
「で、鋼の。この体勢は何かな」
「やらせろ」
わざと爪を立ててシャツの隙間に指を突っ込んでやる。組み敷かれている男は僅かな痛みに顔色一つ変えやしない。そんな所に下半身が疼いてしまうものだから全く腹の立つ。
「珍しく直球だな、やるのは構わないが逆だ」
「オレ、対等になりたい」
「誰と」
「アンタと」
「ほう」
「だからアンタを抱いてみたい」
「却下だ」
「なんでだよ、アンタそっちの経験もあるって言ってたじゃねーか!」
「ああ、あるな」
「じゃあなんで」
「君相手だからだよ」
「……なにそれ」
「私はもともと、人に触れるのも触れられるのもそこまで好きではない。まあ相手にもよるがな」
「オレには触りまくってんじゃん」
「そういうことだ」
「どういうことだよ」
「考えたまえ」
「好きでもないくせにオレとやる理由を?」
「わからないか?なぜ私が君を抱くのか」
「知るか」
「対等だからだよ、君が、私と」
「……丸め込もうとしてるだろ」
「わかったのならさっさと下になれ」
「いやだね!そんなん理由にならねえだろ、対等なら抱かせてくれたっていーじゃん、突っ込まれる側は大変なんだぞ」
「知ってる。だからその分よくしてやってるじゃないか」
「だけど!」
「そんなに理由が欲しいのか」
「うん」
「そうだな、じゃあ年上の威厳ってことで」
「じゃあってなんだ」
「君が理由を言えと煩いからだ」
「じゃあ年上の威厳とやらがなくなったら抱かせてくれんの?」
「そうかもしれんな」
「でも絶対的にアンタオレの年上じゃん、何年経っても何歳になっても」
「そうだな」
「それってつまり、そういう日は来ないってことじゃん」
「頭がいいな」
「てめえ!」
「まあつまりは」
読書の時間を邪魔された恋人は、しれっとした顔をしているがちょっとはイラついていたらしい。
涼しい眉間に入った数本の皺に満足感を覚えたのは束の間で、ぱたんと本を閉じ眼鏡を外した細長い指に手首を捕らえられ、あっという間にぐるりと体を反転させられてしまった。
細身ではあるが、身体の上に覆いかぶさってくる筋肉のついた均等な体。圧倒的な男の匂い。白い天井の下で、夜空みたいに真っ黒な瞳が瞬く。いつもの視界になってしまった。この深い夜空が熱を帯び、燃える星が流れ始めるまであと数秒だ。
「私に一生抱かれてろ豆粒、ってことだな」
「言いくるめられた……くそ」
いつもより性急に降りて来た熱い唇を享受しつつ、エドワードは本日も失敗してしまった下剋上の名残を、年上の恋人の背中に突き立てた。