KISS YOU
「鋼の、キスしていいか」
その一言に少年は小さく口を開けた。
「え……」
驚きに見開かれた瞳。甘い飴細工のようなとろけた金色に見上げられて、喉の奥にたまった感情があふれ出しそうだった。
「キスをしても、いいか」
緊張のあまり震える拳を、ぎゅっと握りしめる。
見事に狼狽えた少年は、驚きと、一抹の不安と、それを上回る喜びにあたふたと視線を彷徨わせた。口をぱくぱくと開閉し恥ずかしそうに頬を染める姿は可愛らしい。
その痛いほどの愛おしさに、心が砕けてしまいそうだ。
「う、うん」
しっかりと力の込められた、小さな頷き。きゅっと喉奥に溜まった唾を飲み込み、その柔らかな頬にそっと手を添える。
触れあった胸元から伝わる、はやい心臓の音。とくとく、とくとく。鼓動のはやさが始めて重なったことに、気が付いているのはきっと自分だけだ。
ぎゅっと目を瞑った子どもの顔。そんな少年の姿を見るたびに、だんだんと胸が高鳴っていっていた事をもっとはやくに気が付いていれば。
こんなに遅くなど、ならなかったはずなのに。
すっと唇を近づける。下の軌道。少年の、赤く熟れた唇へと。
ちゅっ。
小さなリップ音のあと、びっくりしたように目を開き、長い睫をぱさぱさと瞬かせた少年がこちらを見上げてくる。
なんで?という疑問の声は、汚れもなく純真そのものだ。
真っ直ぐな視線に耐えきれず、わずかに目線をずらす。小さなおでこが目に入った。
「……し、たくて」
他にうまい言葉が見つからなかった愚かな大人を、少年は嘲笑うわけでもなく。
ただただいつものような明るさで、はちきれんばかりの笑顔をみせた。眩しいそれに、強く心が軋む。
「ありがとう大佐、大好き!」
いつまでも、そしてこれからも変わらぬであろうその笑顔に甘い言葉などなに一つ出てこない。
できることは、ただただ黙って、熱くほてり、湿った華奢な体に縋りつくことだけだ。
マスタングは愛しい小さな頭に顔を埋めた。
湿った髪からかおる少年のにおいに、包まれながら。