
「……ッ、クソ、この」
オレは悪態をつきながら思い切り抵抗した。
そう、思いっ切りだ。どんな相手であれ絶対に苦悶に呻いてしまうほどの力を込めて、固くて冷たい鋼の右腕を厚い肩に叩きつけてやったし、分厚い靴底で軍服に覆われた腹筋を蹴り飛ばしもした。
それでも諦めないのでついには機械鎧の左脚で、同じ男として一番狙われたくない急所を狙おうともした。が、全て不発に終わり、特に最後のはしっかりと阻まれてしまった。
隙を突かれ不能にさせられたくないのであればさっさと諦めればいいものを、大人はしつこかった。いつものことだけど。
「酷いぞ君」
「それはアンタだろーが!」
ぎゃん!と喚いても微笑み一つで黙殺され、気が付けば狭いソファの隅に押しやられ逃げ道を断たれていた。毎度のことながら手際がいい。仮にも最年少で国家資格を持つ身、こんな三十路間近の男にそう簡単にやられるわけにはいかないと渾身の力で手足をバタつかせても、なんなく押さえ込まれる。
力はそこまでかけられてないはずなのに動けない、いとも簡単に捩じ伏せられる。いわゆる寝技と言う奴だ。
「往生際が悪いぞ鋼の」
「ったり前だろうが!クソ、離れろ……てめぇッ、このクソ」
なんでここまで本気で抵抗してんのに離れないんだよ、さすが職業軍人だな、専用の格闘術も手慣れてやがる……とそこまで考えて頭を振った。今はこいつに関心している場合ではない。
「クソクソクソと、君の言葉には品がないな。小学生か?」
これにはぷちんときた。つい数年前まで正真正銘の小学生だった幼いオレにこの仕打ち。噛みついてやろうと歯を剥き出しに襲いかかる。が、なんなくするっと避けられた。もちろん、オレの手足は抑えつけたままで。器用過ぎてムカつく。
「うるせえ!家帰ってさっさとクソして寝ろっ」
「残念だが、今はまだ昼で仕事中だ。帰れない」
「だったら仕事中にこんなことしてんじゃねえよ」
至極当然のことを言ったのはオレのはずなのに、肩眉をあげた大人ははあ、とこれ見よがしにため息。
まるで、おかしいことを言っているのはオレのほうみたいな態度だ。
「これだから駆け引きも何もわからない子どもは……」
「15歳に何求めてんだ──って、うわッ……」
ずるりと引っ張られた腕と共に押し倒される。ぼすん、と背中に柔らかな感触。
痛くなかったのは背中に腕を差し込まれ衝撃を緩和されたからだ。
変な所で紳士的に振舞う男にさらにムカつきが増した。
「……どけよ」
黒い髪を持つ整った顔の上官が、すまし顔でオレを見下ろしていた。
しかしその黒い瞳を侮ることなかれ、優しそうに見えてとても獰猛だ。
なにせ相手は焔の錬金術師、オレをどう焼き尽くし食べてしまおうかと算段しているに違いない。やばい、このままじゃ力づくで食われる。
「どけって」
返事もなく、薄ら笑いを含んだ色気に満ちた口元がぐいっと迫り、首筋をぺろりと舐めてきた。
ぎゃあ!っとあがった野太い悲鳴に色気がないな、とため息つくぐらいならさっさと止めろ、そしてどけろ、持ち場に戻れ。
「せめて雰囲気を出してくれないか、集中できない」
「ざけんなよてめえ」
同意でもないくせに何が雰囲気だ!
ひとまとめにされた手首に集中しながら、どう逃げようかと算段する。
扉は遠い上鍵をかけられている。持ち主はもちろん目の前の大人気ない大人。鍵くらい錬金術を使えば開けられるが、あとで報告書を書けとネチネチ嫌味を言われ今以上のしつこさで理不尽な仕置きを受けるに違いない。八方ふさがりだ、詰んだかも。
ダメ元で、いい加減にしねえと鼻折るぞ、とドスの効いた声で脅してみたが無駄だった。子どもの脅しなど取るに足らず、むしろそんなことしか言えないのか……と若干哀れみを含んだ目で見下されてキレそうになった。
生意気な口しか聞けないクソガキ相手に本気で盛りまくってんのはそっちだろうが。
「重いキモい邪魔ださっさとどけろ」
「どけたら君は逃げるだろう」
「当たり前だこのド変態」
「本当のことを言われたら余計に燃え上がってしまうなあ」
「ひぃっ」
ねちっこい吐息を耳たぶに吹きかけられ、不埒な手がごそごそと服の中を這いずり始める。
体を捻って逃れようとしても、その指先はしつこく胸の尖りを弄っており何がなんでも離れようとしない。乳離れできない赤ん坊か何かかアンタはと怒鳴り散らしてやりたかったが無理だった。代わりに嬌声が漏れた。
「ひあっ、ぁ……」
「そうそうその調子だ、いいぞ」
指導教員みたいな台詞に笑ってやりたいところだが、余裕がない。
些細な刺激で快楽を引きずり出されることに慣れてしまっている体は素直に甘く痺れてしまう。声を出さないようぎりりと歯を噛みしめ睨みつけるが、軽い態度の男にべろんと服をたくしあげられ、今度は胸にむしゃぶりつかれ唇は簡単に開いてしまった。
「んぁあっ、ふ、くあ、ぁんッ」
くるくると乳輪を舐め回す舌の感触に、否が応にも脊髄が反応してしまう。
貪欲に快楽を拾ってしまうこの身体が恨めしくて仕方がない。
「……、めろ、やめろ!ここどこだと思ってやがる!」
「東方司令部」
「じゃない!」
「の、仮眠室にあるソファの上」
「だろ!おかしいだろ?」
「ベッドがいいのか?」
「そういうことじゃねーよ」
「そろそろ落ち着きたまえ、皆が帰ってくるまでにことを済ませなければならないんだ、昼休みは意外と時間がない、さっさと協力したまえ」
「やんなきゃいいだけの話だろーが」
「無理を言うな」
「なんでだよ!」
「私に一人で治めろと?薄情だぞ鋼の」
ぐにっと、固くなった下半身を強く押し付けられ事態を察する。
なんとも自分勝手な言い分だ、男相手に盛りやがってこの変態鬼畜ムッツリスケベショタコンロリペド野郎ついでに根暗!さっさとトイレにでも行って一人でシコってろ!という罵詈雑言と共に唾を吐き捨てる、が、男は頬にかかったオレの唾液をペロリと舐め、さらに深い微笑みを浮かべた。ひくりと頬が引き攣る。
「君に入れなければ治まらん」
「……オレはアンタが嫌いだから突っ込まれたくない」
「ははは、面白い冗談だなぁ鋼の」
「冗談じゃねえぇえっん、くうう……!」
まず始めは軽めのキスから……なんてことはなく、ぶっちゅうと強く唇を押し付けられた。
性急にぶ厚い舌が勢いをつけてなだれ込んできて苦しい。縦横無尽にわが物顔で口腔をいたぶられ目尻に涙が滲んだ。
「ふっ、ん、んんう」
口内にも性感帯があるということを数年かけてオレに教え込んだのはこの男だ。当然、オレのいいところは全部バレてるため自然と力が抜けてしまう。
ちくしょう少しは手加減しろよ……と巧みな舌使いに思考が落ちかけていると、大きな手が下着の中にズボっと侵入してきた。
「ぎゃあ!」
垂れさがった性器をおもちゃのようにもみくちゃにされる。
「あっあっ、っダメ、だめ」
「相変わらず小さいなぁ」
「萎えてっからだよこのど下手くそ!」
「萎えていようとなかろうと君のサイズは変わらん」
「……このヤロ、ちっとばかしでかいからっていい気にッ、んっ……ん~~~」
案の定、二回目のキスは最初よりも激しかった。
しかも下着の中をダイレクトに弄られながらだ。荒い呼吸と共に溜まった唾液がだらだらと口周りに零れ落ちて、それを見せつけるように舐めとった大人の視線に下半身がぶわっと熱を持つ。やば、と慌てて下半身に力を入れてももう遅かった。
とろりと零れてしまったそれは、言い訳不可能な快楽の証。
「漏れてきたじゃないか」
「うるせえ不可抗力だ……」
「キスだけで反応しておいて?」
しっかり反応してしまったことは事実なので言い返せない。
おまけに至近距離から唇にかかる吐息が熱くて、ぐらぐらしてきやがった。
「ん、っぁん、ふく……」
突っ込まれた手でねちねちと機械的に扱かれるだけで、腰からじわじわと快感が広がっていく。
口内に涎が溜まる。これは本気で、逃げないとダメだ。
「っこの、よーるーなー!おっさん臭えんだよ」
「失礼な、毎日きっちり3分間歯磨きはしてるしシャワーも欠かさないし髭も剃ってる」
やけに早口だ。人のイチモツは小さい小さいと小馬鹿にしてくるくせに、おっさんと呼ばれて機嫌を損ねるなんて子どもはどっちだ。だが、使える。鬼の首取ったり、ここぞとばかりに叩きつけてやる。
「どんなに清潔にしてたっておっさん感はぬぐえねえぞ、そろそろ頭皮薄いんじゃない?」
「君だってそのうちおっさんになる」
「あっ白髪はっけーん」
嘘だけど。腹が立つほど真っ黒だ。
「色っぽいだろう?」
くそ、めげねえな。くっとつり上がった口角は余裕綽綽だ。
「……言ってなかったけど、オレ実は今日歯磨きしてないんだ。ついでに数日間もシャワー浴びてねえよ」
なんたってここんとこずっと野宿だったからな〜と、とどめを刺してやる。嘘だけど。
どうだ、これでオレの体を舐めしゃぶろうなんて気はおきなくなるだろう。しかし、調子に乗って大人を見くびっていたオレが馬鹿だった。
「それは楽しみだな、汚い君も興奮する」
すっと愉し気に細められた黒い瞳に血の気が引く。
そうだ忘れてた。この大人はオレみたいなガキに欲情する変態だった。こんなんで鬼の、もとい大佐の首が取れるわけがない。
「うそだろ」
「ははは、ここの所清潔で綺麗な女性しか抱いてなかったからな、たまには珍味もいい」
「誰が珍味だコラっ……おっさんストップ」
「おっさんおっさんと、そこまでして虐められたいとは君もなかなかに策士だね」
余計に煽ってしまったらしい大人に本格的に圧し掛かられて、あっという間にズボンと下着を脱がされてしまった。
「わ──!」
ぷるんと空気に触れたそれが眼前に晒されてしまう。舌なめずりをした大人は見なかったことにしたい。
「いい加減に観念したまえ」
「バカアホまぬけエロ魔人!ごーかん魔!」
「全くもってその通りだ」
「開き直るなっ」
完全にスイッチが切り替わった大人に悪口や体術や経験値で適うはずもなく、体中を舐められ吸われ、僅かに反応した男芯をひたすら弄られ続け、数分後には、ぱかりと開かされた両脚の間に腰を突き立てられていた。
流れるような手さばき、あっと言う間だ。かふっと、衝撃に喉が詰まる。
「っいぃ゛ッ……て、痛い……」
「君が拒み続けるから、慣らしてやる時間もなくなってしまった」
オレのせいかよ!時間ないって言ってるわりにはさっきから時計も確認してねえくせに!
「ざ、けん、な……いたい、ッ痛ぇ、っつってんだろ!」
「君のせいだ、我慢しなさい」
大人の腹を蹴り飛ばそうとした足を逆に捕らえられ、肩に乗せられる。ふざけんな!と言い返す前にさらにずん、と深く穿たれてしまった。
「ひぁ゛」
視界がばちりと弾け、のけぞる。腰がずり上がるが、直ぐに元の定位置に引きずり戻された。
「うぁッ、裂ける、さけるぅ」
狭い肉が割り裂かれ、圧倒的な存在感の異物に侵食されていく感覚に腰が戦慄いた。冗談じゃなく、かなり痛い。
「ぅ゛、ぇ、こんのっ鬼畜、野郎ぉ……」
ミチミチと入口が広がっていく音が内臓に響き、手足の先が痺れてきた。歯もガチガチと痙攣してる。脂汗が目尻にたまり、視界が薄くなる。痛いぐらいに尻を掴まれ、広げられ、もっと、と肉をかき分け気の済むまで奥を求められる。
「あっ……かはッ」
それなりの時間をかけて、どん、と尻たぶと大人の下半身の距離がなくなった。心臓の音と、中で大きく脈打つ音が重なる。
両手を解放されても、ぶるぶる震えながら大人の背中にしがみつくことしかできない。なにせちょっと動くだけでびりりっと激痛が走るのだ。繋がっている部分に熱が溜まり、神経一本一本が擦り切れるような苦痛を感じる。いくら何度も咥え込んだことがあるからといって、ろくに慣らしもせずに突っ込まれたら痛い、ただでさえろくでもない大きさしてるくせに、先の鋭い木の棒でもぶっ刺されてるみたいだ、裂けそう、っていうかこれ絶対裂けてる、切れたまま治らなかったらどうしよう。この若い身空で痔か?トイレする時絶対痛い、最低だ、クソクソ、クソ大佐。
「い゛って、ぇ……、こんちきしょ……」
「大丈夫だ、裂けてない。すまなかったな大きくて」
「、あやまるくらいだったら、抜きやがれ……!」
「痔になったら責任を取ろう」
「ぜってえごめんだ」
どうやら途中から声に出してしまっていたようだ。笑いを含んだ声が返ってきたが掠れている。
瞼を開き見上げれば、男の額にもうっすらと汗がにじんでいた。どうやら大人もつらそうだ。そりゃそうだろう、入れられてる方がこんなに辛いのだから入れてる方もキツイに決まってる。そうでなければフェアじゃない、理不尽だ。いやでも、絶対オレよりは痛くねえよな、こういうのは下役をするほうがしんどいはずだ。挿入口の痛みが煮えたぎるような憤怒に変わっていく。
「……ッんで、」
なんでこんな酷い扱いを受けなきゃならないんだ。今日は気分じゃなかったからやりたくなかっただけなのに。
返答なんて聞きたくないとばかりに、有無を言わさず仮眠室に引きずり込んできやがって。
こっちの意見を聞いてくれない態度が悲しいとか寂しいとか、そんなことを思うような、言うような間柄でもない。ただ憎たらしさを覚える。半脱ぎになっていた大人のシャツの隙間から手を差し込み、怒りを込めて背中に思い切り爪を立ててやる。一生消えない傷になってしまえ。それかシャツを着直した時に1週間ぐらい擦れて痛んでしまえ。
「痛いな」
「オレの、方が、いてぇッ!って、ぁッちょ、まだ慣れてなっ、ッう、ん゛ッ」
「威勢がいいのが君のとりえだが、こういう時は素直になりたまえ」
「意味、わかんねえ、よ」
「……私だって、なぜ君みたいなちんちくりんを抱きたいのかわからん」
「あぁ゛?」
頼むから、本格的に動き始めたくせに唐突に語り始めないでほしい。
「豆だし」
「ぁっ、く゛ぅ、痛ッ」
そのちんちくりんな豆相手にしっかり腰を振りまくってるのはどこのどいつだ。
そんな矛盾に自分自身でも気づいているのか、大人は笑った。
「それなのに、ちんちくりんな豆が食べたくてたまらないんだ、不思議だな」
「だったら本物の豆でも、食ってろよッ、んく、ふ、激し……ぃ」
緩急をつけて、引き抜かれては抉られる。ぐちゅんぐちゅんとねちっこい音が響いて、その音ですら頭が痛くなる。
「大佐ぁ……い……痛い、マジで、うぅ……」
本気の泣き言にさすがに可哀想だと思ったのか、性器を激しく扱かれるも余計に痛みが増した。
本当に、今日はやけに性急だ。いつもなら気持ちいいはずなのに、やはり繋がった部分がズキズキと痛くてうまく快楽を拾えない。ここまでの苦痛は久しぶりだ。認めたくはないが、もう耐えられそうになかった。
「やだ……も、」
「やっと素直になった」
大人の口元が、嬉しそうに緩んだのか見える。
こっちはこんなに苦しんでるのに、何を喜んでんだこのろくでもない大人は。
「くそ、さっさと、出して、抜け」
「そうしたいところだが、キツ過ぎてなかなか難しい」
ひょいっと抱えあげられた衝撃で、結合部に余計に負荷がかかった。肩を押されて、ぐえっと喉の奥で蛙が潰れた。
堪えきれなかったのか喉をくつくつ震わせた大人に殺意が増す。
「っこの状態で騎乗位、とかぁっ……!」
殺す気か!?猛抗議しても大人は笑うばかりで取り合ってもくれない。ちくしょう、今はまともに力が入らないから無理だけれど、あとで絶対踏み潰してやる。コイツのナニを。
「力を抜いてくれ」
「ッむ、りだ……いた、いッってば!」
「出して入れろと言ったのは君だ」
「オレは抜けって、んっくぅくるし、出る、内臓下から出、る」
「……情緒の欠片もないな」
「いてえんだっ、つの」
「大丈夫だ、大丈夫、ほらうまく動いて、よくなるから」
何が大丈夫だ、他人事だと思って。しかし、抜き差しの回数が増えていくにつれ、大人の言う通りさっきよりは痛くなくなった気がする。上下運動の合間恐る恐る自分から腰を回してみれば、痛くない位置にずっぽり埋めることもできた。ずっと咥え込んでいたせいで感覚が鈍くなっただけかもしれないが。
無理矢理突っ込まれるという最悪の情態だったのに、一度気持ちよさを感じてしまえばくたくたに溶かされるのは直ぐだった。
「あっは……ぁう」
「よくなってきただろう?君は咥え込み方がうまい」
褒められているのかけなされているのか。尖った胸先をぐりぐりと指でつつかれたので鼻先に噛みついてやる。小さな歯型がついた。直ぐに消えるだろうが、ざまあみろだ。
「んッ、はぁっ……な、なぁ、音が」
痛みが和らげば、次に気になり始めるのはこれだ。ぬちぬちと聞こえてくる粘着質な音に敏感になる。
上官の仮眠室だ、人払いをしているとは言え、もし人が扉の前を通ったらどうしよう。というかもう既にバレていて、扉の外に人がいたらと思うと集中できない。
「音が、聞こえて……ん」
「大丈夫だ」
「っから、何を根拠に……!ひぅ、うぁ、ん」
執務室を訪れた時、この大人の部下がなんともいえない苦い笑いを湛えてたら、居たたまれなくなるのはオレなんだぞ!
そんな不安を振り切るようにだろうか、薄い腹を掴まれ大きく上下に揺さぶられ始める。
ガツガツと激しい動きにふり落とされるのが怖くて足を絡ませ肩にしがみつけば、ぎゅっと抱きしめ返された。しかも優しい手つきで背中を撫でてくる。
けれども中を抉ってくる力は強く微塵も容赦がない。しみじみ、行動が一致していない男だと思う。
「君、今、付き合ってる子はいるのかね」
「は、ぁ?」
なんだってこんな時にそんな質問を。
「な、んだよ急、に」
「単なる興味だよ」
身体を求められる激しさとは裏腹に、耳元で囁かれる声は静かだ。
付き合っている子、ぱっと思い浮かんだのは幼馴染の顔だ。まだまだ淡い想い過ぎて恋と呼べるのかもあやしいが、自分が誰かと付き合うとしたらやはり彼女だろうか。ただ自分でもわからない。
軍の上官とこんないかがわしいことをしている時点で、同年代の女の子と甘酸っぱい恋だの愛だの、できる気がしないというのが本音だ。
「いねえ、よ」
「では気になった子は?旅先で」
「あっん、可愛いなって、思う子はそれなりに、ん」
あ、今抉られた所気持ちいい。自分から腰を動かして感じた箇所を擦りながら、ぼんやりと考える。
可愛いと思う子、そりゃいるだろう。オレだって思春期の男、異性に興味を持つのは当たり前だ。
花屋にいたあの子、訪れた屋敷にいた優しい娘さん。綺麗なメイドの女の人、同年代、年上、少なからず笑顔を向けられれば顔が赤くなってしまった。もちろんいいなと思うだけで、それ以上に発展するということはない。
旅から旅の連続で、弟と共に探し物を追い続けるだけで精一杯だ、そんな余裕はない。
「では、女を抱いたことは?」
「んだよ、質問、多いな……」
「この数ヶ月、娼婦の多い町にも顔を出していたようだが」
ねえよ、とすぐさま会話を終わらせようと思ったが、止めた。言われてみれば、そういった街に出向いたことも数回あった。夜の仕事をしているグラマラスな女性に話を聞きにいったんだ、そういば。報告書にもちらっと書いた気がする、っていうかこいつはいちいちそんな細かいところまで確認してやがんのか?
「っへ、なんだよさっきから、それこそアンタに関係ねえ、だろ。いっちょ前に嫉妬でもし……んぁああぁああ」
等間隔な挿入が急に切り替わり、尻を鷲掴まればちゅんっと奥まで突き上げられ、圧迫された肺から高い声がでてしまった。
慌てて手の平で口を抑え扉を見やる。人の気配はしない。はあぁ~っと静かに安堵し、大人の黒い後ろ髪をギリギリと引っ張り苦情を申し立てる。今のは絶対わざとだ。 なんで今日はこんなに乱暴なんだ。
「て、めぇ、急に、妙なことしてくんなよ!」
「大事なことだ」
「はぅ……」
胸先に噛みついてくる歯の力も強い。引きちぎられやしないかちょっと不安になる。
「君が女の味を覚えてしまったらもう抱かせてはくれなくなるだろうし」
「あっちょ、奥、かき回すなって、つぶれる、待てって……ん、ひゃぁ」
「潰れるほどやわにはできてないだろう、君は」
こちらを使われるより、女の中のほうがいいに決まっている。
そう囁きながら柔らかく熟れた結合部の周りをくるりとなぞられ、ビクビクと尻が震えてしまう。
「なーんでそんな、機嫌悪いんだよ……」
女の味を知ってるアンタが、男のオレなんか襲ってるのが答えじゃないか。
「どーせ、オレに女が出来たって、アンタオレを、犯すだろ」
「──さあ、どうかな」
それが思いのほか切なく聴こえて、ん?と首を捻った。
ぎしぎしと律動にあわせて軋んでいたソファが沈黙する。大人が動きを止めたのだ。
そっと腕を外して、男の顔を覗き込む。表情はいつもと変わらないように見えた。ただ、何かが妙な感じが……
「聞いてくれるかな、実は昨日、バーで知り合った女性を口説き落として抱いたんだ」
「へー」
前言撤回。こいつは何も変わらん。あんだけ他人に情緒を求めておいて、他人とのベッド事情を語りだす無神経さに呆れる。っていうかこいつ彼女と別れたのつい数日前じゃなかったっけ?そんな状態で新しい女を口説いて回ってんのか?さすがにドン引きだ。こんな大人にだけはなりたくない。
「だが、なかなかうまく起たなくて」
「……は?」
「最後までできなくて、振られた」
「へええええ?アンタが?」
思わず乗り出してしまう。無能じゃなくて不能じゃん!げらげら笑ってやればばぴしりと大人の表情が固まった。
あの女相手では百戦錬磨のロイ・マスタングが、勃起しなかっただって?ウケる。後でぜってえ踏み潰してやるって思ってたけどそれじゃあ必要ないな。と、そこまで思ってはたと気づいた。
あれ、じゃあなんで今オレには突っ込めてんだ?
「ここ最近振られてばかりだ、なんだかな……」
「ご愁傷様、アンタの時代ももう終わるな。もう誰かの彼女に手えだすとか止めろよ?」
この男の部下に『大佐に彼女取られた』と泣きつかれるのはもう正直、面倒臭い。
「君のせいだ」
「なんでオレのせいなんだよ」
「さあ」
背中に周っていた手が、するりと頬に張り付いた前髪を払ってきた。
至近距離で見つめてくる瞳が思いのほか紳士的に見えて、こくりと唾を飲み込んでしまった。
なんだか緊張する。
「なんでだと思う?」
「……しらねえよ」
緊張を隠すため、大人の肩に腕を置き、挑むように首を捻ってみせる。
返答に間が空いてしまったのは嫌な予感がしたからだ。
大佐に食われたのは12歳の時。セックスなんて字でしか知らないオレから誘うわけないから、もちろんあっちだ。強引だったし、ほぼ無理やり。ほぼと言ったのは、大佐のテクがあまりにも凄すぎて後半はオレもノリノリになってしまったから、そして早々に受け入れたから。
男なんだし別に尻掘られるぐらいいか、成長していくにつれ足りなくなって旅先で誰かを買うなんてしたくないし、ここに来た時だけでも満足させて貰えるんだったら御の字かな、溜まるもんは溜まるし……なんて、如何せんオレはタフだった。それから、時々大佐とするようになって、その関係が今でも続いている。大佐から誘う時もあれば、オレから誘う時もある。オレの気が乗らない時でも抱こうとしてくる時もあるけど(今回のように)、関係はおおむね良好だった。体の相性もいいし。
「わからんのか」
「わかんねえよ」
「やれやれ、君にとって私はセックスフレンドのままか」
「セフレぇ?あのな、アンタを友達って思ったことねえんだけど、上司と部下だぜ?」
「では、私との関係をどう説明する」
「オレはアンタにとって性欲処理の穴でアンタはオレにとって性欲処理の棒」
「ぼう……」
目を伏せ同じ茫然と言葉を繰り返した大人は、あまりにあまりな例え方に少しばかり沈んだようだった。いい気味だ。内心でほくそ笑んでやる。
──君の体とは相性がいい、どうかね、君がここに来た時に処理し合うというのは。
最初のセックス(無理矢理)が終わった後、白濁液と汗に塗れ、初めて与えられたとてつもない快楽にぜえはあと息を乱していたオレに、互いを性欲処理の道具にしようと提案してきたのは他でもないこいつだ。
先にオレを穴扱いしてきたのはそっちだろうが、オレがアンタを棒扱いして何が悪い。まったく自分勝手な奴め。まあ、正直名案だとは思ったけど。それほどまでに、大人に叩きつけられた本気の愛撫は、麻薬だった。
「いいからさっさと終わらせろよ、時間ねえんだろ?」
「……そうだったな」
「ぇあ゛っ、うぁ……ッ、ァっ」
再び動き出した大人にしがみつく。痛みがなくなった代わりに、容赦なく高められればどんどん快感が増えていく。底なし沼のように、身体だけが深みにはまっていく。
「てめっ動くんなら、先に言え、っつの」
完全に起ちあがったものが大人の腹に擦れて、だらしなく体液を漏らし続ける。
繋がっている部分でさえ先走りが伝ってどろどろだ。小さい小さいとバカにされているが、成長していくうちに大きくなるはずだ。認めるのは癪だが、記憶の中で共に風呂に入ったことのある実の父親が、でかかったんだから。あまり嬉しくないことに、オレは父親似だった。
「あー、ぁ……気持ちい、大佐、そこいい」
「ここか?」
「んッ、もっと右、そう深く……ぁああ、くる、突いてもっかい、イキそう……」
「いい加減」
「はぁ……え?」
「君も、さっさと自覚してくれれば早いんだがな」
大人の言わんとしてることがわかってしまって、嬌声の合間にため息が漏れた。
『も』ということは、そういうことなのだろう。予感が的中してしまったのに嬉しくない。むしろ死ぬほど厄介だ。
「んっ、むぅ」
三度目のキスは、早めに離れた。むしろ舌を追いかけてしまったのはオレのほう。だって気持ちがいい。
無言で絶頂を追いかけ始めた大人を強く抱きしめる。別に恋しくなったわけじゃない。そのほうが快楽を拾えるからだ。
「はぁ、は……」
互いに無言で、汗だくになって腰を回し、振る。時々固くなった自分の性器に触り、扱きながら深く飲み込む。でかすぎるとは言ったものの、大人のそれは腹の中で膨張するとかなりいいところに当たりやすくなるし、圧迫感が癖になって、結構気に入っている。
大佐がオレの細い腰をひっつかみ、小刻みに上下左右に揺さぶってくる。にちゃにちゃと腹の中を好きな角度で掻き回し、狭い内部を味わい、どんどんと膨らんでいく。あとは身勝手に弾けるだけだ。オレも、快感を求めて自分勝手に腰を回すだけ。
そういう関係だ。さっきの言葉は嘘ではない。オレは大佐にとっての穴で、大佐はオレにとっての棒。
それ以上でもそれ以下でもない。それでいいと思っている。
粘着質な音と、ソファが軋む音、そして時計の音。そろそろ昼休みも終わる頃だろう。お互いさっさと出したほうがいい。
大人のシャツがしわくちゃになっている。もちろん原因はオレ。この状態じゃあ予備のシャツに着替えなきゃいけなくなるな、だから脱げと言ったのに。
そんなに、オレとセックスしたという証が欲しいのだろうか、と、なんとなく思った。
ここ最近の大佐は、こんなんばっかりだ。
「なあ」
「はぁ……なに、」
「君と私が、ここまで気持ちよくなれるということは、だ」
揃ってもう限界で、絶頂をめがけてラストスパートをかけていた時。ぼそりと吐き出された台詞。
イキやすいようにエロい言葉でも投げてくれんのかな、なんて期待していたら。
「心も伴ってるからだとは、思わないか?」
──それはあまり、心地よくない言葉だった。
笑ってやろうと思って失敗してしまうくらいには。
素直に言われるよりは随分ましだとは思う。だけど望んでない。
ガクガクと揺れる視界を細め、冷静に壁を見つめる。白い壁だ。思考も熱くて白い。ただこれだけはわかる。
それは越えてはいけない一線だ。
悦楽の波に飲み込まれながら、大人の耳たぶに甘く噛みつき、囁いてやる。
これ以上足を踏み入れてくれるなという、警告も兼ねて。
「それは言いがかりってやつだぜ、マスタング大佐」
身体に力がこもる。ずんっと腰を落として、天を仰ぐ。思考が弾けたのは一瞬だ。
一拍遅れて大人が唸って、中に冷たいものがびたびたと吐き出されていく感覚。
ぶるぶると震えながら、弛緩し、荒い息を吐き出し力を抜く。大佐の体も、オレの体も冷えていた。汗がひんやりする。
きっと互いに最悪だ。こんなみっともない絶頂を迎えたのは初めてだった。
「言いがかりか」
「そうだろ」
「そうか?」
「そうだよ」
何を当たり前のことを、と鼻で笑っても大佐は答えなかった。だからオレも直ぐに口を噤んだ。
黙って、ゆれる快感の波がなくなるまで肌をぴたりと合わせる。じっと、終わる時を待つ。
この関係が、一番のベストだ。
二人だけの秘密の関係。
さっと服を脱いで、気持ちいい所を擦りあって、悦びに貪欲に、みっともなくあんあん喘いで、入れて擦ってあられもなく吐き出して、脱力して。それぞれ身体に散った汗とか諸々の体液を拭いて、服を着こんで、じゃあなと別れて。
次にタイミングが合えば、またどこかで気軽に体を重ねる。挨拶の代わりに。
アンタは恋人を作って女を抱いて、ちょうどいい頃になったらさっさとどっかのいい人か令嬢と結婚でもすればいい。政略結婚でも恋愛結婚でもいい、オレには関係ない。
オレもその内、弟と自分の体を取り戻したら、幼馴染か、まだ見ぬ可愛い女の子と恋なんてものをして、その柔らかい体に触れて自分からキスをして服を脱がして愛撫をして、丁寧に抱くだろうから。アンタがオレにするみたいに。
今はまだ、逞しい体を持つアンタに圧し掛かられるイメージしかわかないけど。
どうしてイメージがわかないかなんて、理由を考えるつもりなんてさらさらない。
──────────ライン
わかるだろ大佐。
今更、惚れた腫れただの言いだされることの面倒臭さなんて、オレは求めちゃいないんだ。
先にのめり込んだのはどちらかなんて、不毛な言い争いをするつもりもない。
だって、どちらだっていいんだ。わかった所で変える気なんてないんだから。
少し前に、貪り、貪られ尽くして寝入ったオレの頭を、アンタはそうっと撫でた。甘く優しい手つきだった。
きっと、その距離が一番いい。
だから。
自覚なんて、死んでもしてやらねえよ。