「本当に嫌なら、やめる」
ふいに落とされた静かな声に顔をあげる。先程とはうってかわって真面目な顔をしたエドワードに見下ろされて心臓が高鳴った。こんな状況であるというのに。何度でも言うが、恋は盲目とは本当によくいったものだ。
「オレだって大人だし、本気で嫌がってる相手を抱きたくなんかねえよ」
鋭かった瞳はだいぶ和らいでいる。これも年齢のせいなのだろうか。するりと大きな手に髪をすかれて目を細める。ああ、子猫のようだったエドワードは立派に成長してしまった。
「それが誰より大切にしたいやつなら、なおさらな」
そのまま頬を伝った指先が額に移動して、感触を楽しむようにさらさらと肌をなぞられる。皺がない、だなんて失礼な事を言ってじゃれつく少年のような青年に、さんざんやめてくれと騒いでいた自分が馬鹿らしくなってしまった。
「……わかった」
艶やかに口角を上げながら眉を器用に吊り上げたエドワードは、初めからロイが了承することをわかっていたようで、悔しかったが。
「わかった、わかった。君に任せる」
ああくそ。認めたくないが、手玉に取られている。国軍大佐ロイ・マスタングが29歳の青年に転がされている。普段のロイであればすぐに反撃でも考えていたところだが、相手がエドワードであればそんなことできない。しようとも思わない。むしろ。
「だが、その。あまり言いたくないんだが、少し」
情けない弱音が喉まで出かかっている。言い淀むと、ふっと笑われた。
「大丈夫、わかってる」
額に降り注ぐ口づけは優しい。小さな子のように、あやされる事にももう慣れてしまった。
「さっきまでさんざん怖がらせちまったもんな」
口に出さなかった怯えすらも理解されて、なんともいえない奇妙な恥ずかしさについと顔を背けてしまう。が、再び顎をぐいっと向きなおされて視界がエドワードで一杯になった。
「オレの中、もうロイを覚えたし、未来のロイもオレの形覚えちゃったから」
顔を背けることを許さないのは今も未来も変わらないな、なんて、思ってしまう自分がいる。
「今のロイも、オレの形覚えてよ」
耳元で囁かれた今より少しだけ低い声に、ぞっと粟立つのは快感にも似た衝撃だ。
「足もって、開いて」
思考が麻痺したように、言われるがまま自分の足を持ち上げる。エドワードが愛しいという感情が肺いっぱいに広がって、剥き出しになった太ももの裏を大きな手のひらで撫でられわすれていた快楽の波が体中を這いまわる。
「力抜いてて、ロイ」
くるべき衝撃に備えて、小さく息を吐く。その直後だった。
「……ぐッ」
めりめり、と切り裂く様な重さが体に圧し掛かってきたのは。
「く……ッかは、ぁッ」
「はっ……すっげ、キツ」
力を抜く、という言葉も一瞬で忘れた。それほどまでの、衝撃だった。
痛みは、思っていたよりも少なかった。だが、苦痛ももちろんあるが、それを凌駕するほどの圧迫感と肺を押し上げられるような嘔吐感がすごい。
「痛いな?大丈夫、ここ過ぎればあと楽だから。息吐いて」
「~~~ぅ、ん゛ん」
ここ、というのはどこのことを言うんだ。形からいって先の部分の事なのだろうが、呼吸すらもままならないこの状況下では今まさに繋がっている部分を見ることもできない。息をつまらせ、ただ仰け反り衝撃に犯されながらシーツに頭を擦り合わせるだけだ。
「焦んなってロイ、経験者のいうこと信じろよ」
こんな時まで冷静なエドワードが憎たらしい。忙しない呼吸を繰り返す胸元をぽんと叩かれる。それを合図に自然と肺が収縮し始めた。すっと胸に吸い込まれてゆく酸素に、痛みと圧迫に奪われていた思考がゆるゆると正常に戻ってゆく。
「そう、息はいて、吸って。上手だ、いい子……」
ぽん、ぽんとあやしてくる手のひらにそって、吸って吐いてを繰り返す。その間もじわじわと腰を進めてくる辺り、抱きなれているとしか言いようがない。
「っは、食いちぎられそ」
エドワードの言うように、ある一定の部分を過ぎた頃からすっと痛みが収まった。全部埋まった頃には、異物感は凄いが、最初の頃のような目が裏返るほどの圧迫感もだいぶなりを潜めていた。入れ方がうまいのか、それとも、ロイの排泄器官が相当タフで、受け入れるのに適しているのか。どちらもいやだが、どちらかというと前者のほうであってほしい。
「でもすぐ広がる、若いからかな」
やっと余裕が戻ってきたので、視線を移せば頬を上気させるエドワードと、突き刺さったエドワードの性器が見えた。串刺しにするのではなく、されている事実に眩暈がしそうだ。
ついに。抱かれてしまった。声を上げて泣き出してしまいたい衝動に苛まれる。
「凄い、ロイの中すごくうねってる」
やめてくれ、そんな恍惚とした表情で見下ろさないでくれ。そう言いたいのに、あまりにもエドワードが嬉しそうな顔をするものだから何も言えなかった。
「なんか夢みてえ、同い年のロイ抱いてるなんて」
ぴったりと抱きつかれて、お互いの鼓動が肌に伝わる。湿った肌が心地よい。
「私も、夢、みたいだよ」
夢、であるはずなのに、そんな言葉が出たのは無意識だ。なんにせよ、どくどくと同じリズムを刻む鼓動をもっと感じていたいと思った。
「ロイ、可愛い、可愛い、あー、可愛い」
ぎゅっと抱きつきそんな言葉を連呼する青年に、君のほうが可愛い、と透き通る金髪に指を差し入れる。ピクリと反応をしめしたエドワードに気分をよくして、夢見心地のまま好きだよ、と囁きながら真横にある頭に軽く口付けてやれば、がばりと起き上がった青年に腕を掴まれシーツに押さえつけられた。
「おい」
「ロイが悪い」
舌舐めずりをしたエドワードに、はやまったと思ったがもう後の祭りだった。
ぐんっと勢いよく腰を穿たれ、再び襲いかかる衝撃に体が仰け反る。
「ッぁ゛!」
それでも、早めたり逆に遅くしたりと、緩急をつけて貪ってくる腰の動きは理性を保っている。いっそのこと理性を飛ばしてガツガツと抉られてしまえばこちらも都合がいいのに。
「ここな、ロイが一番好きなとこだよ」
異物の動きに慣れてきた所で腰をぐるりと回され、ごりっと浅い部分を弄られれば、びりりと背がしなった。無意識の内にぎゅっと締め付けてしまう。なんだ、今のは。前立腺の、少し上の部分だった。
「これもされると、たまらないって喘ぐ」
そこを重点的に抉られながら、さらに胸元の尖りに舌を這わされ瞼の裏が点滅した。
「ぅっ……ん」
「な?きもちいいだろ」
自分の意思に反してふるふると震える体をやんわりと押さえつけられ、つんと尖った胸の先を指の腹でこすられながら同じポイントを責めたてられ、悲鳴のような嬌声が漏れた。
「ぁ、ァああッああ゛!」
ぱんぱんと、肉と肉が激しくぶつかりあう。ぶちゅぶちゅと上がる湿った水音が、聴覚すらも犯し脳内をぐずぐずに溶かしてゆく。腰をずんっと突かれるたびに、立ち上がった性器がぶる、と自身の腹に打ち付けられて、それすらも快感に変わる。粘ついた液をとろとろとこぼす自身は、湯気がでそうなほどに熱い。うちよせる未知の疼きに、白がかった視界の隅でそれをただ眺めていると、エドワードが手を伸ばすのが見えて目を見開いた。
「まっ」
それだけは、ダメだ。そんなことをされてしまったら。
「だぁめ」
「……っぅう゛ゥ!」
制止も虚しく、限界にまで張りつめているそこをぎゅっと握りしめられ、臀部が痙攣した。腰の動きと相反するように擦られ、先に爪を立てられ、太い血管をなぞるように零した液体を擦りつけられればもう視界が真っ白になった。
忙しなく肺を行き来する荒い呼吸と共に、甘い息を零す鼻先をシーツに擦りつけてとてつもない悦楽をやり過ごす。
「隠す、なって、見せて、ロイが感じてるとこ」
「う゛ッ、ひっ、んぐ、ぅ゛」
もう自分が何を口走っているのかわからない。胸も性器も中も同時に責めたてられて、女のように喘ぐばかりだ。そんなみっともない自分の声にすら刺激されているのだから、たまったもんじゃない。
「ロイ、なぁ、気持ちいい?」
とぎれとぎれになる思考のまま、朝の光に照らされ逆光で黒くぼやける青年を見上げる。揺れる視界に、気持ちよさそうに半開きになったエドワードの口元が見えた。
「な、いい……?」
弄りまわされて液体を吹き零している自身の竿も、つねられすぎて腫れ上がった胸の尖りも、繋がっているそこも、全てがエドワードを感じて、途方もない快楽に喘いでいる。けれどもそれ以上に、自分の体で感じてくれているエドワードの存在が、何よりも一番満たされるものだった。
熱に浮かされれたまま、破けんばかりにシーツを握りしめていた両腕を上げる。
「エドワード」
そっと頬を両手で挟み込み、ぐっと引き寄せる。力を入れていなくとも、エドワードは目を見開いたまま落ちてきた。目いっぱいに広がるエドワードの顔。髪の生え際、高い鼻梁、掘りの深い造作、釣り上がった大きな金色。触れても触れてもまだ足りない、エドワードの甘い唇。薄く開いたそれに自身のそれを深く重ねる。
舌を絡めるものでもない、静かに繋がる、優しいキス。
「愛してるよ」
どんな姿になったとしても、何年の月日が流れようとも、この気持ちは尽きることがない。
どうか伝わってほしいと願いを込めて、食いつくように何度も唇を啄む。ぴたりと動きを止め、優しく表情で激しくかき抱いてきたエドワードに想いが通じた事を知る。
「オレも、オレも愛してる、ロイ」
「ああ……」
もう小さくない体でも、ロイよりも背が大きくても、彼の全てを求めている。
想いをつなぎ合わせることができるのなら、どんな繋がり方でも構わない。心の底からそう思えた。
「ついでにごめん」
「うん?」
のも、束の間だった。
「―――出す」
「は?」
短い一言をはっきりと宣言し、がばりと起き上がったエドワードはロイの腰を思い切り掴み上げた。
「…―――んぁあ゛!」
ラストスパートとばかりに腰を打ち付けられ、先程とは比べものにならないほどの勢いに快楽よりも衝撃に目が回る。
「んぁ、う゛ンッエ、エドッ、いっ!」
がくがくと揺さぶってくる腕から逃れようと腰を捻るもびくともしない。手のひらにぎりぎりと締め付けらた腹が鋭い痛みに呻いた。リンゴでも握りつぶせるであろうほどの握力だ。
「おい、エ、ドッ、……まッ!」
て、という制止の言葉がロイの口から紡がれることはなかった。
「………っゥ゛」
ぶるりと震えたエドワードが低く呻き、熱い迸りを体の最奥にぶちまけられたからだ。
「~~~ッぁ゛」
じわじわと体の奥に広がってゆく感触に、ロイも首を振って仰け反り、果てた。
奥の奥まで繋がり激しく痙攣するそれからとんでもない量の液体を余すところなく注ぎ込まれながら、自身が放出した液体が腹にぶちまけられる感覚に悶える。未だ硬度を保つそれを何度か前後され、長い時間をかけて全て出しきられた頃には、極度の脱力感に視界がぼやけ、意識がどこかに持っていかれてしまいそうになっていた。
「あ、そろそろか……」
堰き止められていた血管が、耳元で勢いよくどくどくと流れでる。
ごうごうとぼやけた音に混じって、小さく掠れたエドワードの声が落ちてきた。
目を開けて青年の姿を確認したいのに、重くて瞼を開けることができない。世界が真っ白に染まっていき、だんだんと体が水の中に沈んでいく。圧し掛かっていた心地よい重さすらじわじわと消えていき、霞む思考の中でロイは力の限り腕を伸ばした。
きゅっと指先を握りしめてきた何かは、冷たい。キシと、金属が擦れる音、鼻孔をくすぐるオイルの匂い。これは。
「大佐、ロイ。大好きだよ。またな」
ぼんやりと遠いその声を最後に、ロイの思考は完全にブラックアウトした。
はっと、目が覚めた。慌てて顔を横に向けると、そこにはすうすうと愛らしい寝顔たてているエドワードの姿があった。ロイの左手を機械鎧でぎゅっと掴み、抱え込むようにして丸まっている。
正真正銘の、少年のエドワードがそこにいた。
「はぁ―――」
脱力しながら、腕で顔を覆う。なにか、とてつもない夢を見てしまった。
大人になったエドワードに襲われる、やけにリアルな夢だった。夢を見ながら魘されていたに違いない、喉も枯れ、心なしか体も痛いし、なにより汗だくだ。体のあちこちがカピカピに乾いているような気もする。
「う、ん……」
もぞもぞと動いたエドワードが、ぴたりとくっついてきた。あやすように細い背を撫ぜると、先程夢の中で縋りついていた逞しい背中を思い出して体が冷えた。エドワードの背中を確認するとそこには爪痕らしきものもなにもない。夢うつつのまま爪を立ててしまっていれば最悪だったが、そんな事もなかったようだ。ほっと、一息つく。
「う、ん、たいさ……?」
目を擦りながらぼんやりと目を開ける愛しい子ども。はねる心臓をなだめすかせ、おはようと微笑んでやれば、ロイの姿をとろけた金色でじっと見つめていたエドワードの顔が、徐々にくしゃりと歪みはじめた。
「どうした?」
やはり、夢うつつの状態で何かしてしまったのだろうか。そういえば、やけに痛みもはっきりしていたし快感もしっかり感じることのできる夢だった。もしかして寝ぼけたままエドワードに無体を働いてしまったのだろうか。
慌てて顔を覗き込むと、エドワードは今にも泣き出しそうな顔でロイの胸元にしがみついてきた。
「う、わぁあ~~」
「鋼の、どうした!?」
妙な奇声を発した声の主は、困惑するロイに構わず顔をぐりぐりと埋めてきた。どういう対応をすればいいのかわからず優しく抱きしめ、その絹のような髪を何度もとかしてやる。
「すまない、何も覚えていないんだが、もしかして君に何かしてしまったか?」
「ちっ、ちがっちがぅうッ」
違う、違うと否定しながらもっとすりよってくる華奢な体。大事なエドワードがこんな状態であるというのに、どこかホッとした。顔に鼻を埋めてすっと吸うと、肺にしみわたるエドワードの太陽のような体臭と、オイルの匂い。未だに鼻の奥に残っている、夢で嗅いだ雄の色香はどこにもない。
「オレ、オレ」
「うん、どうした」
「変な、夢見たんだ」
「夢?」
「うん」
ぐずぐずと鼻を啜るエドワードの頭に口づけ、どんな夢だい、と腰をなぜ続きを促す。ロイも先ほど、悪夢のような幸せな夢をみたばかりだ、もしかしたらエドワードも嫌な夢でも見てしまったのかもしれない。どんな夢なのだろうか、弟がいなくなる夢だろうか、それとも人体錬成をした時の夢か、はたまたロイがいなくなってしまう夢だろうか。心配になってエドワードの顔を上げる。わなわなと奮える唇はとても痛々しいのに、愛しさが募る。ちゅっと柔らかく口づければ、拙いながらも吸い付いて答えてくれた。
「なんか、な」
「うん」
「43歳の大佐に、襲われそうに、なる夢」
―――びくりと、機能の全てが停止した。
「び、びっくりしてさ、大佐に、すっげえ似てて、でも大佐じゃなくて……やっぱり歳とってて、でも童顔は変わってなくて、少し目に皺が入っててなんというかすごく、色っぽかったんだけど」
安心できる人に抱かれているせいだろうか、エドワードはぽろぽろと胸に溜まっているものを吐き出しはじめた。顔を赤らめて、今にも泣き出しそうな顔で必死に言葉を紡ぐ様子はとても心に響く。いつものロイであったならば、震える体で自分に甘えてくれるエドワードに柔らかな笑みを浮かべて慈しんでいたかもしれない。しかし残念なことに、今のロイにそんな余裕はなかった。
「めちゃくちゃリアルな夢だったんだ、なんか錬金術でオレがこっちに来たとか、29歳のオレは大佐んとこにいるとか、今頃楽しんでるだろうとか、15歳のオレ可愛い可愛いとかい、いろんなとこ触られて」
混乱した口調は幼い。幼いからこそ、エドワードの言葉が冷えた脳内にじわじわと染み渡ってゆく。
耳を塞ぎたくとも、かちかちに固まった腕はエドワードにしがみつかれていて動かせない。
「パ、パニクってたら、あっという間に押し倒されて、く、咥えられて、な、なんかしんないけど抱かれそうになって、オ、オレ、驚いちゃって、怖くて、やばいやばいって思ってた時に、『そろそろか』とか自分の声が聞こえてきて、あっでも、ちょっと低い声だったけど、たぶんオレの声。それで、頭の中真っ白んなって、引っ張られてくような感じがして無我夢中でもがいてたら大佐の腕があって、オレ嬉しくて握りしめて、そんで、それで、目が、覚めた」
要領を得ない語り方で一気にしゃべり終えたエドワードは、はぁとため息をついてきゅっと体に抱きついてきた。
「こ、怖かったな~本当にリアルな夢でさ、手首にキスされたりとか、―――ってあれ、赤くなってる」
エドワードの手首には、小さなアザができていた。まるで、キスマークのような。
「変な夢だった、でもよかったよ夢で……」
心底ほっとした、というように溜息をついたエドワードのつむじを見下ろす。ちなみに、昨日ロイはエドワードを抱いたが、そんな所に口付けた記憶はない。それはつまり、それはつまり。
「大佐?」
いつものように抱きしめ返してくれるでもなく、じっと沈黙しているロイを訝しんでエドワードが顔を上げた。
「大佐、どうした?」
「鋼の」
「なに?」
「やらせてくれ」
「……は?」
有無を言わさず押し倒す。ぼふんと倒れたエドワードの後ろ、シーツの一部がしわくちゃになっているのが見えた。まるで、力の限り握りしめたような。ちょうど、夢の中でロイが大人エドワードに抱かれている時手を置いていた場所だ。夢の中で。
「君を抱きたい」
「ってまて、おい、朝っぱらからアンタ!」
ぎゅっとエドワードの剥き出しの股間を握りしめる。手のひらに伝わるそれはへにゃりと垂れ、感触はもちろん小ぶりだ。
「わぁあああ何してんだ!」
いきなり性器を弄られてぎゃあぎゃあと騒ぐエドワードを押さえつける。細い腕は簡単に組み敷くことができた。
「いやだ、止めろ!オレ午前中にここ出るんだって!」
大の大人と少年が、朝日差し込む広いベッドの上で取っ組み合う。ロイがエドワードに覆いかぶさるため体に力を込めた瞬間、臀部からどろりとした何かがあふれ出た。見れば、ロイ自身の腹にも何か白いものがへばりついているのが見える。背筋が凍ってしまいそうなほどの冷たい感触。そして、強い力で掴まれたように手痕が残った腹部も。
―――大声を上げて泣きだしてしまいそうで、ロイは縋りつくように愛しのエドワードに襲いかかった。
「っすまん、聞けない。今直ぐ君を抱く!」
「わーー、ちょっとまて!」
「頼む!なんだかよくわからなくて今にも死んでしまいそうなんだ!」
「なんだかわかんねえのに死にそうってなんだよ!」
「鋼の、愛してる、愛してるから、な!」
「はあ?!こんな状態でそんな言葉言われても嬉しくなっ……ちょっ、あっあぁんッ」
まだ目も覚めぬ朝方から、エドワードは成す術もなく、強制的な快楽の海に叩き落されいった。
寝汗にしてはやけに湿った、シーツの上で。
「もっ、アんッ、ふぁ、ぁああんっ、ばかー!」
その後エドワードはロイの気が済むまで(精神が落ち着くまで)獣のように貪りつくされ、案の定出発が二日間ほど遅れた。三か月ほど口を聞いてくれなくなったエドワードに、ロイが謝り倒すのはまた別のお話。
☆喧嘩しました
**───────────────────────────おまけ
「やあ、おかえり」
「……ただいま」
「汗だくだな、若い私はよかったかね」
「……オレ、戻ってきたのか」
「おかえりとさっき言っただろう、その歳でボケか?」
「あー、こっちのロイほんと生意気」
「あっちの私は可愛かったのか」
「アンタこそ、それ似たような質問だぞ、ボケたのかよ」
「こちらの君は生意気だなぁ」
「ふふっ」
「で、どうだった」
「最高だったよ。アンタってば可愛くって、だってオレと同い年だぞ?」
「ほう」
「もう怯えちゃって、いちいち反応が新鮮だし、途中までオレに抱かれるだなんて思ってなかったから形勢逆転した時なんかもー慌てて混乱してて」
「ほう」
「っていうかアンタもうその時の記憶あるんだろ?」
「ぼんやりとな、今戻ってきた」
「そういうもんか」
「そういうものだ。15歳の君も可愛らしかったぞ」
「ふぅん、その頃ってまだ旅してた頃だよな」
「機械鎧の臭いが懐かしくて」
「オレも嗅いでみたかったな」
「三つ編みしてれば完璧だった」
「朝だったし、夕べもお盛んだったっぽいから乱れてただろ」
「少しだけ湿ってた」
「やっぱり」
「あと震えていた」
「可愛いな15歳のオレ」
「困惑してどうしたらいかわからない様子だったよ、必死でこれは夢だと頭を抱えている様が面白かった」
「へ~、そんないたいけな15歳の少年を抱いたんだ、ドエスめ」
「いいや」
「はい?」
「私は抱いていないぞ、15歳の君を」
「なんで?」
「泣いて嫌がられたからな」
「……うそ」
「残念ながら本当だ。あの頃の君は本当に純粋だったんだなぁ。大佐じゃないって震えながら拒まれて、困ったよ」
「……」
「記憶、戻ってきたか」
「ぼんやりと」
「そんなもんか」
「そんなもんだな」
「それなのに君は」
「なんだよ、怒ってんのかよ……」
「ものすごく」
「なんでだよ!だ、だってアンタがオレを過去に送ったんだろ!しかも抱いてこいって言ったじゃないか、それに拒まれたってことはロイもやろうとはしてたんだろ!」
「……」
「途中まで進んだとみた」
「それはそれ、これはこれだ」
「ロイ!」
「君にアンタ、と呼ばれるのも新鮮だなぁ」
「ロイ~~」
「昔の私と混じるのもかまわないが、もうそろそろ私だけのエドワードに戻ってくれてもいいんじゃないか?ん?」
「そうやってはぐらかす、ほんと可愛くねえ」
「私は今の君を可愛いと思ってるよ」
「15歳のオレより?」
「別の味がある」
「そこは嘘でもそうだよって言えよ!」
「しょうがないじゃないか、エドワードならば全部愛しいんだから」
「わっ」
「……おかえり」
「ただいま……って言いたいところだけど、なんだよこの体勢は」
「愛しい君を押し倒してる」
「なにおっ起ててんだよ!朝っぱらから!もうそんな歳じゃねえだろ」
「いいから付き合え、久々に燃え上がったのに据え膳を食らったんだ。収まりがつかん」
「このじじい、昨日までへばってたくせに」
「昨日は仕事の疲れが本当に溜まっていて、起き上がるのも億劫だったんだ。なあダーリン。そろそろ機嫌を直してくれないかい?」
「ふん」
「抱き合いたかったのは本当なんだよ、いつだって私は君を感じていたいんだから」
「どーだか、そういうわりにはオレが必死に誘ってもその気になんなかったくせに」
「エドワード」
「うっせえ」
「エディ」
「オレは、さっきまで若いアンタとお盛んだったんだ、疲れたからしない、以上」
「君をあっちに送ってみたのは、もう君が私としたくないんじゃないかって思ったからだよ」
「へー」
「それに、まさか本当にうまくいくとは思っていなかったんだ。今度学会で発表しようか、ふざけたつもりだったんだよ」
「結果としてうまくいったじゃねえかよ」
「エディ、頼むよ、今日は私が上になるから」
「……え?」
「私はまだまだ現役だよ、40代の性欲を舐めないで頂きたい」
「嘘つけ、いつも疲れるからってマグロのくせに」
「エドワード、君本当は、私に抱かれたかったんだよね?」
「……」
「沈黙ということは、肯定ととっていいかな?」
「うるせえハゲ」
「しばらく頭皮の心配はしなくていい、まだまだフサフサだ、下も」
「うるさいデブ」
「私よりも最近あぶないのは君の方なんじゃな……」
「あーもううるさい!生意気!嫌いだ!」
「嘘つけ」
「嘘だよ!大好きだばか」
「ふふっ」
「……」
「しようか」
「エロじじい」
「君も三十路手前のおじさんのくせに」
「ほんとに、上なのかよ?」
「もちろん、今夜は寝かせないよ」
「ぜってーアンタ寝るに一票。歳だからな」
「そんな事言われたらなおさら頑張らなくてはならないな」
「こういう時だけ、ずるい」
「君は若い私を想う存分抱いてきたんだろ?いいから黙って、エロじじいに抱かれなさい」
「もっといい誘い文句ねえの?!」
「死ぬほど愛してるよエドワード。君の匂いがたまらない。流れる髪一本先まで私のものにしたい。君を抱きたい。君に突っ込みたい。君を舐めて君をとかして君の中を味わって君の中に溢れんばかりに射精したい」
「わ───!」
「照れないでくれ、可愛すぎる」
「もうやだ……29歳のロイだって可愛かったのに」
「男らしくて色っぽい君に翻弄された思い出がちらほら脳裏をよぎるな」
「オレだって、歳とったけど童顔は変わってなくて少し目に皺が入っててなんというかすごく色っぽいロイに咥えられた事思い出してきた」
「君だって思い切り腹を掴んできたじゃないか、なかなか取れなかったぞ。しかも中出し逃げだ」
「なんだよその妙な語呂は。アンタだって手にキスマークまでつけやがって、泣いてたオレに指まで入れてきただろ」
「それはそれ」
「これはこれだな」
「なんだ、君もだいぶ覚えてるじゃないか」
「ロイもだろ。さっきまで記憶の片隅にすらなかったのに。ぼや~っと脳裏に溢れてくるもんなんだな」
「不思議な感覚だな、面白い」
「オレはちょっと気持ち悪い、感覚が」
「気持ち悪いという言い方はどうかと思うが」
「久しぶり大佐、14年ぶり」
「14年ぶりだな、鋼の」
「ふふっ」
「愛してるよエドワード、昔の君も今の君も大好きだ」
「オレだって同じだよ、バカロイ」
「これから先、何年たったとしても君だけを愛すると誓うよ」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
「やっぱり君が一番可愛いな」
「そんなこと言って、騙されないからな」
「どうすれば信じてくれる?」
「キスでもすればいいんじゃねえの、ダーリン」
「……仰せのままに」
尽きることのない愛を君に。
何年たっても愛してる
フォロワーさんのお誕生日記念に書いたお話です。
お誕生日おめでとうございます!