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なぜか大佐が二人いるというイロモノです。二次小説の醍醐味。

つっこみは無しの方向で。少しだけロイ×ロイ描写もありますのでご注意を。

Inevitable───1

「なんで、大佐が二人……」

「いろいろあってな」

目を白黒させて驚愕する子供に完結に答え(にもなっていない回答)を返し、見下ろす。いつもは不遜な笑みを浮かべてこちらを睨み付けてくる大人顔負けの精神力も持つ子供は、今は幼い風体だ。ただ困惑したまま、押し倒された―――というよりも投げ飛ばされたベッドの上で口をあんぐりと開け、私と、私の隣にいるもう一人の私、を見上げている。

それでも、危機感はない。最初は目を皿のように見開いていた子供はもう鋭い目をきかせ、無防備に、目の前にある現象を分析しようと思考を巡らせているらしい。

さすが錬金術師、科学者だ。それが嬉しくもあり、哀れだとも思った。今から私たちが何をしようとしているのかを知らず、信頼を向けてくる子供が。

つ、と視線を横に向ければ、眉根を寄せて子供を見下ろす、もう一人の自分がいた。その表情を見れば何を考えているのかなど直ぐわかる。きっと、私も同じ顔をしているのだろう。そんな顔をするのならば、今すぐにでも止めればいい。いつも通りの笑みを貼りつけて、驚かせてすまなかったねと、子どもの隣に座り込めばいい。

そうすれば子供は驚かせんなと、なんで二人になったんだと、一緒にこの現象の解決方法等を探ってくれるのだろう。彼はそういう人間だ。だからこそ私は―――私たちは、子どもを欲しいと思ってしまったのだから。

それでも、止めることなどできやしない。それは、もう一人の私も同じだろう。痛みに満ちた顔を作りながらも、腹の底では自分の唯一を手に入れられる事の幸せと快感と絶望を噛みしめている。目に見えるほど小さく鳴った喉がその証だ。それはもちろん、私も。

異様な雰囲気を漂わせたままつっ立っている大人二人に、さすがのエドワードも違和感を感じたのだろう。科学者ばりに皺の寄った眉を下げ、何事かとこちらを伺ってくる。

そろそろと探るように上げられた金色の瞳。それを見ていたくて、見ていたくなくて、隣に視線を移す。黒い、深淵のような瞳を目が合った。いつのまにか、彼も此方を見ていた。お互いの意思は、口にせずとも、わかる。

きっとこれは、必然だった。私達が、子どもを手に入れるための、必然。

一人であればできなかったことが、二人なら。きっと苦しみも、二人になる。

先に動いたのはもう一人の私だった。

何も言うことなく、無言のまま少年に近づく。「は?」と子供はうろたえながらも逃げるそぶりは見せない。むしろどうした?と言いたげに小首を傾げた。心臓がぐっと押し上げられるような感覚だ。背中しか見えないが、きっともう一人の私も、同じ顔をしているのだろう。だからこそ、子どもも、心配そうに此方を見ているのだ。

「うわっ」

黒髪の、大きな身体が少年に圧し掛かった。ベッドが軋む音。少年の小さい身体はあっというまに覆い隠された。話していた通りの流れ。ためらうことなく、私も少年の側による。

「何、何する……ッ」

「静かにしてくれ、鋼の」

少年の腕を掴み上げて、ベッドに縫い付ける。もう片方の腕、機械鎧のほうの右腕はもう一人の私が捻り上げている。がちゃがちゃと動く機械鎧の脚も左手で押さえつけた。あまりの力技に、さすがの少年も青ざめ始めた。最初にあった頃のように、意思の強い瞳でこちらを睨み付けてくる。

「おいてめえら!何してんだ!」

何をされるかわからぬ怯えを微塵も見せることなく、こちらに鋭い目を向けてくる少年。口調も荒い。そして肝が据わっている。その強さが愛おしくて可愛らしくて、憎らしい。

ずっとこの目を見てきた。いつか少年の目が弟ではなく、自分に向けられる日を想像しながら、そんなありもしない、叶えるつもりもない妄想に身をゆだね、捕らわれながら。

「外せるか?」

「ああ」

極力、子どもの顔を見ないようにしてもう一人の自分に話しかける。返答は直ぐ返ってきた。よくみればその手は小さく震えている。緊張している。そして、相手も震えている自分の身体に―――私の身体にも気が付いたようだ。

ふっと自嘲気味な笑みがもれたのは、どちらだったのか。

もう一人の私とは身体の関係をもった。お互い報われぬ恋などという愁傷なものに縋り、傷を舐めあうように。不思議なもので、自分と身体を重ねれば重ねるほど、自分と向き合えば向き合うほど、少年への恋情が日に日に溢れかえりそうになった。傷の舐めあい、それだけではなかった。傷の抉りあいだ。傷つく事を恐れ自分を守っていたちんけなプライドが丸裸にされ、赤裸々のままベッドの上で転げまわり新たな傷を作る。性欲の発散など、一瞬だけだった。

「外すって、……何だよ」

「抑えていてくれ」

頭上で交わされる不穏な会話、だんだんと声が小さくなってゆく子供を無視して、細く、しかし筋肉のある腕と機械鎧の脚に体重をかける。

機械鎧は別にしろ、鍛えているとはいえ子どもの腕だ。軍属とはいえ、日々軍に害をなす不作法者どもと生死の戦いに身を投じている職業軍人とはわけが違う。子どもは、少し力を入れただけで一切左半身を動かすことができなくなった。

「おい……ッおい!」

機械鎧が、逃れられもしないのにギシギシと無駄な抵抗を紡ぐ。やめろと、大きな声を出す子供の声に構わず、もう一人の私―――いや、これは私でもある。私が、彼の服に手をかけた。カチンと胸元のフックを外して、手早く上の服を脱がせにかかる。子どもはいつも薄着だ。黒の上着の下は同じく黒のタンクトップで、抵抗を抑え込み、ぱさりと前を開けば、肩の部分から覗く赤いケロイド―――機械鎧のつなぎの部分が淫猥に濡れたように光っているのが見えた。彼の接続部を見たことはあるが、こんなに間近では初めてだ。つい身を乗り出してそこを凝視してしまう。しかし、どけてくれ、と言われ慌てて身をおこした。

鬼気迫る勢いで、それでいて慎重に、接続部をするりと撫ぜたもう一人の私が、鋭い目つきで、パチン、パチン、と少年の腕を外していく。もちろん正規の手順で

「お、い……おい、おい!」

少年の抵抗が大きくなった。切羽詰まったような、引き攣るような少年独特のアルトがお互いの耳朶を打ち、それすらにも体の奥がうずいた。

緊張を、はるかに凌駕するほどの興奮。今、私たちはエドワードを脱がしている。一糸まとわぬ姿にしようとしている。機械鎧の外し方は前々から少年本人から聞いていた。まさか、こんな風に役に立つことになるとは思ってもみなかった。妄想の中とは別に、実際に行動に移すことになるなどと、誰が想像できようか。

もちろん、それは私だけではなく子どもも同じだろう。まさか、外されるだなんて。金の瞳が零れ落ちそうなほどに見開かれた目が、それを物語っている。以前もう一人の私と、あの子の目を奪い取って二人で分けてしまおうだなんて物騒な話合いをしていた事を今思い出した。もちろん本気ではない。本気ではないが、この分なら冗談を本物にすることもやぶさかではない。その事実そのものが、眩暈がするほどの甘美を呼ぶ。

「や、やめッ―――ぁッ」

がきん、と、鈍い音を立てて、子どもの生命線ともよべる右腕が外れた。

「~~~~ッゥ゛」

外す時でさえ少し痛むのだろう。神経をつないでいる部分なのだから当たり前だ。頭をシーツに押し付けて、のた打ち回る様に腰をくねらせる姿すらも扇情的だ。

子どもの額に、脂汗が浮いている。余裕があれば拭ってあげたかったが、余裕がなかった。今はなによりも、エドワードが私達を受け入れる準備を終わらせることが先決だ。

こんなものではない。こんなものではないのだ。これから私たちがすることは、今彼が感じている苦痛なんて目ではない。もっと、彼が彼ではなくなるような残虐非道なものだ。もしかしたら狂ってしまうのかもしれない。それほどのことなのだ。

―――止めろ、こんな事許されない、止めろ。

脳内に直接響く声は誰のものなのだろう。聞く耳は持たない。持たない覚悟は身勝手にも、もう決めた。子どもの身体にさらに全体重をかけ一切の抵抗を奪いながら、脳裏を駆け巡る声を思考の外に押し出す。

痛みに満ちた饗宴に向かって、ずるりと、少年の腕ごと服を脱がせた。

「ぃ、う゛……」

痛みに呻いている子どもの隙をついて右腕からも服を脱がす。素早くだ。

予想通り、子どもはろくな抵抗もできずにタンクトップ一枚になった。機械鎧を外された今、抵抗もままならないだろう。錬金術も使えないただの幼い子供が、大人二人の手によってベッドに押さえつけられている。

これでもう、後戻りはできない。

「なん、で……」

次第に痛みが引いてきたのだろう。頭をぶんと小さく振り、こちらを見上げてくる顔は怯えに満ちていた。

かさかさに乾いた唇から血が滲んでいる。腕を捥ぎ取った時、そういえば少年は唇をかみしめていた。

たぶんそれが原因だ。それでも、少年が未だ抵抗心を失ってはいない。

「ふざけん、なっ、腕、返せッ……」

輝きに満ちている金色の瞳は相変わらず鋭いままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あの子を、手に入れようか。

先に言葉にしたのは、もう一人の私の方、だったと思う。しかしそれすらも曖昧だ。もしかしたら私のほうだったのかもしれない。もうずっと思っていた事だ。お互い睦みあい、汚らしい欲を吐き出して、ベッドの上で荒い息をついていた時ですら考えていたのは子供の事だったから。何を口走っていたのかすら思い出せないほど、いつもめちゃくちゃに抱きあっていた情交。いや、情の交わりではない。自慰だ。きっと、お互い子供の名前を呼んでいた。そんな時の、会話だった。

―――ああ。

昔の私なら、こんなこと考えもしなかっただろう。いや、考えはした。しかし実行はしなかっただろう。力はある。権力もある。脅して関係を迫りでもすれば、あの子を手にいれることだってたやすい。それでもしようと思わなかったのは、自分が一人であったからだ。当たり前だ。本来自分というものは一人だ。1の人間は1にしかなり得ない。けれども、ある日もう一人の自分が現れた。同じ性を持ち、同じ姓を持ち、同じ顔をもち、同じ遺伝子を持ち、同じ過去を持ち、同じ思いを抱える、哀れな男が。現れてしまったのだ。朝起きれば部屋にいた。本人も、なぜここにいるのかわからないという、もう一つの個が。私と共にあの子を背負うことができる、もう一つの私の欲が。

同じ子供を愛していたことにお互いが絶望した。もしももう片方が子供の事をなんとも思っていなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。お前はあの子どもの事が好きなのかと、笑いあい、自分のものにしたいという欲求に蓋をしていられたのかもしれないのに。それももう遅い。私たちは出会ってしまった。この部屋で、偶然に、そして、必然に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鋼の」

これから私たちは共犯になる。愛しい子どもを地獄に叩き落として、自分たちの欲求を満たすための畜生となる。今まで培ってきた子どもからの信頼を切り裂いて。信頼を得るために割いてきた労力と気力を、全て投げ捨てて。

「あまり、痛い思いはさせたくないんだ」

「い、痛いって……何する、気だよ」

ふと、笑う。二人の私が。

荒い息をはき、真っ赤になった小さな顔。幼くて、柔らかな肌を欲にまみれたまま見下ろす。馬鹿だとは思う。それぞれお互いをそう思っている。私がそう思っている。

こんな事をしても、決して満たされることがないのは分かり切っているはずなのに。それでもそんな自分の気持ちを抑える事すらできないだなんて。

大の大人が、聞いてあきれる。自分のエゴイズムさが、初めて憎らしいと思った。

「なんだと、思う」

もう一人の私が、子どもの上気した頬に手を添えて問いかける。ゆったりと汗ばんだ髪を、労わる様に撫ぜ挙げる。言葉の内容も態度も普通だが、それはあくまで平常を装っているだけだ。そうでもしないと今にも躍りかかってしまいそうなのだろう。私自身、そう思っているからわかる。子どもを見下ろす優しげな瞳に、確かな獰猛さが潜んでいることも百も承知だ。

「怒ってんならはっきりそう言え、こんなやり方卑怯だと思わねえのか……ッ」

エドワードは、この部屋に入ってからやっと会話らしい会話がなりたったことに少しの安堵を覚えたのか、怒声を上げながらも身体の力を少し抜いた。

愚かだ。ここで死に物狂いで抵抗すればもしかしたら勝算はあるのかもしれないのに。それを怠るなんて、優しすぎる。人を疑う事を覚えなさいと、一度気を許したものにはとことん甘い危なっかしい彼に忠告したのはいつだったのだろうか。もう思い出せない。その頃からエドワードによこしまな気持ちを抱いていた。

それでも、あの頃はまだよかった。気をつけなさいと。自分に害をなすものは直ぐ傍にいるのかもしれないよと、素直に忠告できていたのだから。もう、遠い。温かな気持ちなど、とうの昔過ぎ去った。

「聞きたいことはいろいろあるけど、なんで大佐が二人、なのか、とか」

一瞬現れた科学者の顔は、直ぐに子どものそれに戻った。

「だけど、まずはオレ、なんかしたのか、アンタ……達に」

不安、恐れ、そして、心配。信頼していた大人の暴挙に、この子の心はあくまでも純粋そのものだ。ああ、彼の人となりに恋をしたはずなのに。今はその人格が、ただただ生ぬるい。

「なんかあんなら、言えよ。もしかしてアンタが二人になってんのと、関係あんのか」

ここまできて。これからよくない事が起こるであろうことは明白だろうに。

少年は、たった12歳で国家資格をとったほどの天才だ。稀代の錬金術師。理解していないはずはないだろう。子どもの心根が、唯一の救いすらも邪魔している。愛おしい、手に入れたい、どんな手を使ってもという感情は決して褒められたものではないが、それすらも心の内に潜むドロドロとした黒い塊に塗り固められてゆく。

見え透いた信頼と信用が、自分達と子どもの心の距離を、示しているようで。

「関係なくは、ないかもな」

私達が欲しているものは、そんなものなどではないのに。

「ああ。私にも理由はわからないが」

もう一人の私も、心に溢れかえった黒い塊が口元まで出かかっているのだろう。唇を小さく震わせている。

「君にはもうずっと、傷つけられているよ」

傷つけているのは私達のほうだ。そんなことはどちらも分かっている。それでも責めずにはいられなかった。この純真な子どもを。予想通りに傷つけられた子どもはさっと顔を陰らせた。ゆっくりと顔を覗きこめば、じわりと怯えて仰け反る姿。そうだ、それでいい。

甘い、ちんけな感情などいらない。私達―――私が欲しいものは、少年の身体の奥の奥まで染み渡る私への感情だ。それがないのであれば、簡単なこと。作ればいい。

そう、作るのだ。たっぷりとこの小さな身体に私達の感情を刻み付ければ、子どもも嫌がおうにも知るだろう。心が粉々に壊れるような、欲にまみれ苦しみと苦みに満ちた、甘い後悔を。出会ってしまったことがそもそもの破綻なのだと、思い知ればいい。

私達も。そして、エドワードも。

「今から君を抱く」

「…………は?」

数泊の呼吸の沈黙を終えて、子どもはぽかんと唇を開けた。

「だ……」

最初の一文字を口に乗せ、子どもは視線を彷徨わせた。私を見、そしてもう一人の私を見る。子どもらしい行動だ。親に意味を尋ねるような、そんな幼い仕草。

「だ、だく、って……はぁ?」

「言葉の通りだよ。それとも、もっと丁寧に言ったほうがよかったかい」

「今から君は、私達とセックスをするんだ」

「セッ……!」

今度こそ、子どもは固まった。一気に赤みを増した顔。この歳でこの反応とは。改めて、押さえつけている少年が幼いのだという事を実感する。セックスなど、私たちの中では日常の中に存在するごく一部のものに過ぎないのに、彼にとってみれば、非日常なのだ。

「何言ってんだアンタら……抱くって、なんだ、せ、せせ、せっ……すって……お、オレ、おとこ…」

ふいに、自分の感情がわからなくなった。単語一つでここまで狼狽える子供を、可哀想だと思う、痛ましいとも思う。今からしでかすことに緊張もしている。

それでも、止めようという気にならないのは一体なぜなのだろうか。

「君は、どうやって子供ができるか知らないのか」

「そうじゃねえっ」

冗談はよしてくれ、と、でも言いたげな顔だ。いや、半分は冗談だと思っているのかもしれない。それでも、唇の端がひきつっているところから見るにようやく自覚したらしい。暗闇が、じりじりと忍び寄ってきている事に。それとなく拘束から逃れようと動く身体がその証拠だ。

「オレは、男だ!」

「知っているよ、男同士でもセックスはできる。知らないのは君だけだ」

「……なんで、そんな、そういうのは好きな人同士がするもんで」

ふわりと笑みを浮かべたのは、二人同時だった。

「そうだな、好き合ってない者同士がしたら、それはセックスではない」

「そうだろ!そんなの違うだろ!……そんなのっ……そんな、の……は」

だんだんと尻すぼみになる声に、いつものハリはない。赤みを増していた頬は、今は紙のように白くなっていた。普段からきめ細やかな白い肌だが、より一層顕著になっている。

本当に、顔に出る。子どもの言いたいことがわかって、あえて口に出してやる。これは、最後の優しさだ。最終勧告と言ってもいい。逃がすつもりはないのだから。

「言い方をかえようか」

一言一言、睦言を囁くように。子どもの耳元に唇を寄せたのはもう一人の私。追い詰めて、追い詰めて、そして。

「今から君は、私たちにレイプされるんだ」

―――退路を、断つ。唇を戦慄かせた子どもは、凄い力で抵抗した。先ほどの比ではない。しかし、もう遅い。機械鎧は奪った。四肢の自由すら、子どもには与えていない。大声を上げようとした口に、先にかぶりついたのは私のほうだった。いや、私のほうがはやかった。

「ン、んっ……!」

目を見開いた子どもが、至近距離で見えた。首を振って逃れようとする顔を抑えようとしたが、両手は拘束のため動かせないことを思いだす。どうしたものかと必死に逃げる唇を追っていれば、ふいにがっちりと少年の顔が固定された。

見れば、もう一人の私の手が子供の頭を押さえていた。両手で、もう片方の腕では子どもの首の付け根の部分を圧迫するように。

「かはッ……!」

苦しさに、ぱかりと開いた口の中からちらつく小さな舌が見えた。その赤さに、考える間もなくむしゃぶりつく。

「ん、……ンんん~~ッ、ゥう゛!」

じゅうっと、逃げ惑う幼いそれを吸い上げ、喉の奥まで追いかける。

今までしてきた、顔すら思い出せないような女性とのキスとは程遠い。自分の、こんな荒い息を聞くのは始めてだ。

「は、ん…ゥ゛」

初めて味わう愛する子供の舌は、熱く滑り、とろけそうだった。それに柔らかい。粘ついた音をわざと出せばより一層興奮はまし、身体の芯がずくんと疼く。

いま私は、エドワードとキスをしている。エドワードの唇を奪っている。初めて。熱い感情に突き動かされるまま、少しも動かすことのできない子どもの口に喰らい尽くすようにかぶり付き、めちゃくちゃに舌を絡め熱い口内を堪能する。

「ふ、ふぐ……ゥッぐ」

ごふっと子供が咳き込む。溢れる唾液。それでも口を離すことはしない。ねちゃねちゃと、うち頬、歯の裏、上あご、舌の裏など、口内の全てを余すところなく掻き回す。

どのくらいそうしていたのか、時間の感覚すらも定かではない。それほどまでに興奮していた。ぐっと頭を押され顔を上げれば、そこには眉間に皺を寄せた自分の顔の自分があった。

「そろそろ変われ」

「……ああ」

物足りなさを心の奥に押し込み、ちゅっと子どもの唇をついばんでから場所を譲る。

「けほッ、げふっ……やっ、ふ、やめ、ヤッ」

気管に唾液が入ったのだろうか、酷く咳き込みながら口の両端に涎を濡らした少年に、今度はもう一人の私が覆いかぶさる。動かすことができないように、先程と同様首の根も圧迫して。

「~~~~~ンんん゛ッ」

まるで、獣のような口づけだった。

私はこれほどまでに、激しいキスをこの子に与えていたのだろうか。

口を開かせ、唾液を注ぎこむように口内をねぶっている。私に対抗するように粘着質な音をこれでもかというぐらいに響かせながら、本流のように小さな口に舌がなだれ込む。時折大きな舌が見え隠れして、そのたびに唾液が口の端から零れ落ちる。ぎゅっと瞑られた目が何度か大きく見開かれたのは、喉の奥に唾液を注ぎ込まれていたからだろう。

「ふ、はッ……!」

もう一人の私が、唇を離した。ひゅわ、と、大きく子供が息を吸った。

粘ついた唾液が線を引き、切れ、子どもの唇の周りを濡らす。罵声の言葉もなく。大きく上下する少年の胸元。肺いっぱいに何度も息を吸い込んでいるということは、とても苦しかったのだろう。この分だとキスも経験したことがないらしい。少年の幼馴染の少女に酷い嫉妬を覚えていた気持ちが、少しだけ晴れたような気がした。

「抑えてくれ」

「ああ」

一息つくひまもなく、次に移る。初めての感触に興奮しているのはどちらも同じだった。

もう一人の私が未だ衝撃に打ち震えているエドワードに馬乗りになった。私も、力なく放り出されたエドワードの腕を持ちあげ、彼の頭上のほうへ移動する。大人二人分と子供一人の重さを受けて、ベッドが大きく軋んだ。

「は……」

やっと視界が回るようになったのか、エドワードは怯えた呼気を漏らした。ぼんやりと視線を彷徨わせる、私と、もう一人の私に。先ほどと違うことは、そこに含まれているのが畏れただ一色だけ、ということだった。驚愕もない。ただ、恐怖におののいていた。キスをされたことがよほどショックだったのだろう。

これからもっとすごい事が待ち受けていると言うのに。

「やめっ、ろ……」

手と脚を拘束された状態は、まさに標本に磔にされた虫のようだ。磔にされて死んだほうがましだと、子どもは思うことになるのかもしれない。

「はなっせ、はなせ、よ……!」

頭上からは、子どもの体が全て見えた。ちらりと覗く胸の頂き、押さえつけられた生身の腕の脇の窪み。そして、もう一人の私に圧し掛かられて、今にも感情の全てがはち切れんばかりの表情。

「大人しくしなさい」

言いながら、もう一人の私が子どものタンクトップをたくし上げる。ひきつるような悲鳴が少年の喉から漏れた。

「酷くされたくはないだろう?」

びくんと少年の身体が震えた。話し合い、先にするのはもう一人の私の方から、と決めていた。だからこそ、初めて彼の唇を奪ったのは私のほうだったのだ。

「どこさわって……ッ!やめッ、やッ……ヒ」

まともに空気にさらされた胸の尖りが、躊躇なく彼の口に含まれた。途端に魚のようにとびはねた子どもの体を、逃がさないように私が強く押さえつける。

「あ、やッ……ぁう゛っ!」

尖りの形をなぞる様に、厚い舌がそこを包み込み、這う。にゅるにゅると円を描く様にねぶられ、先の窪みにそれを埋め込まれるとたまらないようだ。舌の動きに合わせて子どもの身体も揺れる。顔を見れば、噛みしめられた唇の隙間から荒く短い息と、ひきつるような声が漏れている。瞼はぎゅうと閉ざされていたが、口全体で突起を包み込まれた瞬間それは大きく見開かれた。

「~~~ぁッ、ッひ―――ィ!」

もごもごと私の唇が動いている辺り、強く吸われているか噛み付かれているか、ひっきりなしに舐められているか、どちらにせ、子どもにとっては強い刺激だったに違いない。

もう片方のそこも何もされていないのにつんと上を向いている。片方だけ、というのも可哀想なので私のほうからきゅっとつねってやれば、子どもは声もなく頭をふって嫌がった。金色の髪がベッドに散らばる。もう三つ編みほとんどほどけていた。先端をこりこりと擦ってやり、親指で潰すようにこねくりまわせば驚くほどにしなる体。こんなエドワードの姿など見たことがない。いつもはストイックに黒に身を包んでいる少年が、生意気に口答えする少年が、皮肉下に口角を上げる少年が、勇ましく大地を踏みしめている少年が、私の舌で、指先で感じている。行為を施しているのは私達のほうだというのに、息が荒くなる。早くなる鼓動を止められない。

散々弄られ、やっと唇から解放されたそこは赤くぷっくりと腫れあがっていた。唾液で湿っているそこが光に照らされてぬらぬらと光り、厭らしい。

ベルトに手をかけられ子どもは半狂乱になって暴れた。大きな声を上げながら、逃れるようにじたばたと身体をくねらせる。どうやらもう恥も外聞もないようだ。金色の髪がぱたぱたとシーツに散る。はなせ、はなせと、機械鎧の脚が白いシーツをたわませる。ガチャガチャとうるさい。いっその事脚もとってしまおうか、そう提案しようと思ったがやめた。いつも弟に向かって向けられていた瞳が恐怖に歪められ、上から押さえつけている私を見つめているのが見えたからだ。

「や、やめ、やめてくれ、大佐ッ!」

子どもが、私を呼ぶ。懇願するように、哀願するように、愛を乞うように、切羽詰まった声で。今まで聞いたことのないほどの、激しさで。

「たい、さ、たいさッ……やめて、はな、離して…お願いだ!」

今、エドワードは私だけを見て、私だけに怯え、私だけに懇願している。いつも誰にも頼らず、颯爽と前をゆく子供が。眩しくて明るい太陽のような子が。

ぞくぞくと、背中が震えた。これ以上ないほどの快感に、笑みが零れた。より一層、強く押さえつける。

ぎりぎりと、子どもの手首が赤く染まる。ここまできて、まだ逃がしてくれると思っていたのか、裏切られたと絶望に染まった顔が痛みに歪んだ。

その苦痛を与えているのが自分だという事実にどうしようもないほどに感動する。

少年の、私へだけの感情がほしいと渇望した。それが、今こんな形ではあるが、叶えられている。嬉しいと歓喜している自分が確かにいる。もう一人の私も同じだろう。熱い息をゆっくりと零し、小さい可動範囲で必死に暴れ狂う機械の脚を押さえつけ、彼が、ロイ・マスタングが―――私が、ゆっくりと子どものズボンを下着ごとずりおろした。

「………ッ!」

詰まった子供の、声。外気に触れた少年の性器はここから見てもわかる通り少しも反応していなかった。先程のエドワードの痴態で男らしく反応してしまった私達とは明らかに違う。それは子どもだからというわけではないだろう。彼はこの行為を歓迎していない。当たり前だ。今から同性である男二人に犯されるだなんて、受け入れられるはずがないだろう。彼は、私の事を、好きではないのだから。それでも、欲しいと思う。心を手に入れられないのであれば、体全てをと、望む。肉欲は、突き詰めれば貪欲だ。

淡い金の薄毛と、うっすらと赤みがかった色のついた性器は15歳にしては小さすぎだろうが、身長が低い彼からしてみればそのくらいなのかもしれない。改めて、エドワードが成人もしていない子どもであることを認識させられる。思わず、感嘆の溜息が漏れた。

「すごいな」

「ああ……」

「やっめ、やめ……」

かたかたと震える身体すら劣情を煽る。

子どもに、何をしようとしているのだろうか自分達は。こんな風に怯えさせて、怖がらせて、苦しませて、壊そうとして。後の事を、考えないわけではない。この幸福な絶望の時間が終われば、エドワードは私を恐れ、憎むだろう。時間は決して戻らない。割れた硝子は破片となって辺り一面に突き刺さる。血にまみれた体は赤く染まったまま、もう戻らない。傷は消えても、血にまみれたことは一生忘れることはないだろう。もう、笑顔も見ることすら叶わない、わかっている。それでも、手に入れたいと思う。その欲求を満たそうと昏い決意を固くしたのも、今子どもを押さえつけているこのベッドの上なのだ。

ここで始まりここで終わる。全ては、必然なのだから。

すっと、もう一人の私が萎えた子どもの性器を触ろうと腕を伸ばした。

「―――やめろ!」

エドワードが今まで以上に声を荒げた。それこそ渾身の力で。

「やめろ、やめっ、はなせ―――てめえ!!」

パァン、と。

部屋に響いたのは水を打ったような乾いた音。一瞬の出来事だった。

たとえ一瞬でなくとも、止めることはしなかっただろうが。

「おい」

「しょうがないだろう、こうでもしなければ大人しくならない」

大きな音だった。、随分と力を入れたらしい。エドワードの白い頬はすぐに真っ赤に染まり、本人はというと殴られた事実に呆然としていた。それもそうだろう。エドワードを殴ったことなど一度もない。あたりまえだがこんな暴力じみたまねをしたことも今回が初めてだ。

「しっかり腕を押さえていてくれ、逃げられたらかなわん」

気持ちを悟られないように、ずっと上官らしく接してきた。

時には優しく時には厳しく。少年の信頼を勝ち取るために。

「わかっている」

「…ゥ……ッ」

殴られた反動でまだ頭がくらくらしているのか、エドワードの抵抗も格段に弱まった。

その隙をついて、萎えたそれに緩く触れた、もう一人の私の手。

「ひっ…あぁ、あ…!」

直接的な感覚に、エドワードが口を大きくあけた。

小さな竿を、下から上へ、ほどよい圧力をかけて何度も擦り上げる。先の窪みを指先でぐり、と押し潰し、薄い皮を剥き、緩く早く刺激を与えてゆく。エドワードの性器が私の無骨な指によってしごかれる様に、目がそらせない。ああ、こんな日が本当にくるなんで。

「いたっ…ぃたいッ……アッ」

しかし、エドワードのそれはふるふると震えはするが、起ち上がるそぶりは全然見せなかった。それどころか、子どもは痛がってばかりだ。自慰の経験があまりないのかもしれない。はやくに親をなくし、幼い頃から弟と共に旅から旅を重ねてきたのだ。無理もないだろう。しかし、このままでは困る。圧倒的に痛みが多くなるであろう交わりだ。一度激しい快楽を植え付けてやらなければ、反抗心は削げない。

ちっと舌打ちしたもう一人の私は、躊躇なくエドワードのそこに顔を埋めた。

「―――ひ」

ぱくりと、エドワードの性器が熱い口内に含まれた。

「い、……ゃああ!」

ピンク色のそれが、深く咥えこまれ、じゅっじゅっと激しく抜き差しされる。

私の口内に吸い込まれては抜かれ、じゅるじゅると淫猥な音を立てて真っ赤な舌が性器を舐めまわす。

下から上へ、上から下へ。口内で絞る様に何度もしごかれ、子どものそれは徐々に赤みを増していった。

「い、や…いやだぁッ…あ、ァああ!」

時々あやすように先端を弄られ吸われるとたまらないようで、エドワードは弓なりにしなった。皮の隙間を広げるように舌が性器を舐め続けると、だんだんとそれが硬度を保ち、起ちあがってゆく。

「い…いやだ、やめ、やめて…ぁあ…~~~!」

くねくねと身体を動かすたびに、ツンと尖った胸の尖りがぴくぴくと痙攣する。エドワードの性器が舌でねぶられているのをただ見ているのが我慢できなくて、そこを再度ぎゅっと摘み上げ指を這わしてやった。

指の腹で円を描く様に擦りあげ、ぐにぐにと引っ張る。

「~~~~~~ッ」

エドワードは声にもならないようで、目を見開いて痙攣している。

もう一人の私が幼い男芯から唇を離した。ちゅっと名残惜しそうに吸い上げ、先の割れ目をぺろぺろと舌を這わせば、少し粘ついた透明な汁が先からダラりと垂れる落ちる。蜜のような濃厚な香りがこちらにまで漂ってきて鼻がひくつく。それはもう小さいながらも立派に固くなり天上に向かっていた。もう、そろそろだ。

もう一人の私が、私をたらりと見る。小さく頷き、ひざ裏でエドワードの左腕を抑えもう片方の尖りも弄る。丁寧に、刺激によってぷっくりと盛り上がった両の胸先を先程よりも激しく擦ってやる。爪をたて、指ではじき、何度もつねる。こちらにまで、じんじんとしたしびれが伝わるようだ。

「―――――ひぎッ」

もう一人の私も、エドワードの固いそれを指で刺激する。輪を作り、根の部分から敏感な先へと何度もスライドさせ絶頂を促す。唾液と透明な蜜を零して濡れそぼったそれの先端部分は、意識が飛んでしまうような刺激にぱくぱくと閉開し、今にも爆発しそうだった。子どもの腰がぶるぶると震える。

もう抵抗らしい抵抗などできていなかった。は、は、と忙しない呼吸の合間に、ひぃひぃと弱い悲鳴を零すだけだ。どろりと濁った金色の視線は、ぼんやりと宙に浮いている。口から零れた唾液がシーツを濡らしている。

エドワードの呼吸が、止まった。

それを見計らい、ひときわ力を込めて性器を絞りあげてやる。

「~~~~~~ぅ゛ッ」

エドワードは詰まった息を押し殺し、目を見開いた。

同時に、赤くなるほど胸の先を思い切りつねり、捻り上げてやる。

「~~~~あ、ぁ゛~~ッ」

子どもは、ついに首をシーツに押し付けて、達した。

先の割れ目から、とぷとぷと冷たい白濁液が飛び散り子どもの薄い腹を汚した。

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