たり前だろ、もうあっちのオレと出来なくなるぐらいよくしてやるよ」

挑戦的な目。赤らんだ顔でにっと笑うエドワードに鼓動がはねる。

まるで、捕食者のような獰猛な金色だ。少年のエドワードならば絶対にしない、いやできないであろう情欲に塗れた瞳。ぞくぞくと、背筋を這い上がってくる衝撃は、快感だ。こんなに雄の色香に塗れたエドワードを自分のものにできるだなんて、自分の妄想力に乾杯したい。

「いっとくけど、オレうまいから」

「うまくなったんだろう、私のおかげで」

「へっ、いってろよ」

つんと突き出された唇。今にも取って食ってやる、とでも言いたげな目を向けてくるくせに、時々15歳のエドワードが見え隠れする。本当に未来のエドワードのようだ。精悍さは増したくせに、何もかもがロイの知っている少年のエドワードと変わらない。

「本当にいいんだよな?」

「男に二言はない。君こそ、若い私に怖じけづくなよ」

男に二言はない。少年のエドワードがよく使っている言葉を口にすれば、青年もニヤリと頬を吊り上げた。

「冗談、天国見せてやるよ」

「錬金術師が天国だって?」

「ものは例えだろ、トばしてやる」

「望むところだ」

二人しベッドに沈む。これが夢であることなど、その時には綺麗さっぱり忘れてしまっていた。








 

オレが動くから、アンタは寝てろ。

そう豪語したエドワードの技術は、巧みだったキスの予想を裏切らず、むしろそれ以上のものだった。

手淫と口淫によってあっという間に立ち上がったロイの性器をじっくりと見つめながら、「やっぱり29歳は元気でいいよなぁ」などとしみじみ語るエドワードに羞恥の色は全くなかった。以前子供のエドワードにしてもらったこともあるが(エドワードがして貰ってばかりじゃいやだと自分からやりだした)、その時は今にも噴火しそうなほど真っ赤な顔をしたエドワードは硬直するばかりでほとんど何もできなかった(それはそれで可愛かったが)ので、14年という歳月の重さと長さを、一気に味わった気分だ。

「君は、随分と手馴れているな」

「なにが?これ?」

確認するように、根本からくちゅっと軽く扱かれ腰が跳ねる。

「っぅ」

「当たり前だろ、何回しゃぶったと思ってんだ。もう形も覚えちまったよ」

「しゃ……」

形をなぞるように熱い吐息をふ、とふきかけらられ、しとどに濡れた茎が悦びに波打つ。が、あまりにもあまりな台詞にうまく言葉が続かない。

「へえ~、なんだ」

衝撃の一言を放った青年は悪びれるでもなく、一気に力が抜けてしまった私の様子を面白そうに見つめてくる。

「アンタも可愛いとこあんじゃん」

「なんだねそれは」

にやにや、と歪む口許は、大変腹立たしい。

「いや、アンタが29歳ってことは、オレ15歳だろ?その頃のロ……大佐ってさ、背もでかかったし。いつも冷静で滅多な事じゃ取り乱さなくて大人で、いつもオレのこと包み込んで引っ張ってくれてたイメージだったから」

そんな風に見えていたのか。エドワードの語る自分像にどこか不思議な感覚に陥る。

今の自分は、エドワードを手に入れることに必死なただの男だ。あの子は若い。受け入れてくれたとはいえ、半ば騙すように丸め込んだ自覚はある。照れ、そっけない態度を取りながらも好きだと思いを伝えてきてくれる少年にどれほどのめり込み、甘えているか。14も年下の少年を逃がさぬようにいつも迷走し、余裕などないに等しかった。

大人という矜持故に、好きな相手の前ではそれ相応に振舞ってはいたが、内心ではいつでもどこかへ飛んでゆけるエドワードの後ろ姿に追いすがっていた。

「ま、でも、オレもこの歳になったからわかるんだけど、アンタもだいぶ焦ってたんだよな。なんせ、未成年のオレに手え出すくらいだし、ね」

全くもってその通りだった。言い返せない。

「ああ、その通りだよ」

常識的に考えれば未成年の同性に手を出す事自体がナンセンスだ。

将来的に大総統の地位を目指している自分にとって、エドワードと関係を持つことは確かに犯罪であり、最大にして最高のゴシップになりうる。下手をしたら自分の野望の妨げになるのかもしれない。それにも関わらず、誰かに取られてしまうのではないかという不安を押さえきれず、成人するまで待つこともできず、手加減もせずに子どもに挑み引きずりおろした。もちろんエドワードは子どもである以前に芯の通った人間なので、ロイを受け入れてくれた事には彼の意思も存在している。しかし、逃げられないように外堀を埋め壁に追い詰めたのは、ほかならぬ自分自身だ。

「私は焦っているよ。鋼のを、エドワードを手放したくなくて、手放させなくて、必死なんだ」

過分で異常なほどの愛情に混乱し、溺れそうになった子供は容赦のない大人の手練手管に落ちてくれた。もちろん、それを後悔することはない。する気もないが。

「鋼のは魅力的な人間だからね。いつも誰かに取られてしまうんじゃないかとヒヤヒヤして、毎日が幸せで不安で、苦しいよ」

それでも、自分の大人げなさに呆れるくらいには自覚していた。余裕なんてあったものじゃないと。自分の行いに呆れ、苦言を呈してきた部下達の気持ちもわかっている。十分すぎるほどに。

「痛いほどに好きだから、なりふり構ってなんかいられないんだよ」

「へえ」

こうして自分の気持ちを自然に吐露できるのは、夢の中だからなのか、相手が同い年のエドワードだからなのか。

「アンタ、やっぱりロイなんだな」

「うん?」

「オレと一緒に生きてるアンタと同じこと言ってる。いくつになっても変わんねえな」

バカだなぁなんて、懐かしむように目を細めた青年はふわりと微笑んだ。吸い込まれるような笑みだった。惹かれるように、さらりと零れた金髪を一房救う。

記憶にあるエドワードのそれよりも少し短くなったそれは、するりと指先を抜けていった。

「あちらの私は、もう若くはないのかい」

エドワードが言う、未来の私。14年後ということは、43歳か。目の前で起こっている出来事に少しずつ慣れてきたせいもあるのか、エドワードの言う未来の自分とやらに少しだけ興味がでてきた。

「まあな、そろそろ歳だし。なんつーか、オレが頑張ってる感じ?」

こんな風にと、先程から空気にさらされっぱなしのまま放置されていた茎に舌を絡められる。

「アンタの、丁寧に弄ってやんねえととへなへなで使いもんになんねえから」

「へなへな……」

「まあそんなとこがたまんないんだけど」

平然と言ってのける未来のエドワードにも、だいぶ慣れてきた。

「ほったかしててごめんなー、今可愛がってやるから」

長い髪を耳にかきあげながら、子どもあやすようにちゅくっと揺れた男芯に口付けられ、再び激しく口淫を再開される。上下に動く頭部。時おり手を動かし根を愛撫しながら、性器の形をなぞるように這う舌はなまめかしい。

先の割れ目から零れる透明な液を唾液と一緒に絡められ、大きく音を立ててじゅる、と吸われるとたまらない。喉の奥で扱かれれば腰が揺れた。

時々、チラリと投げかけられる視線。ロイの表情をみて、どこをどう責めるかを確認しているようだ。

しとどに濡れた性器を見せつけるように舐められながら、形のよい指先で先端を弄られる様は視覚的にもだいぶくる。ぞくぞくと太ももから背筋にかけて這い上がってくる悦楽を喉の奥に押し込みながら、自身を余すところなく奉仕している美しい青年に声をかける。

「君は、さぞ、女性にモテるだろうな」

平静を装い、からかうように言ったつもりだったのだが。

「そんな顔すんなって。安心しろよアンタ一筋だから、昔も今も」

予想外の返答に、一拍置いてからかっと顔が熱くなる。見破られた小さな嫉妬に戦慄く暇もなく、「そろそろ、黙って」と低い囁きと共にぱくりと咥えられて声が詰まった。

「……っは」

的確に、ロイの感じる部分だけを責め立てる、波打つ口内の動き。宥めるように太ももを何度も緩くなぜられ、その些細な接触にすら体が強張る。それは先ほどの比ではない。まるっきりロイと同じやり方で責めたててくるエドワードに、自然と彼の頭にそえた指に力がこもる。

「ま、っ……」

悔しいが、もう声を出す余裕もない。

「ま、て、……もぅ」

「ひいよ、出ひてくひに」

咥えながらしゃべるな、とよく真っ赤になったエドワードに怒られたものだが、その時の彼の気持ちがよくわかった。これは、確かにまずい。振動する空気に触れ、舌で遊ばれ、少しの刺激でも達してしまいそうだ。

「だ、めだ……ッ」

促すように袋を揉まれ、じゅぼじゅぼと激しく出し入れされればもう我慢できなかった。快楽の渦に浸りながら、腰を突き出し思い切り弾ける―――はずだった。

「―――……っい!?」

さきに弾けたのは小さな悲鳴だ。その次に、脳天に痺れるような射精感が突き抜け、大きく腰を震わしながら達してしまった。

「ぅ、くぁ……っ」

ひきつるような痛みと、強烈な快感の波が交互に押し寄せてくる。その間も、ぬめる舌に促され放出は続いた。あらぬ所に浅くつき入れられた指先を動かされたまま、直接与えられる痛みと快楽に翻弄される。

「~~~ッ、は」

びゅくびゅくと熱い飛沫を長い時間をかけて全て出しきり、尿道に残った残液すらも残らず吸い出された。

「は、は、はぁ、は」

荒い息が収まるのすら待てずに、慌てて視線を下げる。放出の余韻にぶるぶると震えるロイの内腿のその先で、一滴も残さず飲み込んだらしいエドワードが美味しそうに零れた残液を舐めとっていた。

「はぁ。すっげ……濃い、んく」

「エ、エド」

「ん?」

「なに、何して、君」

「え?」

きょとんと大きな目を丸くするエドワードにおかしな点はなかった。まさか飲まれるとは思っていなかったが、それもかろうじて予想の範疇内だ。問題は、むしろその先にある。

「あ、もしかして飲まれんのやだった?」

「み」

「み?」

「……未来の私は、そういうプレイが好みなのか」

「あ?」

本当にロイが困惑している理由がわかっていないのか、わざと知らないふりをしているのか。

眉間に皺をよせたエドワードは未だにそこを解している。そう、穴。ロイの臀部の窪みにある、排泄器官を。

「そ……こを弄る必要がどこにある」

半ば呆然と呟きながら、ぐりぐりと差し込まれる指先を見つめる。

エドワードはロイの視線の先に気が付いて、ようやく手の動きを止めた。

「どこにあるって」

こてん、と傾げられる、首。

「ほぐさなきゃ入れんのきついだろうが、オレが」

 

ロイの行動は早かった。

まさに電光石火の如く、すばやくエドワードの手を掴み放り投げざっとベッドの上を後ずさる。

 

突然の青年の行動に少なからず驚いたらしいエドワードは、行き場を無くした指先を宙に彷徨わせる。

「え?……あ、ああ!」

顔を強張らせるロイに全てを悟ったのか、ゆっくりと笑みを深くする青年がロイは恐ろしくて仕方がなかった。

「そっか、そうだよな。アンタって」

嬉しいという気持ちを隠すことなく顔を綻ばせる青年は、初めて恋をしった少年のように艶やかだ。が、ロイからして見れば無邪気な肉食獣が獲物を見定める、獰猛かつ残酷な笑みにしか見えなかった。

「アンタってまだ、オレに抱かれたことないのか!」

―――いっそのこと耳を塞いでしまえればよかった。一番聞きたくなかった台詞を耳にして頭が痛くなった後にそう思った。だがそれはできない。気がついた時にはもうエドワードの大きな手のひらによって、ロイの拳はシーツに縫い付けられていたからだ。

「わたしが」

大した力を込められているわけでもないのに、振りほどけない。体が石にでもなったような気分だ。

早まる鼓動を気力で押さえつけながら、引くつく口角を上げてみせる。

「私が下なのか」

「おうよ、ばっちり!」

冗談だろうという意味を込めた微笑みは、迷いなく放たれた言葉に即座に叩き落とされた。

「嘘だろう」

「本当だ」

「冗談だろう」

「残念ながら本気だ。そっか、ロイまだなんだ」

「待て、待て鋼の、エドワード」

おかしい。ロイがエドワードに抱かれるというのは、つまりそういう事である。今のエドワードの体格を考えれば不可能ではないが、想像もしたこともない未知の世界に思考が付いてゆかない。

エドワードが私を?ずっと私が喘がせて可愛がってきたエドワードが?そんなエドワードが、私を抱く?

行き着いた、わかりきっている答えに背筋が粟立つ。

「なんだよ、逃げるなよ」

にじりよってくる麗しい青年から逃れるように後退する。ロイを追い詰める姿は狩人のようだ。ならばロイは狩人に見つかった震える子ウサギなのだろうか。なんてことだ。小柄な体で各地を飛び回るエドワードをウサギのようだと思ったことは何度もあるが、それが自分にとって代わってしまうだなんて。鋼のも大人の顔をするようになったんだな、なんてしみじみと感慨にふけっていた自分を殴りたい。

「へえ~!アンタもそういう顔するんだなぁ」

「そ、それはどういう顔かな」

「う~ん」

興奮した面持ちのエドワードは、15歳の頃のエドワードとはまるで違った。珍しい錬金術の本を手渡した際、はしゃいでいた姿とも、違う。哀しいかな、喜ぶべき対象が異なっている。あの時のエドワードの興奮材料は錬金術の本で、今はほかでもない。ロイの体だ。

「怯えた顔」

口内に溜まった唾液が、一気に喉奥になだれ落ちてきた。

「エドワード君」

「はぁ、やばいどうしようロイ、オレ、興奮してきた」

「そうか、私は青ざめてきた」

「アンタ、ほんとに可愛い」

もじもじと足を擦り始めたエドワードにするりと頬をなぞられ、冷えた汗はさらに量を増した。

覆いかぶさるようににじり寄ってきたエドワードの顔面に、反射的に腕を突き出す。うぐ、と潰れた声を上げたエドワードは怒ったようにロイの手とどけた。

「なにすんだよっ」

「君は今から私をどうする気だ」

「決まってんだろ、抱く」

「だ……」

間発入れずに帰ってきた予想通りの答えは、決して望んだものではない。

「だからさ、さっさと大人しく」

「断る」

迫りくるエドワードを避けながら後退するもさすがに壁にぶつかった。それに気を取られた瞬間顎を捕えられ、ぐいっと顔を上げさせられた。目の前にあるのは金色の瞳。今気が付いたが、こうして座って向かいあっている時でさえエドワードの視線は私よりも少しだけ高い位置にあった。もしかしたら、もしかしなくとも、立ち上がったら彼は私よりも背が大きいのかもしれない。

「なんだよ、逃げるなよ」

「逃げるだろう!」

しかし、大人の矜持だ。仮に彼が自分よりも背が高いからと言って黙ってなすがままにされるわけにはいかない。同い年のエドワードの力は強いが、私だって29歳の成人男性だ。負けてなどいない。絡みついてこようとする体を押しのけてもだもだと格闘する。

「いったろ、よくしてやるって。オレ最近あんたに抱かれる側やってないし、こっちのほうが上手いから、な?」

「な?じゃない、私はそっち側に回る気はないぞ!」

抱かれる側、ということは、時々上下が逆になったりしているのだろうか。14年たっても熱いのはこちらとしても嬉しいことだが、まさかそんなことになっているだなんて。今の自分からは全く想像もつかない。未来のロイは本当にエドワードに抱かれているのだろうか。エドワードに圧し掛かられ突っ込まれて喘いでいるのだろうか。

「ほ、本当に私は君に、嘘じゃないのか?冗談では」

「なんで嘘つく必要があんだよ。もう慣れたもんだって。だから、安心してオレに抱かれろよ」

可愛がってやるから、と耳元で囁かれて、たまらず目を閉じた。

「だが断る」

「なんだよ、ここまできてそれかよ!いいって言ったくせに!」

苛立ったように怒鳴られて、こちらにも火がついた。怒鳴りたいのはこっちだ!

「まさか私がこちら側になるとは思わんだろう!」

「歳考えてみろよ!アンタだって29歳だったらわかるだろ、性欲旺盛なんだぞ普通そうなるだろ!」

「なるわけないだろう!」

「ほんと頭固いなアンタは、この頑固親父!」

「私が下になるのは認めん!」

「いいやアンタは下だ、オレが抱く!」

「君は私が抱く!」

大の男性二人が、朝日差し込む広いベッドの上で上下を巡って取っ組み合う光景は、はたから見てどのようなものなのだろうか。

「ずるいぞロイ、男に二言はないって言ったくせに!アンタはそうやっていっつも約束破る!前だって珍しく空いてるから沢山やろうって言ってたのにドタキャンしやがって!疲れて休みたいただとこのじじい!楽しみにしてたのに!」

「未来の私の悪口は本人に言え!」

「未来のアンタも今のアンタも同じだろ!不能気味なアンタの息子可愛がってんのはオレだぞ!」

「ふのっ……失礼な!私の息子は毎日有能だ!」

「今の話してんじゃねえよ、未来の話だよ!とにかくやらせろ、尻出せ」

「私がこちら側じゃなければ構わないと言ってるだろう、君こそ尻を出せ!」

「いやだ!オレは、アンタを抱きたいんだ!」

ぜえぜえと、肩を弾ませながらの男同士の言い争いはご近所に聞こえているのだろうか。エドワードの喘ぎ声に元気ですねと隣人の年配の男性に声をかけられた事もあるので、否定はできない。もしそうだったのならもうご町内を歩けない。夢であるということも忘れロイは不安にこめかみを抑えた。

「いい加減にしろ、ロイ」

拳で口元を拭った男らしいエドワードが、キラリと瞳を光らせた。突然低くなった声色に心臓がびくりと跳ねる。そんな顔をするものじゃないよ女の子が怖がるじゃないか、なんて軽口を叩けないほど今のエドワードは鋭い顔をしていた。

「無理やり掘られたくなかったら覚悟決めろ、男だろ」

「なんてこと言うんだ君はっ」

「なんだよ、アンタだってオレがのらない時でも襲ってきたじゃん!喧嘩して三か月くらい口聞かなかったのもう忘れたのかよ!」

「それは私の知らない私だ!」

再び始まった同じような口論に焦れたのか、エドワードが大きく舌打ちをしてぐっと腕を引いて来た。ふんばったが強い力には抗えず、ぼすっとエドワードの腕の中に納まる。離せ、と声を上げようとしたが、唇をついばまれて怒声は熱い口内に吸い込まれていった。

「ん、ふぅっ」

ぶ厚い舌がなだれ込んでくる。後ろに添えられた指先にうなじを撫ぜられ、舌の裏を擽られれば力が抜けた。一つ一つ、呼吸を縫うように口内を蠢く舌は激しく、それでいて優しい。緩く瞼をあげれば同じく目を開けたエドワードと視線があった。自然と、キスが深くなる。

「ん、んぅ、ぁ……ッ」

ちょうど感じる部分を弄られ、びくりと腰が震える瞬間に舌をゆっくりと引き抜かれ、そしてまた塞がれる。息をするのと同時に焦らしも加えてくるなど、そんな事どこで覚えたのだ。キスをし慣れた技巧に嫉妬する。一体誰がこんなことをエドワードに教え込ませたのか。と、そこまで考えて自分に嫉妬していることに気が付いた。そんなロイの心情の変化を読み取ったのか、ふ、とエドワードが笑った気配がした。やられているばかりでは示しがつかないので、同じように返してやる。わざと音をたてて絡みつかせ、誘うように口を開けばエドワードは直ぐ乗った。大人らしい睦みあいに満足する頃には、お互いの口元は唾液で汚れべたべたになっていた。

「は、ぁ」

口喧嘩をしていた事も忘れ、糸を引いて離れていく唇に触れるだけの口づけを落とす。むず、と首を竦ませる可愛らしい動きは一瞬で、すぐさまそれも返してきた。お互いバードキスを顔に振らせ、気がつけば背中はベッドに沈み、エドワードのさらさらの髪に頬を擽られていた。頬を上気させたエドワードに、濡れた瞳で見下ろされる光景の珍しさに先程の言い争いを思い出したが、甘えるように首筋に顔を埋められて、もう全てどうでもよくなってしまった。

「ロイ、抱かせてよ」

甘えた声は、今も未来も変わらない。たとえそれが夢であっても。

「オレの初めてさ、全部アンタに取られたんだぞ」

犬のようにぐりぐりと鼻を鎖骨に押し当てられる。

「だから、オレ今、ロイの全部がほしい」

まったくしょうがない。そう思いながらも自分の腕は自然とエドワードの首に回されていた。

これが、惚れた弱みというやつなのだろうか。

「初めてだもんな、大丈夫、優しくするから」

「変態親父みたいな事を言わないでくれ……」

脱力したままベッドに身を任せたロイに、エドワードが嬉しそうに顔を上げた。

「ロイ」

「確かに、男に二言はないと啖呵を切ったのは私のほうだったな」

あの時言い放った言葉をこれほど後悔することになるとは、思ってもみなかった。

「望むところだって答えたのもアンタだぜ」

「言われんでもわかっている」

それに、これは夢なのだ。いつも年齢にも精神的にも未熟なエドワードを組み敷き激しく求めてしまうのだから、夢の中ぐらいはエドワードの好きにさせてもいいかもしれない、なんて思ったりもした。

「手加減、してくれよ」

夢であれなんであれ、エドワードが好きだという気持ちに偽りはない。

それに、こんなに求めてくれるのだ。少しの間だけ、自分が辛抱すればいいだけの話だ。

「本当に、いいんだよな?」

しぶしぶといった表情で了承の意を唱えれば、ありがとうと笑った青年がぎゅっと抱きついてきた。その引き締まった背をゆったりと撫でてやりながら、白い天上を見上げる。同じ体格の男に圧し掛かられているという事実に恐れがないといえば嘘になるが、その相手がエドワードであれば別だ。圧し掛かる重さに、安堵感すら感じる。

「ゆっくり、ゆっくりするから。大丈夫、あまり痛くしない」

だから、親父のような発言はやめてくれ。口がふさがれていなければそう言っていたところだ。

「んむ」

唇の端から端まで包み込まれる心地よい安心感に、ロイは完全にベッドの中に身体を沈ませた。逞しい腕に頭を抱え込まれ、二人分の重みでベッドがギシリと軋む。

大丈夫だ、相手がエドワードなのだから恐ろしいことなど何もないはずだ。夢の中でどこまで痛みを感じられるのかは甚だ疑問だが、軍人たるもの、多少の痛みなら我慢できる。

今だけは逆らうことなく、身を任せよう。










 

そう思っていたのに。










 

痛みのあまり声も出せないというのを、ロイは生まれて初めて経験した。

「ッ~~、っ!」

「痛い?」

ぐちぐちと弄ってくる指先はもう三本目に増やされている。というのに、この痛みはなんだ。ずっと指が動かされるたびに引き連れるような痛みが臀部を通して背骨を駆け抜け太ももが痙攣する。もう、息も絶え絶えだ。若くして地位を得たこの国軍大佐のロイが尻を解されて痛みに呻いているなど一体誰が信じるだろうか。部下あたりは信じるかもしれないが、こんな事誰にも言いたくない。というか言えない。ロイにできることは、ただただ声を抑えてご近所さんの静かな眠りを妨げないようにすることだけだった。これからも平穏無事にご近所を歩けるように。

「もうちょっと我慢な」

萎えた私の性器を弄りながら容赦なく指を突っ込んでくるエドワードを恨みがましく見上げたくとも、少し動いただけで肝心な部分が裂けてしまいそうで恐ろしい。そうでなくともシーツに突っ伏し尻を突き出しているという恥ずかしい格好なのだ。大丈夫か、と労わるように声をかけておきながらそのところ実は内心楽しんでいるだろうエドワードの笑みを見たくなどなかった。

「、ぐ……ぅッ」

ぎ、と中にさらに指が侵入し軋んだ声が漏れた。

「ごめんごめん、いきなり入れ過ぎた」

わざとだろう君。そんな声すら噛みしめたシーツに吸い込まれていく。

みっともなく痛いと叫ばないため強く噛みしめ続けていたシーツも、もう湿り過ぎて冷たい。唾液でびちょびちょだ。

「ほんと、痛がるロイって新鮮……肌にも張りあるし」

ほ、と興奮したような吐息が背中にかかり、その熱さに背筋すら震える。

未来の私は皺々なのかと、どうでもいい事を考えていなければ痛みに思考全てを持っていかれてしまいそうだ。どうしてだ、夢だというのにこんなに痛いだなんて。本当は夢ではないのか?そんな馬鹿な。

初めてなら後ろからのほうがいい、と言われうつぶせになれば、尻をためらいもなく持ち上げられ舌でほぐされた。そういえば初めてエドワードを抱いた時も、少しでも痛みが少ないようにとうつぶせにさせたな。そんな近いようで遠い記憶を思い出しながら、浅い部分を唾液で湿らせられている時はまだよかった。が、指を入れられ初めてからはもう散々だった。第一関節を緩く出し入れされ、時折あやすように萎えた男芯を擦られればじくじくと快楽の渦が臀部から脳に行きわたってきたのは本当だが、指を二本三本と増やされていくにつれ、そんな淡い快感も痛みに凌駕された。

「~~~ッぃ゛」

ずぶりと指を差し入れられて、腰が跳ねる。

「ごめん」

「~~~、……君、ねッ」

二回目の心無い謝罪に、ついに喉の奥で止めていた思いがあふれ出した。

「わざ、と、やってるだろうッ……!」

「あ、バレた?」

悪びれるでもなくさらりと返されて、ついにじとりと悪行の主を睨み上げる。案の定、エドワードは笑みを浮かべ、はは、と小さく笑った。

「だってさ、オレ初めてロイにここ慣らされた時、すっげえ痛かったもん。待ってって言ってんのに、アンタ大丈夫だ大丈夫だって口だけでやめようとしねえし」

ぐっと言葉に詰まる。それは本当の事だった。初めてエドワードを抱いた時、あまりの可愛さと嬉しさに繋がりたいという想いが先走って少々?無茶をしてしまった事を覚えている。確かに快楽は与えたつもりだったが、痛みもその分強かっただろう。次の日エドワードは半日ほどまともに立てなくなっていた。恋人を一日中看病できるという事態に喜んだが、次の日の午前中に出発するという彼の予定は案の定おじゃんになった。しかも、潤んだ瞳で怒るエドワードに欲望が止まらず何度かイタズラまでしてしまったのだ。何も言えない。

「だからちょっと意地悪しちゃった。許して?」

ちゅ、と臀部に口づけられたのが感覚でわかった。それはだんだんと上に上がっていき、肩甲骨の下辺りを舌でなぞられる。性感帯でもなんでもない場所なはずなのに、ぞくぞくと込み上げる何かに甘い声が漏れた。シーツが、さらに濡れる。痛いは痛い、が、体の全てが神経を剥きだしにされたように敏感になっている。抱かれる側というのはこんな心境なのか。

「ここ、感じるんだよアンタ。知らなかった?」

嬉しそうに笑ったエドワードに、自分すら知らなかったはずの性感帯を教えられる。よくよく考えなくとも、とてつもない状況だ。

「いっぱい教えてやるからな、ロイが気持ちいい場所」

「す、少しで、構わん……ッ」

もういっぱいいっぱいなんだ!と訴えれば、ピタリとエドワードの動きが止まった。

「……前言撤回、全部教えてやる」

「~~~ッツ、っんなぁ」

突然、とてつもない快感が脳を突き抜けた。視界がぶれ、肩が震える。

「まずは、ここな」

「ぃッ、ひ、ぁあ……!」

自分のものでないような声があふれ出す。性器を直接弄られるのとはまた違う、中からの衝撃。慌てて視線を上げようとすればまたもや痛いほどの快感が走ってたまらずシーツに突っ伏した。そこから見えた自分の性器が、半起ちになっているのが見える。さっきまでぶらりと垂れ下がったままだったのに、どうして。

「前立腺。こここうすれば、アンタは直ぐに堕ちる」

「やっ、やめろ、い゛っ」

「痛い?痛いだけじゃないだろ、ここ」

「~~ッぁア゛!」

根本までずっぽりとはめられた数本の指をぐっと折り曲げられ、中を強く擦られれば自然と体が跳ねた。前立腺、今エドワードはそう言った。そこはロイもよく、エドワードを抱く時に刺激してやるところだ。挿入時に浅くついてやると目を剥いてぴくぴくと跳ねる小さな体が可愛らしくて、やだと言うのを抑え宥めすかして刺激してやったこともある。散々弄ってきたので、今ではもうそこでイくことも可能だ。射精の伴わないドライオーガズムを体力の続く限り感じ続け、甘い嬌声を上げるエドワードを見てきたが、これが、こんなにも快感で満たされるものだとは思ってもいなかった。

「はっ、ぁッ、くッ……ぁ、あ……」

口を閉じてしまいたいが、上げる嬌声を抑えることができない。重点的にそこを弄られ足が引き攣るような快感を感じたと思ったら、わざとポイントを外され指を出し入れされる。その間も、高ぶりはじめた性器も根本から先まで何度も往復され、快楽の波に翻弄された思考はあっと言う間に溶けた。よくエドワードがおかしくなると鳴いていたが、その気持ちがよくわかる。ロイとて今にも、頭の中がおかしくなってしまいそうだった。自分で、乞うように腰を揺らしていたことにも気が付かない程に。

「な、ロイ。ほしい?」

「ぅ、ッ、」

何が、とは聞かれないが、わかった。見えない臀部の隙間に、いつのまにか取り出されたのぬるぬるとしたものが擦りつけられていたから。

「オレももう限界なんだけど」

ぐちぐちと穴を弄られる湿った音と、透明な液を吐き出しシーツを汚し始めた自身の茎。上ずるエドワードの声。全てが快感となって、視覚も聴覚すらも犯してくる。

「ここに入れて、突いてあげていい?」

言葉責めなんて、悪い大人に育ってしまった。

「可愛がってやるから、なあ」

先程身を持って教えられた性感帯部分に再び舌を這わされる。痛みは先程よりも少なくなった。蠢く指の数が増えていることに気が付くほどには思考も冴えて。だからか、迷いは一瞬だった。

「ん…ぅ」

恥ずかしそうに小さく頷いたロイに、エドワードが圧し掛かり口づけをしてくる。無理な体勢であるため、舌を絡ませながら自然と向き直った。エドワードの唇に唇を愛撫されながら、完全に起ちあがった性器にエドワードのものが擦りつけられた。エドワードのも固くなっている。くちゅくちゅと密着するそれが気持ちよくて、鼻から甘い吐息が漏れる。シーツを握りしめられていた手のひらがエドワードに優しく解かれ、包み込まれたまま、二人が触れあっている中心にまで誘われる。ぬめる舌に激しく口内を舐めまわされて、ぼう、と思考がとろけた。一寸の隙もないほどの距離にある金色の瞳をぼんやりと見つめながら、激しい音を立てて擦り合わされている二つの熱い肉棒に触れ、エドワードの手のひらとともにそれをやわく包み込み―――冷や水を浴びせられたかのように、一気に思考が冷えた。

「……ッぷは」

慌てて首を振りエドワードのキスから逃れ、目線を下げる。そこにある物に視線を奪われた。

「……なんだそれは」

「あんま見つめられると照れるんだけどな」

これっぽっちも照れていない様子のエドワードの呟きは耳に入らなかった。それほどまでに驚いたのだ。今までは、シーツに隠されていてあまり見えなかった。もちろん視界に入った時もあったが何も思わなかった。なぜならば。

「大きく、ないか」

なぜならば、それが平常時サイズであったからだ。

完全に勃起したエドワードの性器は、わりと大きめの己の性器を見慣れているロイからしてみてもそれはそれは雄々しく、立派な物であった。

「うん、大きいかも」

笑みをたたえているが、これは笑い事ではない。だらだらと透明な液体を零し、赤黒い血管がどくどくと波打つそれはもはや凶器そのものだ。

「は、入らないだろう」

「アンタよりちょいでかいくらいだから、余裕だって」

「余計無理だ!」

快楽の海から一気に現実に引き戻されてしまったロイに構わず、エドワードはひょいっとロイの足を抱え上げた。しっかりと立ち上がったそこが目指している場所は、もちろん。

「―――ストップ!」

「は無し!」

「エドワード!」

大の男性二人が、朝日差し込む広いベッドの上で再び取っ組み合う。

「ここまで来てなんだよ!オレ、アンタよりはるかに小さかった頃からアンタにそれ突っ込まれてたんだけど」

それ、と指さされてまたもや言葉に詰まる。昔(今)のことを持ち出されると弱かった。

「痛かったけど、アンタが好きだ愛してるどうしてもっていうからオレ我慢してロイを受け入れたんだぞ」

じとっ、と睨みをきかされて視線が泳ぐ。確かに、痛い痛いよと泣くエドワードをなだめすかして初めてを貪ったのはほかならぬ私だ。しかもその時のエドワードは華奢で、今の私と同じように自分を犯そうとしている凶器を可哀想なほどに青ざめて見ていた。それでも必死にしがみついて、ロイを受け入れてくれたのだ。恐いという感情を、必死に恋しいという感情に変えて。だが、それはあくまで現実の話だ。

「そ、それは君の事情だろう、これは夢で」

「まだそんなこと言ってんのかよ」

とん、と顔の横に手をつかれ、見下ろされる。

「なあロイ、アンタはオレのこと愛してねえの」

「うっ」

「オレ、こんなにロイのこと愛してるのに」

「うう……」

エドワードの頭に、垂れた犬耳が見えてしまう自分が憎らしい。

「なあ、入れてくれよー」

「ノ、ノックをしないでくれ……」

先走りでぬれた先っぽで散々解された穴をつんつんとつつかれて力が抜けた。

「本当に嫌なら、やめる」

ふいに落とされた静かな声に顔をあげる。先程とはうってかわって真面目な顔をしたエドワードに見下ろされて心臓が高鳴った。こんな状況であるというのに。何度でも言うが、恋は盲目とは本当によくいったものだ。

「オレだって大人だし、本気で嫌がってる相手を抱きたくなんかねえよ」

鋭かった瞳はだいぶ和らいでいる。これも年齢のせいなのだろうか。するりと大きな手に髪をすかれて目を細める。ああ、子猫のようだったエドワードは立派に成長してしまった。

「それが誰より大切にしたいやつなら、なおさらな」

そのまま頬を伝った指先が額に移動して、感触を楽しむようにさらさらと肌をなぞられる。皺がない、だなんて失礼な事を言ってじゃれつく少年のような青年に、さんざんやめてくれと騒いでいた自分が馬鹿らしくなってしまった。

「……わかった」

艶やかに口角を上げながら眉を器用に吊り上げたエドワードは、初めからロイが了承することをわかっていたようで、悔しかったが。

「わかった、わかった。君に任せる」

ああくそ。認めたくないが、手玉に取られている。国軍大佐ロイ・マスタングが29歳の青年に転がされている。普段のロイであればすぐに反撃でも考えていたところだが、相手がエドワードであればそんなことできない。しようとも思わない。むしろ。

「だが、その。あまり言いたくないんだが、少し」

情けない弱音が喉まで出かかっている。言い淀むと、ふっと笑われた。

「大丈夫、わかってる」

額に降り注ぐ口づけは優しい。小さな子のように、あやされる事にももう慣れてしまった。

「さっきまでさんざん怖がらせちまったもんな」

口に出さなかった怯えすらも理解されて、なんともいえない奇妙な恥ずかしさについと顔を背けてしまう。が、再び顎をぐいっと向きなおされて視界がエドワードで一杯になった。

「オレの中、もうロイを覚えたし、未来のロイもオレの形覚えちゃったから」

顔を背けることを許さないのは今も未来も変わらないな、なんて、思ってしまう自分がいる。

「今のロイも、オレの形覚えてよ」

耳元で囁かれた今より少しだけ低い声に、ぞっと粟立つのは快感にも似た衝撃だ。

「足もって、開いて」

思考が麻痺したように、言われるがまま自分の足を持ち上げる。エドワードが愛しいという感情が肺いっぱいに広がって、剥き出しになった太ももの裏を大きな手のひらで撫でられわすれていた快楽の波が体中を這いまわる。

「力抜いてて、ロイ」

くるべき衝撃に備えて、小さく息を吐く。その直後だった。

「……ぐッ」

めりめり、と切り裂く様な重さが体に圧し掛かってきたのは。

「く……ッかは、ぁッ」

「はっ……すっげ、キツ」

力を抜く、という言葉も一瞬で忘れた。それほどまでの、衝撃だった。

痛みは、思っていたよりも少なかった。だが、苦痛ももちろんあるが、それを凌駕するほどの圧迫感と肺を押し上げられるような嘔吐感がすごい。

「痛いな?大丈夫、ここ過ぎればあと楽だから。息吐いて」

「~~~ぅ、ん゛ん」

ここ、というのはどこのことを言うんだ。形からいって先の部分の事なのだろうが、呼吸すらもままならないこの状況下では今まさに繋がっている部分を見ることもできない。息をつまらせ、ただ仰け反り衝撃に犯されながらシーツに頭を擦り合わせるだけだ。

「焦んなってロイ、経験者のいうこと信じろよ」

こんな時まで冷静なエドワードが憎たらしい。忙しない呼吸を繰り返す胸元をぽんと叩かれる。それを合図に自然と肺が収縮し始めた。すっと胸に吸い込まれてゆく酸素に、痛みと圧迫に奪われていた思考がゆるゆると正常に戻ってゆく。

「そう、息はいて、吸って。上手だ、いい子……」

ぽん、ぽんとあやしてくる手のひらにそって、吸って吐いてを繰り返す。その間もじわじわと腰を進めてくる辺り、抱きなれているとしか言いようがない。

「っは、食いちぎられそ」

エドワードの言うように、ある一定の部分を過ぎた頃からすっと痛みが収まった。全部埋まった頃には、異物感は凄いが、最初の頃のような目が裏返るほどの圧迫感もだいぶなりを潜めていた。入れ方がうまいのか、それとも、ロイの排泄器官が相当タフで、受け入れるのに適しているのか。どちらもいやだが、どちらかというと前者のほうであってほしい。

「でもすぐ広がる、若いからかな」

やっと余裕が戻ってきたので、視線を移せば頬を上気させるエドワードと、突き刺さったエドワードの性器が見えた。串刺しにするのではなく、されている事実に眩暈がしそうだ。

ついに。抱かれてしまった。声を上げて泣き出してしまいたい衝動に苛まれる。

「凄い、ロイの中すごくうねってる」

やめてくれ、そんな恍惚とした表情で見下ろさないでくれ。そう言いたいのに、あまりにもエドワードが嬉しそうな顔をするものだから何も言えなかった。

「なんか夢みてえ、同い年のロイ抱いてるなんて」

ぴったりと抱きつかれて、お互いの鼓動が肌に伝わる。湿った肌が心地よい。

「私も、夢、みたいだよ」

夢、であるはずなのに、そんな言葉が出たのは無意識だ。なんにせよ、どくどくと同じリズムを刻む鼓動をもっと感じていたいと思った。

「ロイ、可愛い、可愛い、あー、可愛い」

ぎゅっと抱きつきそんな言葉を連呼する青年に、君のほうが可愛い、と透き通る金髪に指を差し入れる。ピクリと反応をしめしたエドワードに気分をよくして、夢見心地のまま好きだよ、と囁きながら真横にある頭に軽く口付けてやれば、がばりと起き上がった青年に腕を掴まれシーツに押さえつけられた。

「おい」

「ロイが悪い」

舌舐めずりをしたエドワードに、はやまったと思ったがもう後の祭りだった。

ぐんっと勢いよく腰を穿たれ、再び襲いかかる衝撃に体が仰け反る。

「ッぁ゛!」

それでも、早めたり逆に遅くしたりと、緩急をつけて貪ってくる腰の動きは理性を保っている。いっそのこと理性を飛ばしてガツガツと抉られてしまえばこちらも都合がいいのに。

「ここな、ロイが一番好きなとこだよ」

異物の動きに慣れてきた所で腰をぐるりと回され、ごりっと浅い部分を弄られれば、びりりと背がしなった。無意識の内にぎゅっと締め付けてしまう。なんだ、今のは。前立腺の、少し上の部分だった。

「これもされると、たまらないって喘ぐ」

そこを重点的に抉られながら、さらに胸元の尖りに舌を這わされ瞼の裏が点滅した。

「ぅっ……ん」

「な?きもちいいだろ」

自分の意思に反してふるふると震える体をやんわりと押さえつけられ、つんと尖った胸の先を指の腹でこすられながら同じポイントを責めたてられ、悲鳴のような嬌声が漏れた。

「ぁ、ァああッああ゛!」

ぱんぱんと、肉と肉が激しくぶつかりあう。ぶちゅぶちゅと上がる湿った水音が、聴覚すらも犯し脳内をぐずぐずに溶かしてゆく。腰をずんっと突かれるたびに、立ち上がった性器がぶる、と自身の腹に打ち付けられて、それすらも快感に変わる。粘ついた液をとろとろとこぼす自身は、湯気がでそうなほどに熱い。うちよせる未知の疼きに、白がかった視界の隅でそれをただ眺めていると、エドワードが手を伸ばすのが見えて目を見開いた。

「まっ」

それだけは、ダメだ。そんなことをされてしまったら。

「だぁめ」

「……っぅう゛ゥ!」

制止も虚しく、限界にまで張りつめているそこをぎゅっと握りしめられ、臀部が痙攣した。腰の動きと相反するように擦られ、先に爪を立てられ、太い血管をなぞるように零した液体を擦りつけられればもう視界が真っ白になった。

忙しなく肺を行き来する荒い呼吸と共に、甘い息を零す鼻先をシーツに擦りつけてとてつもない悦楽をやり過ごす。

「隠す、なって、見せて、ロイが感じてるとこ」

「う゛ッ、ひっ、んぐ、ぅ゛」

もう自分が何を口走っているのかわからない。胸も性器も中も同時に責めたてられて、女のように喘ぐばかりだ。そんなみっともない自分の声にすら刺激されているのだから、たまったもんじゃない。

「ロイ、なぁ、気持ちいい?」

とぎれとぎれになる思考のまま、朝の光に照らされ逆光で黒くぼやける青年を見上げる。揺れる視界に、気持ちよさそうに半開きになったエドワードの口元が見えた。

「な、いい……?」

弄りまわされて液体を吹き零している自身の竿も、つねられすぎて腫れ上がった胸の尖りも、繋がっているそこも、全てがエドワードを感じて、途方もない快楽に喘いでいる。けれどもそれ以上に、自分の体で感じてくれているエドワードの存在が、何よりも一番満たされるものだった。

熱に浮かされれたまま、破けんばかりにシーツを握りしめていた両腕を上げる。

「エドワード」

そっと頬を両手で挟み込み、ぐっと引き寄せる。力を入れていなくとも、エドワードは目を見開いたまま落ちてきた。目いっぱいに広がるエドワードの顔。髪の生え際、高い鼻梁、掘りの深い造作、釣り上がった大きな金色。触れても触れてもまだ足りない、エドワードの甘い唇。薄く開いたそれに自身のそれを深く重ねる。

舌を絡めるものでもない、静かに繋がる、優しいキス。

「愛してるよ」

どんな姿になったとしても、何年の月日が流れようとも、この気持ちは尽きることがない。

どうか伝わってほしいと願いを込めて、食いつくように何度も唇を啄む。ぴたりと動きを止め、優しく表情で激しくかき抱いてきたエドワードに想いが通じた事を知る。

「オレも、オレも愛してる、ロイ」

「ああ……」

もう小さくない体でも、ロイよりも背が大きくても、彼の全てを求めている。

想いをつなぎ合わせることができるのなら、どんな繋がり方でも構わない。心の底からそう思えた。

「ついでにごめん」

「うん?」

のも、束の間だった。

「―――出す」

「は?」

短い一言をはっきりと宣言し、がばりと起き上がったエドワードはロイの腰を思い切り掴み上げた。

「…―――んぁあ゛!」

ラストスパートとばかりに腰を打ち付けられ、先程とは比べものにならないほどの勢いに快楽よりも衝撃に目が回る。

「んぁ、う゛ンッエ、エドッ、いっ!」

がくがくと揺さぶってくる腕から逃れようと腰を捻るもびくともしない。手のひらにぎりぎりと締め付けらた腹が鋭い痛みに呻いた。リンゴでも握りつぶせるであろうほどの握力だ。

「おい、エ、ドッ、……まッ!」

て、という制止の言葉がロイの口から紡がれることはなかった。

「………っゥ゛」

ぶるりと震えたエドワードが低く呻き、熱い迸りを体の最奥にぶちまけられたからだ。

「~~~ッぁ゛」

じわじわと体の奥に広がってゆく感触に、ロイも首を振って仰け反り、果てた。

奥の奥まで繋がり激しく痙攣するそれからとんでもない量の液体を余すところなく注ぎ込まれながら、自身が放出した液体が腹にぶちまけられる感覚に悶える。未だ硬度を保つそれを何度か前後され、長い時間をかけて全て出しきられた頃には、極度の脱力感に視界がぼやけ、意識がどこかに持っていかれてしまいそうになっていた。

「あ、そろそろか……」

堰き止められていた血管が、耳元で勢いよくどくどくと流れでる。

ごうごうとぼやけた音に混じって、小さく掠れたエドワードの声が落ちてきた。

目を開けて青年の姿を確認したいのに、重くて瞼を開けることができない。世界が真っ白に染まっていき、だんだんと体が水の中に沈んでいく。圧し掛かっていた心地よい重さすらじわじわと消えていき、霞む思考の中でロイは力の限り腕を伸ばした。

きゅっと指先を握りしめてきた何かは、冷たい。キシと、金属が擦れる音、鼻孔をくすぐるオイルの匂い。これは。

 

「大佐、ロイ。大好きだよ。またな」

 

ぼんやりと遠いその声を最後に、ロイの思考は完全にブラックアウトした。


















 

はっと、目が覚めた。慌てて顔を横に向けると、そこにはすうすうと愛らしい寝顔たてているエドワードの姿があった。ロイの左手を機械鎧でぎゅっと掴み、抱え込むようにして丸まっている。

正真正銘の、少年のエドワードがそこにいた。

「はぁ―――」

脱力しながら、腕で顔を覆う。なにか、とてつもない夢を見てしまった。

大人になったエドワードに襲われる、やけにリアルな夢だった。夢を見ながら魘されていたに違いない、喉も枯れ、心なしか体も痛いし、なにより汗だくだ。体のあちこちがカピカピに乾いているような気もする。

「う、ん……」

もぞもぞと動いたエドワードが、ぴたりとくっついてきた。あやすように細い背を撫ぜると、先程夢の中で縋りついていた逞しい背中を思い出して体が冷えた。エドワードの背中を確認するとそこには爪痕らしきものもなにもない。夢うつつのまま爪を立ててしまっていれば最悪だったが、そんな事もなかったようだ。ほっと、一息つく。

「う、ん、たいさ……?」

目を擦りながらぼんやりと目を開ける愛しい子ども。はねる心臓をなだめすかせ、おはようと微笑んでやれば、ロイの姿をとろけた金色でじっと見つめていたエドワードの顔が、徐々にくしゃりと歪みはじめた。

「どうした?」

やはり、夢うつつの状態で何かしてしまったのだろうか。そういえば、やけに痛みもはっきりしていたし快感もしっかり感じることのできる夢だった。もしかして寝ぼけたままエドワードに無体を働いてしまったのだろうか。

慌てて顔を覗き込むと、エドワードは今にも泣き出しそうな顔でロイの胸元にしがみついてきた。

「う、わぁあ~~」

「鋼の、どうした!?」

妙な奇声を発した声の主は、困惑するロイに構わず顔をぐりぐりと埋めてきた。どういう対応をすればいいのかわからず優しく抱きしめ、その絹のような髪を何度もとかしてやる。

「すまない、何も覚えていないんだが、もしかして君に何かしてしまったか?」

「ちっ、ちがっちがぅうッ」

違う、違うと否定しながらもっとすりよってくる華奢な体。大事なエドワードがこんな状態であるというのに、どこかホッとした。顔に鼻を埋めてすっと吸うと、肺にしみわたるエドワードの太陽のような体臭と、オイルの匂い。未だに鼻の奥に残っている、夢で嗅いだ雄の色香はどこにもない。

「オレ、オレ」

「うん、どうした」

「変な、夢見たんだ」

「夢?」

「うん」

ぐずぐずと鼻を啜るエドワードの頭に口づけ、どんな夢だい、と腰をなぜ続きを促す。ロイも先ほど、悪夢のような幸せな夢をみたばかりだ、もしかしたらエドワードも嫌な夢でも見てしまったのかもしれない。どんな夢なのだろうか、弟がいなくなる夢だろうか、それとも人体錬成をした時の夢か、はたまたロイがいなくなってしまう夢だろうか。心配になってエドワードの顔を上げる。わなわなと奮える唇はとても痛々しいのに、愛しさが募る。ちゅっと柔らかく口づければ、拙いながらも吸い付いて答えてくれた。

「なんか、な」

「うん」

「43歳の大佐に、襲われそうに、なる夢」

―――びくりと、機能の全てが停止した。

「び、びっくりしてさ、大佐に、すっげえ似てて、でも大佐じゃなくて……やっぱり歳とってて、でも童顔は変わってなくて、少し目に皺が入っててなんというかすごく、色っぽかったんだけど」

安心できる人に抱かれているせいだろうか、エドワードはぽろぽろと胸に溜まっているものを吐き出しはじめた。顔を赤らめて、今にも泣き出しそうな顔で必死に言葉を紡ぐ様子はとても心に響く。いつものロイであったならば、震える体で自分に甘えてくれるエドワードに柔らかな笑みを浮かべて慈しんでいたかもしれない。しかし残念なことに、今のロイにそんな余裕はなかった。

「めちゃくちゃリアルな夢だったんだ、なんか錬金術でオレがこっちに来たとか、29歳のオレは大佐んとこにいるとか、今頃楽しんでるだろうとか、15歳のオレ可愛い可愛いとかい、いろんなとこ触られて」

混乱した口調は幼い。幼いからこそ、エドワードの言葉が冷えた脳内にじわじわと染み渡ってゆく。

耳を塞ぎたくとも、かちかちに固まった腕はエドワードにしがみつかれていて動かせない。

「パ、パニクってたら、あっという間に押し倒されて、く、咥えられて、な、なんかしんないけど抱かれそうになって、オ、オレ、驚いちゃって、怖くて、やばいやばいって思ってた時に、『そろそろか』とか自分の声が聞こえてきて、あっでも、ちょっと低い声だったけど、たぶんオレの声。それで、頭の中真っ白んなって、引っ張られてくような感じがして無我夢中でもがいてたら大佐の腕があって、オレ嬉しくて握りしめて、そんで、それで、目が、覚めた」

要領を得ない語り方で一気にしゃべり終えたエドワードは、はぁとため息をついてきゅっと体に抱きついてきた。

「こ、怖かったな~本当にリアルな夢でさ、手首にキスされたりとか、―――ってあれ、赤くなってる」

エドワードの手首には、小さなアザができていた。まるで、キスマークのような。

「変な夢だった、でもよかったよ夢で……」

心底ほっとした、というように溜息をついたエドワードのつむじを見下ろす。ちなみに、昨日ロイはエドワードを抱いたが、そんな所に口付けた記憶はない。それはつまり、それはつまり。

「大佐?」

いつものように抱きしめ返してくれるでもなく、じっと沈黙しているロイを訝しんでエドワードが顔を上げた。

「大佐、どうした?」

「鋼の」

「なに?」

「やらせてくれ」

「……は?」

有無を言わさず押し倒す。ぼふんと倒れたエドワードの後ろ、シーツの一部がしわくちゃになっているのが見えた。まるで、力の限り握りしめたような。ちょうど、夢の中でロイが大人エドワードに抱かれている時手を置いていた場所だ。夢の中で。

「君を抱きたい」

「ってまて、おい、朝っぱらからアンタ!」

ぎゅっとエドワードの剥き出しの股間を握りしめる。手のひらに伝わるそれはへにゃりと垂れ、感触はもちろん小ぶりだ。

「わぁあああ何してんだ!」

いきなり性器を弄られてぎゃあぎゃあと騒ぐエドワードを押さえつける。細い腕は簡単に組み敷くことができた。

「いやだ、止めろ!オレ午前中にここ出るんだって!」

大の大人と少年が、朝日差し込む広いベッドの上で取っ組み合う。ロイがエドワードに覆いかぶさるため体に力を込めた瞬間、臀部からどろりとした何かがあふれ出た。見れば、ロイ自身の腹にも何か白いものがへばりついているのが見える。背筋が凍ってしまいそうなほどの冷たい感触。そして、強い力で掴まれたように手痕が残った腹部も。

―――大声を上げて泣きだしてしまいそうで、ロイは縋りつくように愛しのエドワードに襲いかかった。

「っすまん、聞けない。今直ぐ君を抱く!」

「わーー、ちょっとまて!」

「頼む!なんだかよくわからなくて今にも死んでしまいそうなんだ!」

「なんだかわかんねえのに死にそうってなんだよ!」

「鋼の、愛してる、愛してるから、な!」

「はあ?!こんな状態でそんな言葉言われても嬉しくなっ……ちょっ、あっあぁんッ」

まだ目も覚めぬ朝方から、エドワードは成す術もなく、強制的な快楽の海に叩き落されいった。

寝汗にしてはやけに湿った、シーツの上で。

「もっ、アんッ、ふぁ、ぁああんっ、ばかー!」






 

その後エドワードはロイの気が済むまで(精神が落ち着くまで)獣のように貪りつくされ、案の定出発が二日間ほど遅れた。三か月ほど口を聞いてくれなくなったエドワードに、ロイが謝り倒すのはまた別のお話。





 

☆喧嘩しました

**───────────────────────────おまけ

 

​​


 

「やあ、おかえり」

「……ただいま」

「汗だくだな、若い私はよかったかね」

「……オレ、戻ってきたのか」

「おかえりとさっき言っただろう、その歳でボケか?」

「あー、こっちのロイほんと生意気」

「あっちの私は可愛かったのか」

「アンタこそ、それ似たような質問だぞ、ボケたのかよ」

「こちらの君は生意気だなぁ」

「ふふっ」

「で、どうだった」

「最高だったよ。アンタってば可愛くって、だってオレと同い年だぞ?」

「ほう」

「もう怯えちゃって、いちいち反応が新鮮だし、途中までオレに抱かれるだなんて思ってなかったから形勢逆転した時なんかもー慌てて混乱してて」

「ほう」

「っていうかアンタもうその時の記憶あるんだろ?」

「ぼんやりとな、今戻ってきた」

「そういうもんか」

「そういうものだ。15歳の君も可愛らしかったぞ」

「ふぅん、その頃ってまだ旅してた頃だよな」

「機械鎧の臭いが懐かしくて」

「オレも嗅いでみたかったな」

「三つ編みしてれば完璧だった」

「朝だったし、夕べもお盛んだったっぽいから乱れてただろ」

「少しだけ湿ってた」

「やっぱり」

「あと震えていた」

「可愛いな15歳のオレ」

「困惑してどうしたらいかわからない様子だったよ、必死でこれは夢だと頭を抱えている様が面白かった」

「へ~、そんないたいけな15歳の少年を抱いたんだ、ドエスめ」

「いいや」

「はい?」

「私は抱いていないぞ、15歳の君を」

「なんで?」

「泣いて嫌がられたからな」

「……うそ」

「残念ながら本当だ。あの頃の君は本当に純粋だったんだなぁ。大佐じゃないって震えながら拒まれて、困ったよ」

「……」

「記憶、戻ってきたか」

「ぼんやりと」

「そんなもんか」

「そんなもんだな」

「それなのに君は」

「なんだよ、怒ってんのかよ……」

「ものすごく」

「なんでだよ!だ、だってアンタがオレを過去に送ったんだろ!しかも抱いてこいって言ったじゃないか、それに拒まれたってことはロイもやろうとはしてたんだろ!」

「……」

「途中まで進んだとみた」

「それはそれ、これはこれだ」

「ロイ!」

「君にアンタ、と呼ばれるのも新鮮だなぁ」

「ロイ~~」

「昔の私と混じるのもかまわないが、もうそろそろ私だけのエドワードに戻ってくれてもいいんじゃないか?ん?」

「そうやってはぐらかす、ほんと可愛くねえ」

「私は今の君を可愛いと思ってるよ」

「15歳のオレより?」

「別の味がある」

「そこは嘘でもそうだよって言えよ!」

「しょうがないじゃないか、エドワードならば全部愛しいんだから」

「わっ」

「……おかえり」

「ただいま……って言いたいところだけど、なんだよこの体勢は」

「愛しい君を押し倒してる」

「なにおっ起ててんだよ!朝っぱらから!もうそんな歳じゃねえだろ」

「いいから付き合え、久々に燃え上がったのに据え膳を食らったんだ。収まりがつかん」

「このじじい、昨日までへばってたくせに」

「昨日は仕事の疲れが本当に溜まっていて、起き上がるのも億劫だったんだ。なあダーリン。そろそろ機嫌を直してくれないかい?」

「ふん」

「抱き合いたかったのは本当なんだよ、いつだって私は君を感じていたいんだから」

「どーだか、そういうわりにはオレが必死に誘ってもその気になんなかったくせに」

「エドワード」

「うっせえ」

「エディ」

「オレは、さっきまで若いアンタとお盛んだったんだ、疲れたからしない、以上」

「君をあっちに送ってみたのは、もう君が私としたくないんじゃないかって思ったからだよ」

「へー」

「それに、まさか本当にうまくいくとは思っていなかったんだ。今度学会で発表しようか、ふざけたつもりだったんだよ」

「結果としてうまくいったじゃねえかよ」

「エディ、頼むよ、今日は私が上になるから」

「……え?」

「私はまだまだ現役だよ、40代の性欲を舐めないで頂きたい」

「嘘つけ、いつも疲れるからってマグロのくせに」

「エドワード、君本当は、私に抱かれたかったんだよね?」

「……」

「沈黙ということは、肯定ととっていいかな?」

「うるせえハゲ」

「しばらく頭皮の心配はしなくていい、まだまだフサフサだ、下も」

「うるさいデブ」

「私よりも最近あぶないのは君の方なんじゃな……」

「あーもううるさい!生意気!嫌いだ!」

「嘘つけ」

「嘘だよ!大好きだばか」

「ふふっ」

「……」

「しようか」

「エロじじい」

「君も三十路手前のおじさんのくせに」

「ほんとに、上なのかよ?」

「もちろん、今夜は寝かせないよ」

「ぜってーアンタ寝るに一票。歳だからな」

「そんな事言われたらなおさら頑張らなくてはならないな」

「こういう時だけ、ずるい」

「君は若い私を想う存分抱いてきたんだろ?いいから黙って、エロじじいに抱かれなさい」

「もっといい誘い文句ねえの?!」

「死ぬほど愛してるよエドワード。君の匂いがたまらない。流れる髪一本先まで私のものにしたい。君を抱きたい。君に突っ込みたい。君を舐めて君をとかして君の中を味わって君の中に溢れんばかりに射精したい」

「わ───!」

「照れないでくれ、可愛すぎる」

「もうやだ……29歳のロイだって可愛かったのに」

「男らしくて色っぽい君に翻弄された思い出がちらほら脳裏をよぎるな」

「オレだって、歳とったけど童顔は変わってなくて少し目に皺が入っててなんというかすごく色っぽいロイに咥えられた事思い出してきた」

「君だって思い切り腹を掴んできたじゃないか、なかなか取れなかったぞ。しかも中出し逃げだ」

「なんだよその妙な語呂は。アンタだって手にキスマークまでつけやがって、泣いてたオレに指まで入れてきただろ」

「それはそれ」

「これはこれだな」

「なんだ、君もだいぶ覚えてるじゃないか」

「ロイもだろ。さっきまで記憶の片隅にすらなかったのに。ぼや~っと脳裏に溢れてくるもんなんだな」

「不思議な感覚だな、面白い」

「オレはちょっと気持ち悪い、感覚が」

「気持ち悪いという言い方はどうかと思うが」

「久しぶり大佐、14年ぶり」

「14年ぶりだな、鋼の」

「ふふっ」

「愛してるよエドワード、昔の君も今の君も大好きだ」

「オレだって同じだよ、バカロイ」

「これから先、何年たったとしても君だけを愛すると誓うよ」

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」

「やっぱり君が一番可愛いな」

「そんなこと言って、騙されないからな」

「どうすれば信じてくれる?」

「キスでもすればいいんじゃねえの、ダーリン」

「……仰せのままに」




 

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