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私の名前はロイ・マスタングだ。この国の国軍大佐という役職についている。

 


国家錬金術師の資格も持ちながら若くしてこの地位まで昇りつめ、上官からは顰蹙を買い下官からは恐れられる存在、それが私だ。

ちなみに現在29歳でまだまだ若くてぴちぴち。そういえばついこの間、巷の雑誌で『抱かれたい軍人ナンバーワン』に輝いていた。まあ当たり前だろう。私の栄光に悔しそうな顔をしていた部下には心底哀れみを覚えた。そんな顔しても私が世の女性達にモテている事実は変わらんぞと肩を叩いてやれば膝から崩れ落ちていた。そういえばこの間また彼女に振られたとか言っていたな。どうやら彼女が私のことを好きになってしまった……というか、私に近づきたいがために部下と付き合うようになったらしい。アホだ。彼女ではなくて部下が。そんな女の裏の顔なんて数言会話でもしてみればわかるだろうに。

実際マスタングさんとお話ししたいの取り持ってね、と言われるまで気がつかなかったらしい。やはりアホだ。実直な所が部下のいい所ではあるが、あれは逆ハニートラップには向かんな。

 


まあ、これらの事実からもわかる通り、つまるところ私は顔がいい。

サラサラとした短い黒髪に黒い瞳。金髪碧眼の生粋のアメストリス人が多いこの国家においては珍しいともいえるこの色。エキゾチックでステキ、と何度女性達に羨望の眼差しを向けられたことか。
さらに言えば、私は頭がいい。おまけに声もいい。まさに頭脳明晰容姿端麗声帯魅惑。

私が甘いマスクを被って少しほほ笑むだけで、女性らは蜜に吸い寄せられる蜂の如くふらふらと傾いてくる。錬金術を使って酸素濃度を弄り私に恋心を抱くように仕向けるまでもない。
東方司令部の管轄を任されている私が、部下を引き連れ街を歩けば、「マスタング大佐!」と女性の人だかりができて大変だ。そつなくあしらっているつもりだが、彼女たちと関わる男たちは、やはり面白くないのだろう。街ゆく男たちからの視線が毎日痛い。歯ぎしりの音まで聞こえてくる。故に私は男の敵が多い。だがそれは、ある意味で都合がよかった。

 


ロイ・マスタングは女好きという巷の噂を、有効に活用させて貰えるからだ。

 


私が女性とデートをするのはひとえに昇進のためだ。

それも、軍部の情報を仕入れた娼館や夜のバーで働く女達や情報屋の女が主であり、一般女性とそういった関係になることはほとんどない。時々、お偉い老害将軍の娘の接待を任され、大きな屋敷でぬくぬくと育った娘を紳士らしくエスコートすることもあるが、それは男女の関係ですらないままごとのようなものだ。
『女好き』という顔は、情報を得るために役立つ。だから敢えてそういった体を装っている。軍に身を置く人間として私はそうしなければならないのだ。

ベッドの上で女性の耳元に甘く囁くのも、技巧を尽くして相手を喜ばせるのも、ひとえに上を目指すためだ。本来の私の姿ではない。
そう、私は常に分厚い皮を被って生きている。自分を隠している。そうしなければならない。バレてはならない。本来の私の姿は、絶対に。
幼い頃から隠している、私の本当の───性癖は。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


自分の性癖を自覚したのは、10歳の頃だ。


喧嘩相手に頬をぶたれた瞬間、私の世界は色づいた。

ぶたれた衝撃で体が傾き、地面に倒れ伏した私は、半ば茫然と地面を見つめていた。口の中に入った砂の味すら気にならないほど、凄まじい衝撃に打ち震えていた。
あの時の衝撃を例えるのならば、そう、一瞬にして脳髄が弾け、私の中に新たな世界が創造されたような感じだ。まさにビッグバン。進化論もびっくりだ。もう名前も顔も思い出せぬ近所の悪ガキが、私の新たなる世界の創造主となった瞬間だった。
頬を打たれただけでは終わらず、複数人の子供達に、よってたかって蹴られた。
顔を覆い、地面に倒れ伏したままでよかった。顔を見られなかったことが幸いだった。きっと見られていたら、一目散に逃げられていただろう。
体のあちこちに鋭く入れられるキックが、私の心と体を震わせた。びくびくと痙攣する体。相手は私が怯えていると判断しさらに酷く蹴ってきたが、そのおかげで私は、今まで感じたことのないほどの未知なる感覚を味わうことができた。

 


──ああ、もっと、もっと。
──もっと蹴ってくれ……!

 


溢れる歓喜。そして興奮。がつがつと腹や背に入る靴裏や、肉にのめり込む靴先。さきほどまで地面を踏みしめていた汚い足に、蹴られている。沢山の足に。きっと私の白いシャツは泥だらけだろう。自分のあられもない姿を想像するだけで股間が熱くなった。

もちろん子供の力だったのでそこまで酷い怪我にはならなかったが、通りすがりの善良な大人に止められるまで、私は別の意味で死ぬかと思った。強烈なエクスタシーによって。
親のいない私は、養母に育てられた。お行儀のよい子でもあったので、誰かにぶたれることもなくすくすくと育った。養母が経営する店の女性達は姉のようで、いつも私を可愛がってくれた。それに不満もなかった。だから初めてだったのだ。こんなむき出しの暴力を受けることが。そして、それがここまで興奮するものなのだと私は身をもって知った。
あの時は暴行を止められるという悪意なき無慈悲な大人の行動に絶望もしたが、あのままの状態でずっと蹴られ続けていれば私はその場で射精しただろう。そうなる前に止めて貰ってよかったと今なら思える。
家まで送ると手を差し伸べてくれた善良な大人に感謝を述べ、好意を丁寧に断り、痛む体を引きずって帰路についた。家に帰れば目を剥いた養母にシャワー室に叩き込まれ、体についた泥を隅々まで洗われ、店の女性達に優しい手当を受け甘やかされる。温かなベッドの上に横たえられ、養母に頭を撫でられ眠りにつくことになるとわかっていた。だから私は直ぐには家には帰らなかった。

人目を避けるように人通りのない路地裏に行き、ドキドキと早鐘をうつ心臓に急かされるままシャツをぺろんと捲ってみた。案の定、ところどころ青くなり始めている肌、立体的につんと尖った乳首。しかも、普段は何事もなくぽつんと胸部に置かれている胸先が僅かに充血していた。そして、今までみたことがないほど膨らんだ股間。恐る恐る下着の中を確認してみれば、ものの見事に上をむいていた。それが勃起という現象であることを、店の女性達の影響でちょっとおませだった私はもう知っていた。

まだ幼い自分の性器がずきずきという体の痛みに合わせて、ぶる、ぶる、と上を剥いて打ち震えている。あとはもう欲望の赴くままだ。このまま家に帰るわけにもいかないからと理由を付けた私は、辺りを見回し人がいないのを確認し、もっと薄汚い路地裏まで侵入した。そして勢いよくズボンと下着を膝付近までずり降ろし、鋭い痛みが走り続ける体に荒い息を吐きつつ、シャツを咥えぷっくりと腫れあがった真っ赤な乳首が陥没する勢いで激しく爪を立て、まだ皮を被っていた性器を擦りあげた。
もちろん手の刺激だけは足りなくて、壁にもこすり付けた。まだ刺激に慣れていない、むき出しの性器をゴツゴツザラザラとした壁に乱暴に押し付け潰す様にこすり付ける行為は、思わず悲鳴を上げてしまいそうになるほどの苦痛だった。しかし私はそれを止めなかった。気づけば自分で尻も叩いていたが、止められなかった。もしかしたら見知らぬ誰かにこのみっともない恰好を見られているかもしれないという興奮と、痛みという身悶えるような悦楽が脳髄を痺れさせ、私を絶頂まで誘ったのだ。

かくして、ボコボコにされ青痣を体中に作った私は、汚い路地裏の壁に初めての白濁液を散らすこととなった。

あれから約20年、あの瞬間の恍惚は今でも忘れられない、いい思い出だ。


ここまで説明すれば、もうわかるだろう。
そう、私は紛れもなく。


生粋の、マゾヒストだった。


 

 



 

 

ロイMスタングの世界

~私は君だけのマゾヒスト~

 

 



マゾヒスト。マゾ、M、ドM。


人によって呼び方は様々だが、マゾヒストとは、他者から与えられる肉体的、精神的な苦痛を性的快楽と捉える性的嗜好を持った人間のことを言う。私は他者から与えられる苦痛を快楽と捉える人間だった。
自分の性癖を自覚してから思い出してみれば、昔からその傾向はあった、転んで怪我をして痛みを感じても、苦しいという感覚はあまりわかずそれどころか股の間が痒くなったりもしたものだ。暴力を振るわれたことがなかったため気づかなかっただけであって、私はきっと生まれたその瞬間からマゾヒストだったのだろう。
自身の性癖を自覚したその日、私は絶望した。
考えてもみてほしい。マゾヒストとは性的倒錯者、被虐性淫乱症だ。つまるところ変態だ。異常者だ。私が自分の性的欲求のまま生きていけば、私はそのうち世間から変態として認定され、社会から淘汰される存在になってしまう。蔑まれるのも哀れまれるのも好きだが(むしろされたい)、社会的に生きていけなくなることは困る。育ててくれた義母にも迷惑がかかるし、私の未来も危うい。そうなれば私が取るべき行動はただ一つ。自身に内在するマゾヒズム性をひた隠しに生きることだった。

失神するまで殴られたい、蹴られたい、傷つけられたい。

裸に剝かれて縄で吊るされたい、もう傷つける部分が見当たらなくなるまで鞭打たれ失禁したい。

公衆の面前で辱められたい、多くの人に自分のあられもない姿を見られ見下されたい。

あられもない言葉を言うことを強制されたい。

私の身の内から湯水のように溢れ出る欲望は、誰にも、家族であってもバレてはいけないものだ。

喜ぶべきことに、私はマゾヒストではあるがそれ以外は存外普通の人間だったため、普通の少年としての皮を被って生きていくことなど造作もなかった。私は表向きは成績優秀な品性方向な少年として育ち、ついには士官学校に入学するまでに成長した。
士官学校時代は、一言でいえば最高だった。
もちろん四六時中、同世代の男と共に生活しなければならないというのは大変だった。自身の性癖がバレないように生活するのに苦労した。
しかし上官による指導という名の過度な暴行のおかげで、毎日痣だらけになり、へとへとになるまで体力を搾取され、さらには罵られることで精神的苦痛も得ることができる環境は素晴らしいの一言につきた。
激しく暴行され、痛みと熱に苦しむシーンを妄想しながら自身の体を傷つけ、日々オナニーに耽り性的欲求を慰めていた私にとって士官学校は天国だった。何度訓練中に勃起しかけたことか(実は何度かした。周りにバレなかったのは不幸中の幸いだった)。
特に感激したのが上級生による下級生虐めだ。私はこの見た目や成績から士官学校の中ではなかなか浮いていて、有難いことに目を付けられるのも早かった。さすが男所帯と言うべきか、私に対する虐めも日に日に激しさを増してゆき、ついには集団に囲まれた。

一般的な感覚で言えば、それは地獄のような出来事だったのだと思う。
しかし私は生粋のマゾヒスト。まるで夢のようなひと時だった。今でも思い返しては抜けるレベルだ。
子ども時代に与えられた苦痛よりも、もっと激しい苦痛の嵐。年若く、血気盛んな青年たちの本気の殴打と、蹴り。やられっぱなしでは不審がられるためそれなりに抵抗もしたが、多数に無勢だ。私はまるで玩具のように床に倒れ伏しては体を抱えあげられ、腹や頬を殴打された。夢にまでみた暴虐に私の心は躍った。
必死に歓喜の悲鳴を堪えつつわざと相手を煽るように睨みを効かせ、長い時間をかけて、屈辱と悦楽に塗れた暴行を味わった。
しかし、私の幼い顔立ちに興味があった集団の数人かに押さえつけられてあともうちょっとで尻を掘られるという所(ぶっちゃけ指は突っ込まれた)でタイミング悪くまたもや善良な人間に止められた。善良な人間というのはどうしてこうもことごとく私の邪魔してくるのか。まあその時止めてきた男が後の私の親友となるので、結果オーライともいえるのだが。

 

 


──今思えば、あれが私の人生の最高潮だったと思う。

 

 


彼等には感謝している。夢にまでみた最高の暴力を与えて貰ったのだ。しかし理不尽な暴行という行為自体には腹が立っていたので、きっちり落とし前はつけさせてもらった。
だが残念なことに、凄惨な暴行事件を経験し戦地でのつらい経験を経て、焔の名を物にし大佐の地位を得てからは、私に物理的な攻撃を仕掛ける人間は現れなくなってしまった。テロリストですら私の名を聞けば恐れ慄き震えあがる始末。毎日毎日、上官に軽い嫌味を言われる程度。物足りないにもほどがある。
士官学校時代の暴行事件に加担した末端の人間は、その後も士官学校を止めることなく卒業し軍に在籍していた。しかし私はあっと言う間に彼らの上官にまでのし上がってしまったため、私と彼らがすれ違うことがあっても何かが起こるということは皆無だった。むしろ青ざめ土下座までしてくることも多々あった。どうやら私からの報復を恐れているらしい。全くもってつまらない。

私は土下座をされたいわけでも見下ろしたいわけでもない。土下座をした頭を靴の裏で踏まれ、蔑みの瞳で見下ろされたいのだ。せめて当時お前が男に犯されそうになっていたことをバラすぞと脅しでもかけ、暴力の限りをつくせばいいものをそうする気配すら見せない。全く権力に弱い連中め。
しかし、例え下官や上官からそのようなことをされても素直に悦んではいられない。国軍大佐という地位にいる私が、簡単に辱められることなどあってはならないからだ。国軍大佐としての周囲から見える威厳を保ったまま、自身の性的欲求を満たす。それはとても困難なことだった。
馴染みの娼館の女性達を前に自身のマゾヒズム性を曝け出し、万が一でもその情報が漏れてしまえば厄介だ。娼館を訪れる薄汚い狸爺共に私の性癖がバレ、ロイ・マスタングは女性に鞭打たれ蝋燭を垂らされれば涎をまき散らして喜ぶ大変態だとマスコミに情報を流されれば、『抱かれたい軍人ナンバーワン』の範囲外に落ちるどころか私がこれまで積み上げてきた権威が失墜する。

私の部下は私を見捨てたりはしないだろうが、きっと副官は死んだ魚のような目で私を見下し、残りの部下は見てはいけないものを見たとでもいうように目を背けるはずだ。

なんてことだ。想像するだけでも興奮す……いや、恐ろしい。
国軍大佐としての威厳は下げられない。自身の性癖とは別に、私には上を目指すという野望がある。今のポストにいることによって性的な不満は募るが、自身の夢のためには避けられぬ道だ。私はこれからも昇進してゆくだろうが、それに伴い私の性的嗜好を満足させてくれる人間は現れなくなってしまうのだろう。なんとも悲しい事実だ。

 

 


権威あるマゾヒストは──孤独である。
 

 

 


歴代の権威も名声もあるマゾヒストたちは、一体どのように性的鬱憤を晴らしていたのだろうか。

私が本当にしたいことは女性の耳元で甘く囁くことでも、女性の体を優しく愛撫し、しならせ、あられもない恰好で艶やかな嬌声を上げさせることでもない。


殴られ蹴られ鞭うたれ、あられもない恰好で、苦痛と快楽に喘ぎ、苦悶に悶えたいのだ。

鋭い言葉で、虐げられたいのだ。冷たく蔑まれたいのだ。

自分はマゾヒストであると、大声で叫びたいのだ。


もう、部屋で一人でスパンキングをしながらオナニーに耽るのは寂しい。
自分で作った玩具で体を酷使するのにも限界がある。それに毎日仕事があるため激しい傷もつけられない。社会にでると大変なことばかりだ。それに何より、本来の自分を隠し、こそこそと自身で自身を慰めているというのが虚しい。
いつか、愛し愛された上で、とことん私を辱めてくれる人間が現れてくれたらと。私は決して叶うはずはないだろう空虚な願いを胸に、忙しい日々を過ごし続けた。

そんなある日私は運命の人と出会った。恋をしたのだ。しかも初めて自分から。
これまでのゲーム感覚に満ちた恋愛とは違う、本気の恋だった。

 

 


相手は、エドワード・エルリック。
私が推薦し、今は私の部下という立ち位置になっている、12歳で国家錬金術師の資格を得た天才少年だ。彼はかつて禁忌を犯し右手と弟を持っていかれ、左足で弟の魂を鎧に定着させた。生意気な言動が目立つが、家族想いの正義感溢れる子どもだ。今は弟と共に各地を飛び回り元の体を戻すための旅をしている。
エドワードに恋愛感情を抱いたと気づいた瞬間、私はまたもや絶望した。人生において二度目の絶望だ。一度目は自身のマゾヒズム性を自覚した時。しかし今回は一度目よりも強烈でいて、泥沼のように深い絶望だった。

同性に犯されるという行為を強行されれば体は猛烈に興奮するだろうが、その行為自体を受け入れられるかというと話は別だ。私はマゾヒストであるが、恋愛対象は今まで女性だけだった。

そう思っていた私が、男の、しかも男の子に恋をした。初めはそんな感情は抱いていなかったはずだ。

親を蘇らせようとした子供に怒りを覚え、憐れみすら覚え、道を提示した。不謹慎にも引きちぎられた腕と脚が自分だったらと痛みの快楽を想像し興奮したことは認めるが、それ以上でもそれ以下でもない存在だった。

 

そのはずなのに。


その金色に焔を宿し、前に進むと決めた子どもに尊敬の念を抱いた。

各地を飛び回り力強く走り回る姿に、目が離せなくなった。

次第に彼のことが頭から離れなくなった。気が付けば、心の中には常にエドワードがいた。エドワードを前にすると、激しく鼓動が脈打ち、体中が熱を持った。激しい恋だった。
しかし、これは叶うはずのない恋だ。14も年下の少年に、私を罵ってくれ、殴ってくれ、蹴ってくれ、鞭で叩いてくれなんて懇願することはできない。してしまえば気味悪がられドン引きされ、二度と口を聞いてくれなくなるだろう。普通に好きだと告白し仮に了承を得られたとしても、いつかはボロが出る。

私が被ってきた『普通』という仮面を、エドワードの前でも外さないようにできるかと言えば自信がない。

誰もがうらやむような可愛らしい恋愛など私にできるはずがない。きっと我慢ができなくなり、信頼を向けてくれる愛らしい子供に、その機械の右手でボコボコに殴ってくれ、その機械の足で私の股間を踏み潰してくれと素っ裸で迫ってしまうだろう。エドワードが表情を凍らせる姿が容易に想像できる。眩暈がしそうだ。


ダメだ。この恋は破滅だ。私は必死に堪えた。

 

エドワードへの恋心がこれ以上育たぬよう自身の気持ちに蓋をしてエドワードに接した。

これまで性癖をひた隠し通して生きてきた私に、できないはずはない。しかし人間の欲とは愚かなもので、恋愛感情には逆らえなかった。大人げなく何度もエドワードに嫌味を投げかけ、からかい、ブチ切れたエドワードに罵詈雑言を浴びせられた後にいそいそと仮眠室やトイレに閉じこもり抜きまくった。

エドワードの不機嫌な表情を冷笑へと脳内で変更させ、エドワードの罵詈雑言を思い出し私を踏みつけるエドワードを妄想しては膨れ上がった股間を慰め続けた。
している時はいい、けれど終わった後は無様なものだ。何をしているのかと自分自身に問うても答えてくれる人間などいない。汚らしい便座に儚く散った白濁液を独り寂しく水に流す。その繰り返しだ。
それでも、毎日毎日、エドワードに対する想いは膨らむばかりだった。

まさに終わりの見えない茨の恋だった。

ああ、ああ、エドワード。君が好き過ぎてもう心が壊れてしまいそうだ。
君に酷いことをされたい。君に虐められたい。
『この無能!』ではなく、『この不能!』と罵られたい。
君にだったら、何をされてもいいんだ。

そんな叶わぬ想いを抱きながら3年間。
私を嫌っているだろうエドワードと、付かず離れずそれなりの関係を築きあげ。
この気持ちを誰にも悟らせないように、私は耐えに耐え続けた。
はずだったのだが。



 

 

 

 


どうして私は今、こんなことになっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「……ィひッィアッ、はァ゛───!!♡♡」

 

 


日が沈む少し前。厚い壁を錬成され、防音設備が整った執務室で。
「ぁあんっ、ぉァ、あ゛ァッッ♡♡、あぐッ──ッあひィッ!♡♡」
バァンッ!バァンッ!バァンッ!と連続的に叩きつけられる尻への衝撃に身体を打ち震わせながら、私は今絶賛喘ぎ中だった。下半身を丸出しにした状態で。

 

 

 


「オラオラ!もっと尻突き出していい声で泣き叫んでみろよ!気持ちよさそうに善がってんじゃねえぞこの、変態がッ!」
バァンッ!バァンッ!バァンッ!怒声に合わせて大きく開かれた手が何度も打ち付けられる。私の両尻はもう真っ赤に充血し、赤く腫れ上がっていた。それでも怒声と、強く振りかぶられる手は止まらない。デスクに縋りついている両手がガクガクと震える。この痛みという悦楽の嵐にひたすら耐えるしかなかった。股の間でそそり起つ私の肉棒から滴る透明な液体は、打ち付けてくるリズミカルな衝撃に合わせべちょべちょとデスクを汚し続け、あと数発尻を打たれれば盛大に爆発するというところまで来ていた。ところが。
「──ぁイッッ!!」
尻の間がぎゅっと締まった。おそるおそる視界をずらしてみれば、私の腫れ上がった棒の根本をハンドルのようにむんずとわし掴む小さな手のひらが。
「ヒッ、ィい痛いッ♡…あひァっ、ひぃッ♡♡」

さらに強く握られ、びくんと海老のように仰け反る。
「オレの許可なくザーメン垂れ流したらてめえのこれ、めちゃくちゃにぶっ壊す」
「……ッぁ゛ッ♡」
めちゃくちゃに、という台詞に最高に興奮した。むしろ潰してほしい。

口内に溜まった唾液がぽろぽろと零れていく私の痴態に彼はにんまりと笑みを浮かべ、私の性器を強く握り潰しながら空いている手を振り上げてきた。

生身とは違う鋼の手のひらが、バァンッ!バァンッ!と尻に容赦ない衝撃を叩きつけてくる。

勢いにずずっ、ずずっと腰が揺れ、ざらざらとした手袋にキツク締め付けられた性器が激しく擦られ、激痛が走る。たまらなかった。私は今天国にいた。
「ィ゛ッいた゛ぁッッ゛♡、て゛ッぶくろ、いた゛ッひィいんッ……!♡」
「──擦りつけやがってこの好き者、お望み通り血出るまで扱いてやるよ。出すんじゃねえ、ぞ!」
痛みを求めて自ら腰を振り始めてしまった私に彼はもっと笑みを浮かべて、なんのためらいもなくガシガシと手を動かし始めてきた。凄いスピードだ。摩擦によって煙がでそうだ。しかし私に彼の手の動きを見る余裕はなかった。まるで紙やすりで性器を扱かれ続けるような激痛に瞳がぐるんと裏返り、天井を見上げ咆哮する。本物の狗になった気分だ。
「ぁあ゛っあっア゛アあっああああ、ぁ゛アァああああァアッッ!!♡♡」
「チッ、うるせえな狗だな」
壊れたバイブのように痙攣する私に、小さく舌打ちをする彼の声は蔑みも露わに冷たかった。

尻を叩く手も止まらず、性器を扱く手も止まらない。重いはずのデスクが玩具のようにがっくがくと揺れる。脳裏にあの時の光景が蘇る。路地裏のあの汚い壁に、性器を擦りつけ痛みを味わっていたあの時の記憶だ。しかし今私の性器と尻に激痛を与えてくれるのは壁や自分の手ではない。夢にまで見た他人の手だ。

しかもその相手というのは他でもなく。


「は、鋼のッ、ォ゛ッ♡いぎッ、ぁああはが、ね゛ッの♡♡、こわれッあっ、こわれ、るウッ♡……♡ァ、で゛でる、でちゃッでるぅウッァっ♡」


私の想い人である、エドワード・エルリックその人だった。


「……あ゛アァ──ッッッ!!!♡♡♡」
頭が真っ白になり、下腹部に凝縮された熱が盛大に爆発した。バァンッ!!という大きな一叩きに合わせて、ぴゅるるるっと弾けた白濁液がエドワードの手のひらとデスクの上にかかり、端に寄せていたはずの用紙にまでぱたたっと白い線を作る。射精している間もエドワードは手を止めてくれず、今まで感じたことのないほどの放出の快感に酔いしれる。

長い間我慢させられていたためか、量が凄い。まるで噴水だ。

出しても出しても止まらない。こんなのは初めてだった。
「くは、ァ……あ……♡あァ……~~ッ♡♡」
ぷしゃっぷしゃっと、尿のように吐き出される私の精液。

びくんびくんと、自分の意思に関係なく体が痙攣する。性器をめちゃくちゃに扱きまわされ、最後の一滴まで絞りだされた私はデスクの上にへなへなと突っ伏した。

くつくつとエドワードの押し殺すような笑い声が聞こえ、どんと横腹に衝撃が走った。

予想もしていなかった重い蹴りに、あっと思った瞬間には地面だった。激しく床に身体を叩きつけられ、頭と腰に響いた鈍痛に咳き込む。

こつ、とエドワードが革靴で床を踏みしめ、そのまま私の上に跨った。

信じられなかった。今私を蹴り上げたのはこの少年だろうか。​​下から見上げるエドワードの姿は圧巻だった。夢にまで見た構図だというのに現実味がない。いつもはこちらを睨み上げる鋭い金色が、嘲りや蔑みを湛えたまま私を見下してくれているだなんて。
「あーぁ、出すなっつったのに……ザーメン塗れのきったねえ股間」

「あっ……」
ぞくっとした。恐怖ではなく歓喜によって。下着とズボンを片足にひっかけたまま、みっともなく下半身を曝け出している私の姿をエドワードは嘲った。ぺっと吐き出された唾が、こんな状況下であっても天井に向かってそそり立つ、私の汚物にかけられる。

「ふぁっ」
ぴとりと水滴がかかる感覚に、私は腰を突き出し震えた。
「なに?オレの涎気持ちいいの?美味しいですか~?このマゾ野郎」
固い靴に、性器を軽く足で蹴られる。先ほどまで地面を踏みしめていた汚れた靴で。
「あぅうッ……!♡」
芯の通った性器が、ぶるんと振り子のように振れ元の位置に戻った。もう一蹴り。揺れる動きが面白いのかエドワードはそれを何度か繰り返し、抗うことなく足を自ら開き始めた私に満足げにほほ笑んだ。なんとも黒い笑みだった。
「……そのまま足を抱えてM字開脚しろ。命令に従えない駄犬にはお仕置き、だよな?」
エドワードがゆっくりと脚を上げた。私の股間の真上で。しかも機械鎧の左足。

ああ、これはもしかしなくとも、念願の。
「喜べ、お望み通り壊してやるよ」
私は鼻息も荒く、命令通りに腿の裏を抱えあげぱかりとひらいた。
おしめを変えられる赤ん坊のように曝け出された下半身に向かって、エドワードが足を振りかぶる。

「ぁああぁああああ!」

天使のような悪魔から与えられる恵みの礫を、私は恍惚とした表情で受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ことの発端は、一時間程前にさかのぼる。


本日の午前中、エルリック兄弟が執務室を訪れていた。いつもの旅の報告だ。

調べものがあると急ぎ足で帰って行った兄弟に、相変わらず嵐のようですねと、慈愛深く微笑んだ副官も既に帰路についたころだろう。昼間とは打って変わってがらんとした執務室で、私もそろそろ仕事にキリをつけて帰り支度を始めようかと立ち上がった。

と、ふいに、ぽとりとデスクの影に隠れる場所に落ちていた片手袋に目がいった。

白く、小さめの布。私のではない。エドワードの手袋だった。無造作に床に投げ捨てられていたということは、執務室を出ていく時にポケットから落ちてしまったのだろう。
手袋を拾う。あの子の手袋、と思うだけで鼓動が跳ねた。きょろきょろと人がいないのを確認してから、くん、と鼻を寄せる。仄かな鉄の香りと、エドワードの体臭。右手用だ。
「小さい、な……」
くんくんと匂いを堪能しながら、まじまじと見つめる。当たり前だ。エドワードは年齢に比べて体のあらゆる部位が小さめだ。本人に言えば怒るだろうが、大きなコップを両手で持ち紅茶を啜っていた姿は可愛いの一言につきた。副官が可愛がるのも無理はない。普段は堂々たる面持ちでいるのに、ふとした瞬間に子どもらしさを覗かせる、そんなエドワードに、私はぞっこんなのだ(死語)。
エドワードの手袋の匂いを嗅いでいると、昨晩のことを思い出す。固い床の上で裸になって喘いだ、めくるめく妄想の夜。昨日の脳内での夜のお共はエドワードの手だった。
場所は、いつもの地下室。鎖に捕らわれた私の尻を、エドワードの手が打ち付ける。悲鳴をあげる私の頬を張り、エドワードが私の髪をギリギリと引っ張り上げ、腹に重い一発を撃ち込んで来た。機械の手や脚に一切の容赦はなく、私の体はあっという間に赤黒く変色した。
エドワードは私を見下しながら、私のみっともなく勃起し雫を垂れ流す性器を指さし、触ってほしかったら狗になれと言った。
私は躊躇なく這いつくばり、床に股間を擦りつけながら、手袋に覆われたエドワードの機械の指先を舐めしゃぶった。しかし、丹念に舌を這わせてもエドワードはお気に召してはくれなかった。それどころか、この駄犬がと喉奥に固い指先を突っ込みごりごりと抉ってくる。私は咽頭を弄られる苦悶に耐えながら咽せ続け、それでも愛撫を施した。
息ができずに私の体が痙攣しはじめてもエドワードは止めてくれなかった。それどころか私が許してくれと呼気に唾液交じりの悲鳴をがぼがぼと零した途端、エドワードはもう片方の手で私の性器をずぱん!と横に弾いた。
がさがさの手袋が、強い摩擦力を伴い極限まで張り詰めていた私の性器を擦りあげる衝撃。私は白目をむいて喘いだ。ぶるんぶるんと、私の性器が振り子のように揺れる。エドワードは笑いながら、今度は裏拳でもう一発。それを10回程繰り返され、悲鳴すら上げられなくなった私は身体ごと床に倒れ込んだ。のたうつ私を革靴で蹴飛ばした魅惑の少年に、背面になれと命じられる。私は霞む意識を保ちながら向きをかえ、床にぺたりと張り付きエドワードに服従した。いつのまにかエドワードの手に握られていた鞭が、勢いよくしなり、蛇のように私の背を打った。仰け反る。それでもエドワードは止めない。高笑いを繰り返しながら、肉を削り取るかのように、ピンポイントで私の背を何度も何度も何度も責めたてて、私の背の皮膚が向けて血が噴き出し、そして────

ガタンと、椅子に靴が当たる。

気付けば一歩下がっていた。そのおかげで私の思考は、薄暗い妄想地下室からいつもの執務室へと戻った。


窓の外を見る。傾いた夕日がぴかぴかと眩しい。ああそうだ。今は現実だった。
……あぶなかった、また仕事場で意識が飛んでしまうところだった。自然と垂れていた涎を腕で拭い息を整える。周囲に人がいる時はいいのだが、人がいないと時々こうなってしまうのが悩みの種だ。しかしこれは、エドワードに対する恋心ゆえ。エドワードに虐げて貰えない哀しみと性的鬱憤が暴走し、妄想の中へ旅立ってしまう。気を付けなければ。と、自分の愚かさを反省しても、時既に遅し。
逞しい妄想のお陰で、私の股間はものの見事に膨れ上がっていたのである。

教科書に載せられるレベルの完全勃起だ。
「……君は正直だな」
もっこりと膨らんだ股間をコツコツと叩き話しかけてみても、当たり前だが股間は答えてくれない。

虚しいが、こんなことでもしないとやっていられない。妄想の中のエドワードは大胆だったが、現実のエドワードは私に股間蹴りの一つさえしてくれない。あれだけ嫌われているのになぜだ。これではわざと嫌われる態度をとっている意味がないじゃないか。侘しいため息を付き、いつものようにトイレに籠ろうかと思ったが、はたと気づいた。
今、執務室には誰もいない。私一人だ。
もしかしなくとも、今はとてもいいチャンスなのではないだろうか。部下は帰宅をすませ、もう戻ってくることもない。エドワードは午後の内に遠くの田舎町に行くと言ってイーストシティを発った。少なくとも今日、彼が手袋を探すためだけに此処へ戻ってくることも、もうないだろう。仮に人がいたとしても、大佐である私の許可なく執務室に乱入する人間はここの司令部にはいない。


今ならできる。ずっと憧れていた───執務室プレイを!


軍人としての権威の象徴である執務室という公共の場(?)で、部下であるエドワードにたんまりと虐められる。今まではさすがに勇気が出ず、仮眠室やトイレで楽しむことぐらいしかできなかったが、今ならエドワードの手袋がオプションとしてついてくる。最高じゃないか。
思い立ったが吉日だ、私はいそいそと執務室の鍵を閉め、窓のカーテンを閉め、デスクに戻った。どういう設定がいいだろうか。執務室で一人えっちをしていた私の姿をエドワードに見られ、マスコミにバラさない代わりに性奴隷になれと命じられる。よしこれでいこう。昨日は監禁ものだったから今日はあえてスタンダードで攻める。なんだかんだといって、一番興奮するシュチュエーションだ。
鼻息も荒く、エドワードの手袋をはめる。小さすぎてうまく入らなかったが、お楽しみのために無理矢理ねじ込む。みちみちとエドワードの手袋が唸る。
みちみち、いい音だ。本当に、こんな風に私の性器が潰れるまでエドワードに弄って貰えたらいいのにな。ふっと脳裏に差し込んだ切ない願望を頭を振りかぶることで払いのけ、私は目の前の現実に集中した。
この手袋の行方は誰も知らないまま闇に葬られるだろう。もし破けたとしても何度も錬成し、家に持ち帰り使い続ける。暫くの夜のお共はこの子だ。うん、いいプランだ。
「はあ、エドワードの手だ……」
手袋をはめ込んだ右手を凝視しながら、ゆっくりと勃起した股間を服越しに撫ぜる。エドワードの手が、私の股間に触れているシーンを妄想する。そのまま強く抑え込み、握り潰す勢いでわし掴む。
「はぅう……っ♡」
普段より二段階ぐらい高い声が出た。ああ、気持ちいい。みっともなく口が開いてしまう。

不思議だ、わし掴みなんて大した刺激も得られないし自分の手でやると味気ないはずなのに、視覚的にエドワードの手であると認識するだけで、こんなにも感じてしまう。改めて、エドワードに惚れていることを再確認する。


「あっ……くぅ」
『すげえもっこりしてんじゃん、一人オナニーそんなに楽しかった?なあ、いつもあんなことしてんの?』


何度か握り潰してから、そのまま乱暴に揉み扱し始める。服が擦れて傷がつくと思えるぐらいの激しさで。ああ、エドワードの手が今、私の股間をめちゃくちゃに揉んでいる。私を嘲りながら。これは、たまらん。エドワードの手袋は偉大だ。


『なにアンタ、服の上から扱かれて感じてんの』
「あぁ……君の手が、熱くてッ……」
『はは、乱暴に揉んでんのに萎えねえとか、アンタって本当はマゾ?このまま中身はみ出るまで潰してやろうか』


脳内のエドワードが、苦悶と快感に冷や汗を流している私を覗き込む。その小さな桃色の口元は歪に歪み、私の痴態を嘲笑っている。最高だ、最高すぎる。もっと痛みがほしい。エドワードから与えられる、激しい苦痛が。


「はっ鋼の……い、いた……」
『何愁傷な声出してんだよ。痛いのがいいくせに。もっとしてほしかったらさっさと脱げよ。ほら、アンタの痴態をビラにして、今すぐセントラルのあちこちにばらまくぜ?』
「かった、わかったからッ……ッ!♡」


いっそばらまかれたい。しかし、私は脅されてエドワードに酷いことをされている設定だ。

ここは従順に、少しの抵抗心を込めてしぶしぶといった体でボタンを外し、ずるりとズボンをおろす。こんもりと白いパンツを膨らます自身の性器は、パンツ越しからでも形がわかるほど脈打ちエドワードを求め脈打っていた。感嘆のため息が、エドワードの吐息に変わる。


『は、すっげえ、このままパンツ破っちまうんじゃねえの?はやく実物見せろよ』


私の許可を得ることもなく、エドワードの手が(私の手が)乱暴にパンツの中に押し入ってくる。

そのままパンツを思い切りずり下げられ、ぼろんと飛び出た竿を物のように捕まれ引っ張り上げられた。外気の寒さと、手袋のざらついた感触に背筋が伸びた。私の性器は、一般男性の平均よりは大きめだ。皮すらもたるむ程で、エドワードの両手で握りしめても長さが足りないはずだ。脳内のエドワードは、そんな私の性器を面白半分で上下左右に動かし、重さによって湾曲した歪な形を検分していた。


『あは、でけえなあ。どんな風に壊していこうか……』
「ァ゛ふッ♡……!」


壊す。残酷な一言に尻に力が入る。妄想のエドワードはどこまでも大胆だ。


『アンタが悲鳴を上げるたびに、先っぽから輪切りにするか、それとも根本からちょん切るか、紐で縛って何時間も空イキさせまくって狂わせるとか?それじゃあ簡単か。拷問用具で一日かけて潰す?裏筋の血管一本ずつ切っていく?カテーテルぶっ刺して中からぐちゃぐちゃにしてくのもいいなあ、大丈夫、生体錬成は一通り勉強したから引きちぎってもまた繋げてやるよ。そしてそれを繰り返す。なあ、アンタならどれ選ぶ?』


ぐいぐいと引っ張りながら、残酷なゲームを口にするエドワードに身震いする。快感の渦が裏筋の皮を通り、脳髄に響く。できることなら全部してほしい。喜んで足を開く。でも、一番そそられるのがカテーテルを刺され中からぐちゃぐちゃに壊されるやつだ。


『っていうか痛くされてんのにガチガチとか……玉も竿もパンパンだし、やっぱりアンタ、最高に気持ち悪いな』
「、ひッ、ぐ、ァあッ、♡!」


二つの袋をがっとわし掴まれ、球体の玩具のように遊ばれた(という妄想をした)。前に、下に、右に左に。ごりごりと擦られながら引っ張られる。強烈な刺激に、目の裏がかくかくと点滅する。


「ち゛ぎッちぎれ、るッ!かはッ……!♡」
『……きもい声』


突っ立ったまま腰を突き出した私を、エドワードは鼻で笑った。握りつぶしていた袋から乱暴に手を離し、完全に起ちあがった私の性器をつま先でぴんとはじく。ぶるんと震えた性器から、透明な液体が零れ落ちた。


『さっきのやつ全部やってもアンタ悦んじゃいそうだから……まずは、先っぽから抉ってやるよ』
「ふぁ、ふぁ♡はがねのっそこはッ……ダメ、っだッ♡」
『オレの指細いから、もしかしたら奥まではいっちまうかもなあ』
「ッあっ、ァあん、ッ、んぅ゛ッい゛ッ♡」


ぐりぐりと、熱い液体を流し続ける先端を、手袋越しの爪で押し潰される。ずきずき、と神経を抉られるような痛みは久しぶりで、みっともなく喘いだ。いつもやっていることなのに、エドワードの手だと思うだけで痛みも倍増だ。足で体を支えていられず、デスクに手をつき突っ伏す。


『うわー、汚い大佐ちんこの先から透明なの溢れてきたぜ。ねっちょねちょ』


刺激欲しさに、デスクに性器を擦りつける。エドワードがせせら笑う。


『あーあ、指じゃもの足りないんだ?しょーがねえな……おっ、いいもんみっけ』


私の手が、エドワードの手が、デスクの上に転がっているペンを掴む。


『は~、だらだら零して、みっともねえの。もっと漏らさせてやるよ』


尖った切っ先を、ばくばくと開閉している割れ目へと添える。ひやっとした無機物の冷たさ。


『逃げんじゃねえぞ。今からアンタのペンでここが再起不能になるまで、可愛がってやるんだから、さ!』
ぐじゅっと、水が弾けるような音を立てて、細いペンの切っ先が埋まった。
「かひッ゛ィ……♡」


穴という穴から、脂汗が噴き出た。


『ほらほら、もっと声出せよ!チンカスもほじってやるからさ!』
「ァァアッ!♡、ほじって゛、くれ゛ッ、ぃ゛ィッッ──♡!!」


抵抗をしているという設定なんて、直ぐに消え失せた。ただ苦痛という快楽を求めて嬌声をあげる。一番大きく広がっている部分をぐりぐりと強引に埋め、小刻みに手を動かし痛みを増やしていく。もっと、もっとだ。この先に行けば、さらなる快感が待っている。


『ほら、──鳴け』


エドワードの声に促されるまま、最高の一瞬に向かってペン先をずぶりと突き刺した。


「───ィ゛ッ……ッか……!!♡♡」


先が埋まった。また、その奥も。視界が狭まるような歓喜の激痛。たまらずペンから手を離す。デスクに突っ伏し、くねくねと身もだえる。いくら広げ慣れているとは言え、3分の1弱ほどずっぷりと埋まったペンの威力は素晴らしいものだった。
プルプルと痙攣し、ぷっくりと腫れた肉に覆われているペンが愛おしくて、静かに撫でる。男性器というのは男にとっての急所であり、そこへの苦痛を伴う刺激は私にとって最大級の快感だ。股間の窪みに溜まった汗が、ずり降ろしたパンツにぽたぽたと滴ってゆく。ここが自宅であれば、失禁プレイに移行していたはずだ。


『おっすげえ、血も出てきた。中傷ついちゃったかなあ……』


先端部分から、赤い鮮血が僅かに盛り上がりデスクに垂れた。これでもまだ足りなかった。できることならもっと激しく性器を弄りたい。しかしここはあくまで執務室。あまり遊んでしまうとまともに立って歩けなくなってしまう。股間を抑えてよろよろと不格好に帰路につく国軍大佐を、一般市民に見せることはできない。


『なあ、手袋汚れたんだけど、舐めて綺麗にしろ』
「はっ……あむ、んんッ」


手袋を嵌めた手を喉に突っ込みしゃぶる。この、軽い嘔吐感が好きだ。自身の我慢汁と汗とわずかな赤が染みついた手袋を無理矢理舐めさせられる征服(されている)感、たまらない。
自分の指をべろべろと舐めながら、これが本当にエドワードのであったらと考えて止めた。お楽しみの時間に虚しさを入れてくれるなと、再度思考を振り払う。今私は、エドワードに無体を働かれているのだ。脅迫という抗えない命令に、苦しめられているのだ。


『ほら、きたねえ尻突き出せよ』
「……ぷ、はッ、まっまっへ゛、ふれ、はがれ、の……ふこひ、やふま、」
『は?オレに逆らうとか舐めてんの?大佐の分際で!いいから尻突き出せっていってんだよ!』
「はぁああァあッすまっすま、んッ……」
『すまない?ごめんなさいだろ?!』
「ぁ゛っ、ごめっごめんな、しゃ゛ッ……ッ♡♡」


バァンッ!と尻を強く叩く。激しくスパンキングを繰り返す最中に、尻穴を爪で掻いたりもしてみる。
もちろん手袋に吸い付くのも忘れない。


『オラオラ!国軍大佐とあろう人間が、仕事場でみっともなく尻とおちんぽ丸出しにしてさ!鼻水と涎垂らして威厳もがた落ちじゃん、そのまま狗奴隷にしてやろうか!』


バァンッ!バァンッ!バァンッ!右尻、左尻を交互に叩く。尻が揺れる。


「ん゛っ、んほッ!ンンッ゛!、んぐゥッッ!!♡」
『狗奴隷ってなんだかしってるか?調教したアンタを目隠しして素っ裸にして猿轡付けて手足縛り上げて一切抵抗できないようにして闇オークションでお披露目するんだよ。アンタには売るだけの価値なんてねえから前座だ前座。かの有名な焔の錬金術師です、レクリエーションとしてお好きに壊してどうぞって』
「ッ、ひぃ゛いいい、いぬッ、どれっは、ぃ、や、ぃやだァッ!♡」
『アンタは公衆の面前で、どこまで耐えられる玩具なのか周囲に知らしめるためだけに鞭うたれるんだ、こうやってな!』


脳内エドワードの台詞がどんどん攻撃的になっていく。やり過ぎだとは思ったがやめられなかった。

がむしゃらにシャツを捲りあげ、よだれ塗れになった手袋でびんびんに尖った乳首をがりがりと擦る。足を大きく開き、勢いをつけて尻を叩き、デスクの角に性器を擦りつける。袋が、デスクの断面にばんばんと当たり衝撃で潰れそうだ。もう周囲すらまともに見られない。脳内に響く破裂音。視界がバチバチと弾け続ける。


『乳首もこんなに尖っちゃって、女みたいだな。なに、アンタ女だったの?私は乳首を尖らせておちんぽ勃起させてだらだら我慢汁零すメス豚ですって言ってみろよ』
「んはァああああッ!!♡♡」
『いえっつってんだよ!』
「メス、ぶたッ♡、めすぶたッわたひ、はッぶたッ!あひいィいいっ♡」
『もっとだ!』
「ァっあッ♡おちんぽっ、ぼっきッ♡ちくびッ!ぁああはげし、いっ鋼、のッ♡、あぁあッもっと♡、叩いてくれッ…お尻♡!ふきゃッ♡あ、きもひッ…♡痛く゛、て、きもちィいいッ♡」
『ぶひぶひ鳴きやがって!ほら想像しろよ!もちろん軍の高官や下官たちもオークションに参加してるぜ?アンタに恨みを持つ老害や若者たちが、アンタを生きたサンドバッグにするんだ!』
「あひィッ♡さんど、バッグッぶひッ♡……ィッ、ぁ、っォっ」


バァンッ!バァンッ!バァンッ!椅子のデスクもギシギシいっている。激しすぎる。エドワードの怒声に呼応して手の力も増す。

きっと尻は真っ赤に色づいていることだろう。後で鏡で確認してまた自宅でオナろう。


『スポットライトが当たる舞台の上で、アンタは!殴られて蹴られて肉体と心が壊れるまで散々暴行され続けるんだよ!』
「ァああああ、あああ゛ッ!ち、乳首つねッ、て、かんでく、れ゛…ッ♡!はがネッ、の、ぁああん…ッ!♡」
『自分で勝手に弄ってろド変態!もちろんオレは手は出さないぜ?アンタより下の軍人にアンタの股間が踏み潰されて、アンタが絶叫しながら精液巻き散らかすのを椅子に座って眺めててやるよ!』


ダメだ。耐えきれない、もう出る、精液が出る。私の溜まりに溜まったザーメンが出る。霞む視界で手袋を歯で抜き取り、デスクの上にべちゃっと落とす。哀れなことに、エドワードの可愛い手袋は私の唾液と我慢汁で汚れてしまっていた。ああ、もっと濡らしたい。エドワードの手を私のザーメンで。無我夢中で尻を叩きながら空いた片手で性器を扱きまくる。エドワードの手袋に向かって腰を振りながら。


「はぁあ゛あん…ッ♡ァあああッ!!♡イク──!イか゛、せて、くれ、鋼のォ゛……たの゛、むッァッ」
『しょーがねえな、イケよ、おちんぽ踏み潰されながらザーメン巻き散らかしてみろよ!狗みてーに、ちゃんとオレの手の上にびゅーびゅーしゃせーできたらご褒美くれてやるよ!』
「ァふッご褒美ッ、はがねの、の゛ッ♡…ごほーびッ♡……出る、おちんぽッ潰されてッ♡出す、はがねの、のッ手の上に、ちゃんとッ……!ぁ゛ッぁああ゛イク゛ッザーメン出るッはがねのっでッ────」


バァンッ!バァンッ!バァンッ!バァンッ!バ



 

 

 

 

 

 



「大佐?」


 

 

 

 

 

 

 




ふいに耳を掠めた声は、とても鮮明だった。
まるで暗闇に差し込んだ一筋の光の如く。


今まで脳内に響いてたくぐもった声とは、明らかに違う。見知った声。
反射的に目線を上げる。瞳孔が開き切った私の瞳に映ったのは、開かれた扉のドアノブに手をかけ、目をまんまると開いた赤いコートの少年だった。茫然と私を見つめている、愛しい人。が、時既に遅し。
パ───ァァァアアアアンッ!

「……~~ッぅッ……ぁあァああ゛あ゛ァああっッッ~~~!♡♡」

最後の重い尻への一撃で、私は盛大に射精した。


金髪の少年──エドワード──を見つめたまま、ぐちゃぐちゃで皺皺になった手袋に向かって、溜まりに溜まった白濁液を勢いよく巻き散らかした。


粉雪のように眼前に舞い散る精液と、ぽかんとこちらを見つめる赤いエドワードの姿がコントラストになって、とても綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 



死んだ。




 

 

 








今日の気温はわりと高くてお散歩日和ですよとラジオ越しに情報提供をしてくれた女性の言葉を反芻し、心の中で頭を振る、あれは嘘だ。

現に寒くもないはずなのに足元が冷えている。まるで氷の張った沼に足を捕らわれているみたいに。一歩たりとも動けない。もちろん今は足元だけではなく、空気すらも凍っているのだが。
私は、泣く子も黙る焔の錬金術師のはずだ。だというのに、どうしてこんなに寒いのか。そうだ、マッチ代わりに焔をつけよう。名案だと手袋を探せば、目の前にある手袋が目に入って硬直した。手袋があった。しかし私のではない。エドワードの手袋だ。しかも私の汗と涎と白濁液にべちょべちょになった手袋だ。これではここに錬成陣を描いたとしても湿気で焔は出せまい……と大真面目に考えた所で揺れる科学者としての思考を止めた。全力で。
沈黙が続いている。改めて、今の現状を整理してみよう。
目の前には幼げな顔をして茫然と硬直するエドワード、対して私はデスクに両手を付けて、少し前屈みになった状態で立っている。そう、いつも部下に命令を下す時のように、堂々とした立ち振る舞いで。

さすがは国軍大佐だと自分でも胸を張って言えるように堂々と、ズボンとパンツと降ろして。

ついでにシャツもずり上げているので私の唾液と我慢汁まみれの真っ赤な両乳首も丸見えだ。カーテンを閉めていなければ、私の形のよい尻と引き締まった太ももが窓からぷりっと見えていたことだろう。
精液を吐き出し(原因はそれだけではないのだが)しゅんと萎えた性器はぽろりとデスクの上で縮こまっている。あれだけ大きかったというのに今はくたびれた風船の抜け殻のようだ。さっきまでギンギンだったくせにお前は本当に素直なやつだな、出せば終わりか情けないと声をかけようとして止めた。先に声をかけるべきは戦意を喪失した私の片割れではない。本当に声をかけるべき相手は。


「……はがねの」


唯一出せた声はなんとも小さなものだった。普段の私では考えられないくらいの小ささと覇気の無さ。ここに部下がいれば大佐大丈夫ですか?と怪訝そうな顔をされていたに違いない。違う意味での大丈夫ですか?も言われそうだ。というかそっちの意味の方が強い、というか十中八九そっちの意味だろう。確実に。
「……なに、してん、の」
茫然と、突っ立ったままのエドワード。普段の横暴さと生意気さは鳴りを潜め、なんともおどおどとした声色だった。心なしか顔が強張っているようにも見える。いや、心なしくもない、強張っている。

エドワードのこんな表情は初めて見た。年相応でとても可愛らしいと思う。普段であればいいものを見たと夜のおかずにしていたところだ。だが今は夜まで待てない。いま直ぐにでも眠りにつきたい。そう、できれば永遠の眠りに。
「大佐なに……なに、してんの」
終わった。
「なにとは」
「……え、その、それ……」
「どうした鋼の」
どうした私、冷や汗が止まらないぞ。
「……だ、だから、そ、それ」
「いやこれは違う大丈夫だ、落ち着きたまえ」
ぴたっと手をあげ何かを制する。普段通りの動きはできたが意外と早口になった。

もっとスマートにことを収めようと思ったのだが思いのほか私はあせっているらしい。落ち着け、落ち着け国軍大佐とあろうものが。どんな危機的状況でも乗り越えてきただろう。どんな屈強なテロリスト相手でも盛大に焔をぶちかまし捕まえてきた、どんな嫌味であってもさらりと受け流してきた。大丈夫だ私ならできる。危機的状況においても打開策はある。きっとある。
「大佐」
ないかもしれない。
「いやいや、これは違う違うぞ鋼の、大丈夫だ、大丈夫だ落ち着きたまえよ」
寒いはずなのに熱くなってきた。デスクにへばりつけていた手がめちゃくちゃ湿っている。頭皮も熱い。きっと汗がだらだらだ。少しでも動けば顎に流れた汗がデスクを思い切り汚すに違いない。
どうする、どうすればいい。見られた、エドワードに見られた。よりにもよって一番えぐいシーンを。

こんなことなら執務室プレイなんてしなければよかった。人がいないとしても守衛はいるし電話受付もいるし何かあった時のリスクを考えればよかった。大佐である私の許可なく執務室に入ってくる奴などいないと高をくくっていたのまずかった。
徐々に、エドワードの瞳から光が失われていくのが遠くからでも如実にわかる。ここの距離からでもそれがわかるのだからきっと私がまき散らかした白濁液の軌道もしっかり目に焼き付いていることだろう。

エドワードはいつからいたのだろうか。しっかり鍵を掛けた扉が開かれているということは錬金術でも使ったか。中から私の呻き声(のようなもの)とがったんごっとん激しく争うような音が聞こえてくる上に部屋の鍵もかけられていれば、何かがあったのかとさぞ焦ったことだろう、つまるところ私を心配してくれたのだ、優しい子だ。
いやしかし錬金術を使用したのであれば錬成反応で気づくはずだ。

気が付かないとすれば私の思考がぶっ飛んでいた「もう周囲すらまともに見られない。脳内に響く破裂音。視界がバチバチと弾け続ける。」辺りからだろうか。デスクの断面に袋をばんばんとぶつけていた時の。

しかもエドワードの台詞を脳内で反芻するだけでは飽き足らずノリノリで声に出してしゃべっていた。つまりは、私が一人二役で演技をしつつ尻をバンバン叩きながら乳首に爪をぐりぐりと押し付けてデスクの断面に玉をデスクに性器を擦りつけブヒブヒいいながらエドワードの手袋めがけてピンポイント射精した姿を見られていたというわけで。闇オークションで前座となり股間を踏み潰されている設定の。
「違うぞ鋼の、これはちょっと運動、そう運動をしていて今日は午前中からここに缶詰めだったものでな」
「闇…………」
「ん?違う違うぞ闇オークションではない、私は闇オークションの前座として出品されたりもしないぞ」
「……手袋」
「え、ああそうだな、君は手袋を忘れていたんだ、全く君という奴はほほほほほら鋼の」
冷静な態度を崩さずスマートな言葉を投げかけるつもりが最後の最後で「ほ」が異常に多くなってしまった。焦りに焦って目の前でしおれた手袋をわし掴み、エドワードの方へとぐいっと差し出してしまう。

何をしているのかと思っていても腕は硬直したように動いてくれない。動いた拍子に顎から汗が垂れてしまっただけではなく、手袋の指先からぴちょぴちょと体液……液体も垂れた。エドワードの視線は、床に溜まる白交じりの水滴にくぎ付けだ。
「……、アンタ、今、それに……」
「違うそれは違うぞ、たまたま?偶然?これにかかってしまって、そうつまりこれは私がしようと思っていたことではなく、全面的な間違いで」
私はごく自然な動作で剥き出しの股間を隠した。こんな時でさえ、エドワードに見られているという羞恥のあまり反応しかけているのだから、自身のマゾヒズム性に絶望する。これで絶望したのは3度目だ。
「そうだこれらはたまたま、たまたま出てしまっただけで、急にズボンとパンツがずり落ちて私の私とたまたまが剥き出しになってしまっただけでよくあることなんだ故意ではなく過失だ。これだから軍支給の軍服というのはまったく困るな」
謎の言い訳を繰り返しながらむくむくと膨らみつつある股間を必死に隠す。

エドワードの瞳がどんどん細くなっていく。しかし、エドワードの視線は逸らされず、それどころか私の下半身に一点集中している。
「……ふうん、そういうことか」
「ああそういうだ。君も軍服を着ればわかる──ん?」
仰々しく頷こうとしたが止まった。てっきり正気に戻れば悲鳴をあげて逃げだすか、私に放送禁止用語を吐き捨てて逃げ出すかの二択だと思っていたのだが。返ってきたのはやけに落ち着いた台詞だった。
不思議なことに、エドワードは逃げていなかった。むしろ、眉間に皺を寄せたまま一歩踏み込んで来た。驚いたのは私だ。思わず半歩下がる。ぱたんと締まる音。扉も閉められた。再び驚く。
どうしてここでエドワードは部屋に入ってくるのか。こんな公共の場で、パンツを降ろし自分の名を叫び、乳首を噛めだのおちんぽを踏み潰せだの喚きながらオナニーしていたフルチンの軍人がいれば普通は恐れをなして逃げるだろうに。しかもそれが顔見知りとくれば地獄の現場だ。私も地獄だ。
エドワードの細められた金色の視線が、私の下半身から私の胸元へと移動する。私の体を隅々まで値踏みするかのようなそれは、この状況においてあまりにも不釣り合いだった。
「……はがね、の?」
顎に手をあてて、考えるそぶりを見せていたエドワードの瞳が、私の目線と交差した。きらりと光沢を放つエドワードの黄金に、また半歩、かかとが下がる。
「大佐って、さあ」
こつりと一歩、エドワードが近づいてきた。妙な気迫を感じる。エドワーの視線は逸らされない。それどこか、獲物を追い詰めるかのようにしっかりと視線を合わせてくる。そう、真っすぐに。なんだか、いつもと雰囲気が違うような。
「今、オナニーしてたよね。しかもオレの名前呼びながら」
「ぅ゛」
ついに来た、来てしまった。まったくもってその通りだが、はいそうですと答えるわけにはいかなかった。

エドワードに嫌われたくないと、この期に及んで私の恋する乙女心が逃げを試みる。
「しかも何それ。オレの手袋じゃん。忘れてきたから来てみれば」
そうだ、エドワードの突飛な行動に困惑し失念していたが、なぜエドワードは今ここにいるのだろうか。

彼は今頃弟と共に、目的地まで丸一日かかる列車に乗っているはずではなかったのだろうか。この手袋を取り戻しに、重要な情報よりも手袋を優先して戻ってくる、それはありえないだろう。エドワードの一番は何よりも彼の弟だ。それに、執務室で落としたと確証を得ないままここに来るのはおかしい。普通であれば確認の電話の一本ぐらいいれるはずだろう。そうでなければ、ここに手袋を忘れた、とエドワードは初めからわかっていたということになる。──わかって、いた?
「鋼の、落ち着きたまえ、いや落ち着いてくれ、これにはわけが」
「はぁ?」
エドワードが肩眉を吊り上げた。その動きがなんともわざとらしく見え、びくりとする。
「わけってなに、尻叩きながらオレの手袋にぶちまけといてそれはないんじゃねえの」
カツカツカツ、エドワードが一気に間合いを詰めてきた。それはもう素早いスピードで。
「あっ」
「こんなにびちょびちょにしちゃってさ。うわ、唾液とせーえきまみれ、きったねえな」
私の手から手袋をもぎ取ったエドワードは、汚物にでも触るかのように(実際汚いのだが)手袋から顔を背け、あからさまに嫌がる素振りをみせた。当然の反応だ。
「は、鋼の、その」
触らないほうがいい、と言いよどむ私など気にも留めず、エドワードは手袋をぶらぶらと揺らした。滴る液体が辺りに飛び散る。すると、乳白色の数滴がエドワードの口の横にべたりとかかった。一瞬だけ目を細めたエドワードは、次の瞬間思いもよらぬ行動に出た。
口横についたそれを、ぺろんと──舐めたのである。
「え」
しかも、一度ならず何度も。頬についた白濁液がなくなるまでべろべろと。エドワードの真っ赤な舌に絡めとられる私の白から目が離せない。
「にっが……最悪。アンタコーヒー飲みすぎ」
「………………え……っ……っ」
フリーズした。それはもう長い時間。
「………………ぇえ……?っ……っえ?」
エドワードが、舐めた。何を?ナニを。いたって自然な動作で。私が先ほど吐き出した新鮮ほやほやの生を。混乱している私をよそに、何事もなかったかのように近づいてくる少年はいたって普通だった。私が言葉を失っている間、エドワードはおもむろに手を振りかぶった。そして、私の顔めがけて投げた。彼が手に持っていた手袋を。普段であれば避けられただろうが、放心していた私には無理だった。
べちゃりと顔に着いた手袋にそこまでの粘着力はなく、ゆっくりと頬からズリ落ちてゆく。鼻と頬がぬるぬると湿り、睫毛にくっついたねばねばとした体液のおかげで視界すらも白く濁る。
「どう?自分の出したせーえき顔に塗りたぐられた気分は。気持ちいい?」
エドワードの声はねっとりとしていた。そう、まるで、獲物を粘着した体で絡めとるがごとく。

ふっと、耳穴に吹き込まれた風。エドワードの吐息。恐慌状態が溶けた。慌てて顔を拭えば、エドワードの顔が徐々に鮮明になる。
目を奪われるような赤いコートと、細く三日月型をした鋭い金色の瞳。
歪む口元。エドワードはにっこりと、口角を釣り上げていた。


「この変態軍人が」
───ぞくぞくぞくぞくッ
「ひ、んッ……♡」


背筋を伝って、全身の血管が膨れ上がった。

と同時に胸に走る鋭い痛み。エドワードの表情に気を取られて気がつかなかったが、見ればエドワードの機械鎧の指先が一本私の乳首に埋まっていた。
「……い゛ァっ♡」
「この、ろしゅつ、ま」
ろしゅつま、露出魔。エドワードの暴言にぎゅううっと、尻穴が上がる。股間を抑える手が強くなる。なおも、エドワードは私の乳首を弄ることを止めない。ぐりぐりと、尖った先端を奥の肉に押し込められてゆく。エドワードにいつか乳首を陥没するまで虐めてほしいと願っていた私の夢がいま、現実に。
「はっ、がね、のッ……な、ん……は、ぅ♡」
「うるせえな」
こんな低い声、初めて聞いた。本当に小さなエドワードの口から出たのかと疑うほどドスの効いた声だった。もともとハスキーじみた声をしている子だったが、年の割には高くその見た目からも女の子と勘違いされることも多かったというのに。
「黙れよ」
「あゥっ……」
ずぼっと口に何かを突っ込まれ、がほっと死にかけた獣のような呼気が漏れた。もごもごと口いっぱいに広がる苦い味、青く臭い、口からはみ出した白い布。先ほど地面に捨てられたエドワードの手袋だ。
「オレがいいって言うまで声だすな。アンタの声耳障りだから」


──なにが、おこっているんだ?これは、本当にあのエドワードなのだろうか。


目を瞬かせてみる、が、今私の目の前にいるのは正真正銘のエドワード・エルリックだった。ぷっくりとした唇と、子どものように丸い頬。鋭い眼差し。いつもなら、下から睨みつけられたとしても可愛いなとしか思わないのだが、今は違う。見上げられているというのに、見下されているみたいだ。
「乳首虐めてほしいんだろ?そう言ってたもんな、声出したら止めちゃうぜ?」
現状に驚いているわりに、私の体は正直だった。物欲しげに胸は突き出され、私の歯はぐっと唇を噛みしめ、声を押し殺した。満足げに頷いたエドワードに、今度は膨らんだ乳輪をくるくるとなぞられる。
「ん゛……、」
「なあ、物足りねえ?」
エドワードの瞳と視線がかち合う。熱のこもった瞳だ。夢見心地のまま、吸い寄せられるように頷く。エドワードはまたも満足げに聖母の如き微笑みを浮かべ──もの凄い力で乳首を捻り上げてきた。
「……ッ~~~~ゥぎ゛!?」
唐突な痛み。目を皿のように見開いた私の瞳を覗き込み、子どものように首をかしげているエドワード。しかし、幼い顔とは裏腹に乳首を捩じる力はどんどん強くなる。
その小さな指のどこにそんな力があるのか、ぎりぎりとボロ雑巾が絞られるような音に耳を犯されてゆく。
「~~~ぐッ♡、~~~ぐふッ♡♡」
「どこまですれば千切れっかなぁ」
怖ろしい台詞を零しながらも、怒涛の責めは止まらない。

乳首の中にあるしこりを、固い石を擦り潰すかのようにごりごりと弄れる。挙句の果ては窪みに爪を差し込まれ上下左右に引っ張られた。ごりごり、ぐいぐい、ごりごり。容赦のない連続激痛のコンボだ。
「……ぅ゛、ぃッ♡」
このまま宣言通り先端を引きちぎられてしまいそうな激痛にがくがくと歯が鳴る。唾液がぼたぼたと口端から零れる。それでも私は歯を食いしばった。気持ちよかった。もっと強く抓ってほしかった。いっそのこと千切ってほしかった。ぎりぎりまで粘った末に、私の乳首がごりっと断末魔のような悲鳴を奏でた。その拍子に口が開いてしまう。みっともない悲鳴が、唾液と共に溢れた。
「~~~、ッ、、ぃた、ッい゛♡♡!!」
「あーあ、声出しちゃった。はい終了」
ぱあんと、あっさりとエドワードの手から離された乳首が定位置に戻る。勢いにふらふらと体が傾いだ。濡れた手袋が口から零れ再び地面に落下する。
「闇オークションの前座にすらなりゃしないなぁ?この、クズ」
っていうか闇オークションってなんだよ、設定盛り過ぎと嘲笑いながら、エドワードが地面に落ちた手袋を冷たく見下しだん、と踏み潰した。
「は、がねの……ぉ」
ダン、ダン、ダン、ぐりぐりと、手袋にエドワードの靴の痕が刻み込まれてゆく。まるで自分が踏みつけられている気分にぞわぞわと股間が震え、自然と内股になってしまう。
「……なんだよ、あれだけ盛大に出しといてまだ萎えてねえの?アンタ」
エドワードの言葉の通り、手のひらの影からにょきっとキノコのようにはみ出しているのは私の性器だ。こんなことをされたというのに、起つなというほうが無理だろう。
「こっれ、は……」
「なあ大佐。オレ、ずっとアンタに聞きたかったことあるんだけどさ……」
エドワードの言葉一つ一つが、私の脳をとろけさせてゆく。ぼうっと思考が白くなってゆく。エドワードの声は麻薬だ。大きな力で、どこまでも引っ張られてゆく。
「な……んだろう、か」
「大佐ってさ、マゾ?」
エドワードの唇から放たれた単語には、確かな蔑みが込められていた。

明確な嘲笑と嫌悪感の効力は絶大で、はいそうです!私がマゾです!と股間がさらに元気になる。まったく現金なやつだと話かける余裕は、残念ながらもうなかった。
「……、ぁ……」
「わかる?マゾ、マゾヒスト、被虐性淫乱症、つまり、最大級のド変態」
「ぁッ……♡」
「……へえ~、否定しないってことは、やっぱりなぁ。おかしいと思ってたんだよ、いっつもオレの顔物欲しげに見つめてくるし」
それは、初耳だ。まさかエドワードに私の視線がバレていたなんて。そんなに私はわかりやすい顔をしていたのだろうか。相手が誰であろうとも、29年間ずっと隠し通せてきたというのに。
「アンタずっとオレにさ、酷い事されたいって、思ってただろ?」
股間を抑えていた手をわしっと掴まれ、無理矢理上にあげさせられる。

が、抵抗はしない。できないのだ。とろけていた脳は一切の抵抗を放棄していた。まるで、夢の中にいるようだった。エドワードの眼前に私の股間が曝け出されている、エドワードの視線の先に私のびくびく痙攣する性器がある。ああ、まさかこんなことが。
「きったねえちんこ。切り刻んで魚の餌にでもしたほうがいいな」
「、そ、そん、な゛……」
エドワードが顔を顰めた。その渋面にすら、反応してしまう。
魚の餌のように細切れにされる自身の性器を想像し、濡れたため息が零れた。頬が上気する。
硬度を増した性器を、エドワードは嘲笑った。
「ああ゛?またビクビクしやがって。何、オレに汚いって言われて興奮してんの?」
「す、すまない、は、鋼の、私は……ぁあっ」
「あーあーあー、尻もこんなに真っ赤にして。国軍大佐ともあろうものが、自分で尻叩きながらオナニーしてるだなんて周りにバレたら大変だよなぁ……っと」
パアンッ!
「んはぁあッ!?♡」
何の前触れもなく与えられた衝撃に、大きな悲鳴が出てしまった。乙女のように、手のひらが宙を掴む。勢いをつけて振りかぶられたエドワードの手が私の尻に引っ付く。再度手を振り上げられて、パアンともう一叩き。小気味よい音に私はびくんと天井を仰いだ。
「はぁッ、んっ♡」
「なぁ大佐、痛い?」
パアァンッ!!と三発目。先ほどよりも強かった。
「聞いてんだよ、答えろよ」
「ひィッ♡い、い゛たッ……!」
バァァァアンッ!!と、四発目。尻の皮膚が破裂するのでないかというぐらいの破裂音。
脳髄にびりびりと響く手のひらの振動に、鼻の下が伸びる。拳がぶるぶると震える。
「痛い?」
「く、ぅ゛ッ♡」
まずい、たった四発目だというのに私の性器はもうガン起ちしていた。新たな刺激を求め割れ目からはとろとろと我慢汁が溢れ出てくる。落ち着け、落ち着けと心の中で股間に語り掛けるも効果はなかった。激しい鼻息を抑えられない。生粋のマゾヒストである私が、尻を四発叩かれたぐらいでこの様だなんて。
「はっは、ァ、はがねの、は、はなし、をッ」
これ以上されてしまったらヤバイ。どうなるかなんて目に見えている。イキ着く先はさらなる快感だ。自分が自分でなくなってしまう前に、エドワードの行動理由の謎を解かなければ。
エドワードは私の性癖を知っていた。ならば、今のこれは私への報復だろうか。散々気持ちの悪い視線にさらされ続けたことに対してのエドワードなりの復讐。かなりありうる。そうであればやはり話さなければならない。が、少しだけ話をとエドワードの腕に触れた私の手は、もの強い力で弾かれた。と、同時に頬に走る重い一撃。
「あ゛ぐッ…!♡」
ふらりと傾く。口の中に溢れる血の味。茫然と頬を抑え手を振りかぶった少年を見下ろす。殴られた。エドワードに。しかも鋼の右手で。
「うるせえなぁ、痛いかって聞いてんだよ、それ以外の答えはいらねぇんだ、よ!」
エドワードの怒声が爆発した。同時に今度は尻が引きちぎれるのではないかというほどの力で鷲掴みにされ、そのままデスクまで押された。殴られたショックで抵抗が送れる。ガンとデスクの淵に腹を打ち付け体制を崩す。はっと気づいた時にはもう、エドワードに尻を向けてしまった。
「ぁあ゛っまっ鋼のッまッ……」
まってくれ、という私の懇願がエドワードに届く前に、剥き出しの尻にパパパパパンパンパァンッ!!と連続ビンタを食らった。
「あっ……ひ゛ィ゛いいいィィイイッ!!♡」
「こんなに真っ赤にしやがって、どんだけ叩いてたんだよ。痛いか?ほら、ほらほらッ」
「あっ♡あ、あ~~~~~ッ!!♡♡」
悲鳴を上げるたびに、殴られた頬がずっきずっきと痛む。が、それすらも身もだえる程の快楽に変わり、私の思考はまたも白に濡れた。ぽたぽたと唇から零れたデスクに落ちる赤に、興奮する。
「痛いかって、聞いてんだよ!答えろ!」
「あッ~~~!♡ぁァ゛ッッ♡い゛ッいた゛で、すッァア、お尻ッ、ィ゛っ──ッ!♡」
鋼の右手と、手袋越しの左手。温度の違う手による高速スパンキングに自然と腰が浮く。エドワードに遠慮はなかった。
「もっと鳴けよ、オラ!」
「はっはがッ!♡ぅあ゛ァあ!あんッ!♡あふッ!ふあっ……!」
バンバンバンバンとリズムよく叩かれ、がくんと膝からデスクに崩れ落ちる。まるでエドワードに叩かれるために生まれた打楽器になった気分だった。どうして、どうしてこんなことに。わからない。わからないが。
「痛いかよ、オラ、オラ!」
「あッ!♡はがッぁァ゛ッッ♡い゛ッいたァア、お尻ッ、痛い゛ッ……~~~!♡」
──天使のラッパの音が聞こえる。ああ、最高の気分だ。今、私はエドワードに叩かれている。エドワードの玩具になっている。手が自然と、自身の起ちあがり濡れた性器に伸び始めた。ダメだと思っているのに抑えられない。エドワードに尻を叩かれているという、夢にまで見た現実に興奮を抑えられない。デスクに落ちる血が増えた。鼻血かもしれない。鼻血でもいい。エドワードの手のひらの熱い責めを感じながらもっと気持ちよくなりたい。復讐でもなんでもいい。エドワードに虐めて貰えるのならなんでもいい。
天にも昇る悦楽に恍惚としていた私の震える指先が、あと数センチでそれに届く。
その時だった、エドワードから与えられる幸福の恵が、急に消えてしまったのは。
「ぁあっ……な、なぜぇっ」
代わりに、散々叩かれた部分にひたりと何かが添えられ、つう……と優しくなぞられる。
羽でも撫でるような感触、細い指だ。物足りなさに、腰がふりふりと揺れる。
「そんなっ……ぁあ」
「もっと叩いてほしい……?」
「ぅ……」
「なあ大佐、もっと叩いてほしかったら言うべき言葉があるだろ……?」
震える皮膚をゆっくりとなぞっていた指先が、尻の割れ目をくっと押し開き侵入してきた。汗ばんだ溝にぬるぬると擦りつけられる指先は、いつのまにか二本に増えている。
「は……はが、ねの」
「言わねえとこのままだから。飽きたら止めちまうぜ?」
尻穴にエドワードの手袋が引っ掛かる。が、エドワードは何もせずにするりと通り過ぎた。エドワードの優しい声色。それに反して指の動きは残酷だ。
「はは、きたねえ色。こんなに汚れた尻穴初めてみた」
「ァッ……♡」
「おっ、締まった。おもしれー」
何度も触れるか触れないかを繰り返され、私の思考はもう崩壊寸前だった。ほしい、エドワードの痛みがほしい。口の中の涎の量はもう満杯だ。士官学校時代に、上級生の男どもに尻を穿られそうになった記憶が蘇りエドワードの指と重なる。あの時慣らしもせずに指を突っ込まれた激痛、あれがどうしても欲しい。
「な、大佐。ここに何本入ると思う?」
つんっと、敏感な入口に何かが触れた。細くて丸くて冷たいもの、きっとペンの先だろう。もしかしなくとも、エドワードが普段ポケットに突っ込んでいるあの黒いペンだろうか。つんつん、と焦らすように触れられ頭を振る。もう許してくれ。はやく、はやくそれで痛みをくれ。エドワードにペンを深々と突っ込まれ穿られる想像をするだけで、口内の唾液が蜂蜜のように甘くなった。それすらも悲しみを誘う。
「も……てくれ」
「なに?聞こえない」
こんなの、生殺しだ。

こんな優しい触れ方ではなく、強く打ち据えてほしい。

もっと、私の尻が赤黒く変色するまで。もっと頬を殴ってほしい、蹴ってほしい。

さらに言えば激痛を感じられる男の象徴もたくさん虐めてほしい。

エドワードに、手入れもしていない敏感な部分を見られているという羞恥、そして、膨れ上がる逆嗜虐心に体の興奮は再骨頂だった。欲求は素直に口から出た。
「叩いて、くれ……」
「どこを誰に?」
エドワードの声色は愉しげだ。デスクに肘をついたこの格好では私のぷらぷらと揺れる二つの袋しか見えないが、今のエドワードはきっと笑っている。
「君、に、私の尻を……叩いて、ほし……」
「なってねーな。私の黒ずんだ汚くて臭いお尻をだろ?で、尻だけで足りんの?」
「ぅ、わ、私の……あれ、も」
「あれじゃなわかんねえなあ」
「せ、……ぃき、を」
「なに今更常識人ぶってんだよ、『おちんぽ』だろ?言えるよな?」
「……ぅ」
「で、どんな風に?」
「……ぁっ……ま、……真っ赤に、腫れ上が、」
「はい最初からもう一度、全部」
「は、はが」
「言えねえ?じゃなきゃアンタずっとこのままだぜ」
すうっと、エドワードの手が離れていく。焦らし焦らされて、私の股間すらもう爆発寸前だった。
それを、エドワードもわかっているだろうに。
「アンタがちゃぁんと全部言えないってんならオレもう行くな。一人でデスクにこすり付けて遊んでろ。じゃあな」
──ああ、嗚呼。もう無理だ。欲しい。理由などしるか。ただ欲しい。
「はがねのっ、ま、まってくれ……!」
ただエドワードから無条件に与えられる激痛が、羞恥が、苦悶が、嘲りが、愛情が欲しい。
「わ、私の手入れもしていない黒ずんだ汚くて臭いお尻をッ……!君の手で!痣ができるぐらい叩きまくってくれぇ!ペンも刺してくれっ私のっ、尻に!君の手で痔になりたいっ、ああ!ああッ……もうどうなってもいい……!私のおちんぽもたまたまも、もっと、もっと、ぁああっ!パンパン!パンパンしてくれッ!私を殴ってくれ蹴ってくれ痛くしてくれ!壊してくれぇ鋼のッ……頼むぅ!!」
背を逸らし、これまで妄想でしか言ってこなかった台詞を一息に吠えた。まるで痛みに飢えた獣だ。ぜえはあと息が切れた。言った、ついに言ってしまった。
「……アンタがいったんだからな」
沈黙は一瞬だった。パン、と手が重ねられ、床で弾ける音。部屋全体を包む錬成反応の光。逆光に目を細め、再び開けば壁一面が乳白色になっていた。壁と床の接続部分が僅かに抉れている所以外は全てだ。先ほどまであった扉も、窓も、全て消えている、というか壁に取り込まれている。まごうことなき密室だ。もしかしなくともこれは、私が、仮眠室や自室で激しめのプレイを一人で楽しむ時、妙な噂が立たないよう行う方法。
「これで、何をしてもこの部屋の音は外へ漏れない」
くっと、後髪を掴まれ引っぱられる。デスクに突っ伏してから初めて、私は振り向いた。至近距離にあるエドワードの金色が爛々と輝き、私を見つめていた。

その瞳は、明るいはずなのに黒々と淀んでいるように見えた。
「せいぜい喚け、叫べ、泣け。アンタの悲鳴は誰にも聞こえない」
耳元で、優しく囁かれる艶のある掠れた低音。どうしよう──最高すぎて、失禁しそうだ。
「オレの命令には全て従え。いいか?大佐、てめえは今からオレの奴隷だ。精々発狂しないように気を付けろ……まあ無理だろうけどな」




 

 




と、いうことがあって、今に至る。




 

 





「───ぁあ゛っあっア゛アあぁア゛ァああああァアッッ──!!!♡♡」
散々尻を叩かれ絶頂を迎えさせられた私は、怒涛のエドワードの責めに従順に付き従った。
今は、エドワードの革靴による絶賛股間責めの真っ最中である。
「大佐のおちんぽすぐにおっきくなるなぁ、さっき出したばっかだってのに。靴でふみふみされて気持ちいいか?ん?ほんと異常者。なんていうんだっけなこういうの、ド淫乱?」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅと、エドワードの固い靴の裏に性器を扱かれ続け、私のそれはもう真っ赤になっていた。勃ちかけているというのもあるが、皮膚が擦れて赤く変色しているのだ。エドワードが足を揺するたびに皮膚がべろりと剝けていくような激痛に苛まれ続け視界がガクガクと痙攣する。しかし、足を閉じるなんてもったいないことはしない。渾身の力でがっちりと膝裏を抱え、ひたすらに腰を天井に突きあげ悲鳴を上げていた。わかったことがある。悲鳴をあげれば上げるほどエドワードの暴行は激しさを増す。だから私は心の赴くままに絶叫する。エドワードに苦痛を与えて貰うために。
「ぁあああ゛ァあああ~~~!♡」
「アンタのこの姿全国民に見せてやりてえよ、みんなの、憧れのロイ・マスタング国軍大佐が!14も年下のガキに股間踏みつけられて善がり狂ってる姿をさ!あ~あ、アンタもう大通り歩けなくなるね」
「ん゛はぁあああッ!♡きもひっ!♡鋼のの靴ッきもちぃいい!♡もっと、もっと踏んでくれぇ゛♡ぁあ゛―あ゛―ぁあ゛───!!♡♡」
「あーうるせえ、もっと静かにしろよこのクソが」
「ぁぎッ……!」
苛立ったエドワードにどんどんと勢いをつけて股間を踏み潰され、ぶしゃっと透明な液体が噴出した。瞬間的に喉が詰まり声が出せない。足を開いたまま髪を振り乱し、悶え狂う。
「ああ、そういえばさっきここに来る途中で犬の糞ふんじゃってさぁ、くっさい靴でもっと大佐のおちんぽ汚くなるね。みーんなアンタの傍通る時鼻抑えて避けるようになる、あはは、アンタ狗以下になっちゃうね、お似合いだよ、ほら、もっと善がれよ、オレの靴でおちんぽ踏み潰されて善がれよ!白目向いて絶叫しろよ!」
「ァ゛~~~~~~~~~ッッッ!!!!♡♡」
ガツガツと二つの袋ごと踏み潰され、喉に詰まっていた呼気が、がほっと漏れた

。もう自分が何を口走っているのかもわからない。うっすらと霞んだ視界に、先ほどペンを突っ込まれた生気の先端部分が重点的に靴先でこねくり回されているのが見えた。エドワードの靴先が私が零す汁で濡れているのも。私の足先が、強烈な快楽にびいんと痙攣し始めるのも。
「~~~ッぁ、ぁああああ゛……いだッ!♡いたィい゛ッ♡」
「どんな風に痛いんだよ、言ってみろよ!」
「ァ、ああ゛ッぉ、おっち、ん、んん゛!!♡」
「おちんぽがどうしたって?はやく言えよこのメス豚」
「ぉ、おちんぽぉっ!おちんぽの、しゃ、さきッい、ぐりぐり潰れて、るっッひ゛ッ、はおぁああああ~~~ッ♡」
「あは、おちんぽの先ぐりぐり潰されて無能から不能になっちゃうって?……さっさとなれ」
一段と低くエドワードが唸り、全体重をかけぐりぐりと股間を踏みつけてきた。
「~~~~~ッ♡♡~~~~~ゃ゛ッ♡♡」
図らずとも、白目になる。

びくんびくんと死にかけた虫のように痙攣する私の股間を踏み潰しながら、エドワードが靴を脱ぎだした。霞んだ視界に、かぽっと鈍色に光る機械鎧の足裏が露わになる。何をされるかが一瞬でわかって、歓喜に身体が震えた。エドワードは脱いだ靴をその辺に投げ捨て、見せつけるようにカチャカチャと鋼の足指を動かす。細かく動く足の指先に呼吸が異常に早まる。エドワードの頬も赤かった。
「靴だけじゃ足りないんだろ?足指の一本一本で弄りまわしてやるよ、まずはそのバカでかい袋から──こうだ」
ぐにっ、と固い足指が食い込んだ。私の大事な袋の、片方へ。

「───ッへ゛、ぁああ」

「ゴムみたいな音すんなあ、おもしろ」

きゅっきゅっきゅっきゅっと、エドワードは音を楽しむように、時間をかけて足指をぐりぐりと捏ねた。大雑把な痛みとはまた違う、中の肉をピンポイントでこねくり回すような激痛に私は床に頭を擦りつけて唸った。

「こらこら動くなって、次はこっち」

もう片方の袋にかかる、足指の体重。ぐり~っとじわじわと中の肉が押しつぶされてゆき、私の世界はついにぷつんと途切れ、黒くなった。一瞬だけ苦痛も快楽も何もなくなる。目覚めた時には腹に重い衝撃。エドワードの蹴りが腹部に食い込んでいた。

「起きろって、飛んでんじゃねえよこのグズ」

どん、と再び腹を踏みつけられる。見れば腹の皮膚が赤黒い。気を失った数秒間に何発か食らっていたのだろう。体を少し動かすだけで、腹筋が割れるような激痛が走る。悲しみのあまり眉が下がった。せっかくエドワードが私の腹を蹴っていてくれたというのに、何故気絶などしてしまったのか。もったいなさすぎる。エドワードに言われるまでもなく、私は正真正銘のクズだ。

「なに泣いてんだよ、きも」

「ぅうッ……君の、けり、も、もっと゛ォ、ほ、ほし゛、ぅうう……」

「だーめ、まだこっちで遊び終わってねえんだから」

わがままを言う子供のように諭された。再び弄られる睾丸。そーれっ、と子供らしいかけ声と共に、私の急所に体重がかかった。太ももに力を入れ、今度こそ気を失わないように踏ん張るが、やはり私の体は私の思考を残酷にも裏切った。こんなに気持ちいいというのに、人間の反射という機能が憎い。堪え性がないぞとぶるぶる震える私に説教を食らわす前に力が抜けた。股間が激痛に耐えきれず、そのままブラックアウト。

「おいおいまたかよ、ドMのくせに失神しすぎ」

暗くなった世界で、エドワードの愛らしい笑い声が響き渡る。現実に戻りたい一心で、身もだえるような美味しい激痛から遠のく意識を繋ぎとめるために必死になる。それが功を奏したらしい。

「はは、何その顔、おもしれ」

どうやらエドワードは、ぶるぶる力み、白目をむいたりまた戻ったりを繰り返す私の表情が面白かったらしい。腹の底から爆笑している。エドワードの心からの笑い声なんて初めて聞いた。大好きな子供の様子に微笑ましくなる、純粋に嬉しい。やはり戻らなければ、死に物狂いで意識をあげれば目の前が開けた。明るい視界にエドワードがいる。現実に戻ってこれた。

「……は、がね、のぉ……」

「おかえり。ザーメン製造工場潰れちゃった?」

ぺしゃんと平らになった睾丸を、エドワードの足の甲でひょいっと持ち上げられた。

「あーまだギリ大丈夫か。割れてねえや。悪いな、感覚ないから力入れすぎてんのに気付かなかくてさ」

ポケットに手を突っ込み私を蔑むエドワードはカッコいい。なんだこの子は、可愛いのにカッコいいというのは私にとって二重の責め苦だ。愛しさがマシに増す。卑怯すぎる。
「にしても、今にもイキそうだなあ。こんだけ踏まれてんのにガッチガチって……可哀そうだからちゃんとシコシコしてやるよ、ほーら、してほしかったら足もっと開け。閉まってきてるぞ」

エドワードの言葉にはっとした。気絶を繰り返した私の足は自然と閉まり始めていた。慌てて足を開いてエドワードに服従のポーズをとる。エドワードの顔が、いつも以上にキラキラして見えた。ふん、と鼻で笑ったエドワードが、足の親指と人差し指の間で完全に起ちあがった私の性器をわしっと掴んだ。

「ふぁっ……♡」

そのまま、根本から竿の先まで、ねちょねちょと上下に擦られる。念願の足コキ。しかも、絶妙な強さ。機械鎧だというのに此処まで細かく動かせるのは凄い。まるで私の性器を弄るために生まれてきたような足ではないか。そんな不純な気持ちがバレたのか、エドワードがギリギリと力を強くしてきた。

「鳴いてんじゃねえよこの淫乱メス豚」

「すごいッ……いい、ぁあっ♡ああっ……!♡」

エドワードの足の動きに合わせて股間を上下へ突き出し、蚯蚓のように地面でのたうつ私を、エドワードは心底気持ち悪そうに見降ろしていた。その瞳だけで、今にも出てしまいそうだ。

「うっぜえ、なぁ」
「ぁァアアあ!!」

「おら、イケよ、オレの足にちんこ擦られて白いもん出せよ!」

「あッァ……~~~~~~ッッ!!!でちゃう、出ッッ~~~♡」

散々虐められたおかげで、終わりはあっけなかった。

ぐいっと根本から上に皮膚を引っ張り上げられ、搾り取られるように射精する。発射された私の精液が、噴水のように飛び出し辺り一面に散る。私の股間、腹部、床、そしてもちろんエドワードの銀色の足に。

「あーあ」

射精は、長く続いた。その間、エドワードはぴたりと動きを止めたまま、ガクガクと震える私の盛大な絶頂シーンを見下ろしていた。ぴゅくっと最後の一滴を全部出し切り、体の力が抜ける。今まで経験してきた中で、一番長い絶頂だった。

「あ、ぁ、ああ……ひぅっ……」

ゆっくりとずらされた足が寂しくて、追いかけるように腰を突き出す。ねちょ…と、接触していた性器からエドワードの足裏に、白い糸が伸びたのが見えた。鋼の足裏や足の甲や指に、私の吐き出した白濁液がこびりついている。なんという光景だろうか、歓喜の涙が出そうだ。

「……アンタの汁で足汚れたんだけど。謝れよ」

「す、すまん……」

「すまんじゃねえだろ?」

「ごめ、んなさ……」

「許されるわけねえだろ、舐めて綺麗にしろよ、オラ」

ぐにっと、唇に押し付けられた足裏。むわっと広がる青青しい精液の臭いと、オイルの臭いが混ざり合い、鼻を付く。とてもそそる匂いだ。命じられるでもなく、自然に口を開き舌を突き出していた。

「は、はふ……ん」

べろべろと、エドワードの足に舌を這わす。鋭く尖った鉄に唇をこねくりまわされ、唇が切れたがそれすらも快感に変わった。零れてきた自分の唾液を啜りながら、ついてしまった自分の精液を舐めしゃぶる。

「ほらほら、機械の隙間もしっかり舐めろよ」

「ふぁ、ふぁふぁっは、んうぅ……」

ぐいっと口の中に、足指を押し込められ、かちゃかちゃと口内を弄られる。エドワードの機嫌を損ねないように、エドワードの動きに合わせて必死になって舌を動かした。

「……このへたくそ、もういい」

しかし、丁寧なお掃除に返って来たのはエドワードの冷たい声だった。背筋が凍る。絶望の音がした。

「あーあ、なんか想像してたのとちげえな、アンタつまんねえわ」

そ、そんな……

「は、はが」

「帰るわ」

私の唾液塗れの足を引き抜き、踵を返したエドワードに縋りつく。

「ま、まって、くれ……!」

こちらを見下す金色の瞳に、必死に訴えかける。

「ゆ、許し、許してくれ、捨てないでくれ……!」

こんな台詞、今まで誰にも言ったことがない。付き合っていた女性相手であってもだ。それほどまでに、私は必死だった。どうしてエドワードが私を苛んでいるかなんて、理由なんてもう既にどうでもよかった。ただエドワードに虐められたい。見捨てられたくない。いたぶりつくされ、愛されたかった。

「なんでも、言うとおりにするから!」

「オレに、捨ててほしくないの?」

「……っ」

無我夢中で頷く。ここまで高められておいて放り出されるなんて地獄そのものだ。

「ふうん」

感情の見えない瞳で、エドワードが肩をすくめた。無情にも私から離れていく。エドワードが手に取ったのは、私が椅子にかけておいた軍服だ。まるで初めから自分のものであるかのようにそれをバサっと羽織り、どかりと椅子に座る。

「じゃあ次はそうだな。オレの前でオナニーしてみせろ」

エドワードの前で、オナニー。自慰。台詞を理解した途端、最高の命令に私は躊躇なく股間に手を伸ばした。が、瞬時に厳しい声にたしなめられる。

「ばか、誰が手使っていいっていったよ」

こつんと、エドワードの指先が肘たて部分を叩いた。こつん、こつんと。

聞き分けの無い狗をしつけようとする、飼い主にように。

「手は使うな。床オナしろ」

椅子に座りながら足を組み、冷たい眼差しで私を見下ろす様はどこかの女王様みたいでカッコよかった。きゅんっと尻穴が疼き、床にべたっとへばりついてしまったのは条件反射だった。自身の勃起した性器を、冷たい床にぺたりとくっつける。

「なんでも、言う通りにするんだろ?」

「わ、わかった。する、するとも」

内心喜びに満ち溢れていたが、しぶしぶと言った体を崩さず私は床に向かって大きく足を広げた。これほどまでに自分の体の柔らかさに感謝したことはない。いつも家でするような体制を取り、エドワードをちらりと伺う。やれ、とエドワードの唇が動いた。これは許しを与えられたということだ。私はエドワードから視線をそらさずに、ゆっくりと腰を動かし始める。

「……は、はぁ、はっ……あぁ、は、ふぁ」

ねち、ねち、ねちと床に擦れる自身の性器から、淫猥な音が広がっていく。

今、私は自慰をしている。椅子に座ったエドワードに見られながら、エドワードに命令されて、エドワードの目の前で下半身を丸出しにして汚い床に性器を擦りつけて自慰をしている。

「うわぁ、大佐床とセックスしてるね、汚い」

気味悪そうに目を細めたエドワードの蔑みの視線の麗しさに、自身の硬度がさらに増したのがわかった。

腰の振りがどんどんと早くなってしまう。初めて知った。愛する人の視線の先で床オナをすることが、こんなにも幸せなことだったなんて。

「ねえ大佐、床との愛情たっぷりセックス気持ちいい?」

「ァっ……あぁ、ふ、きもひ、ぃ」

「素直に悦んでんじゃねえよ、ほんとアンタって、気持ち悪い」

「ぁ、あ……♡」

「アンタって自尊心とかないの?今どんなみっともない恰好してるかわかる?蛙みたいだよ」

脚を開いて床に腰を押し付けて腰を振り続けている自分の姿を想像する。どれほど惨めな光景だろう。そんな姿をエドワードの前で晒しているという事実に、脳髄がどんどんと蕩けていった。

「なってねえなあ。もっとへこへこ腰振れよ、今から10秒以内にしゃせーしねえとお仕置きな」

つまらなさそうに肘をつき、耳を穿り始めたエドワードに焦る。

「むっむり、だっ、そんな……あ、ぁうあッ」

先ほど射精したばかりなのに、そんなにはやく出すなんてさすがの私でも無理だ。

「ほらほら、時間ないぜ?」

しかし、エドワードは私の懇願などには耳をかしてくれなかった。それどころかさらにそっぽを向く始末だ。エドワードに見てほしくて、がむしゃらになって腰をぐりぐりと床に押し付ける。

「じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、ろーく」

唐突に始まったカウントダウンに焦る。しかしうまく擦ることができない。エドワードが耳を穿り終わり、機械鎧の指先についた汚れをふっと吹き飛ばした。

「ごー、よーん、さーん、にーい、いーち」

にんまりと笑ったエドワードが静かに立ちあがる。

ああ、美しい。あまりの神々しさに、私は腰を振ることも忘れて呆けたようにエドワードを見上げた。

「──ぜぇろ」

それは今までで一番、腰が砕けてしまいそうになるほどの声色だった。

「はーい時間切れ、残念」

しゅるりと、エドワードが羽織っている軍服から紐を引っ張った。

金の縄で編み込まれた軍服の肩についている飾り紐だ。何をするのかと期待8割不安2割で見つめていれば、ぱしんとエドワードが手を打ち鳴らした。軍服の袖も巻き込んだそれはあっという間に青と金が混じった長い紐となり床に垂れた。固い軍服の布と相まって、とても重そうに見えた。

──ごくり。生唾を飲み込む。それはただの紐ではなかった。それは間違いなく。

「これ、一回やってみたかったんだよね」

びいんと張った鞭に、エドワードはぺろりと舌を這わせてみせた。エドワードの愛らしい桃色の舌が、鞭を、私の紐を湿らせる。こつりと、エドワードが一歩前に出た。私の元へ、もう一歩。

「これで、もっとイきやすいように手伝ってやるよ」

──びしゃん、とエドワードが鞭で床を叩く。それが始まりの合図だった。

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